ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第402話 急ピッチで準備は進む

 三時間後、八幡はアルゴからの電話を受けて目を覚ました。

 

「もうそんな時間か、すっかり熟睡してたわ」

「頭はスッキリしたカ?」

「おう、バッチリだ」

「それなら良かったぞ、こういう時は寝れる時に寝るのがハー坊の義務だからナ」

 

 そんなアルゴの気遣いを嬉しく思いながら、八幡は再び双子の下へとログインした。

 

「八幡!」

「お帰りなさい」

「おう、お前らはあれからどうしてたんだ?俺は寝てた」

 

 そう何故か得意げに言う八幡に、二人は笑顔で言った。

 

「ボク達も一緒にお昼寝したよ!」

「ユウの甘え癖が中々抜けなくて困るのよね」

「失礼だな、アイだって気が付くとボクに抱き付いてきてるじゃないか!」

「ああはいはい、仲がいいならそれでいいから」

 

 八幡はおざなりにそう言うと、二人にこれからの予定を説明し始めた。

 

「これから二人にインしてもらうフィールドには、

心だけは強いが目立ちたがりやで格好付けたがりのどうしようもない奴がいる。

そこで注意事項だ、お前らは絶対にあいつの前でマスクを外すな。

あと体のラインが出る服装やほんの少しの肌の露出も禁止だ。

あと、もしあいつがお前らに変な事をしようとしたら容赦なく叩きのめせ、いいな?」

「……ちょっと過保護じゃないかしら」

「動きにくそう……」

「異論反論は認めん、これは緊急避難みたいなもので、俺としても本意ではない」

 

 そんな八幡を見て、二人は顔を見合わせながら頷いた。

 

「要するにとてもかわいい私達を、なるべくその人の目に触れさせたくないのね」

「もう、八幡はヤキモチ焼きだなぁ」

「ち、違う、あくまでお前らの身の安全を考えた措置だ。

そしてある意味あいつの安全の為でもある」

 

 その言葉に二人はきょとんとした。

 

「……どういう事?」

「さっきは容赦なく叩きのめせと言ったが、それはあくまで最終手段だ、

もし本当にそんな事をしたら、多分あいつは一瞬で死んじまうからな。

何故ならあいつは近接攻撃にまったく慣れていない、お前らに武器でどつかれたら瞬殺だ。

だから間違ってもあいつが血迷ったりしないように配慮した結果だ」

「か弱いのね」

「いや、まあお前らがおかしいんだけどな、俺の目から見てもお前らの戦闘力は異常だ」

 

 その八幡の言葉に二人は喜び、ハイタッチをしながら言った。

 

「異常だって」

「イエ~イ!」

「それ、喜ぶところか?それじゃああっちと接続するぞ、アルゴを呼び出してくれ」

「は~い」

 

 そして画面に現れたアルゴの指示で、二人は新たなフィールド用の装備に着替えた。

 

「これ……」

「かわいくない……」

「当たり前だろ、お前らは一体何を聞いてたんだ」

 

 二人に与えられたのは無骨な耐弾アーマーとマスクだった。

 

「時間の猶予はあと一日だ、それまでに二人ともそれなりに動けるようになってくれよ。

あくまで今回のメインはアイだけどな」

「うん、分かってる」

「ボクも手伝いを頑張るよ!」

「最後に一つ、多分あいつは俺の事をシャナと呼ぶから、お前らもそう呼んでくれ」

「分かったわ」

「うん!」

「くれぐれも頼むぞ、それじゃあアルゴ、あいつを仮設エリアに案内してやってくれ」

「ほいほい、それじゃあ伝えるゾ」

 

 その少し後に三人の前に扉が現れ、三人はその中へと入っていった。

中に入るとそこには興味深げにきょろきょろと辺りを見回すゼクシードの姿があった。

 

「お、シャナか、で、俺はこの二人に戦闘の基本を教えればいいのか?」

「ああ、言っておくがこの二人におかしな真似をしたら、

その瞬間にお前の人生を物理的に終わらせるからな」

「お、おう……それは勘弁だから肝に銘じておくぜ……」

 

 そしてゼクシードは二人にペコリと頭を下げ、自己紹介した。

 

「俺の名はゼクシード、GGOで二番目に強い男だと自負している」

「ボクはユウ、宜しくお願いします!」

「私はアイよ、ちなみに一番は?」

「認めたくはないが、そこにいるシャナだな、

認めたくない、認めたくはないが、俺はまだシャナに一度も勝った事が無いからな」

「珍しく殊勝だな、何か変な物でも食ったのか?」

 

 八幡は驚きながらそう言った。

 

「いや……いくら俺でも、命の恩人に失礼な事は言わねえよ」

「そうか、それじゃあ一生恩にきろ」

「フン、いつか絶対に勝って、ほえ面かかせてやるぜ」

 

 そして二人は顔を突き合わせ、ぐぬぬと睨み合った。

それを見たアイとユウは苦笑しながら言った。

 

「あら、案外仲良しさんなのかしら?」

「うん、仲良しだね」

「「違う!」」

 

 二人は同時にそう言い、アイとユウはやれやれという顔をした。

そしてゼクシードが八幡にこう言った。

 

「しかしよくこんなフィールドを短時間で用意出来たな、GGOの雰囲気がよく出てるよ」

「まあうちのスタッフは優秀だからな」

「意識を失ってるはずの俺がここでこうして会話出来てる時点でそもそも驚きなんだがな、

本当にシャナ、お前何者だよ」

「秘密だ」

「けっ、そうかよ。まあいいや、それじゃあ二人とも、短い間だけど宜しくな」

 

 そして八幡は、ゼクシードにもう一つだけ注意事項を伝えた。

 

「あとすまんゼクシード、弾道予測線、バレットラインは用意出来たんだが、

弾道予測円、つまりバレットサークルはさすがにこの短時間じゃ用意出来なかった。

明日には何とかするから、今日は悪いがそれ無しで指導してやってくれ」

「まじかよ、直接照準か、また俺様が強くなっちまうな」

「そんな訳で悪いが頼むわ、俺は色々やる事があるから一度落ちるが、

何かあったらこのボタンを押せば誰かしら対応してくれるから、

訓練で人手がいるようならいつでも呼び出してくれ」

「おう、礼代わりに真面目にやらせてもらうわ」

 

 そしてゼクシードは、目の前にある射撃練習場を指差しながら言った。

 

「よし、最初は銃に慣れる為に射撃練習からな」

「はい、先生」

「了解!」

 

 その様子を確認した八幡は、心配しつつもゼクシードに二人を託し、一旦ログアウトした。

 

 

 

「よし、次はGGOでロザリアから状況の報告を聞くか」

「今日は忙しいんだね」

 

 八幡が起き上がったのを見て、めぐりがそう声を掛けてきた。

 

「ええ、死人が出てますからね」

「八幡君もくれぐれも無茶はしないでね」

「はい、それじゃあ行ってきます」

 

 八幡はそう言うと、今度はGGOへとログインした。

 

 

 

「ロザリア、いるか?」

「あら、もう用事は済んだの?」

「とりあえずゼクシードに丸投げしてきたわ」

「そう、あの人の具合はどうなの?」

「検査結果待ちだが、薬物の可能性が高いそうだ」

「なるほど……ちなみに残念ながら、こっちにはまだ何の情報も無しよ。

まあ装備を変えられたらそうそう見付からないだろうから、予定通りと言えばその通りね」

「そうか……まあ仕方ないか」

 

 シャナは予想はしていたのか、その表情はあまり残念そうには見えなかった。

 

「とりあえず情報収集は続けておくわ」

「悪いな、頼むわ」

「あ、その前に一つ報告があるわ、キリト君があなたを探しているそうよ」

「え、俺を?どういう状況なんだ?」

「とりあえずシノンに聞いてみれば?」

「あいつ、またキリトに遭遇したのか、凄い確率だな……」

 

 そしてシャナは、シノンに連絡をとった。

 

 

 

 その少し前の事である。死銃の手がかりはないかと街中を探索していたキリトは、

偶然シノンに再会をした。これはシノンも同じように死銃を探していたからだった。

これは二人が同じように情報収集の基本である酒場巡りをしていたからだった。

 

「おっ」

「あっ」

 

 二人はとある酒場でバッタリ顔を合わせ、どちらからともなくそう言った。

先に口を開いたのはキリトだった。

 

「丁度良かった、シノンに聞きたい事があったんだよ」

「何?」

「昨日最初に行った武器屋の前に、ゲームみたいなのがあっただろ?

あれの事を教えて欲しいんだよ」

「ゲーム?ああ、アンタッチャブルって書いてあるゲートの奥に、

NPCのガンマンが立ってるアレ?」

「そうそうそれだそれ」

「あれがどうしたの?」

 

 キリトはその問いに、少し不機嫌そうな顔でこう答えた。

 

「ほら、あのゲームのケースの中に、コインが沢山収納されてただろ?

それを上手くゲット出来れば、この前の金をあのシャナって奴に叩き返せると思ってな」

 

 それを聞いたシノンは困惑した。

 

「えっと、もしかしてあんた、シャナの事が嫌いなの?」

「当たり前だろ、あいつに関しては何一ついい記憶が無えよ!」

「ふ~ん」

 

(中身が八幡だって知った時の顔を見てみたいなぁ)

 

 シノンはそう思いつつも、キリトと共にゲームの所へと向かった。

 

「これだこれ、これってどんなゲームなんだ?」

「丁度プレイする人がいるみたいだから、ちょっと見てみましょう……

って、あれ、どこかで見たような……あっ、闇風さんじゃない」

「知り合いか?」

「あ、うん、どちらかというと仲間に近いのかな。多分GGOで最強のスピードスターよ」

「AGI特化タイプの最高峰って事か」

「ええ」

 

 そしてゲームが開始され、闇風は一気に前へと飛び出した。

闇風は流れるような回避であっという間に八メートルラインへと到達した。

その瞬間にNPCの反応が変わった。

 

「チッ」

 

 いきなりNPCが連射モードになり、さすがの闇風も前進するペースが落ちた。

それでも闇風はジリジリと前進していく。

 

「いきなり攻撃が激しくなったな」

「こんなものじゃないはずよ、だってこのゲームをクリアした人はまだ一人もいないもの」

「えっ、そうなのか?」

「ええ、積もったお金がたまりにたまって三十二万クレジット、

参加費用が百クレジットだから、のべ三千二百人が敗北してきた事になるわね」

「多いんだか少ないんだか……」

「最近は挑戦する人もほとんどいなかったしね」

 

 そうシノンが言った直後に闇風は被弾した。

どうやら至近距離からの三連発を回避出来なかったようだ。

 

「ああっ」

「残念……」

「くそっ、またここでやられちまった!」

 

 闇風はそう絶叫した後、大きな声を出してしまった事で周囲の目を気にしたのか、

きょろきょろと辺りを見回し、そしてシノンと目が合った。

 

「お?」

「ハイ、闇風さん、残念だったわね」

「恥ずかしい所を見られちまったな、いっつも同じ所でやられちまうんだよ。

ところでそちらのかわい子ちゃんはお友達?」

「ぶっ」

「ぷぷっ」

 

 その言葉に二人は違う意味で噴き出した。

 

「あれ、俺何か変な事言ったか?」

「え~っと……」

「キリト君はこう見えて男なのよね」

「男ぉ!?」

 

 闇風はショックを受けたようで、その場に崩れ落ちた。

その様子があまりに大袈裟だった為、シノンは疑問に思い、闇風に言った。

 

「ちょ、ちょっと大袈裟すぎない?」

「いやな……せっかくシャナの手つかずの、好みの女性が現れたと思ったからよ……」

「いいっ!?」

「あ、そういう事……」

 

 シノンは困った顔でキリトを見つめ、キリトは慌ててその場を逃げ出した。

 

「す、すまん、俺にはそういう趣味は無いから!」

 

 そしてキリトはゲームのスタート地点に立ち、

崩れ落ちていた闇風もそれに気付き、シノンに尋ねた。

 

「俺の負けを見た上であれにチャレンジするのか、根性あるんだな。

で、あいつは結局誰なんだ?」

「相変わらず立ち直り早っ!えっと、黒の剣士らしいわ」

「え、まじか!」

「うん」

「これはまた大物が……もしかして例の死銃関係か?」

「うん、そうみたいね」

「そうか、ロザリアちゃんから死銃関係の情報収集依頼は来たんだが、

黒の剣士の事はさすがに他のスコードロンには言えなかったんだな」

「この事はたらこさんと十狼のメンバー以外には秘密にね」

「分かってるって」

 

 そして二人が見守る中、キリトはゲーム機に百クレジットを投入した。


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