ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第406話 アチマンの参戦

「まじかよ……あいつは一体何をやってるんだ?」

「もしかしてキリトに対抗しようと?」

「ねぇユイちゃん、キズメル、二人は驚いていなかったみたいだけど……」

 

 その質問に、ユイは困った顔でこう答えた。

 

「ごめんなさい、パパに口止めされてたんです」

 

 そしてキズメルも、それに同意するように頷いた。

 

「って事は……」

「あれはガチでハチマンなんだ……」

 

 その言葉に動揺していた者が三人いた、もちろんアスナとコマチとユキノである。

三人はこそこそとカウンターに集まり、ひそひそと話をしていた。

 

「あれ?でもさっき確かにシャナが出てきたよね?」

「どういう事なんですかね?」

「どちらかが本物で、どちらかが偽者なのではないかしら」

「えっ、でもここにはソレイユさんとメビウスさん以外全員いるよ?」

「その二人の可能性は?」

「無いよ、ソレイユさんもメビウスさんも、仕事が忙しいって言ってたもの。

リズに頼まれて誘ったのはインする直前だし、絶対に間に合わなかったはずだよ」

 

 そしてユキノが別の可能性を提示した。

 

「十狼の誰かという可能性は?」

「う~ん……エムさんかイコマ君?無いんじゃないかなぁ」

「…………一体誰なのかしらね」

「まあ見てればそのうち分かるかもしれませんね!」

 

 そして三人は、何気ない風を装って元の場所に戻った。

 

「さて、どんな戦い方をするのやら……」

 

 誰かがそう呟いた瞬間、画面の中のハチマンが動き出した。

 

 

 

「えっ?」

 

 最初にハチマンに反応したのは銃士Xだった。

その見た目に見覚えがありすぎる為だった。

銃士Xは、慌ててシャナの方を見たが、シャナは無表情で画面を見つめているだけだった。

そして次々と、ハチマンの名前に反応する者が現れた。

 

「えっ?あれってまさか……え、あれ?シャナ?」

「嘘……どういう事?」

「えっ、まじで?あれ?」

「ちょ、ちょっと意味が分からないんだが……」

 

 そんな反応をしたのは、ピトフーイ、シノン、闇風、薄塩たらこの、

リアル八幡を知るメンバー達であった。キリトも同様に目を丸くしていた。

 

「あれ……まさかハチマン?やべ、もしかして俺がGGOにいるのがあいつにバレたのか?」

 

 キリトが心配したのはそこだったようだ。そして他の者達は、別の意味で驚愕していた。

 

「え、ハチマンってもしかして、ALOのハチマンか?」

「あの有名人の?いや、まさかまさか……」

「案外ただ同じ名前なだけかもしれないし」

「ただのALOのハチマンのファンかもしれないしな!」

「でも本物だったら面白いわね」

 

 同じような反応は、街の各所で見受けられた。

 

「あれってマジもん?」

「本物だったらいいなぁ」

「だな!俺、あの人のファンなんだよ!」

「一体どんな戦い方をするんだろうな……」

 

 そして街は、奇妙な静寂に包まれた。

 

 

 

「動いた!」

 

 誰かがそう言い、画面の中のハチマンは動き出した。

 

「あの銃は……ベレッタ92?」

「いや、腰にも何かを差しているみたいだが……」

「もしかしてあれって……」

「輝光剣?」

「え、でも今輝光剣を作れるのってイコマきゅんだけよね?」

「最近誰かに輝光剣を作ったか確認してみる」

 

 そう言ってシノンはイコマにメッセージを送った。

そして直ぐにイコマから返信が来た。

どうやらイコマは十狼以外にはまだ輝光剣を作っていないそうだ。

 

「作ってないって」

「といっても可能性があるとしたら、ここにいないシズカとベンケイの分よね?」

「刀身の色で分かるね、さあ、ピンクか銀色か、夜桜か白銀か、どっち!?」

 

 ハチマンはベレッタをけん制に使い、

障害物を上手く利用しつつ、徐々に敵へと接近していった。

 

「移動がスムーズ……」

「相手が徐々に追い詰められてる感じがするね」

「良く言えば基本に忠実、悪く言えば平凡?」

「いや、ああいうのを相手にするのが一番やっかいだぜ?

スタイルとしてはゼクシードに似ているな」

 

 その薄塩たらこの言葉に一同は頷いた。そしてついにその時が来た。

敵との距離がある程度縮まったかと思った瞬間、ハチマンは腰の剣を抜き放ち、

跳躍して横なぎに相手を真っ二つにした。

 

「速っ」

「気付いたら敵が真っ二つに……」

「微妙に居合いっぽい感じに見えたが……」

 

 そして敵が消滅した後、ハチマンは刀身についた返り血を払うような仕草をした。

その刀身の色は…………黒だった。

 

「ピンクでも白銀でもない?」

「まさかの黒ぉ!?」

「それってシャナの……」

「「「「「「「アハトX!?」」」」」」」

 

 その場にいた全員は、同時にそう叫んだ。

 

「まじかよ、じゃああれってシャナのアハトXの片割れか?」

「レフトなの?ライトなの?」

「ピト、今の問題はそれじゃないから」

「そうだぞ、おいシャナ、一体どうなって…………あれ?」

 

 気が付くとシャナの姿は消えていた。

 

「おい、シャナは?」

「さっきまでそこにいたけど……」

「まさか逃げやがったのか!?」

「シャナ、どこだよ!」

「ねぇキリト君、シャナを見なかった?」

 

 シノンはキリトにそう声を掛けた。だがキリトは反応しない。

 

「キリト君、キリト君ってば」

「お?おお、すまん、つい画面に見入ってたわ」

「ねぇ、今の戦闘、キリト君の目にはどう映ったの?」

 

 シノンは興味本位でそう尋ねた。

 

「ん、あれがALOのハチマンじゃないかって話か?」

「まあぶっちゃけるとそんな感じ」

「あれはハチマンじゃない、あえて誰に似てるかと聞かれると、クラインだな」

「クラインさん?ああ、日本刀を使う人?」

 

 シノンは自分の持つヴァルハラの知識を引っ張り出し、そう言った。

 

「詳しいんだな」

「まあ前に調べた事があったのよ」

「そうか、まあ正解だ。要するにあれは、普段刀を使っている人間の動きって事さ」

「刀……」

「でもクラインじゃない、あいつは居合いは使えない」

「そうなんだ……」

「面白くなってきやがった……」

 

 そう呟いたキリトの目は、まるで獲物を狙う猛獣のような光を放っていた。

 

 

 

「おう、お疲れ」

 

 プレイヤーが自由に使える個室のうちの一つで、シャナはハチマンをそう言って出迎えた。

 

「しかし自分と話すってのは、違和感が半端ないな……」

「私も違和感が半端ないわよ、でも肩がこらないというのはいいわね」

「まあ胸はな……」

「まあ下の違和感に……」

「おっとそこまでだ、下ネタは禁止だぞ、アイ」

「仕方ないわね、まあ後でトイレで確認させてもらうから別にいいわ」

「言っておくがゲーム内にトイレは無いからな」

「ぶぅ」

 

 その時突然部屋の入り口がノックされ、二人はビクッとした。

 

「…………誰だ?」

「私です」

「私じゃ分からないな」

「あなたのマックスです、シャナ様」

「マックス?」

 

 シャナはそれを聞き、そっと個室の扉を開け、銃士Xを中に引っ張り込んだ。

そして中に入り、扉を閉めたのを確認した銃士Xは、首を傾げながら二人に尋ねた。

 

「どうしてここにアイちゃんが?」

 

 ちなみに銃士Xは、八幡に連れられて何度か眠りの森を訪れた事があったので、

アイと顔見知りなのは確かである。

 

「…………」

「…………」

 

 その銃士Xの指摘に、二人は黙り込んだ。

 

「…………おい」

「はい、シャナ様」

「何でお前、これがアイだって分かるんだ?」

「確かにハチマン様のお顔を見た時は驚きましたけど、歩く姿を見て、

これはアチマン様だとわかりました」

「アチマンって何だよ……」

「アイとハチマンでアチマンです」

「こいつ真顔で説明しやがった……」

「アハトレフトの使い方を見て、中身がアイちゃんだと分かったんです、シャナ様」

 

 その説明を受け、シャナとアチマンは嘆息した。

 

「アイが持っていたのがアハトレフトだって事も分かるのか」

「クルスさんって凄いね……」

「ここでの名前はイクスだ、でもそうだな、凄いな……」

「常識です」

 

 銃士Xはそうすました顔で答えた。

 

「で、何故ですか?」

「これは敵に対する撹乱だな、俺がもし二人いたら、お前ならどうする?」

 

 そのシャナの問いに、銃士Xは即座にこう答えた。

 

「もちろん今みたいに接触して確認……あっ」

「そう、それが狙いだ」

「なるほど……」

「だがアイは短剣は使えないからな、もしかしてもう別人だとバレている可能性はある」

「ですね、私が分かったくらいですし」

「いや、絶対にお前は特別だからな……」

 

 シャナは呆れた顔でそう言った。

 

「いえ、でもキリト様は気付いていたように見えました」

「…………お前キリトと面識があったっけ?」

「いえ、ですがもちろん分かります、リアルの顔も知っています」

 

 その言葉にシャナはハッとした。

 

「そういえばお前、うちの学校を見張ってた時期があったっけ」

「はい」

「じゃあキリトの事も?」

「歩く姿を見ただけで分かりました」

 

 その言葉にシャナとアチマンは再び顔を見合わせた。

 

「私はキリトって人の事は知らないけど、イクスさんが凄いのは分かる」

「キリトは俺の親友だ、俺よりも強いと思っておけ」

「シャナよりも?」

 

 アチマンはきょとんとした顔でそう尋ねてきた。

 

「ああ、事実だ」

「そう……」

 

 そしてアチマンは、ニヤリとしながらシャナに言った。

 

「でも私が倒してしまっても問題無いのだろう?」

「お前それ、一度言ってみたかっただけだろ……」

 

 シャナはそう言いつつも、その言葉を否定はしなかった。

 

「まあ大会だしな、好きにすればいい」

「分かったわ、キリトは私が倒す!」

「まあ頑張れ」

 

 そしてシャナは銃士Xに言った。

 

「という訳で、俺とこいつはほとぼりが冷めるまでここに隠れておく。

お前はあっちで何かおかしな事があったら、俺に教えてくれ」

「分かりました」

「あ、本戦中は手加減するなよ、本気でかかってこい」

「いや、まあでもシャナ様に勝てる訳が……」

 

 そんな弱気な銃士Xに、シャナは言った。

 

「もしお前が俺を倒せたら、今度デートしてやる」

「絶対に勝ちます!」

「おう、その意気だ」

 

 もちろん絶対に負ける気が無いからこそ、シャナはこんな事を言った訳だが、

銃士Xはその事を何となく理解しつつも、その条件に燃えた。

 

「では後ほど」

「おう」

 

 

 

「銃士Xちゃん、どこにいってたんだ?」

「探索、シャナ様」

「ああ、そういう事か!で、どうだ?見つかったか?」

「否定、行方不明」

「そうか……」

 

 その言葉に他の者達もガッカリした様子を見せた。

 

「謎は深まるばかりだね」

「本当に何なんだろうね」

「まあとりあえず切り替えようぜ、目標は全員本戦出場な」

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 

 そして仲間達は、一回戦を順調に突破していった。

 

 

 

(あれはハチマン君じゃない)

 

 ハチマンの戦闘を見たアスナは、一目でそう見破った。

 

(でも誰なのかは分からないな、どんな目的があるんだろ、挑発?撹乱?)

 

 さすがアスナは、ハチマンの思考をトレースするのに慣れていた。

 

(確かにハチマン君が二人いるとなれば、相手は混乱して接触してくるかもしれないね、

ハチマン君、気を付けて……)

 

 そんなアスナに周りの者達が声を掛けてきた。

 

「あれって確かにキャラはハチマンだったけど、絶対中身は別人だよね?アスナ」

「だよな、あれはどう見ても刀使いの動きだぜ」

 

 アスナはその言葉に同意しつつも、別の事実を披露した。

 

「まあ確かにその可能性が高いね、でもハチマン君って、実は日本刀も使えると思うよ」

 

 その言葉に一同は驚いた。

 

「え、まじでか?いつの間に……」

「あ!そういえば昔、ハチマンさんに頼まれて、竹刀の使い方を教えた事があったかも」

 

 リーファが思い出したようにそう言った。そしてアスナは解説を始めた。

 

「前ね、ハル姉さんの家にあった日本刀を、丸一日楽しそうに振り回してた事があったの。

夕方頃には、素人の私が見ても、様になった動きをしてたように感じたんだよね」

「なるほど……」

「一日中?よく体力がもつわね……あれってそこそこ重いわよね?」

「うん、まあハチマン君、今でもかなり鍛えてるしね」

「ああ、確かにあいつはいい体をしてるからな、だよな?アスナ」

 

 アスナはその問いに、赤面しながら同意した。

 

「う、うん……」

「おいクライン、セクハラだぞ」

「えっ?…………あっ」

 

 クラインはそう言われてその意味に気付いたのか、直ぐにアスナに謝罪した。

 

「悪いアスナ、おかしな意味じゃなかったんだが」

「ううん、まあ事実だしね。さて、とりあえずハチマン君の事は置いといて、

そろそろキリト君の出番じゃない?」

「だな、ハチマンの事はそのうち説明があるだろ、お、次みたいだぞ」

 

 その言葉通り、次の対戦カードとして、キリトvs餓丸の文字が画面に表示され、

一同はその戦いを、固唾を飲んで見守ったのだった。




タイトルはもちろん誤字ではありません!

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