「まじかよ……あいつは一体何をやってるんだ?」
「もしかしてキリトに対抗しようと?」
「ねぇユイちゃん、キズメル、二人は驚いていなかったみたいだけど……」
その質問に、ユイは困った顔でこう答えた。
「ごめんなさい、パパに口止めされてたんです」
そしてキズメルも、それに同意するように頷いた。
「って事は……」
「あれはガチでハチマンなんだ……」
その言葉に動揺していた者が三人いた、もちろんアスナとコマチとユキノである。
三人はこそこそとカウンターに集まり、ひそひそと話をしていた。
「あれ?でもさっき確かにシャナが出てきたよね?」
「どういう事なんですかね?」
「どちらかが本物で、どちらかが偽者なのではないかしら」
「えっ、でもここにはソレイユさんとメビウスさん以外全員いるよ?」
「その二人の可能性は?」
「無いよ、ソレイユさんもメビウスさんも、仕事が忙しいって言ってたもの。
リズに頼まれて誘ったのはインする直前だし、絶対に間に合わなかったはずだよ」
そしてユキノが別の可能性を提示した。
「十狼の誰かという可能性は?」
「う~ん……エムさんかイコマ君?無いんじゃないかなぁ」
「…………一体誰なのかしらね」
「まあ見てればそのうち分かるかもしれませんね!」
そして三人は、何気ない風を装って元の場所に戻った。
「さて、どんな戦い方をするのやら……」
誰かがそう呟いた瞬間、画面の中のハチマンが動き出した。
「えっ?」
最初にハチマンに反応したのは銃士Xだった。
その見た目に見覚えがありすぎる為だった。
銃士Xは、慌ててシャナの方を見たが、シャナは無表情で画面を見つめているだけだった。
そして次々と、ハチマンの名前に反応する者が現れた。
「えっ?あれってまさか……え、あれ?シャナ?」
「嘘……どういう事?」
「えっ、まじで?あれ?」
「ちょ、ちょっと意味が分からないんだが……」
そんな反応をしたのは、ピトフーイ、シノン、闇風、薄塩たらこの、
リアル八幡を知るメンバー達であった。キリトも同様に目を丸くしていた。
「あれ……まさかハチマン?やべ、もしかして俺がGGOにいるのがあいつにバレたのか?」
キリトが心配したのはそこだったようだ。そして他の者達は、別の意味で驚愕していた。
「え、ハチマンってもしかして、ALOのハチマンか?」
「あの有名人の?いや、まさかまさか……」
「案外ただ同じ名前なだけかもしれないし」
「ただのALOのハチマンのファンかもしれないしな!」
「でも本物だったら面白いわね」
同じような反応は、街の各所で見受けられた。
「あれってマジもん?」
「本物だったらいいなぁ」
「だな!俺、あの人のファンなんだよ!」
「一体どんな戦い方をするんだろうな……」
そして街は、奇妙な静寂に包まれた。
「動いた!」
誰かがそう言い、画面の中のハチマンは動き出した。
「あの銃は……ベレッタ92?」
「いや、腰にも何かを差しているみたいだが……」
「もしかしてあれって……」
「輝光剣?」
「え、でも今輝光剣を作れるのってイコマきゅんだけよね?」
「最近誰かに輝光剣を作ったか確認してみる」
そう言ってシノンはイコマにメッセージを送った。
そして直ぐにイコマから返信が来た。
どうやらイコマは十狼以外にはまだ輝光剣を作っていないそうだ。
「作ってないって」
「といっても可能性があるとしたら、ここにいないシズカとベンケイの分よね?」
「刀身の色で分かるね、さあ、ピンクか銀色か、夜桜か白銀か、どっち!?」
ハチマンはベレッタをけん制に使い、
障害物を上手く利用しつつ、徐々に敵へと接近していった。
「移動がスムーズ……」
「相手が徐々に追い詰められてる感じがするね」
「良く言えば基本に忠実、悪く言えば平凡?」
「いや、ああいうのを相手にするのが一番やっかいだぜ?
スタイルとしてはゼクシードに似ているな」
その薄塩たらこの言葉に一同は頷いた。そしてついにその時が来た。
敵との距離がある程度縮まったかと思った瞬間、ハチマンは腰の剣を抜き放ち、
跳躍して横なぎに相手を真っ二つにした。
「速っ」
「気付いたら敵が真っ二つに……」
「微妙に居合いっぽい感じに見えたが……」
そして敵が消滅した後、ハチマンは刀身についた返り血を払うような仕草をした。
その刀身の色は…………黒だった。
「ピンクでも白銀でもない?」
「まさかの黒ぉ!?」
「それってシャナの……」
「「「「「「「アハトX!?」」」」」」」
その場にいた全員は、同時にそう叫んだ。
「まじかよ、じゃああれってシャナのアハトXの片割れか?」
「レフトなの?ライトなの?」
「ピト、今の問題はそれじゃないから」
「そうだぞ、おいシャナ、一体どうなって…………あれ?」
気が付くとシャナの姿は消えていた。
「おい、シャナは?」
「さっきまでそこにいたけど……」
「まさか逃げやがったのか!?」
「シャナ、どこだよ!」
「ねぇキリト君、シャナを見なかった?」
シノンはキリトにそう声を掛けた。だがキリトは反応しない。
「キリト君、キリト君ってば」
「お?おお、すまん、つい画面に見入ってたわ」
「ねぇ、今の戦闘、キリト君の目にはどう映ったの?」
シノンは興味本位でそう尋ねた。
「ん、あれがALOのハチマンじゃないかって話か?」
「まあぶっちゃけるとそんな感じ」
「あれはハチマンじゃない、あえて誰に似てるかと聞かれると、クラインだな」
「クラインさん?ああ、日本刀を使う人?」
シノンは自分の持つヴァルハラの知識を引っ張り出し、そう言った。
「詳しいんだな」
「まあ前に調べた事があったのよ」
「そうか、まあ正解だ。要するにあれは、普段刀を使っている人間の動きって事さ」
「刀……」
「でもクラインじゃない、あいつは居合いは使えない」
「そうなんだ……」
「面白くなってきやがった……」
そう呟いたキリトの目は、まるで獲物を狙う猛獣のような光を放っていた。
「おう、お疲れ」
プレイヤーが自由に使える個室のうちの一つで、シャナはハチマンをそう言って出迎えた。
「しかし自分と話すってのは、違和感が半端ないな……」
「私も違和感が半端ないわよ、でも肩がこらないというのはいいわね」
「まあ胸はな……」
「まあ下の違和感に……」
「おっとそこまでだ、下ネタは禁止だぞ、アイ」
「仕方ないわね、まあ後でトイレで確認させてもらうから別にいいわ」
「言っておくがゲーム内にトイレは無いからな」
「ぶぅ」
その時突然部屋の入り口がノックされ、二人はビクッとした。
「…………誰だ?」
「私です」
「私じゃ分からないな」
「あなたのマックスです、シャナ様」
「マックス?」
シャナはそれを聞き、そっと個室の扉を開け、銃士Xを中に引っ張り込んだ。
そして中に入り、扉を閉めたのを確認した銃士Xは、首を傾げながら二人に尋ねた。
「どうしてここにアイちゃんが?」
ちなみに銃士Xは、八幡に連れられて何度か眠りの森を訪れた事があったので、
アイと顔見知りなのは確かである。
「…………」
「…………」
その銃士Xの指摘に、二人は黙り込んだ。
「…………おい」
「はい、シャナ様」
「何でお前、これがアイだって分かるんだ?」
「確かにハチマン様のお顔を見た時は驚きましたけど、歩く姿を見て、
これはアチマン様だとわかりました」
「アチマンって何だよ……」
「アイとハチマンでアチマンです」
「こいつ真顔で説明しやがった……」
「アハトレフトの使い方を見て、中身がアイちゃんだと分かったんです、シャナ様」
その説明を受け、シャナとアチマンは嘆息した。
「アイが持っていたのがアハトレフトだって事も分かるのか」
「クルスさんって凄いね……」
「ここでの名前はイクスだ、でもそうだな、凄いな……」
「常識です」
銃士Xはそうすました顔で答えた。
「で、何故ですか?」
「これは敵に対する撹乱だな、俺がもし二人いたら、お前ならどうする?」
そのシャナの問いに、銃士Xは即座にこう答えた。
「もちろん今みたいに接触して確認……あっ」
「そう、それが狙いだ」
「なるほど……」
「だがアイは短剣は使えないからな、もしかしてもう別人だとバレている可能性はある」
「ですね、私が分かったくらいですし」
「いや、絶対にお前は特別だからな……」
シャナは呆れた顔でそう言った。
「いえ、でもキリト様は気付いていたように見えました」
「…………お前キリトと面識があったっけ?」
「いえ、ですがもちろん分かります、リアルの顔も知っています」
その言葉にシャナはハッとした。
「そういえばお前、うちの学校を見張ってた時期があったっけ」
「はい」
「じゃあキリトの事も?」
「歩く姿を見ただけで分かりました」
その言葉にシャナとアチマンは再び顔を見合わせた。
「私はキリトって人の事は知らないけど、イクスさんが凄いのは分かる」
「キリトは俺の親友だ、俺よりも強いと思っておけ」
「シャナよりも?」
アチマンはきょとんとした顔でそう尋ねてきた。
「ああ、事実だ」
「そう……」
そしてアチマンは、ニヤリとしながらシャナに言った。
「でも私が倒してしまっても問題無いのだろう?」
「お前それ、一度言ってみたかっただけだろ……」
シャナはそう言いつつも、その言葉を否定はしなかった。
「まあ大会だしな、好きにすればいい」
「分かったわ、キリトは私が倒す!」
「まあ頑張れ」
そしてシャナは銃士Xに言った。
「という訳で、俺とこいつはほとぼりが冷めるまでここに隠れておく。
お前はあっちで何かおかしな事があったら、俺に教えてくれ」
「分かりました」
「あ、本戦中は手加減するなよ、本気でかかってこい」
「いや、まあでもシャナ様に勝てる訳が……」
そんな弱気な銃士Xに、シャナは言った。
「もしお前が俺を倒せたら、今度デートしてやる」
「絶対に勝ちます!」
「おう、その意気だ」
もちろん絶対に負ける気が無いからこそ、シャナはこんな事を言った訳だが、
銃士Xはその事を何となく理解しつつも、その条件に燃えた。
「では後ほど」
「おう」
「銃士Xちゃん、どこにいってたんだ?」
「探索、シャナ様」
「ああ、そういう事か!で、どうだ?見つかったか?」
「否定、行方不明」
「そうか……」
その言葉に他の者達もガッカリした様子を見せた。
「謎は深まるばかりだね」
「本当に何なんだろうね」
「まあとりあえず切り替えようぜ、目標は全員本戦出場な」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
そして仲間達は、一回戦を順調に突破していった。
(あれはハチマン君じゃない)
ハチマンの戦闘を見たアスナは、一目でそう見破った。
(でも誰なのかは分からないな、どんな目的があるんだろ、挑発?撹乱?)
さすがアスナは、ハチマンの思考をトレースするのに慣れていた。
(確かにハチマン君が二人いるとなれば、相手は混乱して接触してくるかもしれないね、
ハチマン君、気を付けて……)
そんなアスナに周りの者達が声を掛けてきた。
「あれって確かにキャラはハチマンだったけど、絶対中身は別人だよね?アスナ」
「だよな、あれはどう見ても刀使いの動きだぜ」
アスナはその言葉に同意しつつも、別の事実を披露した。
「まあ確かにその可能性が高いね、でもハチマン君って、実は日本刀も使えると思うよ」
その言葉に一同は驚いた。
「え、まじでか?いつの間に……」
「あ!そういえば昔、ハチマンさんに頼まれて、竹刀の使い方を教えた事があったかも」
リーファが思い出したようにそう言った。そしてアスナは解説を始めた。
「前ね、ハル姉さんの家にあった日本刀を、丸一日楽しそうに振り回してた事があったの。
夕方頃には、素人の私が見ても、様になった動きをしてたように感じたんだよね」
「なるほど……」
「一日中?よく体力がもつわね……あれってそこそこ重いわよね?」
「うん、まあハチマン君、今でもかなり鍛えてるしね」
「ああ、確かにあいつはいい体をしてるからな、だよな?アスナ」
アスナはその問いに、赤面しながら同意した。
「う、うん……」
「おいクライン、セクハラだぞ」
「えっ?…………あっ」
クラインはそう言われてその意味に気付いたのか、直ぐにアスナに謝罪した。
「悪いアスナ、おかしな意味じゃなかったんだが」
「ううん、まあ事実だしね。さて、とりあえずハチマン君の事は置いといて、
そろそろキリト君の出番じゃない?」
「だな、ハチマンの事はそのうち説明があるだろ、お、次みたいだぞ」
その言葉通り、次の対戦カードとして、キリトvs餓丸の文字が画面に表示され、
一同はその戦いを、固唾を飲んで見守ったのだった。
タイトルはもちろん誤字ではありません!