ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第411話 予選最終戦、第七、第八戦

 画面の中では、ピトフーイと銃士Xが睨み合っていた。

その手に握られるのは、片や赤い刀身の輝光剣、鬼哭。片や青い刀身の輝光剣、流水。

観客達の中にも何人か気付いている者がいたが、

これはGGOの歴史上始めての、輝光剣同士の戦闘となる。

 

「さて、最初に愛剣のお披露目でもする?」

「了解、お先にどうぞ」

「それじゃあ遠慮なく」

 

 そしてピトフーイは、赤く輝く鬼哭をビュンビュン振り回しながら大見得をきった。

 

「これが我が愛剣、鬼哭よ。今宵の鬼哭は血に餓えてるわよぉ?」

 

 続いて銃士Xが、青く輝く流水を天に掲げながら言った。

 

「これが我が愛剣、流水。この青く澄み渡る真心を、我が最愛の主であるシャナ様に捧ぐ」

 

 そのセリフを聞いたピトフーイは、銃士Xに食ってかかった。

 

「イクス、ずるい!」

「何が?」

「私もシャナにこの剣を捧げるんだがら!」

「好きにするといい、色は被ってないんだし」

「でも血を捧げてるみたいでイメージ悪くない?」

「なら情熱を捧げた事にすればいい」

「おお、イクスあったまいい!」

 

 この様子を見ていたシャナは、ぼそりと呟いた。

 

「何だこの茶番は……いや寸劇か」

「まあ場を盛り上げるのは必要なんじゃない?」

「ピトはともかくマックスはそういうタイプじゃないと思ってたんだがな」

「あ、始まるみたい」

 

 そのアチマンの言葉通り、二人はやっと戦う気になったようだ。

 

「この赤き情熱を我が主に捧ぐ!」

「この青く澄み渡る真心を我が主に捧ぐ!」

「「いざ!」」

 

 そして二人は軽く剣を合わせると、激しく斬り結び始めた。

 

「おお、マジでやりあってるな」

「どっちも頑張れ!」

「いいぞいいぞ!」

「くそう、何でシャナばっか……」

 

 ピトフーイの剣の型は、どうやら片手直剣の型をベースにしているように思われた。

 

「そうか、あいつはβ時代は片手直剣を使っていたんだな」

 

 対する銃士Xの型は、アスナに似通っていた。

 

「シズカに教えてもらったりしたのか……な」

 

 その光景を同様に観戦していたキリトも、同じような感想を抱いた。

 

「SAO時代にやりあった事なんか無いけど、

俺とアスナがやりあったらあんな感じになるのかな……」

 

 そして二人は示し合わせた訳でも無いのに同時に言った。

 

「「だがまだ甘い」」

 

 二人の目からすれば、まだまだ未熟のように見えたようだが、

観客達にとってはそんな事は関係無かった。

 

「あれって刃が体に触れた瞬間にアウトだよな?」

「凄い切れ味だったもんな……」

「どっちが勝つんだ?」

「どうだろうな……俺の好みは銃士Xちゃんだが」

「あ、俺も俺も」

「俺もだな」

「お、俺はピトフーイの方が……」

 

 実力はともかく人気に関しては、銃士Xの圧勝のようだった。

これは日頃の行いのせいであろう。

そしてついに決着の時が来た。二人の持つ輝光剣が、いきなりその刃を消したのだ。

 

「あ、あれ?」

「エネルギーが……」

 

 その言葉通り、剣のエネルギー残量がゼロになっており、

やはり輝光剣同士の戦いは、エネルギーの消費が激しくなりすぎ、

決して長期戦にはなりえないという事が伺えた。

 

「ごめんねみんな、輝光剣同士が戦うと、

エネルギー消費が激しすぎて、どうしてもこうなっちゃうみたい」

「この続きはCMの後で」

 

 突然銃士Xが真顔でそう言い、観客達は笑いに包まれた。

 

「それじゃあ今回はここまで、本戦じゃ私達も、例えシャナが相手だろうと本気でやるから、

期待して待っててね」

 

 その言葉に観客達は大歓声を上げた。さすがピトフーイはプロであった。

 

「次の試合がどうなるかは分からないけど、

今の試合以上に頭のおかしい試合になると思うから、目を離しちゃだめよ」

 

 そう言ってピトフーイと銃士Xは同時にリザインした。

観客達の期待は、この時最高潮に達していた。

 

 

 

 そして次の試合の組み合わせがモニターに表示された瞬間、GGOが揺れた。

 

『シャナ vs ハチマン』

 

「うおおおお、どうなっちまうんだよこれ」

「まさか即リザインなんて事にはならないよな?」

「頼むぜシャナ!ハチマンに負けるな!」

「馬鹿野郎、あのハチマンだぞ!支配者の名は伊達じゃねえんだよ!」

 

 そんな喧騒が巻き起こっている事にはまったく気付かず、

本人達は普通にフィールドで対峙していた。

二人は歩み寄り、五メートルほど離れた位置で向かい合った。

 

「さてどうする?」

「もちろん本気でやるわよ」

「そうか……ならば一つ稽古をつけてやる、いつでもかかってこい、耳年増」

「年増と言われなくて良かったわ……」

「さすがに自分より年下の奴を年増呼ばわりはしねえって……

っていうか心配するのそこかよ!」

 

 二人はリラックスした様子でそんな冗談を言い合い、お互いの武器を構えた。

シャナのアハトライトとアチマンのアハトレフト、武器の性能はまったく同一である。

その黒い刃は、兄弟同士で争うのを嫌っていたのか、小刻みに震えていた。

否、震えているのはアチマンだった。

カタカタと揺れるその姿を見て、シャナはアチマンに言った。

 

「何だ?怯えてるのか?俺が怖いのか?」

「ええ、とても怖いわ、こうして向かい合ってみるとよく分かる、

どこに打ち込んでもカウンターをくらう未来しか見えないもの」

「それが分かるだけでも随分成長したと思うぞ」

「なのでとりあえず」

 

 その瞬間にアチマンは、強烈な突きをシャナの顔目掛けて放った。

だがシャナは、つまらなさそうに顔を傾け、それを紙一重で避けた。

 

「……不意打ちさせてもらう事にしたわ」

「……まあ不意打ちする前にこれからしますって奴はいないわな」

「今のはカウンターが取れなかったのかしら、それともあえて避けるだけにしたのかしら」

「さあな、もう一回やってみれば分かるんじゃないか?」

「そう……ねっ」

 

 その言葉と同時にギン、ギン、ギン!と甲高い音が三回響いた。

 

「……まあ通用しないと思ってたわ」

「三段突きか、練習したのか?」

「幸い時間だけはあるのでね、思いつく技を色々とね」

「そうか、研究熱心なのはいい事だな」

 

 シャナはそうアチマンを褒めながらも、軽々と攻撃を回避していく。

 

「避けてばかりいないで、攻撃もしてきたら?」

「そしたら試合が一瞬で終わっちまうじゃないかよ」

「……すごい自信ね」

「まあ能力はそっちの方が上だが、肝心の腕の方がな」

 

 そう煽られたアチマンは、じろっとシャナを睨みながら、こう宣言した。

 

「それじゃあそろそろ本気を出そうかしら」

「定番のセリフだな」

「ちゃんと根拠はあるのよ」

「……ほう?」

「どうもこの体には慣れなかったのだけれど、特に股間の辺りが……」

「下ネタはやめろって言っただろ!」

 

 そう叫びつつも、シャナはいきなり横へと飛びのいた。

その体があった場所を、いつの間にかアチマンのアハトレフトが貫いていた。

 

「あら、よく避けたわね」

「まあそれくらいはな」

「まあそんな訳で、やっとこの体に慣れてきたわ。そろそろ本気を出すとしましょう」

 

 そう言いながらアチマンは、無造作に前へと進み出た。

 

「ふっ!」

 

 そんな軽い掛け声と共に、凄まじい数の突きがシャナに襲い掛かる。

シャナはもう避けるだけでは間に合わず、アハトライトで軌道を逸らしつつ、

何とかその攻撃をさばいていった。

 

(今のアイがステータスの高い体を使うと、こうなるのか……)

 

 シャナはそう思いつつ、いきなり地面に伏せた。その頭の上を、黒い刃が通過していく。

 

「くっ」

 

 ずっと突きばかり見せてきたアチマンにとって、今の横なぎの攻撃は奇襲のつもりであり、

当たるのではないかという期待を持って放たれた攻撃だった。

 

「悔しそうだな」

「…………憎たらしいわね」

「お前の攻撃は当たり前すぎるんだよ、もっと工夫しろ、工夫」

 

 その言葉を受けてから、アチマンの動きは若干変化していった。

自然なフェイントも増え、シャナは段々避けるのに苦労するようになっていった。

アハトライトを使う回数も増え、二本のエネルギーはどんどん減っていった。

ちなみに観客達が、こんなレッスンのような戦闘を見せられてどう思っていたかというと、

ここまでの一連の動きが全て高速で行われていた為、すさまじい戦闘だとしか思っていない。

 

「そろそろか」

 

 お互いの刃が若干短くなった事に気が付いたシャナが言った。

 

「そうね、エネルギー切れが近いわね」

「次で決めるか」

「ええ」

 

 そう言うなりアチマンは、いきなりシャナへと斬りかかった。

その瞬間に、この戦いで始めてのシャナのカウンターがアチマンに炸裂した。

 

「くっ」

 

 シャナはそのままアチマンの懐へと飛び込んだが、慌ててその場で停止し、

アチマンの持つアハトレフトの『柄』から伸びてきた刃を自身の刃で受け止めた。

その瞬間に二本の黒い刃は四散し、アハトライトとアハトレフトのエネルギーが切れた。

 

「……よくまあ咄嗟に逆に刃を出せたもんだな」

「余裕余裕」

 

 そう言うアチマンの体は震えていた。ずっと緊張しっぱなしだったのだろう。

 

(アイはもっともっと強くなる)

 

 シャナはそう確信し、そのままリザインした。

その互角に見える戦いの結末に、観客達は熱狂し、否が応にも本戦への期待が高まった。

 

「結局どっちが強いんだ?」

「互角……なのか?」

「本戦が楽しみだな!」

 

 ちなみに今の戦いを見ていたキリトは、シャナが八幡だと確信していたが、

同時にハチマンの中のプレイヤーの将来性にも注目していた。

 

(一体誰なんだろう、いずれやりあってみたいけどな)

 

 そしてキリトはそのまま休憩に入る事にした。

 

 

 

 控え室に戻った後、アチマンはどっとその場に膝をついた。

 

「大丈夫か?」

「ええ、ちょっと足にきただけだから」

「そうか、よし、このまま一旦ログアウトするぞ」

「ええ」

 

 そして二人もログアウトし、出場者達は本戦に向け、それぞれ体を休める事となった。

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