ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第414話 ペアを組む

「うげ……Z-1って北東の端じゃないかよ……K-8は中央のやや左上か」

 

 キリトは自分の運の無さに歯噛みしたが、

よくよく考えると、中央付近であるK-8にずっと陣取るのは危険が大きい事に気が付いた。

周りから集まってくる敵に囲まれる可能性が大きいからだ。

 

「って事はこれはラッキーだって事になるな、さて、このまま最初のスキャンを待つか」

 

 

 

「A-16だと?よりによってこんな端か……」

 

 シャナの配置は南西の端であった。つまりシャナとキリトは、

長方形のマップの対角線上に離された事になる。

 

「とりあえずスキャンを待つか……」

 

 

 

 他のプレイヤーも同様に、その場から動かずに最初のスキャンを待っていた。

BoBにおける、唯一の静かな時間である。

 

「そろそろか……」

 

 誰かがそう呟き、その瞬間に最初のスキャンが始まった。

そしてその直後に、各人に割り当てられた端末に、プレイヤーの位置情報が表示された。

 

 薄塩たらこ   A-1

 シャナ     A-16

 闇風      C-4

 ピトフーイ   C-9

 銃士X     F-13

 ギンロウ    I-9

 ミサキ     J-4

 ダイン     L-12

 獅子王リッチー N-8

 ギャレット   Q-4

 ステルベン   S-2

 ペイルライダー S-12

 シノン     W-5

 スネーク    X-10

 キリト     Z-1

 ハチマン    Z-16

 

 これが最初の各プレイヤーの位置であった。スキャン結果の表示時間は短かい為、

基本自分の近場にいるプレイヤーだけしか確実出来ない。

最初に動いたのは薄塩たらこと闇風だった。

 

「おおっ、闇風が近いな」

 

 そう叫んだ薄塩たらこは、闇風の下へと走った。

その前方から闇風も姿を現し、二人は直ぐに対峙した。

 

「よぉ、相棒」

「おう、ラッキーだったな」

 

 観客達は、いきなり二人の戦端が開かれるのかと少し緊張したが、そうはならなかった。

 

「ん、戦わないのか?」

「まさか二人で組むのか?」

「ああっ、あれだよあれ!」

 

 観客達の中にも、何人か真実に気付く者がいた。

 

「シャナとハチマンが組んでるっぽかっただろ!だからそれに対抗する為にも、

ほとんどのプレイヤーが誰かとコンビを組む感じになるんじゃないのか?」

「確かにそうしないと、ただやられちまうだけだよな」

「そういう事か……」

 

 その推測通り、闇風と薄塩たらこは合流を終え、一緒に行動し始めた。

 

「なぁ、ここから一番近くにいるのって」

「ピトフーイとミサキさん、その向こうにギンロウってのだけは確認したぜ」

「先ずあの二人と戦う事になるのかな」

「こっちに向かってればな」

 

 

 

「やっほーミサミサ、当然組むよね?」

 

 その頃ピトフーイも、ミサキの下へと到達していた。

 

「ええそうね、でもあなたは銃士Xの方に向かうと思っていましたわ」

「うん、それがね、私の真南にシャナがいたのが見えたから、

あの子は多分そっちに向かうんじゃないかと思ったの」

「シャナ様が?それじゃあ下手に近付くと、狙撃されてしまうかもしれないですわね」

「その辺り、シャナは容赦しなさそうだしね!」

 

 そして二人は相談の上、見晴らしはいいが下からは見付けにくい岩山の上へと陣取った。

 

「さて、どんな状況になったのか、手分けして次のスキャンで確認しよっか」

「それまでは主に南東方面から近付いてくる敵をチェックですわ」

「ん、どうして?」

 

 そしてミサキは、微妙に嫌そうな顔でこう言った。

 

「……そっちに獅子王リッチーさんがいましたの」

「ああ~!あいつなら何も考えずにミサミサの方に向かってきそう」

「正直彼の持ち味は、サポートを得た上での拠点防衛戦だと思うのですが……」

「ヴィッカース重機関銃だっけ?正直こういう大会には不向きだよね」

「まあこちらに向かってきたら、そのまま死んでもらいましょうか」

「ミサミサ容赦ないねぇ、それにいつもの色っぽさが全然無いし」

「私もあなたと同じで、シャナ様に懸想してますもの、他人は正直どうでも……」

 

 そう言われたピトフーイは、面白そうに言った。

 

「ああ、よくよく考えたら、

シャナ相手に既成事実を作ろうと狙ってる二人が集まっちゃったんだね」

「私、三人でもよろしくてよ?」

「おっ、それいいね、それじゃあ二人がかりでシャナをイかせるとしましょっか」

 

 

 

「うぅ、何か寒気が……」

 

 この瞬間に、シャナはそう言って身震いした。

 

「とりあえず待ち合わせ場所方面にいたのはマックスだけだし、

アイはどこにいるかはまったく分からなかったから、しばらくあいつと一緒に行動するか。

どうせあいつもこっちに向かってるだろうし」

 

 その言葉通り、進行方向に銃士Xの姿が見えた。

銃士Xは本能センサーでも搭載しているのか、周りに気を付けながらも、

正確にシャナのいる方へと向かって歩いてきた。

シャナが横に移動してもそれに合わせて方向を変える銃士Xの本能は正直驚愕ものだった。

そして二人は無事に合流を果たす事となった。

 

「…………なぁ、何でお前は俺のいる方向が正確に分かるんだ?」

「シャナ様、それは女の秘密です」

「お、おう、そうか……凄えな女の秘密……」

 

 そして銃士Xはシャナに言った。

 

「このままだと、私達が最初にぶつかるのはダイン&ギンロウペアになると思います。

もっともあの二人がいきなりシャナ様とやりあう事を選択する可能性は低いので、

二人が中央の獅子王リッチーの方に向かっていたら、しばらく誰にも会わないかもですが」

「ん、ペア?あいつら組んでるのか?」

「ええ、シャナ様のせいで」

「俺のせい?」

 

 きょとんとするシャナに、銃士Xは他のプレイヤー達の間で、

誰かとペアを組む雰囲気が醸成されていた事を伝えた。

 

「そういう事か、俺達のせいでそんな空気になっちまってたんだな」

「現時点で確実にペアになってると思われるのは、たらこと闇風、ダインとギンロウ、

ピトとミサキさん、キリト様とシノン、それにギャレットとペイルライダーですね」

「……お前、スキャン結果をどこまで見れたんだ?」

「全部です」

「まじかよ……よく間に合ったな」

「とりあえず全部表示させて、内容は読まずに目に焼き付けるだけに留めたので」

「そ、そうか……」

 

 シャナはそう淡々と語る銃士Xのデキる女っぷりに気圧されつつも、

キリトとアチマンがどこにいるのかを尋ねた。

 

「キリト様はマップ右上、アチマンはマップ右下にいました」

「よりによって一番遠い所かよ……」

「どうしますか?」

「そうだな、とりあえずK-8を目指す事にする、そこでキリトと待ち合わせだ」

「分かりました、それじゃあ行きましょう」

 

 二人は一応ダイン達を警戒しつつ、K-8へと向かい始めた。

だが次のスキャンの時間まで、二人は誰とも出会わなかった為、

頃合いを見て安全な場所に潜み、次のスキャンに備える事にした。

銃士Xは淡々とした顔で、しかしここぞとばかりにシャナの隣に密着して座った。

その辺りはさすが抜け目が無い。

 

「シャナ様、そろそろ次のスキャンの時間です」

「だな」

 

 そして次のスキャンが始まった。

 

「これは……」

「俺は近場しか見れなかったが、どんな具合だ?」

「……おかしいですシャナ様、キリト様とシノンが、随分南に移動しています。

そしてギャレットと獅子王リッチーとすてぃーぶん?がいませんでした」

「ほほう?もう三人もリタイアしたのか」

「多分……」

「アイはどこにいた?」

「アチマンは中央を目指してますね」

「そうか、ギンロウとダインは中央にいたよな、

もしかしてあいつらがリッチーを倒したのかもな」

「かもですね」

「まあいい、このままK-8に移動だ」

「はい」

 

 

 

 シノンは最初のスキャンの後、高台に上ってそこで待機していた。

そこで待っていれば、キリトがこちらに姿を現すと考えたからだった。

 

「あ、あれかな……」

 

 キリトは真っ直ぐに中央を目指しているようだ。このままではシノンに気付かずに、

どんどん先へと進んでしまうだろう。

シノンはそう考え、キリトのかなり前に銃弾を撃ちこんだ。

 

「んっ……この当てる気のない狙撃はシノンか、どこだ?」

 

 キリトは辺りをきょろきょろと見回し、高台の上から手を振るシノンの姿を見付けた。

キリトは方向を変えてそちらに向かい、無事にシノンと合流した。

 

「よっ」

「こっちに来ると思って待ってたわ、一緒に行くわよね?」

「そうだな、シャナとハチマン対策でほとんどの奴が組む雰囲気だったしな」

 

 さすがキリトはそういった戦闘に関する気配には敏感だった。

 

「ところで思いっきり走ってたみたいだけど、どうするつもりだったの?」

「ああ、実はシャナと待ち合わせでK-8に行くつもりだったんだよ」

「K-8……」

 

 端末を表示し、拡大したシノンは、そこが市街地になっている事を確認した。

 

「どうやら街があるみたいね」

「だな、とりあえずそこへ移動だ」

「了解よ」

「正面に何人かいたはずだ、注意しようぜ」

「すてぃーぶん?とかいう名前のプレイヤーと、ギャレットがいたわね、

少し南にはスネークってのもいたわね

「組んでるかもしれないし、とにかく気を付けないとな」

「そうね」

 

 そう言いながらも二人は、急いでK-8へと走り始めた。

そしてしばらく走った後、二人はT-9地点へと到達した。

 

「ん、あれは……まさか死銃か?」

 

 キリトが先に敵の姿を発見したらしく、二人はその場で停止した。

 

「どこ?」

「あそこだ」

「……本当だ、あのマントにマスク姿、間違いないわね」

「他にプレイヤーの姿は……」

「あっ、あそこにいるのはギャレットよ、どうやら死銃はギャレットを狙っているみたいね」

「まずいな」

 

 そう言ってキリトはそちらに向かおうとした。

このままだとギャレットが死に至る可能性があるからだ。

 

「あいつらのPKへの拘りは異常だ、もう手遅れかもしれないが、

銃で撃つ事を止めさえすれば、思い留まる可能性はある。それじゃPKにはならないからな」

「なるほど…………ひっ」

 

 その瞬間にシノンがそう悲鳴を上げた。

 

「どうした?」

 

 だがシノンから返事は無く、明らかにその様子はおかしかった。

 

「おい、大丈夫か?」

「あ、あれ……あの銃……」

 

 シノンは苦しそうにそう言いながら、死銃が構えている銃を指差した。

 

「あれがどうかしたのか?」

「ごめんなさい、私、あの銃だけは駄目なのよ、トカレフ……通称黒星、

あれを見ると、私はどうしても怖くてたまらなくなるの……」

 

 そんなシノンの様子を見て、キリトはどうすればいいか迷った。

その直後に悲劇は起こった。

ステルベンがギャレットを急襲し、その体に何発も銃弾を撃ちこんだのだ。

その直後にギャレットは苦しみ出したかと思うと、その場から姿を消した。

こういった大会では、通常死体は残るはずだが、どうやら回線切断されたようだ。

キリトはその光景を目の当たりにし、呆然とした。

 

「まさか……死……」

 

 その瞬間に、キリトと死銃の目が合った。

 

「ザザ……お前、お前は……」

 

 キリトは怒りに震え、死銃の下へと向かおうとした。

だが死銃はその瞬間に身を翻し、全力で逃走を始めた。

 

「なっ……」

 

 それもそうだろう、確かにたった今、ギャレットに対するPKを成功させたが、

ステルベンの目的はあと二人、ペイルライダーとシノンがいるのだ。

ここでキリトの横にシノンの姿を確認していたらまた違ったかもしれないが、

この時ステルベンは、キリトが単独で行動しているのだと思い、

一時的にその場を離脱する事を選択した。

 

「どうする……追うべきか……」

 

 キリトは一瞬そう迷ったが、この状態のシノンをそのままにはしておけなかった。

 

「シノン、歩けるか?大丈夫か?」

「え、ええ、歩くくらいなら……」

「とりあえず南に離脱して仕切りなおしだ、行こう」

「う、うん」

 

 二人は進路を岩場の多い南へととり、洞窟を見付けると、その中に潜んだ。

 

「さて、とりあえずここで次のスキャンを待つか」

「そうね」

「さっきの死銃の正体は誰かな」

「位置的にはすてぃーぶん?かスネークだけど、元々その二人しか候補がいなかったし、

結局何も分からないままね」

 

 シノンは少し息が荒いまま、そう意見を述べた。

 

「だな……」

「とりあえず次のスキャンまではまだ時間がある。

それまでに、お前の身に何が起こったのか教えてくれないか?」

 

 その言葉を聞いたシノンは、ついにその時が来たのだと悟った。

 

「……前にシャナに言われた事があるの、

『いつかお前がこれだと思うプレイヤーと出会ったら、その時そいつにその事を話してみろ。俺達じゃ駄目だ。

そしてその出会いによって、お前はきっとその呪縛から解放される、断言しよう』

ってね、多分今がその時なのね、さすがはシャナ、こうなる事を予想していたのかしら」

「あいつがそんな事を?」

「ええ、だからあなたに、私の過去を話すわ」

「……分かった」

 

 そしてシノンの過去を聞いたキリトは、

それがかつて自分が体験した話と酷似している事に気が付いた。

 

「月夜の黒猫団か……」

「ん?」

「俺も昔、同じような体験をしたからな」

「……そうなの?どうやってそれを克服したの?」

「俺の場合は、死んだ本人が俺宛に残したメッセージを聞いた事が大きかった。

だがシノンの場合はそれとは少し違うみたいだな。

大丈夫だ、多分あいつがもう手を打っているはずだ、

多分この大会後には、シノンのそのトラウマは絶対に克服される、俺もそう断言しよう」

「英雄二人から断言されちゃった」

 

 シノンは笑いながらそう言った。

 

「シノンはあいつの事が好きなんだろう?」

「…………うん」

「ならあいつと、あいつの親友である俺の言葉を信じてくれ、

あいつがそう言ったなら、俺と会った事でシノンのトラウマは実はほとんど克服されている。

後は最後の一押しが必要なだけなんだと思う」

「最後の一押し?」

「それはあいつが何とかしているさ、だからあいつの言葉を信じて、

今は目の前の敵と戦う事に集中しよう」

「……うん、分かった」

 

 それからスキャン開始までのしばらくの間、シノンはシャナとの出会いから、

私生活で助けてもらった事などをキリトに話して聞かせ、

キリトはそのありえなさに、盛大に呆れる事となった。

 

 そして次のスキャンの時間が訪れた。


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