ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第416話 ペイルライダーを巡る混戦

 ここで各人の状況を説明しておく。

 

 闇風は現在マップ左上まで後退し、反撃の機会を伺っているところだった。

 

 ピトフーイとミサキは、前回のスキャン結果を見られなかった為、前々回の状況を参考に、

ダインとギンロウがいるポイントに奇襲を掛けようと進軍中である。

待機とか自重という言葉は彼女達の辞書には無いようだ。

性的な部分では切に自重が望まれる二人であった。

 

 ステルベンは現在行方不明であったが、

残る一人であるペイルライダーの下に向かっているのは間違いない。

 

 ダインとギンロウは、次はペイルライダーを標的と定めたようだ。

これは一番近くにいるソロプレイヤーがペイルライダーしかいなかった為である。

 

 スネークはそこまで戦闘に積極的ではなく、

基本MGSプレイで不意打ちを出来る相手を探しているようだ。

 

 ペイルライダーは正直困っていた。周りを敵に囲まれ、動けないのが現状であった。

 

 アチマンはスネークのいる方向に気を付けつつ、じりじりと中央へと進んでいた。

 

 キリトとシノンは、検証の為に川沿いで待機していた。

カメラが入っていない事をいい事に、シノンはキリトに今までの出来事を話しており、

キリトは八幡が今までどういう行動をしていたのかをほとんど知る事となった。

 

「こんな大事な事に俺を誘わないなんて……くそ、絶対に後でとっちめてやる」

 

 とはキリトが話を聞き終わって語ったセリフである。

 

 そしてシャナと銃士Xは、ペイルライダーの下へと急行していた。

これでペイルライダーを中心に、六つの勢力がひしめき合う事となった。

ダイン&ギンロウ、ステルベン、スネーク、アチマン、シャナ&銃士Xである。

そこに七つ目の勢力が、一石を投じようとしていた。

 

 

 

「いた、あれってダインとギンロウじゃない?」

「あまり美味しそうじゃなさそうな二人ですわね」

「そうだねぇ、とりあえずサクっと中距離から殲滅しとく?」

「ですわね、ここはガンガン行くとしましょうか」

 

 二人はそのまま容赦なくダインとギンロウに襲い掛かった。

折りしもダインとギンロウは、ペイルライダーを丁度視界におさめた所であり、

後ろに対しては完全にノーマークとなっていた。

その攻撃はシャナと銃士Xが到着し、ペイルライダーを見つけたのと同じタイミングだった。

ペイルライダーは銃声で気付いたのか、ダイン達の方を見て反対に逃げ出した。

その瞬間にどこからか飛来した銃弾がペイルライダーに突き刺さった。

ペイルライダーは何とか即死は免れ、慌てて物陰に身を潜めた。

 

「おいおい、どんな状況だ?」

「シャナ様、ダインさんとギンロウが死亡しました」

 

 周囲を単眼鏡で見回していた銃士Xが、シャナにそう報告をした。

 

「誰がやったんだ?」

「どうやらピトとミサキさんのようです」

「行動が早いな、もしかしてたらこと闇風はもうやられたのか?」

「かもしれません」

「とりあえずペイルライダーを救うか、行くぞマックス」

「はい」

 

 そしてシャナはペイルライダーを救おうと動き出した。

この場合の救うとは、要するに死銃よりも先にペイルライダーを倒すという事である。

そうすればリアルでペイルライダーが死ぬ事は無い、シャナはその事を確信していた。

無差別に他人を殺害しようと思えば出来るはずのラフィンコフィンの残党が、

他のゲームのプレイヤー限定で、しかも手順に病的なまでに拘る理由は一つしかない。

要するに彼らのSAOでの活動はまだ終わっていないという事なのだ。

 

「おい、ペイル!」

 

 シャナは大胆にも自分の姿を大胆に晒しながらペイルライダーに声を掛けた。

その事で、ペイルライダーを攻撃したプレイヤーをけん制する意味もあった。

同時に銃士Xも姿を見せ、姿が見えないその敵を睨むように、

弾の飛んできた方向に銃を向けた。

 

「シャナ……それに銃士Xか、俺の首を取りにきたのか?」

「ああそうだ、それがお前のためになる」

「意味が分からねーよ!」

 

 その時銃士Xが、素早くこう言った。

 

「いました」

「撃て」

 

 即座にシャナはそう返し、銃士Xは草むらに向けて銃撃を開始した。

その瞬間に一人のプレイヤーが慌ててその場から逃げ出し、

銃士Xはその背中を正確に撃ち抜いた。

 

「処理しました」

「よくやった、確認してくれ」

「はい」

 

 そして銃士Xはそのプレイヤーに駆け寄り、

シャナはチラリとピトフーイ達の様子を伺いつつ、そこから死角になる位置に移動し、

そのままペイルライダーに銃口を向け続けた。

その瞬間に、死体を調べに向かった銃士Xが慌てたような声を上げた。

 

「シャナ様、違います!こいつは死銃じゃありません!」

「何だと?」

 

 その瞬間に、シャナの注意がペイルライダーから反れた。

そして銃声が響き渡り、どこからか飛来した銃弾がペイルライダーの体に命中した瞬間、

ペイルライダーは苦しそうに宙を掻きむしり、その姿が消滅し、

後には回線切断を示す文字だけが残された。

 

「なっ……一体誰が……」

 

 シャナはその銃弾が飛んできた方向に慌てて目を向けた。

そこにはぼろぼろのマントを付け、赤い光を放つゴーグルを付けたプレイヤーがおり、

その姿を見たシャナは、咄嗟にそのプレイヤーに向けて叫んだ。

 

「お前が死銃か!」

「まだ終わってはいない、それを決して忘れるな」

 

 そう言った瞬間、ステルベンの姿がその場から消えた。

 

「何だと……まさかあのマント、姿を消せるのか?」

 

 シャナはどうやらメタマテリアル光歪曲迷彩マントの存在は知らなかったようだ。

 

「マックス、一時撤退!このままアチマンと合流する!」

「了解」

 

 そして二人は直ぐに逃走にうつった。

このままだと更にピトフーイとミサキの介入を受ける可能性があり、

二人に事情を説明している暇は無いからだ。

 

(くそっ、すまん、ペイル……余計な事を考えずに狙撃しておけば……)

 

 だが後悔先に立たず、失われた命はもう戻らない。

そしてシャナは、GGOをプレイし始めてから初めて失意のうちに撤退する事になった。

 

 

 

 そして次のスキャンが行われ、シャナは死銃の正体が、

すてぃーぶん?というプレイヤーだと推測した。

 

「いませんね……」

「だな、残っている奴らは全員こっちのシンパだ、さっきお前が倒したのがスネークだから、

消去法で残るはすてぃーぶんという事になる」

「シャナ様、それなんですが」

「うん?」

「もしかしたらあれは、ステルベンと読むのかもしれません。ドイツ語で死を表す言葉です」

「そうなのか、確かにそれだとしっくりくるな」

「はい」

 

 シャナは、さすがは最高学府の学生だと銃士Xの事を賞賛しつつ、

本当の読み方はどうあれ、今後はそう呼ぶ事に決めた。

 

「それにキリトの姿が無い、どうなってるんだ?」

「……ステルベンがスキャンに映らないのと同じ原理でしょうか」

「もしかしたら、スキャンの死角になっている場所があるのかもしれないな」

「なるほど」

 

 その瞬間に二人は背後に銃口を向けた。

 

「ごめんなさい、遅れたわ」

 

 そんな二人の前に、平然とアチマンが姿を現した。

シャナはそれで一息付き、アチマンに今どうなっているか事情を説明した。

 

「…………ステルベン、ね」

「ああ、おそらくそいつが死銃だ、どうやら今は何らかの方法で姿を隠しているらしい」

「さっき言っていたマントかしら」

「その可能性が一番高いが、不自然にキリトの姿が消えていた。

だからもしかしたら場所のせいかもしれん、複数の手段があると考えた方が良さそうだ」

「なるほど」

 

 アチマンはそう言うと、これからどうするかシャナに尋ねた。

 

「で、これからどうするの?」

「ピトとミサキさん、それに闇風を殲滅する」

「そうなの?」

「ああ、とにかく俺達の手で片っ端から倒してしまえば、

おそらくこれ以上の事件は起こらないはずだ」

「ふむ……」

 

 アチマンはシャナほどラフィンコフィンのメンバーについて知らないので、

そういうものなのかと曖昧にそう返事をした。

そんなアチマンに、シャナはリアル状況を説明した。

 

「俺とキリト、そしてアチマンは多分あの銃で撃たれても何も起こらない。

リアルの体がガッチリとガードされているからな」

「あ、そういえば今朝すごく強そうなおじさんがうちに来てたわね」

「キリト様もですか?」

 

 銃士Xがそうシャナに尋ねてきた。

 

「ああ、おそらく完璧に菊岡さんが手を回しているはずだ、

なので最優先で倒さなくてはいけないのが、ピトとミサキさんという事になる」

「えっと……シノンは?」

 

 その銃士Xの言葉に、シャナは問題無いという風にこう答えた。

 

「あいつの家のセキュリティは俺自身が確認しているから大丈夫だ。

素人が開けられる扉じゃない、それに俺の分身がガードしているからな」

「分身?」

 

 はちまんくんの存在を知らないアチマンは、何の事か分からずシャナにそう尋ねてきた。

 

「ガードロボットみたいなもんだ、まあ心配しないでいい」

「わお、さすがはソレイユね」

「問題はマックスだが……」

 

 そしてシャナは、探るような目で銃士Xを見た。

 

「私は大丈夫です、うちのセキュリティは固いので」

「そうか、それと一応聞くが、BoBへの申し込みの際に、

リアル住所を端末に入力したりしてはいないよな?」

「はい、それは大丈夫です…………あっ、そういう事ですか」

「分かったか?」

「はい、シャナ様はステルベンがあのマントを使って、

他人の入力画面を盗み見たとお考えなのですね」

「そうだ、さすがだな」

 

 そしてシャナは、再びいぶかしげな顔をしているアチマンに、

BoBの申し込みの事について説明した。

 

「なるほど、師匠も確かに個人情報を入力したような事を言っていた」

「師匠とは?」

「ゼクシードだ」

「なるほど……」

 

 銃士Xはそれを聞き、少し胸を熱くした。

例え敵とはいえ、ゼクシードがそういった形で元気でいる事に感動したのだ。

そんな銃士Xの胸のうちを察したのか、シャナは穏やかな顔で銃士Xに言った。

 

「大丈夫だ、俺の知る限り、一、二を争う名医に見てもらってるからな、

ゼクシードの馬鹿は必ず助けるさ」

 

 シャナは清盛の事をそう表現した、とんだツンデレ野郎である。

 

「そんな訳で、とりあえずピト達を倒しに行くぞ」

「はい!」

「了解よ」

 

 三人はそう頷き合うと、即座に行動を開始した。だがピトフーイ&ミサキコンビは、

不利を悟ってソロでいるように見えたシノンの下へと急いでいた。

闇風の位置は更にその遥か先であり、

その為に次のスキャンまで、三人は誰も見付ける事が出来ず、

無駄に時間を消費する事となった。


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