(あの銃……?まさか!)
キリトは慌てて目を凝らし、死銃の手に握られている銃をじっと見つめた。
それは確かに映像で何度も見た黒星であった為、キリトは呆然とした。
「なっ、何で……」
そのキリトの動揺を見抜いたのか、死銃はキリトに向かってこう言った。
「まだ終わってはいない、イッツ、ショータイム」
そして死銃は身を翻し、そのまま一時撤退した。
死銃が完全にいなくなった事を確認したキリトは、あわててシノンに駆け寄った。
「おい、おい!」
「何で…………」
そのシノンの様子が普通じゃないと悟ったキリトは、慌ててシノンに声を掛けた。
「おいシノン、お前には八幡の分身がついてるんだろ?
だから何も心配する事はない、お前の体は安全だ!」
八幡の名前を聞いた事で落ち着いたのか、シノンの目に光が戻ってきた。
「おい、大丈夫か?」
「え、ええ、ごめんなさい、少し動揺してしまったみたい」
「まあ仕方ないさ、まさかあいつがシノンをあの銃で撃とうとするなんて、
思ってもいなかったからな」
「う、うん」
そしてキリトは確認の為にシノンに質問した。
「一応聞くけど、今シノンがログインしている場所は安全なのか?」
「ええ、絶対に大丈夫よ、頼りになる相棒もいるしね」
「噂のはちまんくんって奴か……興味があるから今度会わせてくれよ」
「えっ?」
「え……な、何だよ……」
「えっと、八幡以外の男の人を家に入れるのはちょっと……」
「どこか外に連れてきてくれればいいよ!別に家には行かないからな?」
「あ、そういう……そうね、それなら問題無いわ」
シノンは少し元気が出たのか、いつものような強気さが戻ってきたようだ。
そんなシノンにキリトは言った。
「でもさっきは黒星を直視したのに、思ったより平気そうだったよな」
「え、そ、そう?」
「確かに命の危険を感じて動揺しているようには見えたが、
あくまで銃はその副産物って感じがしたな」
「あ、確かに……」
「徐々に克服しつつあるのかもしれないな」
そう言いながらキリトはシノンに手を差し出し、シノンはその手を掴んで立ち上がった。
「そうだと嬉しいな」
「きっとそうさ、八幡は凄いんだぜ」
「うん、本当にね」
シノンは嬉しそうに頷き、そんなシノンにキリトは移動の提案をした。
「よし、あいつが川を渡ってくる前にK-8に移動しようぜ、
この川幅だとそう簡単には渡ってこれないはずだ」
「うん」
そして二人は目的地に向かって走り出した。
一方シャナ達は、ピトフーイとミサキを倒す為に、
一度目的地でありK-8に到着したものの、その先まで進撃していた。
「そろそろあの二人がいると思うんだが……」
「もしかしたら闇風の方へと向かったのでは?」
「ありうるかも、挟撃は避けたいだろうしね」
「そうだな……」
シャナは少し迷いを見せた。もしかしたらキリト達がまもなく到着するかもしれず、
K-8から離れすぎるのは避けたい。そんなシャナの心の中を読んだのか、
アチマンがシャナにこんな提案をしてきた。
「シャナ、私が単独で攻める。こうなった以上、私の存在はあまり意味がない」
「お前が単独で二人、もしくは三人相手を?大丈夫なのか?」
「大丈夫、仮に私がここで倒されても状況には大差ない。
シャナは情報交換を優先してここに残るべき」
「それならせめてマックスを……」
「いざという時の連絡役は必要」
「…………そうか、分かった。アチマン、行ってこい」
「むふぅ、妹に姉のいい所を見せるチャンス到来」
そう言ってアチマンは、風のように去っていった。
「ヤミヤミ、出ておいで~!」
「…………」
「付いてきてるのは分かってるわよ」
「…………」
そのころ闇風は、G-6地点まで進軍していた。
ピトフーイとミサキに奇襲を掛ける為にここまで追いかけてきたのだが、
ここに来て何故かピトフーイに気付かれ、先ほどから何度も呼びかけられていた。
「何でバレたんだ……」
闇風はそう呟きつつも、見つからないように息を潜め続けていた。
その状況が変わったのは、次のミサキの一言からである。
「仕方がないですわね、とりあえず脱ぎますわ」
(何っ!?)
その言葉を聞いた闇風は、二人に見つからないように慎重に顔を覗かせ、
単眼鏡でその声が聞こえた方向を見た。
(ミサキさんは元々露出の激しい装備をしていたはず。そこから脱ぐという事は……!?)
そしてビルの陰に、一瞬ミサキらしき人影を見た闇風は、
そこに肌色以外の成分を確認出来ず、まさか全裸なのではと驚愕した。
(何…………だと…………!?)
しかしそれでも尚、闇風は理性を保っていた。
(いやいや、これは明らかに罠だ、
もしかしたら肌色の装備に着替えたのかもしれないじゃないか)
その推測は実は合っていた。さすがに中継されているのに全裸になる事は問題がある。
そんな闇風の心の中を読んだように、ここでミサキが言った。
「それではこれから……一枚ずつ服を着ていきますわ」
(何…………だと…………!?)
「え、ミサキさん、最初に着るのそこ?」
「ここからじゃないと、危ない部分が隠れてしまいますもの、
どうでもいい部分から着ていかないと、闇風さんに失礼ですわぁ」
(まじかよミサキ女神様、俺なんかの為にそこまで気を遣って……
これはもう、見ないなんて失礼な事は出来ねえ……)
そう自分に言い訳をした闇風は、チラリと顔を覗かせた。
そこには肌色のビキニアーマーと呼べる装備に手甲だけを着けたミサキの姿があった。
(まじかあああああ!やっぱり肌色装備だったのは残念だが、
俺にとっては十分だぜ!女神はここにいた!)
そしてミサキはビルの陰に隠れるように若干横に移動し、
そのせいで闇風も、思わずぐっと身を乗り出す事となった。
その瞬間にどこかから飛来した銃弾に胸の中心を撃ち抜かれ、闇風はどっとその場に倒れた。
「はい、一丁あがり~」
「まあこれだけサービスしてあげたのだから、闇風さんも悔いは無いのではないかしら」
二人はそう言いながら闇風の下に近付いてきた。
地面に倒れ伏した闇風は、最後の力を振り絞って二人に話し掛けた。
「おいピト、何で俺が近くにいるって分かったんだ?」
「童貞の気配がしたから?」
「ぐはっっっっ…………」
闇風はその言葉で止めを刺されたのか、ピクリとも動かなくなった。
まだわずかにHPゲージは残っていたが、弾がかすっだだけでも全損するレベルであり、
二人に銃を向けられた闇風にはもう成すすべはなかった。
そして闇風は、最後にこう言った。
「ミサキさん、俺なんかの為に本当にありがとうございました!」
「いえいえ、それじゃあせめて私の手でイかせてあげますわ」
「感謝します!」
そしてミサキは闇風に止めを刺し、闇風は死体となった。
「さて、次は…………」
そう言いながら振り向いたミサキの目が驚愕に見開かれ、
それを見たピトフーイは咄嗟にその場に伏せた。
その瞬間にミサキは蜂の巣になり、その場にドッと倒れた。
闇風にとってはラッキーな事に、ミサキは闇風と重なるように倒れ、
闇風は大会終了までヘヴン状態に置かれる事となった。
「行くわよ」
その『男の』声を聞いたピトフーイは、反射的に鬼哭を抜き、振り返った。
「くっ……」
その瞬間に自らの目の前に黒い刀身が見え、
ピトフーイは何とかそれを、鬼哭の赤い刃で受け止めた。
「ハ、ハチマン……」
その目の前にはアハトレフトを構えたアチマンがいた。
その膂力は凄まじく、STR特化のピトフーイよりも上をいっていた。
それでもピトフーイは意地を見せ、何とかその刃を撥ね返すと、
数メートルほど後ろに跳び退った。
「へぇ……」
その動きを見たアチマンは、感心したように言った。
「やるじゃない、さすがはシャナの仲間ね」
「その口調……中身は女の子なんだ」
「ええそうよ、それじゃあとりあえず死んでもらおうかしら」
「くっ……」
アチマンの攻撃は、速さと重さがピトフーイの上をいっており、
ピトフーイは一瞬で防戦一方に追い込まれた。
「これはシャナの命令?」
「ええ、あなた達を守る為にね」
「ど、どういう事?」
「万が一を避ける為にも、大切な仲間を死銃に撃たせる訳にはいかないからよ、
ちなみに今はどこからログインを?」
「じ、自宅だけど」
「セキュリティは?」
「それは万全」
アチマンはピトフーイの顔をじっと見つめ、頷きながら言った。
「そう……でも一応念の為、ここで死んでもらえないかしら、
この大会はもう駄目よ、多分ゴシップの種にされる。
詳しい説明は大会後にシャナがしてくれるわ」
「そういう事なら……でもどうせなら、シャナ自身の手で倒されたいんだけどなぁ」
「ごめんなさい、それじゃあ変わりに私がシャナと交渉して、
大会後にあなたとのデートの約束を取り付けるわ、それでどう?」
「是非それで!むしろありがとう!」
そしてピトフーイは抵抗をやめ、あっさりとアチマンに倒された。