ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第419話 闇風、一片の悔い無し

(あの銃……?まさか!)

 

 キリトは慌てて目を凝らし、死銃の手に握られている銃をじっと見つめた。

それは確かに映像で何度も見た黒星であった為、キリトは呆然とした。

 

「なっ、何で……」

 

 そのキリトの動揺を見抜いたのか、死銃はキリトに向かってこう言った。

 

「まだ終わってはいない、イッツ、ショータイム」

 

 そして死銃は身を翻し、そのまま一時撤退した。

死銃が完全にいなくなった事を確認したキリトは、あわててシノンに駆け寄った。

 

「おい、おい!」

「何で…………」

 

 そのシノンの様子が普通じゃないと悟ったキリトは、慌ててシノンに声を掛けた。

 

「おいシノン、お前には八幡の分身がついてるんだろ?

だから何も心配する事はない、お前の体は安全だ!」

 

 八幡の名前を聞いた事で落ち着いたのか、シノンの目に光が戻ってきた。

 

「おい、大丈夫か?」

「え、ええ、ごめんなさい、少し動揺してしまったみたい」

「まあ仕方ないさ、まさかあいつがシノンをあの銃で撃とうとするなんて、

思ってもいなかったからな」

「う、うん」

 

 そしてキリトは確認の為にシノンに質問した。

 

「一応聞くけど、今シノンがログインしている場所は安全なのか?」

「ええ、絶対に大丈夫よ、頼りになる相棒もいるしね」

「噂のはちまんくんって奴か……興味があるから今度会わせてくれよ」

「えっ?」

「え……な、何だよ……」

「えっと、八幡以外の男の人を家に入れるのはちょっと……」

「どこか外に連れてきてくれればいいよ!別に家には行かないからな?」

「あ、そういう……そうね、それなら問題無いわ」

 

 シノンは少し元気が出たのか、いつものような強気さが戻ってきたようだ。

そんなシノンにキリトは言った。

 

「でもさっきは黒星を直視したのに、思ったより平気そうだったよな」

「え、そ、そう?」

「確かに命の危険を感じて動揺しているようには見えたが、

あくまで銃はその副産物って感じがしたな」

「あ、確かに……」

「徐々に克服しつつあるのかもしれないな」

 

 そう言いながらキリトはシノンに手を差し出し、シノンはその手を掴んで立ち上がった。

 

「そうだと嬉しいな」

「きっとそうさ、八幡は凄いんだぜ」

「うん、本当にね」

 

 シノンは嬉しそうに頷き、そんなシノンにキリトは移動の提案をした。

 

「よし、あいつが川を渡ってくる前にK-8に移動しようぜ、

この川幅だとそう簡単には渡ってこれないはずだ」

「うん」

 

 そして二人は目的地に向かって走り出した。

 

 

 

 一方シャナ達は、ピトフーイとミサキを倒す為に、

一度目的地でありK-8に到着したものの、その先まで進撃していた。

 

「そろそろあの二人がいると思うんだが……」

「もしかしたら闇風の方へと向かったのでは?」

「ありうるかも、挟撃は避けたいだろうしね」

「そうだな……」

 

 シャナは少し迷いを見せた。もしかしたらキリト達がまもなく到着するかもしれず、

K-8から離れすぎるのは避けたい。そんなシャナの心の中を読んだのか、

アチマンがシャナにこんな提案をしてきた。

 

「シャナ、私が単独で攻める。こうなった以上、私の存在はあまり意味がない」

「お前が単独で二人、もしくは三人相手を?大丈夫なのか?」

「大丈夫、仮に私がここで倒されても状況には大差ない。

シャナは情報交換を優先してここに残るべき」

「それならせめてマックスを……」

「いざという時の連絡役は必要」

「…………そうか、分かった。アチマン、行ってこい」

「むふぅ、妹に姉のいい所を見せるチャンス到来」

 

 そう言ってアチマンは、風のように去っていった。

 

 

 

「ヤミヤミ、出ておいで~!」

「…………」

「付いてきてるのは分かってるわよ」

「…………」

 

 そのころ闇風は、G-6地点まで進軍していた。

ピトフーイとミサキに奇襲を掛ける為にここまで追いかけてきたのだが、

ここに来て何故かピトフーイに気付かれ、先ほどから何度も呼びかけられていた。

 

「何でバレたんだ……」

 

 闇風はそう呟きつつも、見つからないように息を潜め続けていた。

その状況が変わったのは、次のミサキの一言からである。

 

「仕方がないですわね、とりあえず脱ぎますわ」

 

(何っ!?)

 

 その言葉を聞いた闇風は、二人に見つからないように慎重に顔を覗かせ、

単眼鏡でその声が聞こえた方向を見た。

 

(ミサキさんは元々露出の激しい装備をしていたはず。そこから脱ぐという事は……!?)

 

 そしてビルの陰に、一瞬ミサキらしき人影を見た闇風は、

そこに肌色以外の成分を確認出来ず、まさか全裸なのではと驚愕した。

 

(何…………だと…………!?)

 

 しかしそれでも尚、闇風は理性を保っていた。

 

(いやいや、これは明らかに罠だ、

もしかしたら肌色の装備に着替えたのかもしれないじゃないか)

 

 その推測は実は合っていた。さすがに中継されているのに全裸になる事は問題がある。

そんな闇風の心の中を読んだように、ここでミサキが言った。

 

「それではこれから……一枚ずつ服を着ていきますわ」

 

(何…………だと…………!?)

 

「え、ミサキさん、最初に着るのそこ?」

「ここからじゃないと、危ない部分が隠れてしまいますもの、

どうでもいい部分から着ていかないと、闇風さんに失礼ですわぁ」

 

(まじかよミサキ女神様、俺なんかの為にそこまで気を遣って……

これはもう、見ないなんて失礼な事は出来ねえ……)

 

 そう自分に言い訳をした闇風は、チラリと顔を覗かせた。

そこには肌色のビキニアーマーと呼べる装備に手甲だけを着けたミサキの姿があった。

 

(まじかあああああ!やっぱり肌色装備だったのは残念だが、

俺にとっては十分だぜ!女神はここにいた!)

 

 そしてミサキはビルの陰に隠れるように若干横に移動し、

そのせいで闇風も、思わずぐっと身を乗り出す事となった。

その瞬間にどこかから飛来した銃弾に胸の中心を撃ち抜かれ、闇風はどっとその場に倒れた。

 

「はい、一丁あがり~」

「まあこれだけサービスしてあげたのだから、闇風さんも悔いは無いのではないかしら」

 

 二人はそう言いながら闇風の下に近付いてきた。

地面に倒れ伏した闇風は、最後の力を振り絞って二人に話し掛けた。

 

「おいピト、何で俺が近くにいるって分かったんだ?」

「童貞の気配がしたから?」

「ぐはっっっっ…………」

 

 闇風はその言葉で止めを刺されたのか、ピクリとも動かなくなった。

まだわずかにHPゲージは残っていたが、弾がかすっだだけでも全損するレベルであり、

二人に銃を向けられた闇風にはもう成すすべはなかった。

そして闇風は、最後にこう言った。

 

「ミサキさん、俺なんかの為に本当にありがとうございました!」

「いえいえ、それじゃあせめて私の手でイかせてあげますわ」

「感謝します!」

 

 そしてミサキは闇風に止めを刺し、闇風は死体となった。

 

「さて、次は…………」

 

 そう言いながら振り向いたミサキの目が驚愕に見開かれ、

それを見たピトフーイは咄嗟にその場に伏せた。

その瞬間にミサキは蜂の巣になり、その場にドッと倒れた。

闇風にとってはラッキーな事に、ミサキは闇風と重なるように倒れ、

闇風は大会終了までヘヴン状態に置かれる事となった。

 

「行くわよ」

 

 その『男の』声を聞いたピトフーイは、反射的に鬼哭を抜き、振り返った。

 

「くっ……」

 

 その瞬間に自らの目の前に黒い刀身が見え、

ピトフーイは何とかそれを、鬼哭の赤い刃で受け止めた。

 

「ハ、ハチマン……」

 

 その目の前にはアハトレフトを構えたアチマンがいた。

その膂力は凄まじく、STR特化のピトフーイよりも上をいっていた。

それでもピトフーイは意地を見せ、何とかその刃を撥ね返すと、

数メートルほど後ろに跳び退った。

 

「へぇ……」

 

 その動きを見たアチマンは、感心したように言った。

 

「やるじゃない、さすがはシャナの仲間ね」

「その口調……中身は女の子なんだ」

「ええそうよ、それじゃあとりあえず死んでもらおうかしら」

「くっ……」

 

 アチマンの攻撃は、速さと重さがピトフーイの上をいっており、

ピトフーイは一瞬で防戦一方に追い込まれた。

 

「これはシャナの命令?」

「ええ、あなた達を守る為にね」

「ど、どういう事?」

「万が一を避ける為にも、大切な仲間を死銃に撃たせる訳にはいかないからよ、

ちなみに今はどこからログインを?」

「じ、自宅だけど」

「セキュリティは?」

「それは万全」

 

 アチマンはピトフーイの顔をじっと見つめ、頷きながら言った。

 

「そう……でも一応念の為、ここで死んでもらえないかしら、

この大会はもう駄目よ、多分ゴシップの種にされる。

詳しい説明は大会後にシャナがしてくれるわ」

「そういう事なら……でもどうせなら、シャナ自身の手で倒されたいんだけどなぁ」

「ごめんなさい、それじゃあ変わりに私がシャナと交渉して、

大会後にあなたとのデートの約束を取り付けるわ、それでどう?」

「是非それで!むしろありがとう!」

 

 そしてピトフーイは抵抗をやめ、あっさりとアチマンに倒された。


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