ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第420話 合流

 アチマンの戻りを待つ間、シャナはキリトと合流するのに都合のいい場所を探していた。

 

「あのビルが良さそうだが……」

「確かに他から狙撃される恐れも無さそうですね」

「ちょっと上に行ってみるか」

「はい」

 

 確かにそのビルより高い建物はこの小さな街には無く、待ち合わせには最適だと思われた。

 

「よし、下の様子を伺いつつここで待機だ」

「分かりました」

 

 幸いほとんど待つ事も無くキリトとシノンが姿を現し、二人を銃士Xが迎えに行った。

そしてついに、シャナとキリトは再会する事となった。

 

「おい」

「お、おう」

「おうじゃないよ、秘密主義もいい加減にしろ!」

「すまん」

「それじゃあ情報の刷り合わせをするか」

「おう」

 

 そんな二人にシノンがたまらず突っ込んだ。

 

「え、追求も謝罪もそれだけ?」

「ん、何かおかしいか?」

「こんなもんだろ?」

「そ、そう……」

 

 シノンは呆れた顔をすると、この二人にはこれが普通なのだろうと思い、

それ以上二人に突っ込むのをやめた。

 

「俺達の目の前でギャレットが殺された」

「こっちはペイルライダーだ、使われたのは筋弛緩剤のスキサメトニウム。

それとステルベンの奴、姿を消すマントを持ってやがるぞ、まんまと出し抜かれたわ」

「姿を隠すマント?それじゃあもしかして死銃がプレイヤーの住所を知った手段って……」

 

 そのシノンの言葉にシャナは頷いた。

 

「十中八九、BoBの申し込みの時に後ろから覗き見たんだろうな、

単純だが確かに効果的な手口だ」

「……もしかして私の住所も前回のBoBの申し込みの時に見られてた?」

「いや、それは無い。あの時は俺が完璧にガードしていたからな」

「そう……」

 

 シノンは浮かない顔でそう言った。

それを訝しく思ったシャナがその事をシノンに尋ねようとした時、

先にキリトがシャナにこう質問してきた。

 

「ところでさっきステルベンって呼んでたよな、すてぃーぶんじゃないのか?」

「それが同じ綴りのドイツ語で、死を表すステルベンって単語があるらしくてな、

多分そっちなんだろうと思ってそう呼ぶ事に決めた」

「いかにもあいつららしいネーミングだな、そういう事なら今後はそう呼ぶ事にするか」

「おう」

「で、どうする?」

 

 キリトはシャナにそう問いかけ、シャナは難しい顔をした。

 

「今アチマンが残りの三人の討伐に向かってるんだよ、

それで首尾よく三人を倒せれば、ここにいる四人は死銃のターゲットにはなりえないから、

当面の安全は確保される事になるんだよな」

「アチマンって、もう一人のハチマンの事か?」

「おう、まあそういうもんだと思ってくれればいい」

「分かった」

 

 シノンは、物分りが良すぎない?と思いつつも何も突っ込まなかった。

 

「ターゲットにはなりえない、か……」

 

 そしてキリトがそう呟いた。

 

「ん、何かあったのか?」

「さっき私が死銃の黒星に狙われたのよ、シャナ」

 

 キリトの代わりにシノンがシャナにそう説明をした。

 

「…………何だと?浮かない顔はそのせいか」

 

 シャナはその予想外の言葉に面食らった。

 

「キリト、お前、安全な場所からログインしてるよな?」

「ああ、俺は問題ないよ」

「俺もだ、何せゴドフリーがガードしてくれてるからな」

「ゴドフリーが?それなら安心だな、今度俺にも会わせてくれよ」

「ああ、分かった」

「このマックスも、家のセキュリティはかなり固いらしい、シノンもだよな?

それにお前の家にはあいつもいるしな」

「え、ええ、そのはずなんだけど……」

 

 シノンは困ったような顔でそう答えた。

確かに不安ではあるが、さりとて自分の体に危険があるとは思えない。

 

「……とりあえず保留だな」

「そうだな……」

「う、うん」

「シャナ、終わったわよ」

 

 丁度その時アチマンがその場に姿を現した。さすがというか、

どうやら話し合いをするならここしかないだろうと思って自力でたどり着いたらしい。

 

「お前、あの三人相手に勝ったのか?」

「肯定したい所だけど、闇風って人が倒された直後に残りの二人に奇襲を掛けて、

そのまま倒したって感じね」

「それでもよくやったな、これであの三人はもう安全だ」

「ええ」

 

 アチマンはピトフーイの事をどう切り出そうかと迷ったが、

結局全てが終わった後に強引に頼む事に決めたようだ。

そしてシャナとアチマンの会話が終わった頃合いを見て、キリトがシャナにこう尋ねた。

 

「なぁシャナ、そっちはコンバートしたハチマンなんだろ?

中身は誰なんだ?俺の知ってる奴か?」

「秘密よ、でも私はいずれ必ずあなたと戦う事になるから、

その時まで楽しみに待ってて頂戴」

「ほう……っていうか女の子だったのか!」

 

 キリトは驚いたようにそう言った後、ニヤリとした。

 

「それならその時を楽しみに待ってるよ、謎の戦士Xさん」

「ええ、その時までには必ずあなたと戦えるくらいの戦士になってみせるわ」

「おう、頑張ってくれ」

 

 そのやり取りの間にシャナも方針を決めたらしく、五人は今後の事について相談を始めた。

 

「よし……決めたぞ」

「どうするんだ?」

「先ずシノン、マックス、服を脱げ」

「…………えっ?」

「分かりました」

「ちょ、ちょっとイクス!」

 

 シノンは焦ったようにいきなり装備を脱ぎ始めた銃士Xを止めた。

 

「何?」

「何でいきなり脱ごうとするのよ!文句くらい言いなさいよ!」

「シャナ様は別にエロキャラじゃない、そう言うからには必ず理由があるはず」

「それはそうかもだけど……」

 

 そしてシノンは困ったようにチラリとシャナの方を見た。シャナは頷き、銃士Xに言った。

 

「お前もお前で俺を信頼しすぎだ、あと人の話は最後まで聞けよ、

マックスとシノンには装備を交換してもらう。

そしてマックスには隣のビルに移ってもらい、ステルベンを誘い出す囮になってもらう。

これでシノンがあいつに撃たれる可能性は無くなる」

「姿の見えない相手をおびき出すって作戦か」

「私はどうするの?」

「シノンはこのままここで待機だ、可能なら死銃を狙撃しちまえばいい。

ついでにお前には護衛を付ける」

「それは私の役目ね」

 

 察しのいいアチマンが、即座にそう言った。

 

「俺とキリトはこのビルの周囲を警戒だ。まああいつは俺達を避けて、

姿を消したままシノンの所へ向かうだろうけどな。

そうなったらこっちのもんだ、死銃……ステルベンを囲んで確実に仕留める。

この大会は回線を抜かない限りそのままログアウト出来ないからな、

おそらくジョニーブラックは別行動をとっているはずだろうし、

あいつはログアウト出来ないだろうから、そのままここで足止めする。

それなりに時間を稼げばあとは菊岡さんが何とかしてくれるだろう」

 

 そのシャナの言葉に四人は頷いた。

 

「悪いなマックス、お前に一番危険な役目を頼む事になる」

 

 シャナは銃士Xにそう言い、銃士Xは首を振った。

 

「いいえシャナ様、私は以前交わした約束の条件をこの役目をこなす事に変えて頂ければ、

特にその事で不満はありません。それなら私に不利益は無いですから」

「約束?ああ、あれか……分かった、それでいい」

「やった、今回もマックス大勝利!」

 

 突然態度を変え、そう言った銃士Xを見て、シノンはピンときたのだろう、

上目遣いでシャナを見ながら言った。

 

「わ、私もそれで……」

「え、やだよ、お前には最初から何もリスクは無いじゃないかよ、

死銃を倒した後に残った奴らで優勝者を決めればいいんだし」

 

 シャナはそう即答したが、シノンは尚も食い下がった。

 

「そ、それはそうだけど……じ、じゃあこうしましょう、

私がもし優勝したら、イクスと同じ権利を私に頂戴」

 

 シャナは、どうやらシノンは引く気は無いようだと思い、仕方なく頷いた。

 

「…………はぁ、分かった、それでいい」

「やった」

 

 シノンは控えめにそう言い、小さくガッツポーズをした。

 

「話は纏まったか?それじゃあ早速始めようぜ」

 

 キリトは特に何も突っ込む事は無く、淡々とそう言った。

八幡絡みのこんな光景はもう慣れっこのようだ。

そしてシノンと銃士Xは装備を交換した。もちろんシャナとキリトは後ろを向いている。

 

「…………ねぇイクス」

「何?」

「このスカート、ちょっと短くない?」

「シャナ様にパンツを見られる可能性が上がる事に何の不満が?」

 

 その言葉にシノンは、銃士Xはこういう子だったと諦めにも似た気持ちを抱いた。

 

「…………まあいいわ」

「どうせシノンはいつも生足をさらしているのだから、

そこにパンツが加わるくらいどうという事は無い」

「…………そうね」

 

 銃士Xとそれなりに交流を深めてきたシノンは、

どうやら何を言っても無駄だという事をちゃんと学んでいたらしい。

シノンはそれ以上何も言わず、シャナに言った。

 

「準備オーケーよ」

「それじゃあ最後にスキャンへの対応を説明する。

先ずシノンは隣のビルの一階で待機、これはスキャンではどの高さにいるかは分からない為、

スキャン後の移動を早くする為の措置だ。

そして他の者は出来るだけビルから離れ、シノンが一人だという事をアピールする。

スキャンが終わったら他の者は急いでさっき説明した配置についてくれ」

「了解」

 

 キリトは先んじて下におりていった。次のスキャンまでに、

なるべく遠くに離れるつもりなのだろう。

 

「あ、それとマックス」

「はい」

「M82はお前が持っていろ、屋上から顔を覗かせてチラチラとそれをアピールすれば、

その程度の露出ならM82がヘカートIIに見えるだろうし、より信憑性が増すだろう」

「そうですね、それではお借りします」

「頭には帽子を被っておけよ、髪の色でバレちまうからな」

「分かりました」

 

 そして各自が配置に向かう中、シャナは何となくシノンに尋ねた。

 

「そういえば今回、シュピーゲルは出てないんだな、何か聞いてるか?」

「うん、用事があるんだって。

でもシャナがシュピーゲルの事を気にするなんて一体どうしたの?」

「いやな、ゼクシードの奴が妙にシュピーゲルの事を気にしてたんでな、

一緒に頑張ろうって約束したのにあいつはどうしたんだ、だとさ」

「へぇ、ゼクシードがそんな事を?」

「ああ、何度か話した後、一緒にBoBに参加申し込みをしたせいで、

シュピーゲルの事が気に入ったみたいだな、珍しい組み合わせだけどな」

「えっ?」

 

 その言葉にシノンが訝しげな顔をした為、シャナは何だろうと思いシノンに尋ねた。

 

「どうかしたのか?」

「あれ?おかしいな、シュピーゲルは、『用事があるから最初から申し込みをしてない』

って言ってたんだけど……」

「そうなのか?ふむ……とりあえずその話は後だ、とりあえずスキャンが近いから、

先に配置についちまおう」

「そうね、気をつけてね、シャナ」

「お前もドジるなよ、シノン」

 

 こうして次のスキャンを合図に、最後の作戦が開始された。


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