ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第426話 新川昌一

「くっ、見つからない……」

「フェイリスさん、他に心当たりは?」

「うちの持ってる最新地図と照らし合わせたけど、

さすがはソレイユが調べただけの事はあって、漏れている店は無かったのニャ……」

「そう……どういう事なのかしら」

「捜索範囲がズレている可能性は無いのか?」

「その辺りもキッチリダル君に確認してもらったわ」

「そうか、ダルの仕事なら間違い無いな」

 

 メイクイーン・ニャンニャンに残って指揮をとっていた、

ロザリア、フェイリス、紅莉栖、凶真、まゆりの五人は、

地図を睨みながらそんな会話を交わしていた。

当初は直ぐに見つかると思っていた赤目のザザこと新川昌一の姿が、

どこにも見当たらなかった為であった。

 

「店の人が匿っている可能性は?」

「そんな事をしたら、もうこのアキバで商売は出来ないと、

どの店の人も分かっているはずニャ」

「確かに秋葉家の名前を出されたらそうなるわよね」

「可能性としては、フェイリスさんも把握していないような、

アングラな店の存在なんだけど……」

「オカリン、何か心当たりは無い?」

「う~~~~~~む………」

 

 だがいくら考えても答えは出ず、時間だけがどんどん過ぎていった。

 

「こうなったら裏社会の人間にコンタクトを取るしか無いのかもしれないニャ」

「フェイリスさん、そんな人間に心当たりがあるの?」

「もちろん無いニャ」

「あっ」

 

 その時まゆりが何か思い出したように凶真の顔を見た。

 

「ねぇねぇオカリン、ダル君ならそういう店、知ってるんじゃないかな?」

「ダルが?ああ……確かにあいつはある意味裏社会の人間と言えるかもしれないが……」

「でも今捜索してる店をチョイスしたのも橋田なんでしょ?

それならそういう店もリストにあるんじゃない?」

「一応ダルにゃんに確認してみるのニャ」

 

 フェイリスはそう言ってダルに連絡をとった。

 

「ダルにゃん、ちょっと確認したい事があるんだけど……」

「ん、フェイリスたん、どしたん?」

「それがね……」

 

 ダルは、ソレイユのほとんどの社員を動員したローラー作戦によって、

簡単に犯人が発見されると考えていたらしく、未だ何も成果の無い状況に少し驚いていた。

 

「それマジなん?それじゃあまさかあそこか……?いや、でもなぁ……」

「何か心当たりがあるのニャ?」

「いや、それはその……」

「歯切れが悪いニャね、フェイリスに隠し事をするとか万死に値するのニャ、

もうダルにゃんを、メイクイーンへの永久出入り禁止にするしかないのニャ!」

「ちょ、ま、待ってフェイリスたん、今話すから」

 

 そしてダルは、フェイリスに言いづらかった理由を説明した。

 

「えっと、秋葉原の裏通りのオフィス街近くにとあるビルがあるんだけど、

その七階にはいくつかの店舗があって、その内の一つが多分怪しいんだけど、

実はその店の隣に、僕が裏の仕事をする時にたまに部屋を借りている店があるんだお、

だからその店に迷惑を掛けるような事はちょっと避けたいなと、

具体的には警察に目を付けられるような?」

「ちなみにその店の名前は何というニャ?」

「コスプレメディア@秋葉原店だお」

「で、犯人がいそうな店の名前は?」

「花びらビデオ企画だお、そこは客の素性の詮索は絶対にしない店で、

そこにフルダイブ用の高品質なネット環境があるんだお」

「花びらビデオ企画……」

 

 その名前にフェイリスは思うところがあったのか、冷たい声でダルに言った。

 

「それってもしかして、非合法の風俗店じゃないのかニャ?」

「そういうのを取り締まる法は整備されてないから、まだ違法じゃないお。

ザ・シードは当然そっち方面にも応用がきく訳で、

自社で開発したゲームを使って特殊なエロサービスを提供してるのがその店なんだお」

「いつの間にそんな物が……」

 

 フェイリスは呆れたようにそう言い、

ダルを待たせたまま他の者達にその店の事を説明した。

 

「この際背に腹は代えられないでしょう、取り締まるのは違法になってからでいいとして、

とりあえず警察の手が入らないように、ここにいるメンバーだけで踏み込みましょう」

「逆に警察に通報されたりしないかニャ?」

「そんな自殺まがいの事はしないと思うわ。それに実弾もあるしね」

「実弾?」

「これよ」

 

 そういって薔薇がチラリと見せたのは、札束だった。

 

「うおっ……それ、いくらあるんだ?」

「三百万くらいかしら、ボスから好きに使っていいと言われているわ」

「さすがは女傑と名高いソレイユの女社長……」

「これで店員の顔を引っぱたいて協力させる。

さすがに相手も武器の類は持っていないでしょうから、多分それで何とかなるでしょう」

「分かったニャ、その線でダルにゃんに情報を提供させるニャ」

 

 そしてフェイリスは、尚も渋るダルから、半ば脅すように情報を得て、

一同はそのまま街へと出動する事となった。

ちなみにまゆりだけは、凶真の希望で連絡役としてその場に残される事になった。

それはまゆりがまだ高校生だからであったが、同じくらいの年齢ながら、

フェイリスは案内に必要だからという理由で、

そして紅莉栖は大学生だからという理由で同行する事となった。

 

 

 

「このビルの七階ニャね」

「こうして見るとそこまで怪しい雰囲気のビルじゃないのね」

「まあ多分、中は普通じゃないだろうな」

「それじゃあ行きましょう」

 

 そして四人はエレベーターに乗り、ビルの七階へと到着した。

そこにはただの通路の左右に鉄のドアがあるだけという、

店と呼ぶにはあまり相応しくない光景が広がっていた。

その表札に書いてある名前は、『有限会社、霊神の水滴』とか、

『宇宙電波受信機販売』などという、怪しさ満点の店ばかりであり、

フェイリスと凶真は興奮を隠せないようだったが、

そんな二人をなだめつつ、薔薇は緊張しながら目的の店へと向かっていった。

 

「ここね……」

 

 正面のドアには、ダルが言っていた『コスプレメディア@秋葉原店』があり、

その手前の右のドアに、『花びらビデオ企画』の表札がかかっていた。

そして凶真は懐から何かを取り出し、薔薇に声を掛けた。

 

「何かあっても俺がここで必ず敵を食い止める、店員との交渉は任せる」

「岡部、もしかしてそれって……」

「ああ、未来ガジェット六号機、サイリウムセーバーだ」

「………それ、本当に役にたつの?」

「任せろ、鳳凰院流剣術の前に敵はいない」

「……………………………………………………まあいいけど」

 

 そして三人は、『花びらビデオ企画』のドアを開けた。

 

「いらっしゃいま………むぐっ」

 

 普通に応対しようとし、それが女性の三人連れだと分かった瞬間、

店員は笑顔を硬直させ、何か言おうとしたのだが、

その機先を制してフェイリスがその店員の口を塞いだ。

 

「私は秋葉家の者よ、騒いだらもうこのアキバでは商売をさせない、

でも静かにしていてくれればこの店に迷惑を掛けるような事はしない。

とりあえず話を聞いてもらえないかな?」

 

 よく見ると、いつの間にかフェイリスは猫耳カチューシャを外していた。

猫耳メイドのフェイリス・ニャンニャンではなく、

秋葉原の顔役である秋葉家の当主たる、秋葉留未穂がそこにいた。

店員はどうやら根っからのアキバの住人らしく、秋葉家の事は知っていたのだろう、

そのまま留未穂にコクコクと頷いた。次に交渉役の薔薇が前へ出た。

 

「私はソレイユの社長秘書をしております、薔薇と申します。

実は協力して頂きたい事があり、本日はこちらにお伺いしました」

「あ、これはご丁寧に……」

 

 アキバでこういった対応をされる事は少ないのか、

店員は薔薇に対してペコペコと頭を下げながらそう答えた。

 

「先ずはこの写真を」

「あ、はい……」

 

 その写真を見た瞬間に、店員は一瞬チラリと店の奥に視線を走らせた。

もちろんその視線を見逃す薔薇ではない。

 

「今日この人が、客としてこちらに来ていませんか?」

「いえ、こういった方は来ていませんが……」

「本当に?」

「ええ、もちろんです」

「ではこれを」

 

 薔薇はそう言うと、持ってきた三百万を全部机の上に置いた。

 

「えっ、いきなり全部?これってどうなの?」

「普通は上乗せしていくものだと思うけど……」

 

 留未穂と紅莉栖はそれを見て、ひそひそとそう囁きあった。

 

「こ、これは?」

「協力してもらえたら、これをあなたに進呈します」

「で、でも……」

「ではこうしましょう」

 

 そして薔薇は、札束を一つ懐にしまった。

 

「えっ?」

「協力してもらえないようですので、先ず札束を一つ、こちらで回収します。

つまり私があなたに与えるチャンスは残り二回です。

こちらとしても、ご迷惑をおかけする自覚はあるので最初にあの額を提示しましたが、

それはそちらの協力あっての事、ご協力頂けないようでしたら差し上げる義理はありません」

「そ、それは……」

「これでも駄目ですか、それじゃあもう一つ回収します」

「あっ……」

 

 店員はそれを見て、激しく葛藤しているようだった。

 

「こういう事だったんだ……」

「伊達にソレイユのトップの側近をやっている訳じゃないって事ね」

 

 二人はそう囁き合いながら、店員がまもなく陥落すると確信していた。

その考え通り、薔薇がため息をつきながら最後の札束に手を伸ばそうとした瞬間、

店員が慌ててその手を掴んだ。

 

「ま、待ってくれ」

「……協力して頂けると?」

「ああ、だからその手を引っ込めてくれ」

「分かりました、このお金には領収書は必要ありませんから、どうぞご自由にお納め下さい」

「わ、分かった」

 

 そして店員は、ほくほくした顔でその札束を懐に収めた。

 

「で、この人ですが……」

「うん、あそこだよ、あの十番ブースにいる。中から鍵がかかっているかもしれないから、

こっそりと鍵を渡しておく。可能な限り静かに事を収めてもらえると助かる」

「努力します」

 

 そして店員が心配そうに見守る中、薔薇達三人は、緊張しながらそのブースへと向かった。

そして三人は頷き合うと、そっとそのブースのドアに手を掛け、

鍵がかかっているか確認する為、慎重にドアノブを回し始めた。

 

「あれ……」

 

 予想に反してドアノブはあっさりと回り、そっと中を覗きこんだ薔薇が首を振った。

中には誰もいなかったのだ。薔薇は店員を睨んだが、店員は焦った顔で首を振るだけだった。

 

「どういう事……?」

 

 その瞬間に奥から人影が飛び出し、薔薇達の横を走り抜けた。

ゲームの中では顔を隠していた為、その素顔を見た事は無かったが、

薔薇は今は、それが誰なのかを提供された写真で知っていた。

 

「新川昌一、いえ、赤目のザザ!」

 

 そう呼びかけられた昌一は、一瞬振り向いて薔薇の顔をまじまじと見つめると、

鼻で笑いながら薔薇に言った。

 

「…………ロザリア、お前やっぱりハチマンの犬に成り下がったのか?」

「いいえ、成り上がったのよ、悪い?」

「いや、お前らしいよ」

 

 そんな昌一から発せられるプレッシャーに、薔薇は昔の恐怖の記憶が蘇ったのか、

一瞬ひるんでしまった。そんな薔薇を留未穂と紅莉栖が叱咤した。

 

「薔薇さん、ここはもうSAOじゃないわよ」

「仲間を信じて!」

「チッ」

 

 昌一は、女三人が相手とはいえ、ここは分が悪いと考えたのか、

そのまま一目散にドアの外へと飛び出して行った。その瞬間に、凶真の声がこちらに届いた。

 

「くらえ、鳳凰院流剣術、鮮血吹雪!」

 

 

 

 昌一はキリトとの戦いに負け、呆然としていた。

キリトには仲間がいた為仕方ないが、それでも昌一はキリトに勝つつもりだったのだ。

そして気が付いた時には大会は終わっており、昌一もGGOからログアウトしていた。

 

「そうか……俺は負けたのか」

 

 昌一はそう呟き、そのまま起き上がる事も出来ず、じっと天井を見つめていた。

 

(結局俺はあいつには勝てないのか……)

 

 そんな敗北感が昌一を襲っており、昌一は自分にもこんな一面があったのかと、

少し驚きながらも自覚した。

 

(…………まあいい、とりあえずジョーと合流して再起を目指せばいいさ、

いずれヘッドが何か事件を起こしてくれるはずだ、その時まで逃げきれればそれでいい)

 

 昌一はそう考えながら外に出ようとしたが、

生理現象には勝てなかったのだろう、そのままトイレへと向かった。

そしてトイレを出ようとした昌一は、入り口に三人の女性がいる事に気が付いた。

 

(ん、あれは……)

 

 その先頭にいる女性に、昌一は見覚えがあった。あれは確か……

 

(随分印象が変わっているが、まさかロザリア……か?)

 

 十狼の中にその名があった事で、昌一はSAOのロザリアが、

今はシャナ=ハチマンの一味だと認識していた。

 

(やはり十狼のロザリアが、あのロザリアだという推測は正しかったようだな。

どうやってここの事を突き止めたのかは分からないが、さてどうするか)

 

 こうなった以上、細かな荷物は諦めるしかない。

幸い手持ちの資産は全て現金化して、駅のコインロッカーに預けてある。

この場はこのまま強引に逃げるのが最良の手だろう、

そう思った昌一は、コインロッカーの鍵を握り締めると、

そのままその三人の女性の横を走り抜け、この場を脱出しようとした。

ロザリアの言葉に足を止めたのはただの気まぐれだった。

まさかロザリアが自分の素顔を知っている訳は無いと思っていた為、

その事を知っていたロザリアの黒幕としてハチマンの顔を思い浮かべ、

それに対して皮肉の一言も言ってやりたいと思っただけだった。

そして昌一はロザリアを怯ませ、まんまと店の外へと脱出した。

後は一目散に階段を駆け下りるか、エレベーターを占拠してしまえばいい、

そう思った昌一の耳に、聞き覚えの無い男の声が聞こえた。

 

「くらえ、鳳凰院流剣術、鮮血吹雪!」

 

 その瞬間に昌一は顔に何かを掛けられ、視界が暗転した。

 

「くっ、何だ?」

「我と我がサイリウムセーバーの力、思い知ったか!」

 

 昌一は慌てて顔を服の袖で拭った。幸い視界は直ぐに確保されたが、

その服の袖はべったりと血に塗れており、昌一はギョッとした。

その瞬間に、昌一の体に何かが巻きついた。

 

「ここからは絶対に逃がさないわよ!」

 

 昌一の体に巻きついたのは、ロザリアが手に持つムチだった。

 

「ロザリア、てめえ、殺すぞ」

「凄んでも無駄よ、あんたよりも本気で怒った八幡の方が何倍も怖いもの!

更に言うならうちのボスの方がもっと怖い!」

「はっ、ボスってのが誰の事かは知らねえが、

すっかり飼い慣らされちまったみたいだな、牛女」

「黙れ童貞!あんたはこんなに大きな胸を持ったいい女には一生縁が無いくせに、

自分は経験済ですからみたいな虚勢を張ってるんじゃないわよ!」

「「おお~!」」

 

 その薔薇の言葉に留未穂と紅莉栖は拍手をした。

凶真は少し気まずそうにしていたが、紅莉栖に促され、

体を拘束された昌一の手にオモチャの手錠をはめた。中々準備がいい。

 

「オモチャの手錠だけど、もう手も足も出ないわよね?今回は私と八幡の勝ちよ」

「…………チッ」

 

 さすがの昌一も、こうなってはどうする事も出来なかった。

そして薔薇の連絡で、ソレイユの社員の中でも体格のいい者達が集められ、

その者達を残して残りの社員達は解散する事となった。

社員達の表情は、何かをやりとげたという、満足感のあるものであった。

更にこの後ソレイユ本社内で大宴会が開かれるようで、

社員達は勝どきをあげながら、整然と本社へと帰っていった。

 

「………何なんだよあいつらは」

 

 そんな社員達を見て、昌一はぽつりとそう呟いた。

 

「あれは八幡の忠実な部下達よ、もうあんたと彼の差は計り知れないわね」

「チッ、だからあいつと関わるのは嫌だったんだ」

「ふふん、私のご主人様の凄さに恐れ慄きなさい」

 

 薔薇はそう言いながらその大きな胸を張った。

昌一は不快そうにその胸から目を逸らしたが、その視界に見覚えのある人影が映り、

その人物と目が合った昌一は、まだしっかり手に握っていた鍵をこっそりと下に落とし、

いかにも悔しそうなフリをして地面と一緒にその鍵を蹴った。

そしてその鍵はその人物の近くに飛び、その人物はさりげなくその鍵を拾った。

そしてその人物~金本敦は、一度も振り返る事なくそのままどこかへ去っていった。

こうして昌一の分の逃亡資金までも手に入れたせいか、

敦はまんまと警察の手から逃げおおせ、その行方はこの後まったく掴む事は出来なかった。

この後昌一は、菊岡の部下によって回収され、そのまま警察の手に引き渡される事となった




補足

 未来ガジェット
  岡部倫太郎率いるサークル、未来ガジェット研究所で作られた製品。
  まったく役に立たない事が多い。

 サイリウムセーバー
  サイリウムに剣の柄を付け、中に仕込んだ血糊を発光させるという意欲作。
  当然血糊が飛び散るので、使用の際は注意が必要である。
  ちなみに鳳凰院流剣術、鮮血吹雪はその血糊を相手に飛ばす技である。

 とあるビル内にある店の数々
  出典は小説版シュタインズ・ゲート『永劫回帰のパンドラ』第六章より。
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