ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第433話 優里奈、誘われる

「キット、香蓮の家の場所は分かるか?」

『はい、一度行った事があるので大丈夫です』

「すまん、そこに急行してくれ」

『分かりました』

 

 そしてキットはスピードを上げ、八幡は焦ったような顔でじっと前を見つめていた。

それは先日の事件の影響もあったのだが、その事を知らない優里奈は、

何故八幡がそこまで神経質な様子を見せるのか、理解出来なかった。

ただ一つ分かるのは、八幡が友達もしくは彼女の身を案じているという事だけであり、

優里奈は心配しつつも、何となく心が温かくなるのを感じていた。

 

 

 

『着きました』

 

 キットがそう言うよりも早く、八幡はキットから飛び出し、

見覚えのあるマンションへと向かって走り出していた。

優里奈も慌ててそれに続き、八幡は香蓮の部屋の番号のボタンを押し、

反応が無いと見るや否や、管理人室へと駆け込んだ。

そして管理人を伴い、香蓮の部屋に向かった八幡は、

部屋の鍵を開けてもらうや否や、一目散に室内へと駆け込んだ。

 

「香蓮、おい、香蓮、無事か?何があった!」

「は、八幡………くん?」

 

 洗面所の方からそんな声が聞こえ、八幡はそちらへと向かった。

そこにはどうやら吐いていたのだろう、香蓮の姿があり、

八幡は香蓮を抱きしめ、必死に呼びかけた。

 

「どうした?大丈夫か?」

「ご、ごめんなさい、大丈夫、大丈夫だから……」

 

 八幡は、そう弱々しく呟く香蓮の顔を綺麗にした後、

そのまま香蓮を抱き上げ、ベッドへと運んだ。

そして香蓮を横たわらせた後、とりあえずその場を優里奈に任せ、

管理人に向かってお礼を言った。

 

「どうやらちょっと体調を悪くしてしまったみたいなんですが、もう大丈夫みたいです、

ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

 

 そして管理人は、笑顔で八幡に言った。

 

「いいよいいよ、彼女さんかい?大事にしてあげるんだよ」

「あっ、どうも」

 

 八幡はここでわざわざ否定するのもアレだと思い、空気を呼んで曖昧にそう答えた。

そして管理人が去った後、香蓮の所に戻った八幡は、心配そうに香蓮の顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫か?香蓮」

 

 その問いに、香蓮は頬を赤らめながら質問を返した。

 

「あ、えっと、八幡君は何でここに?」

「美優から電話があったんだよ、香蓮がいきなりALOから強制切断されて、

その後もまったく連絡がとれないってな。それで慌てて様子を見に来たって訳だ」

「あ、そうだったんだ……わざわざ来てもらっちゃってごめんなさい」

 

 香蓮はそう言いながら、慌ててタオルケットで自分の体を隠した。

それを見た八幡は、心配そうに言った。

 

「どうした?具合でも悪いのか?」

「あ、ううん、えっと……ほら、私今こんな格好だから」

「こんな格好?」

 

 そう言われて八幡は、先ほど運んだ時の香蓮の格好を思い出した。

香蓮は今、タンクトップにショートパンツという、

いかにも自宅でのんびりしていますといった格好をしており、

それを思い出した八幡は、慌てて部屋を飛び出した。

 

「悪い、おい優里奈、ちょっと香蓮の事を頼んだ」

「あ、はい」

 

 そして部屋に残された香蓮と優里奈は、顔を見合わせて笑った。

 

「八幡君、ちょっと待っててね」

 

 八幡にそう声を掛けた後、香蓮は露出の少なめな服装に着替え、

それを見ていた優里奈は、感嘆したように言った。

 

「うわぁ、凄くスタイルがいいですね、いいなぁ、背が高いって憧れちゃう」

「私にとってはコンプレックスでしかないんだけどね、今もひどい目にあった所だし」

 

 香蓮は苦笑しながらそう答え、優里奈はきょとんとした。

 

「ひどい目、ですか?」

「あ、うん、着替えたら八幡君を呼んで、その時に説明するね。で、え~っとあなたは?」

 

 そう言われた優里奈は、自分がまだ自己紹介をしていなかった事に気が付いた。

 

「あっとすみません、私は櫛稲田優里奈です、今は八幡さんの秘書の真似事をしています」

「ああ、あなたが!私は小比類巻香蓮、宜しくね」

 

 そして優里奈は、お決まりのセリフを香蓮に言った。

 

「もしかして、香蓮さんは八幡さんの彼女さんですか?」

「ふひっ」

 

 そう問われた香蓮は、変な声をあげた後、まごまごし始めた。

 

「そ、そうだったらいいなとは思うけど、ほら、私ってこんな見た目だから、

やっぱり八幡君の隣に並ぶとちょっと似合わないかもとか考えちゃって、

会いたいのに会いたくないっていうか、まあ色々とその……ね?」

 

 そう自虐的に言う香蓮の手を取り、優里奈は一気にこうまくしたてた。

 

「香蓮さん、きっと八幡さんは、そういった視点で女性を見ていません、

私のこの胸だって、最初に会った時に視線を感じただけで、

それからは一度もそんな事はありませんでしたから、だから頑張って下さい!」

「えっ?あ、う、うん、ありがと……優里奈ちゃんも頑張って」

「え?別に私は特に頑張るような事は……」

「あ、うん、そう思ってるんだったら今はとりあえずいいかな」

 

 そして香蓮の着替えが終わった所で、優里奈が八幡を呼びにいった。

戻ってきた八幡は、心配そうな顔で、香蓮に一体何があったのか尋ねた。

 

「うん、実はね、えっと、えっと……き、気分転換にいいかなと思って、

ALOを始めてみようかな、なんて思って、美優に色々教えてもらってキャラを作ったの。

それでね、美優がシルフだっていうから、

何も考えずにシルフを選んでプレイをしようとしたら、そしたらそのキャラが……」

 

 そこまでで事情を察したのか、八幡がその説明を受けて言った。

 

「なるほど、凄く背の高いキャラだったと」

「う、うん……」

「そうか、まだ駄目だったか、かなり改善してたように感じてたんだが、俺もまだまだだな」

「そんな事無い!悪いのはきっと私なの、本当にごめんなさい……」

 

 その八幡の言葉に、香蓮は慌ててそう返し、それを更に八幡が否定した。

 

「いや、謝る事じゃないさ、いずれ時間が解決してくれるだろうとはいえ、

いきなりそんなハードモードに叩きこまれたら、そうなるのも仕方ない。

悪いのは全部美優だ、うん、きっとそうに違いない、今度あいつにお仕置きしておくわ。

でもまあ香蓮がALOをプレイしたいのなら俺も嬉しいし、

前から議題にはあがってたんだが、種族変更サービスを本格的に導入出来ないか、

会社で担当者を交えて色々と相談してみるわ」

「う、嬉しい!?……あ、お、おほん、そこまでしてもらうのはちょっと悪いよ…」

 

 香蓮は内心でとても喜びつつも、取り繕ったように咳払いをし、八幡にそう言った。

 

「いや、実は結構要望が多い事案なんで、別に香蓮だけの為じゃないから大丈夫だ」

「そうなんだ」

「おう、だがそれにはちょっと時間がかかるから、

それまで別のゲームである程度キャラを育てておくのはありかもしれないな」

 

 その八幡の言葉に、香蓮は少し戸惑いを見せた。

香蓮がやりたいのは、あくまでも八幡がやっているゲームであって、

VRゲームなら何でもいいという訳ではなかったからだ。

だがいずれ八幡の横に立つ為だと思えば、他のゲームで鍛えておくのはありだ。

そう考えた香蓮は、八幡にこくこくと頷いた。

 

「それじゃあちょっとアミュスフィアを貸してくれ」

「あ、うん」

 

 そして八幡はそれをいきなり頭にかぶった。どうやら何かをしているらしい。

そして少しした後、八幡はアミュスフィアを外し、香蓮に言った。

 

「いくつかメジャーなゲームをピックアップして、

コンバート候補リストを作成しておいたから、色々と試してみるといい」

「あ、ありがとう、八幡君。それじゃあちょっと試してみるね」

 

 そう言って急いでアミュスフィアを被ろうとした香蓮を、八幡が止めた。

 

「おいおい、具合が悪かったんだろ?大丈夫なのか?」

「もちろん大丈夫だよ!」

 

 実は香蓮は、八幡がかぶっていたアミュスフィアを一刻も早くかぶりたかったのだが、

そんな乙女心は当然八幡には分からなかった。

だが優里奈は、どうやらその香蓮の気持ちを察したようだ。

 

「だがな……」

「大丈夫ですよ八幡さん、香蓮さん、ちょっと耳を……」

 

 突然優里奈がそう言って、何事か香蓮に耳打ちをした。

香蓮はその言葉に目を見張り、勢いよく優里奈に言った。

 

「それなら絶対に大丈夫な気がする、ありがとう、優里奈ちゃん!」

「いえいえ」

「八幡君、絶対に大丈夫だから、だからお願いね!」

「お願い?」

「とりあえず行ってくる!」

「あ、おい」

 

 香蓮は八幡が止める間もなくアミュスフィアをかぶり、コンバート作業を開始した。

そしてそれを見た優里奈が八幡に言った。

 

「八幡さん、ちょっと手を」

「ん?手?」

 

 優里奈はその八幡の手を香蓮の手の上に重ね、その手を握らせた。

 

「…………ええと、これは?」

「絶対に気分が悪くならないお守りです」

「そんな非科学的な……」

 

 八幡がそう言った瞬間、香蓮が一瞬痙攣し、八幡の手を無意識に握った。

八幡は慌てたが、直後に香蓮の呼吸が穏やかなものに戻り、八幡は驚いて優里奈を見つめた。

 

「ほら、効果があったじゃないですか」

「マジだった……おい、これってどんな仕掛けだ?」

 

 そう言われた優里奈は、呆れた顔で八幡に言った。

 

「ええと、それ本気で言ってます?」

「ん?何がだ?」

「…………世話がやけるなぁ、そうですね、要するに生物学的なうんぬんで、

こうなるのは至極当然の帰結なのです」

「なるほど、よく分からん」

「はぁ……」

 

 そしてそれを何度か繰り返した後、香蓮の状態がやや長い時間落ち着いた。

 

「お、どうやら当たりを引いたか?」

「かもしれませんね」

 

 そして香蓮は覚醒し、とても嬉しそうに八幡に言った。

 

「八幡君、あった、あったよ!もうびっくりするくらい私がかわいいの!」

「そうか、良かったな香蓮。で、何てゲームだったんだ?」

「あ、うん、えっと、ガンゲイル・オンラインかな」

 

 それを聞いた八幡は、一瞬固まった後、少し顔をひきつらせながら言った。

 

「あ、あれは確か、銃で殺しあうハードなゲームじゃなかったか……?」

「そうみたいだね、でもあんなキャラに出会えたんだから、そんなのなんでもないよ」

「そ、そうか……」

 

 八幡はそう言うと、突然悩み始めた。

 

「う~む……」

「八幡君どうしたの?」

「お、おう、う~ん………」

「?」

 

 そして八幡は、まあどうせ美優経由で直ぐにバレるのだろうと思い、

シャナの事を香蓮に伝える事にした。

 

「あ~……実はな、俺もGGOをやってるんだよ」

「えっ?そ、そうなの?」

「かなり前から、シャナって名前でな……」

「そうだったんだ!」

 

 その香蓮のとても嬉しそうな顔を見て、八幡は香蓮が楽しくゲームを出来るように、

ある程度の基礎知識だけは教えておいた方がいいだろうと思い、

この場から一緒にGGOにログインする事にした。

 

「それじゃあちょっと触りだけチュートリアルの代わりに説明しておくか、

ちょっとアミュスフィアをキットから取ってくるわ」

「あ、ちょっと待って八幡君、うちの回線だと、三人同時にはきついかも。

多分二人までなら大丈夫だと思うんだけど」

 

 その言葉に、八幡は首を傾げながら言った。

 

「いや、ログインするのは俺一人だぞ、

ちなみにキット経由でログインするから回線については何の問題もないかな」

「え?優里奈ちゃんは?」

「ん、優里奈はGGOはやってないよな?」

「あ、はい」

「でもでも、ここで一人で待たせちゃうのは寂しいじゃない、

ねぇ優里奈ちゃん、もし良かったら、今日だけ私に付き合わない?」

「私がですか?」

「うん、本当にもし良かったら……なんだけど」

 

 その言葉に優里奈は少し考え込んだ後、笑顔でその頼みを快諾した。

 

「分かりました、VRゲームには興味もあったし、お付き合いします!」

「ありがとう!」

 

 そんな二人を見ながら、八幡はとりあえずキットの所に戻り、

アミュスフィアを二つ持ってきた。

 

「こっちは両方ともキット経由で繋ぐから、いつでもいいぞ」

「それじゃあ優里奈ちゃんは私と一緒にベッドで、八幡君は悪いけどソファーでお願い」

「えっ?私がソファーでいいですよ、八幡さんは是非ベッドで」

「駄目に決まってるだろ、な?香蓮」

 

 八幡は即座にそう突っ込んだ。

 

「え?私は別にそれならそれで………あ、う、うん、そうだね、駄目だようん」

 

 香蓮はとても残念そうにそう言った。

 

「それじゃあいつでも準備オッケーだ」

「私も大丈夫」

「私もです」

「ちなみに香蓮のキャラネームは何て言うんだ?」

「レンだよ」

「レンな、了解だ、優里奈はキャラの名前は何にする?」

「名前…………そうですね、ではナユタにします」

 

 こうして香蓮はレン、優里奈はナユタとして、

VRゲームへのデビューを果たす事となったのだった。

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