ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第434話 レン、ナユタ、準備完了!

「ここがGGO……退廃的な感じの街ですね。はい?あっ……」

「だな、こういうのは苦手か?おう、久しぶりだな」

「そうですね……私としては、もう少し和風な雰囲気が好きですね。え?あ……」

 

 シャナとナユタは、レンの到着を待ちながらそんな会話を交わしていた。

 

「なるほどな、ナユタの好みはそっち系か。……悪いな、今日は連れがいるからまた今度な」

「ですね、ところでさっきから、随分話し掛けられているみたいですが……

それも女性ばっかりに……」

「た、たまたまだ、いつもはちゃんと男のプレイヤーも話し掛けてきてくれるぞ」

「本当ですか?」

「おう、本当だ」

 

 レンはスタート地点から多少移動したらしく、まだここにはいない。

 

「というかお前もさっきから、声を掛けられそうになってばかりじゃないか」

「ええ、確かに声を掛けられるんじゃなく、掛けられそうに、ですね」

「まあ俺が一緒にいるんだ、知り合い以外の男がお前に話し掛けるのは成功しないだろうな」

「どれだけ顔が売れてるんですか……」

 

 その言葉通り、先ほどから数多くの男性プレイヤーが、

ナユタに声を掛けようとしてくるのだが、

その全員が、シャナの顔を見た瞬間に回れ右をしているのだった。

 

「まあ色々あったんだよ、色々とな」

「はぁ、色々ですか……」

「しかしさすがにこれはたまらんな、ほれナユタ、これを着ているといい」

 

 そう言ってシャナは、フーデッドケープをナユタに渡した。

 

「ありがとうございます」

 

 そしてシャナも同じ物を取り出し、二人はフードをかぶって顔を隠した。

 

「これで少しは安心ですかね」

「何を言ってるんだお前は、ケープの前を閉じろ前を」

「え?顔がこれだけ隠れてれば平気ですよね」

「いいから閉じろって」

「でも……」

「はぁ……」

 

 そしてシャナは、とても言いづらそうな顔でナユタに言った。

 

「あ~……その胸を隠せって言ってるんだよ、まったくキャラはランダム生成のはずなのに、

何でそんな所ばっかりリアルそのものになるんだ……」

「あ……な、なんかすみません」

「いや、まあナユタのせいじゃないからなぁ……」

 

 そして二人はそのまま沈黙した。正直とてもきまずい雰囲気だった。

その雰囲気を破ったのは、とても小さな見知らぬ少女だった。

その少女は、きょろきょろした後、一目散にナユタの所へと走ってきた。

 

「えっと、もしかしてナユさん?」

「あっ、はい」

「やっぱり!ケープで隠してても隠し切れないその胸は、そうだと思った!」

「あ、あは……」

 

 ナユタは困ったような顔でシャナの方を見たが、

シャナは打つ手無しというようにやれやれというポーズをとった。

そしてレンはシャナの前に行くと、ドヤ顔でシャナの顔を下から覗き込んだ。

 

「じ~~~~っ」

「なぁレン」

「どやぁ!」

「いや………嬉しそうだな」

「うん、まさかシャナさんの顔を下から覗き込める日が来るなんて思ってもいなかったよ!

しかも立ったままでね、うん、立ったままで!」

「二度言うくらい嬉しいんだな……まあいい、とりあえず装備を整えよう」

 

 そしてシャナは、どこかへ連絡した後、二人を鞍馬山のあるビルへと連れていった。

 

 

 

「ここは?」

「会員制のビルだ、中に武器屋がある」

「おお~!」

「何か凄そうですね」

「さあ二人とも、こっちだ」

 

 そして店の中に入った瞬間、三人を待ち構えている者がいた、イコマである。

 

「おうイコマ、悪いな」

「いえいえ、で、こちらのお二人がお知り合いの新人さんですか?」

「おう、こっちの小さいのがレン、こっちがナユタだ」

「レンです!私、とても小さいです!」

 

 レンはそのシャナの言葉に乗り、ことさらに自分の小ささをアピールした。

 

「え?あ、はい、僕はイコマと言います、

レンさんは小さいのに、とても元気いっぱいな方なんですね」

「はい!」

 

 そんなとても嬉しそうなレンの姿を見て、シャナは思わずその頭を撫でた。

レンはとても嬉しそうに、満面の笑顔を見せたが、そのレンの耳元でシャナはこう囁いた。

 

「嬉しいのは分かるが、俺は今のレンも、普段の香蓮もどっちもいいと思ってるからな」

「う、うん」

 

 レンはシャナにそう言われ、思わず頬を赤らめた。

そして次に、ナユタがイコマにおじぎをしながら丁寧な挨拶をした。

 

「ナユタです、宜しくお願いします」

「イコマです、鍛治師をやってます、宜しくお願いします」

 

 こうして二人の挨拶が済んだ所で、シャナは二人に言った。

 

「二人とも、初期状態で千クレジットしか持ってないよな?とりあえず俺が払っておくから、

武器も防具もイコマに強化してもらうし、好きなデザインの物を選ぶといい」

「やったぁ!」

「ありがとうございます、シャナさん」

 

 レンに比べてナユタは大人しめの印象だったのだが、

いざ銃を手に取ると、目を輝かせはじめた。

 

(おや、ナユタもそれなりに銃に興味がありそうだな)

 

 そして二人はしばらく店内をぐるぐるしていたのだが、

最初にレンが、一つの銃の前でピタリと足を止めた。

 

「うわぁ、この銃、かわいい!」

「どれ……なるほど、P90か、確かにかわいいよな、これ」

 

(シズカも同じような理由でこれにしたっぽいしな)

 

 どうやらレンはP90がいたくお気に入りになったようで、

P90を手に取りながら、目をキラキラさせていた。

 

「それにするのか?」

「うん!」

「よし、それじゃあイコマに見た目が変わらないようにちょっと強化してもらおうな」

「分かった!イコマさん、うちのピーちゃんを宜しくお願いします!」

「あ、はい、お預かりします、直ぐにすみますからね」

 

 そしてシャナは、笑顔でレンに言った。

 

「なるほど、ピーちゃんな」

「うん、ピーちゃん!」

「名前を付けるのはいいと思うぞ、その分思い入れが出るからな」

「だよね!」

「でもレン、これだけは覚えておいてくれ、

ピーちゃんを大事にするあまり、自分の命をピーちゃんより下に見ては駄目だぞ、

あくまでもピーちゃんは、戦う為の手段であって、目的じゃないんだからな」

「うん、肝に銘じるよ!」

 

 そしてナユタもどうやらお気に入りの銃を見付けたらしく、

ショーウィンドウの前で足を止めていた。

 

「どうだナユタ……お、F2000か、これにするのか?」

「はい、これって、空薬莢が前に放出されるんですよね?」

「そうなのか?」

「はい、説明にそう書いてあったので」

「なるほど、それでこれを選んだのか?」

「はい、あの、その……これなら胸の大きさも邪魔にならないかなって……」

 

 ナユタは恥ずかしそうにそう言った。

どうやら以前よりは、自分の胸の事をちゃんと気にするようになってくれたらしい。

 

(何かと印象付けてきた甲斐はあったな、

これで学校とかでも、男子連中の目にあまり触れないように気を付けてくれればいいんだが)

 

「それとこれを」

 

 そう言ってナユタが見せてきたのは、ベレッタM92FSだった。

 

「………もしかしてこれ、銃身をロングバレルにしてくれとか言わないよな?」

「何で分かったんですか!?」

「いや、まあ可能だと思うし、お前がそれがいいって言うならそれでいい、イコマ、頼む」

「はい」

 

 そしてシャナはレンの時と同様に、イコマにF2000とベレッタを預けた。

 

「さて、次は防具なんだが……二人はどんなのがいい?」

「私はえっと、これとこれがいいです!」

 

 レンが勢い込んでそう言い、シャナはレンが選んだ防具のうち、帽子を見てこう言った。

 

「ふむ………なぁイコマ、このウサギの耳みたいな部分は何の役にたつんだ?」

「さあ……」

 

 その帽子には、確かにウサギの耳としか形容出来ないものが付いていた。

 

「シャナさん、これがかわいいんじゃないですか!」

「お、おう……それじゃあいっそ、色もピンクとかにしてみるか?」

 

 そのシャナの言葉にレンは目を輝かせた。

 

「ピ、ピンク……是非それで!」

 

 その時イコマが、控え目な態度でシャナに言った。

 

「シ、シャナさん、それだとちょっと目立ちすぎませんか?」

「それな、確かに森林地帯だとそうなんだが、実はこのゲームに多く見られる砂漠地帯だと、

ピンク色ってのは凄く見えにくいんだよ」

「そうなんですか?」

「おう、何でそれが分かったかっていうと、シズカの夜桜の刀身がピンクだろ?

前砂漠で戦ってるのを見た時、あれの刀身がかなり見にくくてな……」

「なるほど、それは盲点でしたね」

「おう、だからレンにも、砂漠地帯での戦闘をメインに行うように教えるつもりだ」

 

 そしてレンがわくわくしながら見守る中、イコマはレンの為に、

防具の強度を上げる加工をしつつ、色を完全なるピンク色へと変えた。

それを着て鏡を見たレンは、ぼ~っとした様子で自分の姿に見とれていた。

 

「うわ……うわぁ……なまらかわいい……」

 

 レンに珍しく北海道弁が出たのをかわいく思い、シャナは何となくレンの頭を撫でた。

 

「レンはそういうかわいいのが好きだったんだな、

普段の服装も、多少そっちに寄せればいいのに」

「で、でもそういうのは私には……」

「似合わないって言いたいのか?」

「う、うん……」

 

 レンは少し寂しそうにそう言った。

 

「お前は他人の目を気にしすぎだ、まあいきなり全身をこんな感じに変えるんじゃなく、

今度ちょっとずつ変えてみるといい、俺はいいと思うぞ」

「ほ、本当に?」

「おう」

「う、うん、考えてみるね」

 

 レンはそう言いながら、恥ずかしそうに下を向いた。

 

「さて、それじゃあ次はナユタの分だ」

 

 シャナは微妙に嫌な予感を覚えながらナユタにそう言った。

 

「それじゃあ私はこれとこれで」

 

 そしてナユタは、いきなり試着モードで自分の選んだ服装に変化した。

その瞬間に、シャナとイコマはナユタから目を逸らした。

 

「予感はしてたんだよ……お前、その服装をどこで知ったんだ?」

「はい、昔兄に見せられてから、銃を使うゲームならこれだなって思ってて」

「却下だ」

 

 シャナはすかさずナユタにそう言った。

 

「えっと……理由を聞いても?」

「言わないと分からないか?」

「えっと……」

 

 そしてそのナユタの選んだ装備を見たレンは、驚きのあまり目を見開いた。

 

「肩とおへそが出たタンクトップにホットパンツ?っていうかナユさん凄っ!」

 

 レンは、ナユタの体の一部をじっと見た後、頬を赤らめながらそう言った。

 

「わ、私が見てもちょっと変な気持ちになるっていうか、刺激が強すぎるよ!」

「だそうだ」

「分かりました、それじゃあ冬服仕様で」

 

 そう言ってナユタは、上を黒いTシャツに変え、その上からジャンパーを羽織り、

下は赤いスカートで、足を完全に隠すように黒のタイツを履き、

靴はロングブーツという格好に早変わりした。

 

「お前、あらかじめ準備してたな、それなら最初からそっちにしろよ……」

「シャナさんに仕返ししようと思って」

「仕返しって何のだよ!」

 

 そしてナユタは、シャナの目を真っ直ぐに見ながらこう言った。

 

「ここまで色々言われれば、私だって自分の胸の事で、

他人に接する時はもっと気をつけないといけないんだって嫌でも分かります、

でもシャナさんは、基本私の胸にまったく興味が無さそうだったじゃないですか、

だから女の子としては、複雑な気分だったんですよ!」

「あ~………まあその理由は、いずれ嫌でも分かるから」

「えっ、何か理由が?」

「おう、まあ俺の後をついてくるうちに、嫌でも分かるだろうよ……」

 

 そのシャナの言葉に、ナユタはとりあえず矛を収める事にしたようだ。

 

「分かりました、今はそれでいいです」

「お、おう、ありがとう?」

「まったくシャナさんって変わった人ですよね」

「お前も相当変わってると思うけどな……」

 

 そしてシャナは、イコマに言った。

 

「という訳で、ナユタはどうやらこの格好に憧れてたらしいんで、

これをさくっと強化してやってくれ。ついでにさっきのベレッタな、

固有名で、ソードカトラスって名前に変えておいてやってくれ……」

「そ、そんな事が出来るんですか?」

「おう……食いつきいいな……」

「当たり前じゃないですか!」

 

 そんなナユタを呆れた目で見ながら、シャナはぼそっとこう言った。

 

「まあGGOを熱心にやる時間はさすがにあまり無いと思うが、

せめてログインした時には、なりきって楽しんでくれ……」

「はい!」

 

 そしてシャナはイコマに何か頼み、イコマは苦笑しながら何か作業をした。

その間、レンとナユタは楽しそうに話していた。

 

「ナユさん、その格好素敵だね」

「レンも、凄くかわいいな」

「うわ、何かなりきってる!この後はいよいよ実戦だね」

「楽しみだぜ……」

 

 そんな二人に、シャナが声を掛けてきた。

 

「よし、それじゃあひと狩り行くか」

「はい!」

「早く行くぞ、シャナ」

「お前もうなりきってんのかよ……」

 

 そして二人は、シャナに案内されてブラックに乗り込んだ。

 

「うわぁ、いかにもそれっぽい!」

「どうだ、いかにも強そうだろ」

「うん!」

「楽しくなってきたな」

「ナユタ、お前意外と好戦的なんだな」

「まあこの街じゃ、みんなそうなっちまうのさ」

 

 その言葉にシャナは盛大に噴き出した。

 

「ぶっ……わ、悪い、よし、それじゃあとりあえず砂漠地帯に出発するか、

モブ狩りをしつつ、他のプレイヤーが来て敵対してくるようだったらそれも殲滅だ」

「はい!」

「おう!」

 

 そして三人は、ブラックに乗って意気揚々と出撃していった。

 

 

 

「ゼクシードさん、復帰おめでとうございます!」

「おう、やっとここに戻ってこれたわ」

「リハビリは順調ですか?」

「まだかなりかかりそうだが、とりあえずGGOをプレイ出来るくらいにはなったかな、

まあこれは、体が動かなくても問題無いからな」

 

 ゼクシードは、久しぶりにGGOの土を踏んだ。

どうやらまだリハビリの必要があるらしいが、経過は概ね順調のようだ。

 

「それにしても、親切な人がいるもんですね、

リハビリ費用とかまで全部出してくれたんですよね?」

「正直お礼を言いたくて、結城先生にもその旨を伝えたんだが、

自分は善意の第三者ですとか言って、ちっとも会ってくれないんだよな……

比企谷っていう人らしいんだけどよ、お前ら何か心当たりは無いか?」

 

 二人はその言葉に、微笑みながらこう答えた。

 

「さあ、ちょっと分からないですね」

「まあいいじゃないですか、きっとそのうち会えますよ」

 

 その二人の言葉に、ゼクシードは目を細めながらこう尋ねてきた。

 

「いつか会えるかな?」

「ええ、きっと」

「そうか、その時はしっかりとお礼を言って、

もしその人に何か頼まれたら、命を掛けてでも恩返しするつもりだ」

 

 その言葉を聞いた二人は、噴き出しそうになるのを堪えながら言った。

「命なんか掛けなくていいってその人は言うと思いますけどね」

「働いて返せ、みたいな」

 

 その二人の言葉にゼクシードはきょとんとした。

 

「ん、二人とも、やっぱり何か知ってるのか?」

「いいえ、何となくそう思っただけですよ」

「ですです、勘ってやつです」

 

 ゼクシードはその言葉にあっさりと頷いた。

 

「そうか、まあいいや、とりあえず久々に狩りにでも行くか」

「はい!」

「どこにします?」

「そうだな……車を借りて、砂漠地帯にでも行くか、

あそこなら開けてるから、奇襲を受ける事も無いだろうし」

「ゼクシードさん、そういうフラグみたいな事を言うのはやめて下さいよ」

「いやいや、あそこで奇襲とかほぼ無いだろ、まあとりあえず行こうぜ」

 

 こうしてゼクシード達も、砂漠地帯へと出撃する事となった。


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