ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第436話 弟子

「いいだろう、その挑戦、受けてたつ」

「はぁ、挑戦だぁ?お前は今回のBoBには出れなかったんだ、

ランキング制度があったら確実に俺の方が上になってるっつ~の!」

「そういう事は、僕に一度でも勝ってから言ってくれ」

「おう、ここでボコボコにしてやるぜ!」

 

 そう言い合う二人を横目に、ユッコとハルカがシャナの下に歩いてきた。

 

「おう」

「久しぶり」

「これってどんな状況?」

「今日は二人の新人にレクチャーに来てたんだが、

さっきたまたま闇風と会ってな、そしたらそこにそっちが来たと、まあそんな感じだ」

「なるほど」

 

 そして二人はレンとナユタに向き直り、自己紹介をした。

 

「私はユッコだよ」

「私はハルカ、宜しくね、新人さん達」

「レンです、宜しくお願いします!」

「ナユタだ、宜しくな!」

「この二人は俺の………あ~、俺達のここでの関係って何だ?」

「こっちに振らないでよ!」

「何だろうねぇ……まあ顔見知りくらいが丁度いいんじゃないかな」

「まあそうか。で、あいつの調子はどんな感じだ?」

 

 シャナはそう、二人にゼクシードの様子を尋ねた。

 

「どうなんだろ、ブランクが結構あるしねぇ」

「リアルに関しては、少なくともかなり戸惑ってるみたい、長い夢を見ていたって感じかな」

「だろうな、あいつが真実を知ったらどうなるか、楽しみだわ」

「そういえば、あんたに色々質問したいって言ってたけど、

あんた、ゼクシードさんと二人きりでは会わないようにしてるんだって?」

「おう、もし何かのはずみでバレたらまずいからな」

「やっぱりそうなんだ」

 

 そしてユッコとハルカは顔を見合わせ、楽しそうに笑った。

 

「まあ私達も、うっかり余計な事を言わないように気を付けるわ」

「おう、頼むわ」

「任せといて」

 

 あの同窓会の時と比べると、八幡と二人との関係は、劇的に改善したと言えよう。

二人もどうやら今くらいの距離感が心地よいらしく、

二人は以前よりは、確実にGGOを楽しむ事が出来ているようだ。

 

「さて、そろそろ始めるか?」

「おう」

「僕はいつでもいいよ」

 

 そのゼクシードの言い方が、少し緊張しているように思えた為、

シャナは少し考えた後にゼクシードにこう言った。

 

「お前、普段は俺のくせに、ちょっと気取りたい時は自分の事を僕って言うよな、

例えばBoB前の対談の時とか」

「なっ……べ、別にいいじゃないか」

「おう、別にいいぞ、ただちょっと面白いって思っただけだからな」

 

 そしてシャナは、ぐぬぬ状態のゼクシードに言った。

 

「どうやら肩の力は抜けたみたいだな」

「え?」

「それじゃあカウントするぞ、二人とも、好きな位置取りをとってくれ」

「おい、シャナ……」

「さっさと動け、行くぞ~、五、四、三、二、一、スタート!」

「くっ……」

「行くぞコラぁ!」

 

 そして二人の戦いが始まった。ゼクシードはブランクをものともせず、

以前と同じレベルのパフォーマンスを繰り広げ、

闇風は闇風で、存分にその機動力を生かし、

ゼクシードの攻撃をかわしながら高速で動き続けていた。

 

「ねぇ、これ、どっちが勝つの?」

「残念ながら闇風だな」

「やっぱりそうなんだ」

「銃のみの戦いって条件なら、今のあいつは俺よりも強いからな」

 

 ハルカの質問に、シャナはあっさりとそう答えた。

 

「前回の戦争でゼクシードに負けてから、

あいつはこの時の為に色々研究してたみたいだからな、

特に対策とかをする余裕の無かったゼクシードには、

今のあいつの相手は荷が重いだろうな」

「なるほどね」

「まあゼクシードさんも実は研究熱心みたいだし、

このままいいライバル関係を続けていく事になるのかな」

「まあ楽しいのが一番だから、いいんじゃないか?」

「うん、今回は本当にありがとうね、シャナさん」

「ありがとう、シャナさん」

 

 二人にそうお礼を言われ、シャナは少し照れた様子で頭をかいた。

そしてシャナは、誤魔化すようにレンに言った。

 

「どうだ?レン、闇風の戦いは」

「あの早さで動きながら敵に攻撃を当てるのって、酔いそう」

 

 その言葉にシャナは意表を突かれ、面白そうに言った。

 

「確かにそうかもしれないな、レンも頑張ってああいうのに慣れるんだぞ」

「うん!」

「さて、そろそろ決着がつきそうだし、戦いを止めるか」

 

 シャナはそう言って立ち上がり、アハトレフトを抜くと、二人の間に向けて突撃した。

そしてシャナは、今まさにゼクシードの急所に銃弾を打ち込もうとしていた闇風の目の前に、

アハトレフトを振り下ろし、闇風は慌てて飛び退った。

 

「うおっ、何で邪魔するんだよシャナ、もう少しだったのに!」

「そこまでだ闇風。どうだ?ゼクシード」

 

 シャナはそう言って、ゼクシードの目をじっと見つめた。

そしてゼクシードはため息を付きながらこう言った。

 

「………僕の負けだ」

「だ、そうだ」

「う?お、おう、それならオーケーだぜ」

 

 そして闇風は、ゼクシードに歩み寄ると、右手を差し出した。

 

「…………何だ?」

「ライバルってのは、戦った後にはこうやって握手をするもんだぜ!」

「ライバルね………」

 

 そしてゼクシードは、あっさりとその手を握り、闇風に言った。

 

「次は負けない」

「おう、今回はさすがに俺に有利すぎるフィールドだったし、

今度は別の場所で、またやろうぜ!」

 

 そこに戦いの様子を見守っていた残りの四人も駆け寄り、

レンとナユタは闇風を、ユッコとハルカはゼクシードを労った。

 

「さすがです、師匠!」

「やるじゃねえか」

「おう、もっと褒めてくれ!」

 

「ゼクシードさん、次は勝ちましょう!」

「百戦して百勝する事なんて無理な訳ですし、大事な戦闘で最後に立っていられるように、

これからも一緒に頑張りましょう!」

「確かにそうだよな」

 

 そしてシャナは、ゼクシードにもレンとナユタの事を紹介する事にした。

 

「ゼクシード、これはレンとナユタ、俺の知り合いで、新人だ」

「レンです、宜しくお願いします!」

「ナユタだ、宜しくな」

「僕はゼクシード、宜しくね」

 

 その気取った言い方に、ユッコとハルカは思わず噴き出した。

ゼクシードは少し顔を赤くしたが、特に何も言う事は無かった。

 

「言っておくがゼクシード、この二人に手を出したらリアルに殺すからな」

「お、おう、分かった……」

 

 ゼクシードは、そのシャナの剣幕に少しびびったのか、素直にそう答えた。

その瞬間シャナが、何かに気付いたように声を上げた。

 

「何か来る、かなりの大人数だ、みんな、隠れろ」

 

 その言葉通り、地平線に砂埃が上がっており、

ゼクシードは慌てて車を廃墟内に停めてあったブラックの隣に移動させ、

シャナは人数分のピンクの布を配り、

全員は先ほどレン達が潜んでいた場所へと移動し、様子を伺った。

 

「なぁ、廃墟内に隠れた方が良くないか?」

「ああいういかにも隠れやすそうな場所よりも、

こういう意外な場所の方が見つからないもんなんだよ、奇襲もかけやすいしな」

「まあ確かにそうか、車に気を取られてくれれば、それ自体が隙になるしな」

 

 そんな会話を交わしつつ、一同は息を潜めてその集団を見つめていた。

 

「あれは……見た感じ、平家軍にいた中堅プレイヤーが多いみたいだが」

「モブ狩りだろうな、まあどこかとカチ合ったらそのままPK集団に変わるんだろう」

「どうする?」

「そうだな……たまには派手にやるか」

「おっ、いいねいいね、そういうの、大好物だぜ!」

「ゼクシードはどうする?元同僚だろ?」

「僕は別に、あの時はお前と戦いたいから平家軍に所属しただけで、

今ここであえてあっちにつく理由がない」

「オーケーだ、まあこの三人がいるんだ、負ける可能性はまったく無いだろ!」

 

 それはまさに、たまたまここに通りかかったこの集団にとっての災厄だった。

シノン辺りは異論はあるだろうが、GGOのトップスリーがここにいるのだ。

 

「ユッコとハルカはレンとナユタと一緒に動いてくれ、二人の事、頼むな」

「うん」

「分かった」

「俺はこの場で狙撃で前衛のサポートをする、

ゼクシードと闇風は、敵のリーダーっぽい連中を狙ってくれ。

残りの四人は、その後ろから敵の残党を殲滅だ、敵の数はこちらの三倍ぽっちだ、

まあそれで問題なく片付くはずだ」

 

 敵はまだ、こちらにはまったく気付いていないようで、

のんびりとモブ狩りの準備をしてる所だった。

 

「行くぞ」

「おう!」

 

 そして闇風とゼクシードの射撃から戦いは幕を上げた。

二人は何度もやりあっている為、お互いの動きをそれなりに把握しており、

息のあった動きで連携する事が出来た。

 

「やるじゃねえか!」

「そっちもな」

 

 何度か被弾しそうになる場面もあったが、それはシャナが狙撃で潰していた。

 

「危ねえ!って、さっすがシャナだぜ、的確な援護をしてくれるぜ」

「だな、俺もまさかこんなに戦闘が楽だなんて、初めての経験だ」

「お、俺が出たか、調子出てきたじゃないかよ、ゼクシード」

「喋ってないで敵を倒す事に集中しろ」

「もちろんだぜ!」

 

 一方奇襲を受けた側は、相手がたった二人で無謀とも言える突撃をしてきたのに、

効果的な反撃が出来ないでいた。有体に言うと、相手の格に飲まれていたのである。

 

「闇風とゼクシードだ!」

「シャナもいるぞ!」

「何であいつらが組んでるんだよ、こんなの勝てる訳がねえ!」

 

 そしてその集団は混乱し、そこにレン達四人からの面での射撃を浴び、

バタバタと倒されていった。

 

「倒さないとこっちの仲間が倒されるだけよ、頑張って」

「冷静さを失わないようにね、弾が切れたら落ち着いてマガジンを交換して」

 

 ユッコとハルカも、さすが場数を踏んでいるだけあり、

初めて人を撃つ事になる二人にそう声を掛けて落ち着かせる事に成功していた。

 

「よし……レン、行け」

 

 突然シャナがレンにそう声を掛け、

レンはその言葉を受け、弾かれるように突撃を開始した。

 

「うおおおおおお!」

「おっ、レン、来たか」

「うん、シャナさんに言われたの!」

「そうか、絶対に足を止めるなよ、俺の動きを思い出せ」

「はい!」

 

 そしてレンは、シャナのサポートを受けつつも、見事に多数の敵を撃ち倒していった。

 

「おいゼクシード、俺達も負けてられないぜ」

「ここまで敵の数が減ったら、むしろ彼女の成長の為に手加減するべきじゃないか?」

「そう言われると確かにそうだな、よし、サポートに徹するか」

 

 こうして三倍の敵を相手に、仲間達は見事な殲滅戦を繰り広げ、

犠牲も無くこの戦闘は終了する事となった。

 

「よくやったな、レン、ナユタ」

 

 シャナはそう言いながらレンの頭を撫でた。

ナユタの頭を撫でるのは、その大人びた外見のせいもあり、遠慮しているようだ。

 

「頑張りました!」

「おう、頑張ったな」

「俺は後方で敵を撃ってただけだけどな」

 

 そう言いながらも、ナユタはレンの頭を撫でるシャナの手をじっと見つめていた。

 

「ん、ナユタ、どうした?」

「いや、別に何も」

 

 そんなシャナに、ユッコとハルカがそっと囁いた。

 

「鈍いわね、多分あの子も頭を撫でて欲しがってるわよ」

「ですです、あれは絶対にそう!」

「え、まじで?」

「いいからほら!」

「騙されたと思って!」

「お、おう」

 

 そしてシャナは、黙ってナユタの頭を撫でた。

ナユタはビクッとしながらも、その手を振り払うような事はしなかった。

 

「…………な、なぁ」

「ん、ナユタ、どうした?」

「これってやっぱりちょっと恥ずかしいな」

「……やめとくか?」

「いや、別にいい」

 

 そしてそこに、闇風とゼクシードも合流した。

 

「良くやったなレン、悪くないデビュー戦だったぜ!」

「ありがとう、師匠!」

「師匠?二人は師弟関係なのか?」

「おう、ついさっきからな!」

「うん!」

「そうか……」

 

 そんなゼクシードに、闇風が言った。

 

「何だよ、またAGI特化なんて駄目だから、弟子になるのはやめとけとか言い出すのか?」

「いや、実際負けたんだ、自説を安易に曲げるつもりは無いけど、

もうAGIタイプを否定するつもりは無い、それに……」

 

 そしてゼクシードは、何かを懐かしむような顔で言った。

 

「弟子っていいもんだよな」

 

 ゼクシードは、夢の中で自分の弟子だった二人の少女の事を思い浮かべながらそう言った。

闇風はそんなゼクシードを不思議そうな目で見ていたが、

ゼクシードは空を見上げるだけで、特にそれ以上何も言う事は無かった。

 

 

 

 一方その弟子である双子の少女達は、新たな仲間と共に、ギルドの立ち上げをしていた。

 

「スリーピングナイツの結成をここに宣言します」

「みんな、これから頑張ろう!」

「最初の目標は、このメンバーででの、この擬似アインクラッド五層までのクリア、

その後は手始めに、業界第二位の規模を誇る、アスカ・エンパイアに殴りこみをかけるわ」

「今の僕らはまだ名無し状態だから、

アスカ・エンパイアにコンバートした段階で正式に名前を付ける事になるから、

それまでにキャラの名前を各自で考えておくようにね!」

 

 そして数日後、すさまじい速度で成長した彼らは、

無事に擬似アインクラッドの五層をクリアし、アスカ・エンパイアへのコンバートを果たす。

 

「ユウキ、シウネー、ジュン、テッチ、タルケン、ノリ、クロービス、行くわよ!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 

 こうしてアイ改めランをリーダーとするスリーピングナイツは、その活動を開始した。


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