ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第437話 優里奈、社長室へ

「二人とも、今日はどうだった?」

「とっても楽しかった!八幡君、また遊ぼうね」

「おう、香蓮も頑張って強くなっておくんだぞ」

「うん!」

「凄く新鮮な体験でした」

「優里奈はもうちょっと自重しような、

ロールプレイを楽しむのはいいが、最初のあの格好はさすがに危ないからな、色々な意味で」

「はぁい」

 

 優里奈も楽しんでいたようだが、香蓮の気合の入り方は凄かった。

香蓮はよほどレンというキャラが気に入ったのだろう、

どうやら少し休憩した後、もう一度ログインするつもりらしい。

 

「八幡君、何かアドバイスとかは無い?」

「そうだな、しばらく砂漠地帯でモブを狩りつつ待ち伏せPKをすればいい。

今のところはそれが最適解だろうな。その為にも、周囲の警戒は怠らないようにな。

あとは積極的に戦う事だな、まあ今の香蓮は、言わなくてもやる気満々だと思うけどな」

「う、うん」

 

 そして八幡は、 ニヤリとしながら香蓮に言った。

 

「まあ分からない事があったら闇風に聞けばいい、ついでに色々たかってやれ。

せっかくあいつの弟子になったんだからな。

どうせなら、いつかあいつやゼクシードを倒せるように頑張ってくれ」

「うん、頑張る!ありがとう、八幡君!」

「あとは美優にもう大丈夫だと連絡だけしておくんだな、あいつはかなり心配してたからな」

「あっ……分かった、直ぐに連絡するね」

「おう、それじゃあまたな、香蓮」

「香蓮さん、またです」

「八幡君、優里奈ちゃん、またね!」

 

 そして八幡と優里奈は、当初の予定通りソレイユへ戻る事にした。

 

「あんまり遅い時間まで連れ回すのはまずいだろうし、少し急ぐか」

「私は構わないんですけど、八幡さんはやっぱり困りますよね」

「ん、構わないのか?まあそれならそれでいいや」

 

 八幡があっさりとそう言った為、優里奈は驚いた。

 

「いいんですか!?」

「それはお前が決める事であって、俺が決める事じゃないからな。

それに俺が一緒なら、危険な目にあう事もまあ無いだろ」

「まあ、それはそうかもですが……」

 

 優里奈は納得いかなかったのか、切り口を変えて八幡に質問した。

 

「未成年を夜十時以降に働かせていいんですか?」

「おう、駄目だぞ、だから十時以降は給料は出さないから、好きにしていい」

「十時になった瞬間に帰りたいとか言ったらどうなるんですかね」

「普通に家まで送るだけだな」

「帰りたくないと言ったら?」

「帰らなければいいんじゃないか?」

「えっ?」

 

 その予想外の言葉に、優里奈は完全に固まった。

 

「そろそろソレイユだ、下りるぞ」

「えっ、あっ、あの、今のはどういう……」

「後だ後、いいから下りるぞ」

 

 

 

 ソレイユに到着すると、何故か受付には結衣が座っていた。

 

「……お前、ここで一体何をしてんの?」

「あっ、ヒッキー、久しぶり!見て分からない?受付だよ?」

 

 結衣はあっさりとそう言い、八幡はため息を付きながら言った。

 

「それは分かるっての」

「ああ、えっと、バイトだよ?」

 

 その結衣の言葉に、八幡はとても驚いたように言った。

 

「バイト!?お前、受付の仕事なんか出来るの!?」

「ほら、社員さん達の正規の仕事時間はもうとっくに過ぎてるじゃん?

でもビル自体はもう少し開いてるから、その穴埋めみたいな感じで、

本日の業務は終了しましたって言ってから用件を聞いて、

後日薔薇さんに渡すだけだから大丈夫!」

「そういう事か……それなら結衣にも出来るな」

「もう、人を子供扱いして!こんな時間に飛び込みで来る人なんかほとんどいないし、

まあ楽といえば楽なバイトだよ、でも退屈なんだよね、あ、ヒッキー、肩揉んで?」

「何でそうなる……」

「それなりに緊張するから、肩がこるんだよ、

ほらほら、従業員を労わるのも中間管理職の仕事だよ!」

「お前の肩がこるのは別に緊張のせいじゃないだろ……」

 

 そう言いながら、八幡は結衣の胸をじっと見つめた。

 

「……えっち」

「いやいや、今のはお前の誘導に乗ってやる為に、

あえて見ただけだからセーフだ、俺は悪くない」

「……見た事は否定しないんだね、で、肩揉みは?」

「はぁ……分かったよ」

 

 そして八幡は律儀に結衣の肩を揉み、結衣はリラックスした表情で八幡に尋ねた。

 

「で、こちらは?」

 

 結衣は、優里奈を見ながらそう言った。

 

「こちらは櫛稲田優里奈、俺の特別臨時秘書だ」

「ああ、その子が……初めまして、由比ヶ浜結衣だよ、気軽にユイユイって呼んでね」

「櫛稲田優里奈です、宜しくお願いします。

ところで八幡さん、どうしてさっき、ユイユイさんの胸を見たんですか?

私の胸にはまったく興味を示さないのに」

「ああ、多分それは、結衣は高校の時、

お前みたいに無防備に俺に顔や胸を近付けてきてたから、

それで俺も慣れちまってるからなんじゃないか」

 

 その言葉に結衣は顔を真っ赤にして反論した。

 

「胸は近付けてないし!」

 

 その言葉を聞いた八幡は、肩を竦めながら優里奈に言った。

 

「ほら、やっぱり無自覚だろ?」

「えっ?えっと、ヒッキー、本当に?」

「おう、本気と書いてマジと読むくらいには本当だ」

「そ、そうだったっけ」

 

 結衣は本当に心当たりが無かった為、自信無さげにそう言った。

そんな結衣に、優里奈はこう質問した。

 

「あ、あの、ユイユイさん、今の遣り取りからすると、

ユイユイさんが八幡さんの彼女さんですか?」

「へ?ああ、高校の時ね、ヒッキーは絶対にあたしの気持ちに気付いてたと思うんだけど、

それを見て見ぬフリをしているうちにフラッといなくなって、

戻ってきたらもう彼女がいてね、本当にひどい男だよね!」

「なるほど、違いましたか、でもそれはひどいですね!」

「お、おい……」

 

 珍しく八幡はおろおろした。それを好機とみなしたのか、

結衣はあえて胸を強調しつつ、もじもじしながら振り返り、八幡に言った。

この辺り、結衣もどうやらやっと女の武器を使えるようになりつつあるようだ。

もっともそれは、八幡が相手の時だけなのであったが。

 

「そ、それじゃあ一つお願いをしてもいい?」

「お、おう……無茶なお願いじゃなければな」

 

 八幡は目を盛大に泳がせながらそう言った。

同じ事を薔薇にされても八幡は何とも思わないのだが、

やはり結衣辺りにそういう事をされると、こうなってしまうのだ。

そしてその八幡の返事に、結衣は上目遣いでこう言った。

 

「無茶じゃなければいいの?」

「おう、男に二言は無い」

「やった!それじゃえっとね……今度の日曜、東京ビッグサイトに来て欲しいの!

姫菜に本の売り子をしてくれないかって頼まれてて、

どうしてもあと何人か人手が欲しいみたいなの!お願い!」

「え、やだよ、その日はソレイユの企業ブースに参加しないといけないし」

 

 八幡はその結衣の頼みを即断った。

 

「えええええええええ!い、今男に二言は無いって……」

「いやいや、そもそもお前、海老名さんの作ってる本って、アレだろ?

それは男である俺が関わっていい本じゃない」

「えっ、何で?」

「えっ?」

 

 そして八幡と結衣はしばらくきょとんと見つめ合っていたが、

先に八幡が、結衣にこう質問した。

 

「お前、海老名さんから本の内容は聞いてないのか?」

「もちろん聞いてるよ?えっとね、ヒッキーとキリト君が、戦いの中で友情を深める話」

「……………………今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだが」

 

 顔を青くする八幡をよそに、結衣はうっとりした表情でこう言った。

 

「いいよね、戦いの中で芽生える友情の物語!あたしはいいと思うな!」

「お前それ、本気で言ってんのか!?」

「え?うん、何か変?」

「う~む……」

 

 そして八幡は、優里奈にこう尋ねた。

 

「なぁ、優里奈はBLって知ってるか?」

「び、BLですか?はい、まあ一般常識の範囲で知ってます、興味は無いですけど」

「ちょっとこいつに説明してやってくれ……」

「分かりました」

 

 そして優里奈は結衣の耳元で、ごにょごにょと何か囁いた。

 

「えっと……」

「ふむふむ」

「で、八幡さんとそのキリトさんって人が……」

「えっ?何でベッド?」

「裸でくんずほぐれつ……」

「ええええええ?お、男同士だよね?」

「で、そのまま……」

 

 結衣はその最後の説明と共に固まり、ギギギと音が聞こえるような仕草で八幡を見た。

 

「え、えっと……そうなの?」

「おう、海老名さんは高校の時からそうだっただろ、

優美子も当然意味を分かってて、『擬態しろし』って言ってたのに、

お前は意味を理解しないままその会話に参加してたのか?」

「あっ、今のモノマネ、なんか優美子に似てた!ヒッキー、もう一回やって?」

「現実逃避してるんじゃねえ!で、本当に知らなかったのか?」

「うぅ……」

 

 そして結衣は、もじもじしながら八幡に言った。

 

「えっとさ、自分だけが知らないのが恥ずかしくて、

知ってるフリをしちゃう事ってあるよね?」

「おう、友達あるあるだな」

「あ、あは……どうしようヒッキー、あたし、オーケーしちゃった……」

「これも勉強だと思って諦めろ、そして俺とキリトの本が売れないように邪魔をして、

密かに全部処分してくれ」

 

 だがその八幡の言葉に、結衣は正論で抵抗した。

 

「え、そんなの出来ないよ、姫菜も頑張って書いたんだと思うし」

「ぐっ……そ、それはそうなんだが……」

「だから姫菜にお仕置きするくらいで勘弁してあげて?ね?」

「う……く、くそ、分かった、だが二度は許さないからな」

「うん、それでお願い」

 

 そして結衣は、困ったような顔をして八幡に言った。

 

「でもでも、他の売り子さんはどうしよう……」

「優美子や川崎はどうだ?もしかしてもう断られたのか?」

「うん、姫菜が断られたって」

「その二人が来たくなるような条件が出せれば案外来てくれるんじゃないか?」

「う~ん…………あっ!」

 

 そして結衣は、何か思い付いたのか、明るい顔でスマホを取り出し、電話を掛け始めた。

 

「あ、姫菜?あたしだけど、優美子とサキサキの事でさ、ちょっと思いついた事があるの。

うんうん、あのねあのね、ヒッキーも来るから来てって言えばいいんじゃないかな?」

「なっ……」

「まあ実際には、ヒッキーにも断られたんだけど、

ヒッキーはソレイユの企業ブースにいるらしいから、会う事は可能じゃない?

うんうん、本人がさっき言ってたから本当だよ、おっけぇ、それじゃあまたね」

「そういう事か……」

 

 そして結衣は電話を切ると、八幡にこう言った。

 

「これでどうかな?」

「今聞いた話くらいの内容なら、まあ確かに問題ない」

「やった!後は結果待ち!」

 

 そして直後に姫菜からなのだろう、着信があり、

結衣は通話を終えた後、笑顔で八幡に言った。

 

「二人ともおっけぇしてくれたって」

「そ、そうか……あいつらよくオーケーしたな」

「ヒッキー様々だね」

「まあ一度はお仕置きしに行かないといけないだろうし、その線で妥協しよう」

 

 そこでこの話は終わりとなり、八幡は結衣に尋ねた。

 

「で、今は姉さんや薔薇はいるのか?」

「うん、二人ともいるよ、あとセラちゃんとさがみんもいるかな」

「そうか、それじゃあ顔を出して優里奈を紹介しておくか、

それじゃあ結衣、またな、バイト頑張れよ」

「うん、ありがとう!優里奈ちゃんもまたね!」

「はい、またです!」

 

 

 

「秘書室には誰もいないか……それじゃあ社長室だな」

「さすがにちょっと緊張します」

「緊張?するだけ無駄だぞ、おかしな連中ばっかりだからな、南以外は」

「南さんって、もしかして相模のおじ様の娘さんのですか?」

「正解だ、一応これから行く所にいるのは、社長の雪ノ下陽乃、秘書室長の薔薇小猫、

後は秘書予定の間宮クルスと相模南だ」

「あっ、社長さん以外の名前はロッカーで見ました」

 

 そして八幡は社長室に着くと、三回ノックをした。

そしてドアが開き、二人を出迎えたのは南だった。

 

「比企谷と……優里奈ちゃん!?」

「南さん、お久しぶりです」

「あっ、そういえばうちも聞いてたんだった、

優里奈ちゃんが比企谷の特別臨時秘書になるって」

「です」

「それじゃあ同僚みたいなものだね、宜しくね」

「はい!」

 

 そして部屋に入った二人を、陽乃が笑顔で迎えた。

 

「八幡君に、櫛稲田優里奈ちゃんだっけ?話は聞いてるわ、ソレイユへようこそ、

私が社長の雪ノ下陽乃よ」

「秘書室長の薔薇です」

 

 薔薇が性懲りも無くそう言い、八幡はいつものように突っ込んだ。

 

「フルネームで名乗れって何回言わせるんだお前は……」

「ぐっ……」

「あっ、小猫さんですよね!ロッカーで見ました!

その時からかわいい名前だって思ってたんですよ、宜しくお願いします!」

「そ、そう、宜しくね、優里奈さん」

 

 薔薇は毒気を抜かれたのか、案外素直にそう挨拶をした。

 

「間宮クルスです、八幡様の秘書になる予定です、宜しくお願いします」

「櫛稲田優里奈です、宜しくお願いします!」

 

 そして自己紹介が済んだ後、何故か南が八幡の後ろにこそこそと隠れた。

 

「ん?何やってんだお前」

「分かってよ、このメンバーの中に混じるのはつらいのよ!」

「ああ、確かにあ~……こ、個性的なメンバーだからな」

「違う違う、ほら、その……」

 

 そして南は八幡の耳元で囁いた。

 

「胸がちょっと……ね」

「ああ……」

 

 そして八幡は、目の前に並ぶ三人の胸を見て、ため息をついた。

 

「確かに色々とおかしいよな、日本人的に」

「そうなのよ!優里奈ちゃんもそうだし、本当にどうなってるのよ!」

「何でだろうな……まあ強く生きろ」

「…………くっ」

 

 そして南は、諦めたような顔で隅の方で小さくなった。

だがそんな南に遠慮するような三人ではなかった。

 

「とりあえずほら、座って座って」

 

 そして八幡と優里奈は、何故かソファーに向かい合わせで座らさせられ、

その八幡の腕を、まるで拘束具のように薔薇とクルスがその胸に抱え込んだ。

 

「おい、分かってるから俺の腕を離せ、大丈夫、逃げないから」

「そう、それならいいわ」

「さすがは八幡様、度胸が据わってる」

「度胸は関係ないんだけどな……何を言っても無駄なのは分かってるからな」

 

 優里奈はその会話を聞き、一体何の事だろうかと首を傾げた。

そして二人は八幡の腕を離し、その直後に陽乃が突然こう言った。

 

「ふう、肩がこるわね」

「やっぱりか……」

「あら、逃げないのね」

「逃げたら後であの手この手でもっとやばい事をされるからな」

「分かってるじゃない」

 

 そして陽乃が八幡の頭の上に胸を乗せようとした瞬間に、八幡が動いた。

八幡はいきなり立ち上がると、くるりと回転し、陽乃を抱え上げた状態で元の位置に戻り、

自分の膝の間に陽乃を座らせると、その肩を揉み始めた。

 

「あ、あれ?」

「ふふん、こっちの方が多少ましだからな、存分に肩のこりをほぐしてやる」

「う……こ、これはこれでいいかも……」

 

 そして陽乃は気持ち良さそうにぐったりとし、

それを見た薔薇とクルスは、同じように八幡におねだりをした。

 

「そ、それ私にもしてくれない?」

「八幡様、私もそれを所望したいのですが……」

「………まあ別に構わないが、南もやっとくか?」

「え、い、いいの?うん、お願いしようかな」

 

 そして優里奈が見守る中、八幡は三人を撃沈させ、男のプライドを守りきる事に成功した




またおかしな話を書いてしまいました……

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