ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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五十層はサラっと……


第043話 心のセルフケア

 クォーターポイント、という言葉がある。

第二十五層のボスが特に強力だったため、

第五十層と第七十五層のボスも、また相当強力なボスなのではないか、とう考え方である。

現在まさにその五十層を攻略中のため、未だ証明されてはいないのだが、

おそらくその可能性が濃厚だという推測の元、攻略組は準備を進めていた。

結果的には、その推測は正しかったが、肝心の準備が足りなかった。

いや、その言い方はおかしいかもしれない。ボスが強すぎたのだ。

 

 

 

「私がしばらく支える。今のうちにアスナ君はハチマン君と協力して体制を立て直すんだ!」

 

 第五十層のボス攻略に参加したのは、血盟騎士団十八人、聖竜連合十八人に加え、

ハチマン、エギルを中心とする十二人の、合計四十八人のフルレイドだった。

だがしかし、今現在戦場にいるのは、半数にやや満たない。

主に中盤からのボスの激しい攻撃により、十二人ほどの死者が出た。

その後はかなり粘ったが、豊富に用意していたはずの回復アイテムが切れる者が続出し、

今はヒースクリフが、一人でひたすらボスの攻撃を防いている間に、

回復の手段の無い者を転移結晶で離脱させつつ、再編成を行っているところだった。

ボスのHPは残り一本。ここがまさに正念場だった。

 

「アスナ、やばそうな連中は転移結晶で全員離脱させた」

「了解」

「血盟騎士団は何人残った?」

「十二人ってところかな」

「リンド、そっちはどうだ?」

「すまん、こちらは六人が限界だった」

「よし、俺のパーティが残りの連中を統合して五人、合計二十三人が今残された戦力だ」

 

 血盟騎士団は、やはり普段からヒースクリフとアスナに鍛えられているためか、

しっかりと過半数を維持していた。

聖竜連合は、半数以上がすでに離脱していたが、

リンドとシヴァタの他、ハチマンはあまり親しくはないが、

主要メンバーの副団長のハフナー、タンクのシュミット等は健在だったので、

戦闘力はちゃんと維持されているようだ。

ハチマンチームは、ハチマン、キリト、ネズハに加え、

最近攻略に参加するようになったクラインと、エギルの五人が残っていた。

 

「いけると思うか?」

「ヒースクリフの化け物っぷりと、ボスの残りHPから計算すると、

おそらくギリギリだが、今のメンバーで倒せる」

「よし、君がそう言うならその言葉を信じる」

「ハチマンの状況読みは、かなり正確だからな」

 

 どうやらハチマンも、攻略組の中ではかなり信頼されているようだ。

 

「ヒースクリフはどうやら崩れる心配はない。

あいつ一人に負担をかけるのは申し訳ないが、その分俺達でしっかりとボスを削るぞ」

「ハチマン君、何か意見はある?」

「タンクを並べて左右から接近、範囲攻撃を防ぎ、直後に攻撃陣が一撃離脱だ」

「堅実だね」

「ああ。幸いヒースクリフのおかげで、強力な攻撃はこちらには来ない。

範囲攻撃だけなら他のタンク連中でもなんとか防げるからな。

 

 アスナがそれを受けて全体に戦術を指示すると、さすがよりすぐりの精鋭なだけあって、

すぐに散開し、攻撃を再開する事が出来た。

 

「範囲攻撃が来るぞ!タンクは備えろ!他の者はタンクの後ろで突撃準備!」

「おう!!!」

 

 ボスの範囲攻撃をタンクが防いだ直後、アタッカー陣が強力な攻撃を叩きこみ、

その後すぐまたタンクの後ろに戻っていく。

回復結晶はタンクに集中させ、タンクは範囲攻撃でくらうダメージを計算しながら、

効率的に残された回復結晶を使っていく。

 

「ボスのHPが赤くなったぞ!少し下がるんだ!」

 

 だが驚くべき事に、ヒースクリフは下がらなかった。

まだヒースクリフのHPは、一度もイエローにすらなっていない。

そのまま発狂状態のボスをも抑えきり、

ついにキリトの一撃により、ボスは爆発し、四散した。

 

 

 

 大歓声があがり、皆お互いの健闘を称えあった。

その後落ち着いたのか、皆座り込んでしまい、そのまま休憩のような雰囲気になった。

実際のところ、かかった時間は一時間程度ではあったが、犠牲は大きかった。

しばらくの間、攻略ペースは確実に今までよりは落ちるだろう。

 

「おいキリト、ボスからのドロップ何だった?」

「エリュシデータっていう片手直剣だな。性能はこうだ」

「おお、すげーな。これ当分使い続けられるんじゃないか?」

「ああ。これでしばらく武器に強化以外の金をかけなくてすむ」

「そっちかよ」

 

 ハチマンとキリトは、二人で他の人から少し離れた壁際に座り、そんな話をしていた。

基本的に二人とも、他人とはドロップアイテム等の話は絶対にしないのだが、

二人だけの時は、たまにこういうやりとりをしていた。

アスナはちらちらとこちらを見ているようだったが、

まだ副団長としての責務があるようで、こちらに来る気配は無かった。

 

「これでしばらく攻略も休みになりそうだな」

「嬉しそうだな、ハチマン」

「さて、五十一層の転移門のアクティベートは誰かに任せるとして、俺は先に戻るわ」

「おう。それじゃまたな、ハチマン」

 

 ハチマンはアスナに先に帰る事を告げ、転移結晶でコラルの村に戻った。

さすがに疲れたのだろう。ハチマンは、そのまま泥のように眠りについた。

 

 

 

 現在は戦力の再編成が急務なため、

ハチマンの予想通り、しばらく攻略はストップする事になった。

この機会に、各自結晶アイテムを集め直したり、装備の強化を行う者が多いようだ。

数日後、多少は落ち着いたようで、アスナから第五十層突破の慰労会の誘いがあった。

場所は、五十層の主街区であるアルゲードで行われるようだ。

ハチマンは、行けたらいくわ、といつも通りの返事をしたのだが、

行かないと後で必ずアスナに怒られるのは間違いないので、

時間を調整して少し遅めに会場に向かう事にした。

 

 

 

 当日になり、そろそろ会が始まるという時間になった。

アスナから、いつ着くのというメッセージが来たため、

ハチマンはそろそろ行くかと思いつつ、その旨を送信した。

すると、予想外にすぐ返事がきた。どうやら以前贈られたあの服を着てきて欲しいようだ。

まあ、こんな時くらいしか着る機会無いしな、と思いつつ、

ハチマンは、あまり深く考えずにその指示に従う事にした。

 

「すまん、少し遅れた」

 

 今回の参加メンバーは、何というか、完全に内輪の集まりのようで、

ハチマン、アスナ、キリト、クライン、エギル、そして、アルゴだった。

 

「アルゴがこういう席にいるなんて珍しいな。というか完全に内輪だけなのな」

 

 そのハチマンの言葉に、アスナは何も答えず、にこにこしているだけだった。

何だこいつ、と思ったハチマンは、場の雰囲気がおかしい事に気がついた。

そのままハチマンは、一堂の顔をぐるっと眺めていたが、

静寂を破り、まずこの中では一番社交的であろう、エギルが口を開いた。

 

「初めまして。俺はエギルと言います。アスナさんのお知り合いですか?」

 

 その言葉に皆ハッとしたのか、次々に自己紹介を始めた。

 

「クラインです!宜しく!」

「俺はキリトだ」

「情報屋のアルゴだ。どこかで会ったカ?」

 

(おい、またこのパターンかよ)

 

 ハチマンがアスナを見ると、アスナは、笑いを堪えているのかぷるぷると震えていた。

あーこれどうすればいいんですかね、と思っていると、アルゴが尋ねてきた。

 

「血盟騎士団、のメンバーにしちゃ、知らない顔だな。攻略組でも見た事がないナ」

「あ、うん、血盟騎士団のメンバーではないね」

「それじゃ、アスナさんの知り合いっスか?」

「そ、そうだね……知り合いだね」

 

 アスナがぷるぷるしながらそれに答えた。

ハチマンはため息をつきながら、まだぷるぷるしているアスナに声をかけた。

 

「おいアスナ、お前後でおしおきな」

 

 アスナはそれを聞くと、バッと顔を上げて、叫んだ。

 

「えー!ハチマン君そんなぁ」

 

 その言葉を四人が理解するまで、またしばらく時間がかかった。

 

「え、ハチマン……?」

「え、ハチマン……なのか?」

「ハチマン!?まじかよ!?」

「オレっちもそんな情報は知らないゾ……」

「はぁ……お前ら揃いも揃って馬鹿なのか?」

「ああ、ハチマンだ……」

「その言い方はハチマンだな」

「ハチマン!?まじかよ!?」

「確かにこれはハー坊みたいだナ……」

 

 クラインだけは、いまだに脳内がループしているようだったが、

一堂はどうやら納得したらしく、このハチマンは確かにハチマンだと納得したようだ。

ハチマンは、やれやれと肩を竦め、アスナの隣に座った。

 

「改めて、すまん。少し遅くなった」

「お、おう。というか、その格好は……?」

「これはおそらくアシュレイのオーダーメイド品だナ」

「アシュレイってあのカリスマお針子の?」

「この中で、アシュレイに伝手がありそうなのは……」

 

 四人はアスナをじっと見つめた。

 

「うん。ちょっと前にアシュレイさんに頼んで作ってもらったんだ。

今日はどうしてもハチマン君のこの姿をみんなに見て欲しかったの」

「なるほど、アスナの差し金だったか……」

「ああキリト。俺が自分でこういうの選べるわけないだろ」

「ハチマンが服装に気を遣えるわけねーしな!」

「おいクライン、事実だが少しはフォローしろ」

「最初誰かと思って営業用の態度をとっちまったよ」

「お前はそういうとこさすがだよな、エギル」

「この情報はいくらになるかナ」

「アルゴ、料金設定を考えるのはすぐやめろ」

「ほら、この受け答えは間違いなくハチマン君でしょ?」

「アスナは、これで確認出来ましたね?みたいに言うのをやめような」

 

 四人はまあ、経緯はどうあれハチマンだと納得したようだ。

 

「しかし、慰労の会って聞いてたから、もっと大人数の派手な会だと思ってたんだが、

おかしなメンバーしかいないんだな」

「一番おかしいのはハチマンだと思うが……」

「俺はアスナの指示に従ってこれを着てきただけだ」

「しかし、普通に街ですれ違っても絶対に気付かないよな!」

 

 その後もハチマンについての話が続き、そのまま会は、色々な話題で盛り上がった。

犠牲者が出た事による悲しみによって、今後の攻略に暗い気持ちを抱かないように、

それは攻略組なりの、心のセルフケアなのだろう。

彼らの戦いは、まだやっと折り返し地点を通過したところなのだから。


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