ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第441話 解放軍の者に告ぐ

「おはよう」

「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」

 

 教室に入った八幡が、誰に向けてという事もなくそう挨拶をすると、

あちこちからそんな挨拶が返ってきた。

かつての高校時代の八幡からは、とても考えられない状態である。

 

「おはよう八幡君」

「八幡、今日は早いな」

「八幡さん、おはようございます!」

「八幡、おはよう!」

 

 いつもの四人からそう挨拶をされ、八幡もいつも通り、ぶっきらぼうにこう答えた。

 

「おう」

 

 そしていつもの通り、始業前の雑談が始まるかと思いきや、

いきなり八幡が和人と明日奈にこう言った。

 

「和人、明日奈、ちょっと聞きたいんだが、このプレイヤーに見覚えは無いか?」

 

 そう言って八幡が見せてきたのは、自由にもらった、ヤクモこと櫛稲田大地の写真だった。

 

「これは?」

「七十四層」

 

 その言葉に和人はピクッとし、明日奈はじっと八幡を見つめた。

 

「あの時の軍の連中の中の一人で、その時に死亡したそうだ。

プレイヤー名はヤクモ、どうだ?」

「これってあれだろ?八幡がどうしても援助したいって言ってた女の子のお兄さんだろ?」

「ああそうだ、あの時死んだ奴の妹って聞いたら、

さすがに何もしないなんて俺には出来なかったからな」

「まあ気持ちは分かる、俺も同じ気持ちだしな」

「うん、私も」

 

 その八幡の言葉に、和人と明日奈も同意した。

 

「私は直接関係ないけど、その話を聞いたらさすがにちょっとね」

「私もです!」

 

 里香と珪子もそう言い、四人はその写真をじっと眺めた。

 

「う~ん、悪い、俺は見覚えが無いな」

「まあそれは仕方ないだろ、あの時のあいつらは、顔が隠れるような格好をしてたしな」

 

 八幡の言う通り、アインクラッド解放軍の制服の帽子は、

目まで隠れる灰色の金属製の甲冑のような装備であり、個々の顔は識別出来ない。

 

「この顔、どこかで……七十四層の……あ!」

「明日奈、何か思い出したか?」

 

 そう聞かれた明日奈は、逆に八幡に聞き返した。

 

「ねぇ八幡君、ちょっとその前にもう一度確認させて?その妹さんの名前って……」

「櫛稲田優里奈だな」

「優里奈……ゆ……り……そっか、あの時の言葉はそういう事だったんだ」

「もしかして、ヤクモと話したのか?」

「正確には、最期の言葉を聞いたって事になるのかな」

 

 その言葉に八幡は身を乗り出し、明日奈は当時の状況を話し始めた。

 

「ほら、あの時って、ボス部屋の中から凄い悲鳴が聞こえて、

慌ててみんなで中に突っ込んだじゃない」

 

 その明日奈の言葉に、八幡と和人は頷いた。

 

「ああ」

「確かにそうだったよな」

 

 明日奈はその事を確認すると、そのまま説明を続けた。

 

「あの悲鳴を上げた人、その直後に入り口の方に飛ばされてきたの、私のすぐ近くにね。

その時は直ぐに結晶アイテムを使おうと思ったんだけど、

その人、もうHPが全損しててね、それで結晶アイテムを使うのを諦めたんだよね。

あれは悔しかったな……」

 

 八幡は、その時の明日奈の気持ちを慮り、苦しげな表情でこう言った。

 

「………それはつらかったな、明日奈」

「うん…………まあそのせいで、

結晶アイテム禁止エリアだって気付くのが遅れたってのもあるんだけど、

とりあえずそれは置いといて、で、その時その人がこう言ったの。

『ごめんな、ゆ……り……』って」

「そうか、優里奈の名前を最後まで言えなかったって事か……」

 

 その明日奈の説明に、四人は下を向いた。そして最初に顔を上げたのは八幡だった。

 

「明日奈、今度機会を作るから、その事を優里奈に話してやってくれ」

「うん、分かった。今日はちょっとお父さんに頼まれた用事があるから駄目として、

八幡君に任せるから、適当な日にセッティングしてくれていいよ」

「おう、分かった。で、用事って何があるんだ?」

「うん……」

 

 途端に明日奈の表情が暗くなり、四人は何事かといぶかしんだ。

 

「実はね、今日はレクト絡みのパーティーに出ないといけないの。

要するに三時間くらい、どうでもいい話を聞きながらニコニコしていないといけないの」

「そ、そうか……まあ頑張れ」

 

 そう明日奈を励ます八幡に、和人がニヤニヤしながら言った。

 

「おい八幡、いずれは我が身、だぞ」

「う…………」

 

 八幡はその言葉に図星を突かれ、苦々しげな表情をした。

 

「おい明日奈、そういうのってどれくらいの頻度であるんだ?」

「う~ん、月一くらい?」

「まじかよ…………」

「ふふっ、そうなったら少しは私の苦労も分かってもらえそうだね」

 

 そんな明日奈に、今度は里香がニヤニヤしながらこう言った。

 

「何言ってんのよ明日奈、その場合、

妻として明日奈も八幡に同伴する事になるに決まってるじゃない」

「つ、妻?やだもう里香ったら、妻だなんて」

 

 明日奈はその妻という言葉の方に反応し、とても恥ずかしそうに、

やんやんと体を揺すっていたのだが、やがて言葉の後半の意味に気付いたのか、

愕然とした顔で八幡を見た。

 

「えっ、そうすると、レクト絡みの方は、私はお父さんの付き添いだから、

単純計算で私の負担が倍になるの!?」

「お、おう、そうなのかな?」

「うわあああああ、八幡君、政治家になってパーティー禁止令を出して!」

「そしたらそれはそれで、妻同伴の色々な集まりがありそうだけどな」

 

 和人が冷静にそう突っ込み、明日奈はその場に崩れ落ちた。

 

「私、終わった……」

 

 そんな明日奈の姿を見て、さすがにかわいそうだと思ったのか、

和人が明日奈に助け船を出した。

 

「まあ八幡の方は、誰かに代わりを頼めばいいんじゃないか?

例えばそう、小町ちゃんとか、後は……陽乃さんとか」

 

 その言葉に明日奈はパッと明るい表情をした。

 

「そうか、その手があったね!八幡君、妻として命じます、

今後パーティーには、小町ちゃんか姉さんを同伴しなさい」

「そんなに嫌なんですね……」

「あの明日奈が、八幡といちゃいちゃできる機会を棒に振るなんて……」

 

 そんな明日奈をからかいたくなったのか、

八幡は悲しそうな表情を作り、明日奈に言った。

 

「そうか、明日奈は俺と一緒にいてくれないのか……」

「えっ?」

 

 その言葉に明日奈は汗をだらだら流しながら葛藤するような表情を見せた。

そして明日奈は、腹の底から搾り出すような声で言った。

 

「や、やっぱり……私が一緒に行くから……だ、大丈夫……だよ」

「ちなみに明日奈、ここまでの遣り取りは全部冗談だからな」

 

 そんな明日奈を見ていられなくなったのか、

八幡はあっさりとそう言い、他の三人もうんうんと頷いた。

明日奈はそれを聞いて、再びパッと明るい表情になった。

 

「そうだよね、冗談だよね、やだもう私ったら、おかしな心配をしちゃった、

ごめんね、変な姿を見せちゃって。さあ、話を元に戻そう!」

 

 この一連の遣り取りのおかげで、暗くなりかけた場は明るくなったが、

実際問題明日奈の負担については何も解決しておらず、

いずれ先ほどの言葉通りになるであろう事に、明日奈は気付いていなかった。

 

 

 

 授業中も八幡は、何か優里奈の為に伝えてやれる事は無いか考えていた。

そして八幡は、とあるアイデアを思いつき、ガタッと立ち上がった。

 

「あら珍しいわね八幡君、どうかしたの?」

「あっと、すみません、何でもないです」

 

 教師にそう突っ込まれた八幡は、そう言って席に座り、ぶつぶつと何か呟き始めた。

和人や明日奈ら四人は、その八幡の姿を見て何だろうかと疑問を感じていたが、

昼休みになった瞬間、八幡は脇目も振らずに教室を飛び出していき、

残された四人は呆然とした。

 

「八幡の奴、一体どうしたんだ?」

「うん……授業中から何かおかしかったよね」

「何なんだろうね」

「凄く急いでましたね」

 

 その直後に校内放送のスピーカーから八幡の声が聞こえ、四人はとても驚いた。

 

『あ~、俺だ、解放軍の者に告ぐ、すまないがちょっと頼みがある、

以前アインクラッド解放軍に所属してた者は、聞きたい事があるから俺の所まで来てくれ。

ちなみにこれは強制ではない、ただのお願いだ』

 

 その瞬間に、学校中で該当する生徒達が、ガタッと立ち上がった。

どうやら八幡のお願いは、誰も無視出来ないようだ。

そしてその放送を教室で聞いていた四人は思わず噴き出した。

 

「お、俺だ、とか……」

「解放軍の者に告ぐって……」

「八幡さん、さすがにそれは無い、それは無いですよ!」

「でもあいつが何を考えていたかはこれで分かったな」

「うん、直接ヤクモさんの事を、元解放軍の人に聞くつもりなんだろうね」

 

 直後に八幡が教室に駆け戻り、いきなりですまんとクラスメート達に頭を下げた。

クラスメート達はその謝罪をやめさせると、

自主的に八幡の為に、集まってくる元解放軍の者達を案内し始めた。

クラスメート達の、八幡に対する忠誠心は、相変わらず限界突破しているようだ。

 

 

 

「いきなりで悪いな、さすがに放送で個人名を出す訳にはいかなかったから、

無駄足になっちまう奴も何人かはいるだろうと思うが、それは勘弁してくれ。

さて本題だ、この中で、ヤクモというプレイヤーの事を知っている奴はいるか?

知らない奴は帰ってくれていい、本当に申し訳ない」

 

 その言葉に、半数以上の生徒達が、

問題ない、気にしないでと口々に言いながら帰っていった。

そして残された者達に、八幡は言った。

 

「実は先日、ヤクモのリアル妹と知り合ったんだが、

そいつに兄の事を教えてやりたいんだ。悪いが協力してもらってもいいか?」

 

 その八幡の頼みを、残った者達は快諾した。

そして明日奈が書記を努め、様々なエピソードをメモし始めた。

順番待ちの者達は交代で食事を取りにいき、

明日奈も途中で書記を里香と珪子に代わってもらい、昼食をとった。

こうしてヤクモに関するエピソードがどんどんたまっていった。

八幡は、自分には人を集めた責任があるからと、

食事もせずにその話を全て聞き、うんうんと頷いていた。

 

 

 

「これで全員かな」

 

 集められた者達は、一部の用事がある者を除いてまだそこに留まっており、

その者達に、八幡はそう言った。

そして集められた者達の中の一人が、立ち上がって八幡に言った。

 

「八幡さん、実はこの中にも、ヤクモに助けてもらった人が沢山いるんです、

なのでその妹さんに、こう伝えてもらえませんか?

『ヤクモは何度も仲間の命を救ってくれた恩人です、いくら感謝しても感謝しきれません、

それなのにヤクモを守れなくて、本当にごめんなさい』、と」

「分かった、必ず伝えると約束する。今日は集まってもらって本当にありがとな」

 

 

 

 そして放課後、八幡は集まった情報をまとめる作業に入っていた。

明日奈達四人もその作業を手伝っていたのだが、明日奈だけは途中離脱していた。

途中で章三が現れ、八幡に謝りながら明日奈をドナドナしていったのだ。

 

「八幡く~ん!かわいい明日奈が売られて行くよ~!」

「おい明日奈、意味が分からないからな、まあ頑張れ、

章三さん、遠慮なく連れてっちゃって下さい」

「ごめんね八幡君、ほら明日奈、行くぞ」

「ううっ……」

 

 

 

 そしてその後も順調に作業は進み、ついに全ての情報がまとまった。

 

「よし、これで全部だな」

「早速これから伝えにいくのか?」

「いや、実は優里奈と詩乃が、もうすぐテストがあるらしくてな、

今日はこれから二人の勉強を見てやる事になってるんだよ、

で、さすがに俺には荷が重いから、マックスと雪乃に先生役を頼んであるんだよな。

だからこれから全員を順番に迎えに行って、その後勉強会って事になるから、

後日明日奈に直接出向いてもらった時にでも、まとめて報告するわ」

 

 その説明を聞いた里香は、感心したように言った。

 

「そっか、八幡は優里奈ちゃんのいいお兄さん役をしてるのね」

「俺は多分、ヤクモの代わりにはなれないけど、面倒くらいはちゃんと見てやりたいからな」

「八幡さんがお兄さんかぁ、いいなぁ」

 

 そう羨ましそうに言う珪子に、和人が言った。

 

「それなら珪子も一緒に勉強を教えてもらえばいいんじゃないか?」

 

 勉強と聞いて、珪子は慌てながら和人に言った。

 

「う……大丈夫です、うちのテストはまだ先ですからね」

「むしろあんたが教えてもらいなさいよ」

 

 そう里香に突っ込まれた和人は、こう即答した。

 

「え、いいよ、そのメンバーの中に混ざるのは、さすがに危険すぎるからな」

「「あ~……」」

 

 その言葉に二人は納得した。雪乃とクルスと詩乃がいるとなると、

どう考えても激しい八幡の取り合いになると思われたからだ。

ちなみにこの日はさすがの詩乃も、ついでに優里奈も切羽詰っていた為、

真面目に勉強する事になり、雪乃とクルスもそれに伴い、

かなり真面目に勉強を教える事になるのだが、さすがの和人もそんな事までは分からない。

そして和人達は逃げるようにその場を去っていき、

残された八幡は、それを気にする事もなくキットに乗り込み、

最初に詩乃の学校へと向かった。 

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