ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第442話 引き締める

「……なぁキット、あの人だかりは何だ?」

『検索します……該当イベント特に無し、不明です』

「そうか、まあ普通高校でイベントとかは無いよな……何なんだあれは」

 

 詩乃の学校に着くと、校門周辺には何故か凄まじい人だかりが出来ていた。

 

「キットはちょっとここで待っててくれ、俺はここから歩いてこっそり近付いて、

何が起こってるのか様子を探ってくるわ」

『はい、お気をつけて』

 

 そして八幡は、こそこそと校門へと近付き、人だかりの背後からそっと中の様子を伺った。

そこには詩乃が所在無げに立っており、ABCがその警護についているように見え、

更にその周りを沢山の生徒達が囲んでいる様子が伺えた。

 

「何だこりゃ……」

 

 八幡は訳が分からず、近くにいた生徒にこう尋ねた。

 

「なぁ、これは一体何の集まりなんだ?」

「お前、知らないでここにいるのか?

姫が校門前で誰かを待っているそぶりを見せているから、

久々にブラックプリンスの登場かと、

みんな色めきたってるん………って、ブラックプリンス!?」

 

 その生徒がそう大きな声を上げ、周囲の生徒達がざわっとした。

八幡は内心動揺していたが、特に敵意の類は感じなかった為、

何とか平然とした顔を作ってその生徒に尋ねた。

 

「なぁ、姫ってもしかして、詩乃の事か?」

「は、はい!」

「それじゃあブラックプリンスってのは、もしかして俺の事か?」

「で、です!」

「いつの間にそんな呼び名が……まあさすがに恥ずかしいから、

程ほどにしておいてくれるように他の奴らにも言っといてくれると助かる」

「あっ、す、すみません」

「いや、悪気が無いのは分かってるから、その、アレだ、

とにかく俺が恥ずかしいだけだから、まあ宜しく頼むわ」

「分かりました!」

 

 八幡は表立って文句を言うのもどうかと思われ、一応その生徒にそう頼むと、

開き直った気持ちで詩乃の方へと歩いていった。

 

「は、八幡!」

「悪い、待たせたな、姫。勉強の準備は出来てるのか?」

「あ、あんたまで!もう、もう!」

 

 そう言いながら詩乃は、八幡の胸をポカポカと叩いた。

 

「と、まあ見れば分かる通り、こいつは俺と同じで褒められる事に慣れてないんだ。

あとツンデレな上に友達が少ないから、出来ればこいつの事は名前で呼んでやってくれ。

それじゃあ俺はこの後こいつに勉強を教えないといけないから、この場は解散な」

 

 その八幡の言葉でその場は笑いに包まれ、生徒達は心得たという感じで解散していった。

 

「さて、おいこらABC」

「え、ABC?」

「は~い、Cで~っす!」

 

 その八幡の言葉の意味を直ぐに理解した椎奈が手を上げながらそう言った、

さすがに椎奈は抜け目がない。

 

「あっ、抜け駆けすんな椎奈、少女Aです!」

「み、美衣とBは微妙に違うけどBです、御身の前に!」

 

 八幡はその美衣の言葉に、んっ?となったが、

とりあえずそちらは様子見する事にし、先に映子に突っ込んだ。

 

「とりあえず映子、少女とかつけるな、いかがわしく聞こえるぞ」

「それが狙いなので!」

「お前は優等生だったと思ったが、これも友達がいけないんだな……」

 

 そう言って八幡は椎奈の顔をじっと見つめた。

 

「え、私!?」

「お前以外に誰がいる」

「そ、そんなぁ」

 

 そう言いながらもまったくへこんでいる様子もない椎奈を見て、八幡はため息をつくと、

腕組みをしながら三人に言った。

 

「お前ら、ちょっと最近たるんでいるようだな」

「えっ?」

「そ、そんな事は……」

「いいか、俺をプリンスと持ち上げた上で、このツンデレが姫とか呼ばれるようになると、

さすがにやっかみとかそういうのを抱く奴が出てくる、

だからお前達に求められるのは、その事を想定し、

こういった事態を事前に収拾する手腕という事になる、分かるか?」

 

 詩乃はツンデレ扱いされ、反論をしようと思ったが、

八幡の雰囲気が珍しく真面目だったので、とりあえず何か言うのは控える事にした。

そしてABCの三人は目に見えて落ち込み、しょぼんとした。

 

「ご、ごめんなさい……」

「ちょっと調子に乗りすぎました……」

「これからはもっと気を付けます……」

 

 そんな三人を見て、八幡は言った。

 

「まあ詩乃も弱点を克服して、多少浮ついた気持ちになっていたんだろう、

お前がもっと嫌がったそぶりを見せていれば、

さすがのこいつらも気付いてお前の為に動いただろうしな」

 

 当然詩乃が銃に関するトラウマを克服した事は、

仲の良いこの三人には既に報告済であった。

 

「そっ、それはっ……そ、そういう気持ちも少しはあったかもだけど……」

 

 詩乃もそう言って落ち込み、八幡はそんな四人の頭を撫でた。

 

「まあお前らはまだ高校生なんだし、そこまで気を遣えというのも酷かもしれないな、

間違っても俺がちゃんと今みたいに注意してやるから、

これからもどんどん間違えて、それを糧に成長していってくれると嬉しい。

さて、お説教はこれで終わりだ、俺はこれからみっちりとこいつをしごくから、

お前達もテスト前くらいはちゃんと勉強をするんだぞ」

 

 その八幡の言葉と態度でやっと気が楽になったのか、三人はいつもの調子でこう言った。

 

「あ、私達は詩乃っちと違ってちゃんと備えてるんで」

「うっ……」

「詩乃とは違うのだよ詩乃とは!」

「うぅ……」

「おい美衣、さっきも思ったが、お前もしかして……」

「えっ?何の事ですか?美衣分かんなぁい」

「あ、そう………まあいいや」

「私も準備は万端だけど、個人的には八幡さんに色々とチェックして欲しいなぁ、なんて」

 

 そう上目遣いで言ってくる椎奈は、だが残りの三人に制圧された。

 

「椎奈、色仕掛け禁止!」

「ちょっと身体的に恵まれているからって調子に乗んな」

「ねぇ、それちょっともいでいい?」

「ひいっ!」

 

 そしてそんな椎奈に八幡がこう言った。

 

「まあ椎奈くらいの奴は、俺の周りには結構多いからな、

思いつくだけでも椎奈を超える奴は四~五人いるから、

別に椎奈が大きなアドバンテージを誇っているって事は無いからな」

 

 だがその言葉は、椎奈よりも他の三人を直撃したようだ。

 

「わ、私、勉強する……」

「お、おう」

「私も……今日はアニメ見るのをやめて勉強する……」

「美衣、やっぱりお前……」

「八幡……とりあえず私達も行きましょ……」

「あ、お、おう……」

 

 八幡はその姿を見て、余計な事を言ったかと少し反省し、

一人平気な顔をしている椎奈に近寄り、わずかばかりの軍資金をその手に握らせた。

 

「おい椎奈、あいつらにこれで甘い物でも食べさせてやってくれ」

「あ、うん、任されました、でも私の分のお礼はどうすれば?」

「何でもそうやって貸し借りで考えるんじゃねえよ、でもそうだな、

あの呼び方をどうにかするように、お前はお前でテスト後でいいから何とかしてくれ」

「了解!ほら映子、美衣、八幡さんに挨拶しなさい」

 

 そして二人はハッとした様子で顔を上げ、三人は八幡に手を振りながら去っていった。

そして詩乃はキットに乗り込み、次にどうするのか八幡に尋ねた。

 

「次は赤門に行く。マックスと雪乃を迎えに行くからな」

「えっ?先生が頭がいいのは何となく感じてたけど、イクスもそうなんだ」

「おう、なので教師役の事は心配しなくていい」

「今回は本気でやばいと思ってたから助かる、イクスに会うのは初めてね、楽しみかも」

「あいつは本当にゲームの中と同じ顔をしているから、

会ってもそんなに違和感は無いかもしれないけどな」

「その話は聞いてるけど、どれくらい似てるのか凄く楽しみ」

 

 そして二人は赤門へと向かい、適当な駐車場にキットを止め、

そちらに向けて歩き始めた。

 

「そういえば雪乃が、今日は誰かの講演会があって、

それをどうしても聞きたいとか言ってたんだよな」

「へぇ~……赤門で講演会とか、その人も凄そうだよね」

「だな、平凡な成績の俺が聞いても多分分からないと思う」

「あんたは成績はいい方なんでしょ?私もそれなりにいい方だと思うけど、

さすがにこの学校に入れるような成績はしていないから、私にも理解出来なさそう」

 

 二人はそんな会話を交わしながら、赤門の前へとたどり着いた。

丁度その時、中からかなり多くの者達が出てきた為、二人は顔を見合わせた。

 

「なぁ、随分人が多くないか?これって全員講演会を聞きに来た連中か?」

「同じようなパンフレットを持ってるみたいだし、そうなんじゃないかしら」

「凄いな、どんな大物が来たんだ?」

「あ、あそこに看板があるよ……えっと、天才脳科学者来たる、だって」

 

 その言葉を聞いた八幡は、驚きのあまりその場で足を止めた。

 

「………いや、まさかな」

「えっと……今そう呼ばれる人って一人しかいなくない?」

「まじかよ……」

 

 丁度その時、雪乃から八幡に着信が入った。

 

「お、雪乃からだ、おう、俺だ、今どこだ?」

『悪いのだけれど、講堂の裏に来てもらえないかしら、

表から出ると、多分囲まれてしまうから』

「……紅莉栖か?」

『ええ、今一緒なのよ、それじゃあお願いね』

「ああ、分かった」

 

 そして八幡は、詩乃に言った。

 

「やっぱり紅莉栖だったわ、表から出ると囲まれちまうから、講堂の裏に来てくれだそうだ」

「なるほど」

 

 そして二人は目的地へと向かい、人目を避けるように佇む三人の姿を見付けた。

 

「よぉ、凄い人気だな、紅莉栖」

「そうね、さすがにちょっと緊張したわ」

「うっかりヌルポとか言わなかっただろうな?」

「ガッ………あっ!」

「お前それ、もう脳に刷り込まれてるんじゃないのか?」

 

 八幡は呆れたような顔でそう言い、さすがの紅莉栖も気まずそうに目を背けた。

 

「まあいいや、とりあえずこれがシノン、こっちはクリシュナだ、

マックスは詩乃と会うのは初めてだよな、そういえば詩乃と紅莉栖は多分同い年だな」

 

 八幡は二人を簡単にそう紹介した。

 

「朝田詩乃よ、宜しくね、紅莉栖」

「牧瀬紅莉栖よ、同年代の友達が増えるのって凄く嬉しい、宜しくね、詩乃」

「うわぁ、イクスって本当にゲームの中と同じ顔なんだ」

「シノンは思ってたのと違う……もっと気が強そうなのかと思ってた。

まあ雪乃の時ほどの衝撃は無いけど」

「………も、もうその話はいいじゃない、さあ八幡君、行きましょう」

 

 雪乃にそう言われ、八幡は紅莉栖にこう尋ねた。

 

「そうだな、それじゃあ俺達は行くが、紅莉栖はこの後どうするんだ?」

「主催者の人に挨拶をして帰るだけなんだけど、

その後は特に予定も無いし、せっかくだから、私もその勉強会にお邪魔しようかしら」

「お、そうするか?それじゃあここで待ってるわ」

「うん、ちょっと待ってて」

 

 こうして紅莉栖も勉強会に参加する事となり、五人は八幡のマンションへと向かった。

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