ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第044話 二人なら

リズベットが家を買う宣言をしてから三ヶ月。

ハチマンやアスナの協力もあり、

どうやらリズベットは、目標の金額を貯める事に成功したようだ。

リズベットらしい事に、内装やらの、室内にかかる経費の事は忘れていたようで、

結局ハチマンに、決して安くは無い金額を借りる事になったのだが。

 

「店の名前は決まったのか?」

「うん。普通にリズベット武具店に決めた」

「いいんじゃないかな。なんかしっくりくるよ」

「残ってる仕事は何だ?」

「商品のストックがちょっと足りないかな」

「それじゃちょっと素材を集めに行くか」

「ありがとう!」

 

 こうして店としての体裁も完全に整い、ついにオープンの日がやってきた。

宣伝をしているわけではないので、いきなり沢山の客が殺到する事はなかったが、

アスナの伝手で血盟騎士団のメンバーが数人訪れたり、

露店時代からの常連が数人訪れてくれたりしたので、店の滑り出しは上々と言えた。

今後もハチマンが、安価で素材を供給し続けるはずなので、店の将来も明るい事だろう。

 

 

 

 数日後、珍しくエギルからハチマンに連絡があった。どうやら相談があるようだ。

ハチマンは、エギルの露店へと向かった。

 

「よお、悪いな。わざわざ来てもらって」

「いや、特に問題はない」

「今日来てもらったのは、ほら、先日リズが店を開いただろう?

それで俺も、そろそろ自分の店を持ちたくなってな」

「なるほどな」

「で、いくつか目をつけてる場所があるんだが、ハチマンの目から見てどうか、

一緒に回ってアドバイスをして欲しいんだよ」

「俺にどこまでアドバイスが出来るかわからないが、別に構わないぞ」

「すまん、助かるぜ」

 

 二人はいくつかの候補地をまわり、色々話し合った。

その結果、プレイヤーハウスよりは、どこかの建物の一室の方がいいだろうという話となり、

五十層の主街区アルゲードにある、とある建物の中の一室を二人とも気に入ったため、

結局そのままそこに決定する事になった。

 

「金はあるのか?」

「元々家も考慮に入れてたからな。この規模ならまあ余裕だな」

「しかし知り合いが連続して正式に店を開く事になるとは、何か感慨深いな」

「そろそろ職人プレイヤーも揃ってきたし、前線を支える体制は整ってきたな」

「まあ、いくつか危惧してる事はあるんだがな」

「何だ?」

「このまま、この世界にいるのもいいんじゃないかと思う奴が増えてくる可能性だな」

「……確かにな。特に下層の連中に、そういう奴が多い気もするな」

「この世界が永遠に続くなら、そういう選択肢があってもいいんだ。だがな」

 

 ハチマンは、少し暗い表情になり、話を続けた。

 

「なあエギル、現実世界での俺達の体ってどうなってると思う?」

「そりゃあ、死んでないわけだから、恐らく病院にでも収容されてるんだろうな」

「まあそうだな。そこでだ。

人が病院でずっと寝たまま、点滴のみでずっと栄養を補給されるだけでいたら、どうなる?」

「そりゃぁ……」

「おそらく、死なないとしても、必ずどこかがおかしくなる」

「そう……だよな」

「ああ。この世界には、そう言った意味で、多分限界があるんだよ。

俺達は、心だけで成立している生き物ではないからな」

「可能な限り早く攻略しないと、いずれ全滅、か……」

「更には、その事に思い至って自暴自棄になり、

無差別にプレイヤーを殺して回る奴が現れないとも限らない。

もちろん好んでそういう事をする奴もいるだろうがな」

「なるほど………」

「なんか暗い話になっちまったな、すまん」

「いや、俺も最近そういう事をまったく考えないようになってたからな。

思い出させてもらって、逆に助かったよ」

「俺達に出来る事は攻略しかないから、戦い続けるしかないな」

「ああ、そうだな」

「それじゃ、店の開店準備頑張れよ。何かあったらいつでも連絡してくれ」

「おう、すまなかったな、ハチマン。ありがとな!」

 

 ハチマンはひらひらと手を振り、自宅へと戻っていった。

 

 

 

 攻略も無事再開されて、数ヶ月。今の最前線は五十八層だった。

その日の攻略を終え、家でゆっくりしていたハチマンに、アルゴから連絡があった。

どうやら何か事件があり、手伝ってほしいようだ。

話を聞くと、最近三十台の層で、PKが多発しているらしい。

 

「オレっちの推測だと、これは組織的な動きだナ」

「根拠は何かあるのか?」

「どのケースも、一度に複数の人間が死んでるんだヨ」

 

 ハチマンは考え込んだ。

 

「つまり、ある程度の人数で囲んて殺したとかそういう事を言いたいのか?」

「まあ、そうだナ」

「しかし、パーティとパーティのぶつかり合いになると、

そう簡単に死者は出ないんじゃないのか?それよりは、俺やキリトみたいなのが、

パーティ全員をまとめて殲滅してるって方がしっくりくる考えな気もするんだが」

「例え中層とはいえ、今それが出来るの力があるのは、攻略組の中でも数人だヨ」

「可能性としてはまずありえないって事か」

「そういうこっタ」

 

 ハチマンは再び考え込んだが、何かに気付いたように言った。

 

「なるほど、つまりどんなに可能性が低くても、

それが可能な人間は存在する。つまり、キリトが犯人だ。今すぐ捕まえるぞ」

「ハー坊……」

「冗談だよ。それじゃ、何か事件に共通する部分とかないのか?」

「いくつかの案件で、数回同じ人物だけが生き残ってる」

「なるほど、囮か」

「スパイみたいな奴が、襲いやすい地形に誘導してるのかもしれないナ」

「そいつをマークすればいいか?」

「まあ、まずはそこから始めるしか無さそうなよナ」

「そいつの名前は?」

「ロザリアって奴だな。ハー坊の嫌いなタイプだよ」

「嫌いなタイプねぇ……まあちょっと調べてみるわ」

「すまないが頼むヨ」

 

 ハチマンは調査を開始し、ほどなくして目的の人物を見つけた。

ハチマンの観察の結果、ロザリアは確かにハチマンの嫌いなタイプだった。

 

(自分に自信を持ってて、なおかつ嫉妬深い。確かに嫌いなタイプだ)

 

 ハチマンは、しばらくロザリアを尾行する事にした。

どうやら四十七層に拠点を持っているようだ。

 

(ここか……あからさまだな。いかにも私は普通のプレイヤーで、

こういう場所が好きですってアピールしてるようにしか見えないが)

 

 ハチマンは、その後もずっとロザリアを観察し続けた。

とある日ロザリアが、フードで顔を隠して家を出たのを見て、ハチマンは、

どうやら手がかりが掴めそうだと思い、そのまま尾行する事にした。

ロザリアは、十九層へと転移したようだ。

 

(いかにもって感じだよな……っと、あいつは確か……そうか、ここで繋がるのか)

 

 ハチマンが見たのは、ずっと行方不明になっていたジョーと会うロザリアだった。

どうやらこれで間違いないらしい。

ずっと見失っていたあの連中と繋がった事で、ハチマンはロザリアが犯人一味だと確信した。

 

 

 

 ロザリアは最近、シルバーフラグスというギルドに接触しているらしかった。

ロザリアは、その連中と一緒に何度か狩りに行っていたが、

誰かに襲われるというような気配はまだまったく無かった。

ハチマンは今日も、ロザリアを徹底マークしていたが、その日はどうやら動きがないようだ。

尚もロザリアの動向を見張っていたハチマンの元に、アルゴから急報が入った。

どうやらシルバーフラグスのメンバーが、リーダー一人を残して全滅したらしい。

 

(まさか……ロザリアは今日はまったく動いてないぞ)

 

「アルゴ、何があった」

「一人生き残ったリーダーに話を聞いたんだが、

どうやらロザリアに、いくつか実入りのいい狩場の情報を教えてもらってたらしくてな、

そのうちの一つに行った時、急に襲われたらしい。

巧妙な事に、他の狩場は実際確かにいい狩場だったから、

恐らく一ヶ所でずっと待ち伏せしてたんだと思うが、確実な証拠は残してないんだよナ」

「くそっ、マークするべきはそっちだったか。俺の失態だ……」

「いや、オレっちもそこまでは予測できなかった。

今回はオレっちの失態でもあるんだよ。そこで、次の手だナ」

「何かあるのか?」

「よお、ハチマン。話は全部聞いたよ」

「キリト……」

「ハー坊には、そのままロザリアのマークをしてもらう。

そして、現地にキー坊を派遣する。これで絶対に次は無いはずダ」

「キリト、俺は……」

「ハチマン一人で何でも背負おうとするなって。二人なら絶対負けない、そうだろ?」

「あ、ああ、そうだな。キリト頼む、力を貸してくれ」

「どうやら生き残ったリーダーが、あいつらを牢獄に入れてくれと、

回廊結晶を持って五十一層で訴えてるらしいゾ」

「殺してくれ、じゃなく、牢獄に入れてくれ、か」

「そいつらを殺したくてたまらないだろうにな。そのリーダーはすごいな」

「その気持ちに応えるためにも、その依頼、俺達で受けよう、キリト」

「ああ。アルゴ、そいつらのギルドの名前は調べがついてるのか?」

「オレンジギルド、タイタンズハンドって言うらしいゾ」

「よし、俺達二人で必ず、タイタンズハンドを潰すぞ」


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