羽田空港で飛行機を待っている間、
明日奈はACS(アルゴ製AIコミュニケーションシステム)で、仲間達と会話していた。
今ACSにログインしているのは、詩乃、優美子、紅莉栖だった。
『羽田空港なう!』
『あ~し、北海道って行った事無いわ』
『私も無いなぁ』
『私も!』
『ここから一時間半なんだって、早いよね』
『うっそ、そんな近いんだ』
『時間的にはそんなものなのね』
『そろそろ搭乗時間だ、楽しみだなぁ』
そして明日奈はスマホを機内モードに設定し、飛行機へと乗り込んだ。
『座席なう!』
『気を付けて行ってくるし』
『お土産も宜しくね!』
『うん、頑張って何か見付けるね』
『八幡は何だって?』
『白い恋人ドリンクだって』
『八幡らしいわね……』
『こっちも今出発、八幡が陽乃さんから鍵をもらってる』
『管理人さんっていないんだ』
『もうすぐ雇うみたい、って事は新築なんだね』
『いいなぁ、私も行きたかったな』
『八幡が、羨ましいか?って紅莉栖に言ってるよ』
『ヽ(*゚д゚)ノ<カイバえぐるぞごるぁ』
『よく分からないけど、ぬるぽ、だってさ』
『ガッ』
『紅莉栖、何それ?』
『えっ、あっ、えっと……い、一般的なお約束みたいな……』
『ふ~ん、八幡は、ネラー乙って言ってるけど……』
『八幡……帰ってきたら本当に海馬をえぐるからね……』
『ところで詩乃、テストはどうだった?』
『あっ、そうだ、ありがとう紅莉栖、凄くいい点が取れた……』
『そう、それなら良かったわ』
『友達に、あんた本当に詩乃?実はAIだったりしない?って散々いじめられた……』
『ヽ(*゚д゚)ノ<カイバのチカラね』
『紅莉栖のそのネタ、意味がよくわからないんだけど』
『えっと、カイバってのは……』
『あ~ストップストップ、あーし達には難しすぎるから、今度明日奈に直接説明してあげて』
『オーケー、明日奈、今度キッチリ時間をかけて説明してあげるわ』
『突っ込んだのはやぶ蛇だった!?』
『あっ、もうすぐ目的地に着くみたい』
『早っ!』
『もうそんなに経った?』
『実はこっちもそろそろ軽井沢よ』
『軽井沢と北海道が同じ距離に聞こえるわね』
『もう同じって事でいいんじゃね?』
『そんな訳無いからね!?』
「でも本当に早いなぁ……」
四人で雑談をしているうちに、飛行機はあっという間にとかち帯広空港へと到着した。
明日奈はACSに、『北海道なう!』と打ち込むと、
飛行機が停止するのを待ってそのまま飛行機を降りた。
そして今、明日奈達は、先方からの迎えを待っている所である。
明日奈は今のうちにトイレに行っておこうと思い、しばらく席を外す事にした。
戻ってくると、一人の女性が両親と兄に話しかけている所だった。
(あっ、迎えの人が来たのかな、急がないと)
明日奈はそう思い、小走りに両親達の所に戻った。
「ごめんなさい、お待たせしました!」
「明日奈、こちらは篠原さんだ、先方のご親戚だそうだ」
「初めまして、結城明日奈です、今日はお世話になります」
「これはこれはご丁寧に……って、副団長!?」
「えっ!?」
明日奈はいきなりそう呼ばれ、驚いて顔を上げた。
そこにあったのは、先月東京で会った、篠原美優ことフカ次郎の顔だった。
「あれ?えっ?フカちゃん?」
「明日奈、篠原さんと知り合いか?」
兄である浩一郎にそう聞かれ、明日奈は仕方なくこう答えた。
「あ、うん、えっと、うちのメンバー……」
「うちっていうと、最強と名高い八幡君のギルド、『ヴァルハラ・リゾート』のメンバー?
そっかぁ、篠原さんって凄く強いんだ」
「兄さん、何でそんな事を知ってるの……」
「お前が思ってるよりも、遥かにあのギルドは有名だからな?」
「そ、そうなんだ……」
そうすると、派手な戦闘とかをしたら直ぐに家族にバレてしまうのだろうかと、
明日奈は冷や汗をかいた。そんな明日奈の手を、美優は感激したように握った。
「という事は、副団長がうちの親戚に!?」
「あ、うん、そういう事になるね、まあ兄さんがふられなければだけど」
「おい明日奈、縁起の悪い事を言うなよ……」
「じゃ、じゃあ……」
そして美優は、若干興奮した様子で明日奈に尋ねた。
「も、もしかして、いずれ私もリーダーの一族に!?」
「あ、うん、それは間違いないね、もう確定事項」
「そっちは確定なのかよ……」
浩一郎にそう言われた明日奈は、ニコニコしながらこう言った。
「当たり前じゃない、ね?お父さん、お母さん」
「だな、言うまでもない事だ、おい浩一郎、お前は一体何を言ってるんだ?」
「そうよそうよ、だから浩一郎は駄目なのよ、もっと色々と精進しなさい」
「八幡君を基準にされても……」
浩一郎は落ち込んだように、その場でいじけ始めた。
そんな家族の会話を聞きながら、美優は興奮したようにいきなり叫びだした。
「来たああああああ!棚ボタで強力なコネ来たあああああああ!フカちゃん大勝利!」
「ふふっ、相変わらず正直だね、フカちゃん。
まあ八幡君を裏切らない限りは大丈夫だと思うよ」
「そんな事は絶対にしないよ!私の忠誠心はダイヤモンド並に強固だよ!」
「そ、それならいいんじゃないかな」
そして美優は、落ち込む浩一郎の手を取りながら言った。
「お兄さん、お願いしますよ、絶対にうちの従姉妹をものにして下さいね!
既成事実が必要なら協力は惜しみませんから!」
「あ、はい、さすがにこの段階で破局になる事は無いと思うので、
まあそれは大丈夫だと思います………多分。でも既成事実って、さすがにそれは……」
「ほら、もっと自信を持って!いざとなったら名目だけは私が嫁いで、
仮面夫婦生活を送るという手がありますから!」
「あ、あは……」
その言葉に、浩一郎は苦笑する事しか出来なかった。
「よし、もしそうなったら、八幡君と明日奈の子供を養子にもらうんだぞ、浩一郎」
「これでうちも安泰ね!」
「父さんも母さんも何言ってるの……ていうか八幡君の事を好きすぎでしょ……」
「兄さん、私と八幡君の子のどこに不満があるの?」
「お前もか、明日奈……」
そんな会話をしながらも、明日奈はACSでこの事を報告しており、
それを見た美優もACSにログインし、二人は記念撮影をした後、同時に報告を行った。
『北海道でフカちゃんと遭遇!』
『ラブラブなこの姿を見よ!』
そして二人が写った写真が表示され、他の三人は驚いた。
『えっ?何それ、凄い偶然だし』
『空港にフカがいたの?』
『それが偶然じゃないんだなぁ』
そして美優は、続けてこう書き込んだ。
『フカは今度、リーダーと副団長の親戚になります!』
『えっ、どういう事?』
『まさか明日奈のお兄さんのお相手が、フカの親戚だったの?』
『うん、従姉妹』
『本当に?それは凄い偶然ね』
『空港にいたのは偶然じゃないけど、そっちは本当に偶然だった!』
『今八幡が、それは御免だ、今すぐこっちに戻ってこい明日奈、って言ってる』
『リーダーはこのかわいいフカちゃんの事が好きだから、わざといじめてくるんですね!』
『うぜえ、だってさ』
『はいはい、八幡君も、そのくらいにしてあげてね』
『明日奈がそう言うなら仕方ないが、調子に乗るなよ、だってさ』
『かしこまり!』
『あ、それなら明日奈、フカに北海道を案内してもらえばいいんじゃね?』
『案内?任せて任せて!』
『いいの?それじゃあお願いしよっかな』
そして明日奈は顔を上げ、笑顔で美優に言った。
「先ず最初に、白い恋人ドリンクを売ってるお店を教えて?八幡君の希望なの!」
「ガッテン承知!」
そして二人は未だに両親にからかわれている浩一郎に声を掛けた。
「ほら兄さん、そろそろ行くよ」
「お父様もお母様も、うちの従姉妹も私同様ちょろいですから、
何も心配する事はありませんよ」
「フカちゃん、凄い自虐ネタだね……」
そして五人は美優の車に乗り込み、美優の従姉妹の家へと向かった。
一方その少し前、詩乃は八幡に、ACSの画像を見せながら今の状況を説明していた。
「はぁ?浩一郎さんの相手が美優の従姉妹だと!?」
「うん、何かそうみたい」
「それは御免だ、今すぐこっちに戻ってこい明日奈、とでも言っとけ」
「分かった、そうする」
エルザとクルスも後ろから、興味深そうにその画面を覗き込んだ。
「本当だ、凄い偶然だよね」
「ACSかぁ、私の旧型携帯じゃ使えないんだよなぁ」
「スマホに買い換えたら?」
「これが壊れたらね」
「しかしまあ、これが美優の陰謀だとしても、俺は驚かんがな」
「さすがにそれは無いでしょ」
そして画面に、かわいいフカちゃん云々の、美優のセリフが表示された瞬間、
八幡は間髪入れずにこう言った。
「うぜえ……」
その言葉を詩乃が素直に打ち込んだ瞬間、明日奈にたしなめられた八幡は、
苦々しい表情をしながらこう言った。
「明日奈がそう言うなら仕方ないが、調子に乗るなよってあいつに言っとけ」
「了解」
丁度その頃碓氷軽井沢インターに着いた為、四人は一旦ACSの画面から目を離した。
「トンネルを抜けて直ぐ出口になるのか、道幅も細めだし、凄い所だな」
「1/9、2/9って何の表示かと思ったら、トンネルの本数なんだね」
『ちなみにここは、まだ群馬県ですよ、八幡』
「キット、そうなのか?」
「はい、軽井沢駅前までは、まだかなり距離があります」
「そうなのか、さすがに避暑地であり観光地なだけあって、
駅前にインターは作れなかったんだろうな」
『でしょうね』
そして一般道に出たあと、うねる山道を進んでいくと、前方にゴルフ場が現れた。
「右も左もゴルフ関連施設ばっかりだな」
「だね、あ、段々開けてきたね」
「浅間山って何か微妙……」
エルザが景色を見ながらそう言った。
確かに目の前に見える浅間山のフォルムは、中腹に大穴が開いていて微妙に見える。
『隣の町から見ると、まったく違うように見えますよ、今画像を出します』
そう言ってキットが映し出した浅間山の風景は、
とても雄大な裾野の広がる山に見えた。
「わっ、本当だ、全然違う山に見える」
「どこから見ても雄大に見える富士山が、それだけ偉大って事だな」
「だね!」
「で、キット、うちの保養所はどこにあるんだ?」
『旧軽井沢の近くですね』
「よくそんな所を買ったな……」
『実は雪ノ下建設の元所有地だったらしいですね、買い手がつかなくて困っていたようです』
「そういう事か……」
そしてキットが、まもなく到着する事を告げた。
その直後に、八幡達の目の前に、特徴のあるロータリーが現れた。
「これは?」
『六本辻ですね、時計周りにしか走れないので注意して下さい』
「ほうほう」
そして六本辻を抜けた後、少し先を左に入ると、八幡達の前に、
新築のログハウス調の建物が見えてきた。
「ここか?」
『はい、ここですね』
「庭は綺麗に木で囲ってあるが、中央部分には木が少ないんだな」
『木が多いと、特に松の木の葉とかが堆積すると、建物の屋根の部分をひどく傷めますから』
「なるほどな、まあいいんじゃないか?バーベキューとかも出来そうだ」
『ちなみにセキュリティはかなり固いようですよ』
「そうは見えないが……」
『実は外から中が見えないように、この建物は、立体映像を駆使して隠されているようです』
そのキットの説明に八幡は唖然とした。
「何だそれ、もしかして、晶彦さんの隠れ家に使われていた技術か?」
『らしいですね、それをそのままここに持ってきたとか』
「まじかよ……そこまでするのか」
『まあ要人との会談に使われる事もあるみたいで、
保養所とは名ばかりの簡易要塞といってもいいくらいらしいです。
ちなみに一般社員用の施設も別にありますよ』
「そういう事か……まあ必要だから作ったんだと思うが、あの馬鹿姉め……」
ちなみにこの施設、オフシーズンにはソレイユの技術力をアピールする為の、
観光施設として活用される予定であった。
「まあいいや、とりあえず中に入ってみようぜ」
「うん!」
「一々やる事が凄いですね」
「本当にそうよね、さすが魔王様というか何というか」
「まあでもそのおかげでこうして観光に来れたんだし、社長様々だね」
「だな」
こうして四人は建物に入ると、部屋決めをした後、中の施設を見て回った。
「この建物、二階は漢字の『回』みたいになってんのか」
「中央のこれってお風呂じゃない、しかもこれ、上の屋根が開くの?」
「らしいな、露天風呂風のイメージになってんのか」
「中身は色々と最新技術で溢れてますね」
「とりあえず部屋に荷物を置いた後、適当にのんびりしてから出掛けるか」
「私、モカソフトが食べたい!」
「好きなだけ食べるといい………自分の金でな」
「当たり前じゃない、私を誰だと思ってるの!」
「変態」
「もう~、だから褒めすぎだってばぁ……」
「お前は相変わらずだな……」
こうして四人は、しばらくくつろいだ後、歩いて街へと繰り出す事にした。
軽井沢は地元なのでそれなりに書けますが、北海道は未知の土地なので、描写は詳しくはなりません!