ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第448話 北国と山国

 羽田空港で飛行機を待っている間、

明日奈はACS(アルゴ製AIコミュニケーションシステム)で、仲間達と会話していた。

今ACSにログインしているのは、詩乃、優美子、紅莉栖だった。

 

『羽田空港なう!』

『あ~し、北海道って行った事無いわ』

『私も無いなぁ』

『私も!』

『ここから一時間半なんだって、早いよね』

『うっそ、そんな近いんだ』

『時間的にはそんなものなのね』

『そろそろ搭乗時間だ、楽しみだなぁ』

 

 そして明日奈はスマホを機内モードに設定し、飛行機へと乗り込んだ。

 

『座席なう!』

『気を付けて行ってくるし』

『お土産も宜しくね!』

『うん、頑張って何か見付けるね』

『八幡は何だって?』

『白い恋人ドリンクだって』

『八幡らしいわね……』

 

『こっちも今出発、八幡が陽乃さんから鍵をもらってる』

『管理人さんっていないんだ』

『もうすぐ雇うみたい、って事は新築なんだね』

『いいなぁ、私も行きたかったな』

『八幡が、羨ましいか?って紅莉栖に言ってるよ』

『ヽ(*゚д゚)ノ<カイバえぐるぞごるぁ』

『よく分からないけど、ぬるぽ、だってさ』

『ガッ』

『紅莉栖、何それ?』

『えっ、あっ、えっと……い、一般的なお約束みたいな……』

『ふ~ん、八幡は、ネラー乙って言ってるけど……』

『八幡……帰ってきたら本当に海馬をえぐるからね……』

 

『ところで詩乃、テストはどうだった?』

『あっ、そうだ、ありがとう紅莉栖、凄くいい点が取れた……』

『そう、それなら良かったわ』

『友達に、あんた本当に詩乃?実はAIだったりしない?って散々いじめられた……』

『ヽ(*゚д゚)ノ<カイバのチカラね』

『紅莉栖のそのネタ、意味がよくわからないんだけど』

『えっと、カイバってのは……』

『あ~ストップストップ、あーし達には難しすぎるから、今度明日奈に直接説明してあげて』

『オーケー、明日奈、今度キッチリ時間をかけて説明してあげるわ』

『突っ込んだのはやぶ蛇だった!?』

 

『あっ、もうすぐ目的地に着くみたい』

『早っ!』

『もうそんなに経った?』

『実はこっちもそろそろ軽井沢よ』

『軽井沢と北海道が同じ距離に聞こえるわね』

『もう同じって事でいいんじゃね?』

『そんな訳無いからね!?』

 

「でも本当に早いなぁ……」

 

 四人で雑談をしているうちに、飛行機はあっという間にとかち帯広空港へと到着した。

明日奈はACSに、『北海道なう!』と打ち込むと、

飛行機が停止するのを待ってそのまま飛行機を降りた。

そして今、明日奈達は、先方からの迎えを待っている所である。

明日奈は今のうちにトイレに行っておこうと思い、しばらく席を外す事にした。

戻ってくると、一人の女性が両親と兄に話しかけている所だった。

 

(あっ、迎えの人が来たのかな、急がないと)

 

 明日奈はそう思い、小走りに両親達の所に戻った。

 

「ごめんなさい、お待たせしました!」

「明日奈、こちらは篠原さんだ、先方のご親戚だそうだ」

「初めまして、結城明日奈です、今日はお世話になります」

「これはこれはご丁寧に……って、副団長!?」

「えっ!?」

 

 明日奈はいきなりそう呼ばれ、驚いて顔を上げた。

そこにあったのは、先月東京で会った、篠原美優ことフカ次郎の顔だった。

 

「あれ?えっ?フカちゃん?」

「明日奈、篠原さんと知り合いか?」

 

 兄である浩一郎にそう聞かれ、明日奈は仕方なくこう答えた。

 

「あ、うん、えっと、うちのメンバー……」

「うちっていうと、最強と名高い八幡君のギルド、『ヴァルハラ・リゾート』のメンバー?

そっかぁ、篠原さんって凄く強いんだ」

「兄さん、何でそんな事を知ってるの……」

「お前が思ってるよりも、遥かにあのギルドは有名だからな?」

「そ、そうなんだ……」

 

 そうすると、派手な戦闘とかをしたら直ぐに家族にバレてしまうのだろうかと、

明日奈は冷や汗をかいた。そんな明日奈の手を、美優は感激したように握った。

 

「という事は、副団長がうちの親戚に!?」

「あ、うん、そういう事になるね、まあ兄さんがふられなければだけど」

「おい明日奈、縁起の悪い事を言うなよ……」

「じゃ、じゃあ……」

 

 そして美優は、若干興奮した様子で明日奈に尋ねた。

 

「も、もしかして、いずれ私もリーダーの一族に!?」

「あ、うん、それは間違いないね、もう確定事項」

「そっちは確定なのかよ……」

 

 浩一郎にそう言われた明日奈は、ニコニコしながらこう言った。

 

「当たり前じゃない、ね?お父さん、お母さん」

「だな、言うまでもない事だ、おい浩一郎、お前は一体何を言ってるんだ?」

「そうよそうよ、だから浩一郎は駄目なのよ、もっと色々と精進しなさい」

「八幡君を基準にされても……」

 

 浩一郎は落ち込んだように、その場でいじけ始めた。

そんな家族の会話を聞きながら、美優は興奮したようにいきなり叫びだした。

 

「来たああああああ!棚ボタで強力なコネ来たあああああああ!フカちゃん大勝利!」

「ふふっ、相変わらず正直だね、フカちゃん。

まあ八幡君を裏切らない限りは大丈夫だと思うよ」

「そんな事は絶対にしないよ!私の忠誠心はダイヤモンド並に強固だよ!」

「そ、それならいいんじゃないかな」

 

 そして美優は、落ち込む浩一郎の手を取りながら言った。

 

「お兄さん、お願いしますよ、絶対にうちの従姉妹をものにして下さいね!

既成事実が必要なら協力は惜しみませんから!」

「あ、はい、さすがにこの段階で破局になる事は無いと思うので、

まあそれは大丈夫だと思います………多分。でも既成事実って、さすがにそれは……」

「ほら、もっと自信を持って!いざとなったら名目だけは私が嫁いで、

仮面夫婦生活を送るという手がありますから!」

「あ、あは……」

 

 その言葉に、浩一郎は苦笑する事しか出来なかった。

 

「よし、もしそうなったら、八幡君と明日奈の子供を養子にもらうんだぞ、浩一郎」

「これでうちも安泰ね!」

「父さんも母さんも何言ってるの……ていうか八幡君の事を好きすぎでしょ……」

「兄さん、私と八幡君の子のどこに不満があるの?」

「お前もか、明日奈……」

 

 そんな会話をしながらも、明日奈はACSでこの事を報告しており、

それを見た美優もACSにログインし、二人は記念撮影をした後、同時に報告を行った。

 

『北海道でフカちゃんと遭遇!』

『ラブラブなこの姿を見よ!』

 

 そして二人が写った写真が表示され、他の三人は驚いた。

 

『えっ?何それ、凄い偶然だし』

『空港にフカがいたの?』

『それが偶然じゃないんだなぁ』

 

 そして美優は、続けてこう書き込んだ。

 

『フカは今度、リーダーと副団長の親戚になります!』

『えっ、どういう事?』

『まさか明日奈のお兄さんのお相手が、フカの親戚だったの?』

『うん、従姉妹』

『本当に?それは凄い偶然ね』

『空港にいたのは偶然じゃないけど、そっちは本当に偶然だった!』

『今八幡が、それは御免だ、今すぐこっちに戻ってこい明日奈、って言ってる』

『リーダーはこのかわいいフカちゃんの事が好きだから、わざといじめてくるんですね!』

『うぜえ、だってさ』

『はいはい、八幡君も、そのくらいにしてあげてね』

『明日奈がそう言うなら仕方ないが、調子に乗るなよ、だってさ』

『かしこまり!』

『あ、それなら明日奈、フカに北海道を案内してもらえばいいんじゃね?』

『案内?任せて任せて!』

『いいの?それじゃあお願いしよっかな』

 

 そして明日奈は顔を上げ、笑顔で美優に言った。

 

「先ず最初に、白い恋人ドリンクを売ってるお店を教えて?八幡君の希望なの!」

「ガッテン承知!」

 

 そして二人は未だに両親にからかわれている浩一郎に声を掛けた。

 

「ほら兄さん、そろそろ行くよ」

「お父様もお母様も、うちの従姉妹も私同様ちょろいですから、

何も心配する事はありませんよ」

「フカちゃん、凄い自虐ネタだね……」

 

 そして五人は美優の車に乗り込み、美優の従姉妹の家へと向かった。

 

 

 

 一方その少し前、詩乃は八幡に、ACSの画像を見せながら今の状況を説明していた。

 

「はぁ?浩一郎さんの相手が美優の従姉妹だと!?」

「うん、何かそうみたい」

「それは御免だ、今すぐこっちに戻ってこい明日奈、とでも言っとけ」

「分かった、そうする」

 

 エルザとクルスも後ろから、興味深そうにその画面を覗き込んだ。

 

「本当だ、凄い偶然だよね」

「ACSかぁ、私の旧型携帯じゃ使えないんだよなぁ」

「スマホに買い換えたら?」

「これが壊れたらね」

「しかしまあ、これが美優の陰謀だとしても、俺は驚かんがな」

「さすがにそれは無いでしょ」

 

 そして画面に、かわいいフカちゃん云々の、美優のセリフが表示された瞬間、

八幡は間髪入れずにこう言った。

 

「うぜえ……」

 

 その言葉を詩乃が素直に打ち込んだ瞬間、明日奈にたしなめられた八幡は、

苦々しい表情をしながらこう言った。

 

「明日奈がそう言うなら仕方ないが、調子に乗るなよってあいつに言っとけ」

「了解」

 

 丁度その頃碓氷軽井沢インターに着いた為、四人は一旦ACSの画面から目を離した。

 

「トンネルを抜けて直ぐ出口になるのか、道幅も細めだし、凄い所だな」

「1/9、2/9って何の表示かと思ったら、トンネルの本数なんだね」

『ちなみにここは、まだ群馬県ですよ、八幡』

「キット、そうなのか?」

「はい、軽井沢駅前までは、まだかなり距離があります」

「そうなのか、さすがに避暑地であり観光地なだけあって、

駅前にインターは作れなかったんだろうな」

『でしょうね』

 

 そして一般道に出たあと、うねる山道を進んでいくと、前方にゴルフ場が現れた。

 

「右も左もゴルフ関連施設ばっかりだな」

「だね、あ、段々開けてきたね」

「浅間山って何か微妙……」

 

 エルザが景色を見ながらそう言った。

確かに目の前に見える浅間山のフォルムは、中腹に大穴が開いていて微妙に見える。

 

『隣の町から見ると、まったく違うように見えますよ、今画像を出します』

 

 そう言ってキットが映し出した浅間山の風景は、

とても雄大な裾野の広がる山に見えた。

 

「わっ、本当だ、全然違う山に見える」

「どこから見ても雄大に見える富士山が、それだけ偉大って事だな」

「だね!」

「で、キット、うちの保養所はどこにあるんだ?」

『旧軽井沢の近くですね』

「よくそんな所を買ったな……」

『実は雪ノ下建設の元所有地だったらしいですね、買い手がつかなくて困っていたようです』

「そういう事か……」

 

 そしてキットが、まもなく到着する事を告げた。

その直後に、八幡達の目の前に、特徴のあるロータリーが現れた。

 

「これは?」

『六本辻ですね、時計周りにしか走れないので注意して下さい』

「ほうほう」

 

 そして六本辻を抜けた後、少し先を左に入ると、八幡達の前に、

新築のログハウス調の建物が見えてきた。

 

「ここか?」

『はい、ここですね』

「庭は綺麗に木で囲ってあるが、中央部分には木が少ないんだな」

『木が多いと、特に松の木の葉とかが堆積すると、建物の屋根の部分をひどく傷めますから』

「なるほどな、まあいいんじゃないか?バーベキューとかも出来そうだ」

『ちなみにセキュリティはかなり固いようですよ』

「そうは見えないが……」

『実は外から中が見えないように、この建物は、立体映像を駆使して隠されているようです』

 

 そのキットの説明に八幡は唖然とした。

 

「何だそれ、もしかして、晶彦さんの隠れ家に使われていた技術か?」

『らしいですね、それをそのままここに持ってきたとか』

「まじかよ……そこまでするのか」

『まあ要人との会談に使われる事もあるみたいで、

保養所とは名ばかりの簡易要塞といってもいいくらいらしいです。

ちなみに一般社員用の施設も別にありますよ』

「そういう事か……まあ必要だから作ったんだと思うが、あの馬鹿姉め……」

 

 ちなみにこの施設、オフシーズンにはソレイユの技術力をアピールする為の、

観光施設として活用される予定であった。

 

「まあいいや、とりあえず中に入ってみようぜ」

「うん!」

「一々やる事が凄いですね」

「本当にそうよね、さすが魔王様というか何というか」

「まあでもそのおかげでこうして観光に来れたんだし、社長様々だね」

「だな」

 

 こうして四人は建物に入ると、部屋決めをした後、中の施設を見て回った。

 

「この建物、二階は漢字の『回』みたいになってんのか」

「中央のこれってお風呂じゃない、しかもこれ、上の屋根が開くの?」

「らしいな、露天風呂風のイメージになってんのか」

「中身は色々と最新技術で溢れてますね」

「とりあえず部屋に荷物を置いた後、適当にのんびりしてから出掛けるか」

「私、モカソフトが食べたい!」

「好きなだけ食べるといい………自分の金でな」

「当たり前じゃない、私を誰だと思ってるの!」

「変態」

「もう~、だから褒めすぎだってばぁ……」

「お前は相変わらずだな……」

 

 こうして四人は、しばらくくつろいだ後、歩いて街へと繰り出す事にした。




軽井沢は地元なのでそれなりに書けますが、北海道は未知の土地なので、描写は詳しくはなりません!

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