ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第451話 更なるトラブル

「ふう、ひどい目にあった……これだからあいつらは困る……」

 

 八幡は少しのぼせたのか、上半身裸のままベッドに横たわり、そう呟いた。

丁度その時和人から着信があり、八幡は手を伸ばしてスマホを持ち、電話に出た。

 

「おう、どうかしたか?」

『旅行中に悪いな、実はさ……』

 

 そして和人は、今日の出来事を八幡に説明した。

 

「ほう?元タイタンズハンドのメンバーねぇ」

『あ、それだそれ、確かそんな名前だったよな』

「まあどんな敵が来ても、俺達がやる事は一緒なんだけどな」

『殲滅あるのみだな』

 

 八幡と和人は電話を挟んで頷き合った。

 

「だな、しかしそういう事なら、小猫をALOにコンバートさせるべきか?」

 

 その八幡の言葉に、和人は少し考えた後にこう答えた。

 

『確かに直接話すくらいはさせた方がいいかもだし、

決裂しても、本人に叩きのめされた方が、あいつらの心は折りやすいかもしれないな、

あいつら明らかにロザリアを下に見てるような態度をとってたし』

 

 八幡はその言葉に一瞬沈黙した後、イラっとした口調で言った。

 

「うちの小猫がそいつらより下だと?許せんな」

『ああ、だから俺もつい、お前らとロザリアを一緒にすんなって言っちまったんだよ』

「よくやった和人、さすがは俺の親友だ」

『だってよ、ロザリア……薔薇さん、凄く頑張って働いてるじゃないかよ、

表情も目付きも昔と違って柔らかくなったし、何より一緒にいて面白いし』

「それを聞いたら小猫も喜ぶだろうな」

『まあそれが絶対的な事実だからな』

 

 八幡と和人は、再び電話を挟んで頷き合った。

 

「それじゃあタイミングを見て小猫をALOにコンバートさせるとするわ、

GGOにはコピーキャットを残せばとりあえずいいだろ」

『コピーキャット?何だそれ?』

「BoBの時に小猫が使ってたキャラだな」

『なるほど、それじゃあそういう事で』

「おう、わざわざ連絡ありがとうな」

 

 八幡は電話を切ると、直ぐに薔薇に電話を掛けた。

 

「おう、遅い時間に悪いな」

「あら、もう私の声が聞きたくなったの?」

「すみません、掛け間違えました」

「あっ、ちょっと……」

 

 そして八幡は電話を切ると、改めて薔薇に電話を掛けた。

 

「おう、遅い時間に悪いな」

「ううん、気にしないで、どう?軽井沢は涼しい?」

「何だ、やれば出来るじゃないか、普通の受け答えが」

「何の事?小猫分かんなぁい」

「お前さ、ちょっとは自分の歳を考えろよな」

「し、失礼ね、まだ若いわよ!でもごめんなさい……」

 

 電話の向こうの薔薇が本当に反省しているようだったので、

八幡は先ほど中途半端に途切れた会話を再開した。

 

「……そうだな、日向はそっちとあまり変わらないが、日陰の涼しさは全然違うな、

あと、夜は少し肌寒いくらいで快適だな」

「いいわね、私も行きたかったな」

「まあそのうちそういう機会もあるだろ」

「そうね、それを楽しみに生きていくわ」

「大げさだなおい」

「で、何か用事でもあるの?」

「おう、さっき和人に聞いたんだけどな」

 

 八幡はそう言うと、今日あった戦闘について、薔薇に説明した。

 

「あの馬鹿ども……」

「実際どうなんだ?今でもお前とそいつらは繋がってるのか?」

「ううん、とっくに番号も消しちゃったし、まったく繋がりは無いわね」

「そうなのか」

「まああいつらは、私の事が大好きだったから、裏切られたと思うのも仕方が無いと思うわ」

 

 八幡はその言葉に一瞬固まり、確認するように薔薇に尋ねた。

 

「おい小猫、それってSAO時代の話か?」

「もちろんそうよ?」

「昔のお前を?」

「当たり前じゃない」

「まじかよ……」

「何でそんなに驚く事があるのよ」

 

 薔薇は、訳が分からないといった口調でそう言った。

 

「いや、だってよ、あの頃のお前が今俺の目の前に現れて、何か喋ったとしたら、

俺は間違いなく全力でお前をぶっ飛ばすっていう確信があるぞ」

「………………ま、まあそれは私自身思わなくもないけど」

「まあいいや、という訳で小猫、お前しばらくALOにコンバートして、

ヴァルハラのゲストになって、自らの口でそいつらと話はしておけよ、

黙っていなくなるようなのは、感情的にやっぱり良くないからな」

「あら、珍しく敵にも優しいのね、その中の誰かと私がくっついたらどうするの?」

 

 薔薇はその指令に対し、そう答えた。

 

「ああん?誰か気になる奴でもいるのか?」

「そういう訳じゃないんだけど」

「なら正式に引導を渡すだけの話だろ、その方向で話を進めてくれ。

もっともあくまでゲストだし、余裕のある時でいいからな」

 

 そのゲストを強調する八幡の態度に引っ掛かるものを感じた薔薇は、

なんとなく八幡に、こう尋ねてみた。

 

「前からたまに思ってたけど、私はヴァルハラの正式メンバーにならなくてもいいの?」

「不要だ」

「そう……」

 

 その薔薇の言葉に、僅かに残念そうな響きを感じた八幡は、

仕方ないといった感じでこう言った。

 

「ラフコフ絡みの案件が大体落ち着いたんだ、お前をゲームの中で遊ばせておく余裕はない。

お前の代わりはいないんだから、お前は常に現実で、俺の声が届く所にいるんだぞ」

 

 その言葉に、薔薇は思わずドキリとした。

まるでプロポーズの言葉のように聞こえたからだ。

薔薇はドキドキする気持ちを抑えながら、八幡に言った。

 

「それは一生?」

「いや、お前自身が望んだ上で、お前にふさわしいと俺が認められる相手が現れたら、

その時は別に結婚退職してもらっても一向に構わないぞ、

その時はお前はうちから嫁に出してやるさ」

「そう、やっぱり一生なのね、まあ別にいいんだけど」

「お前、俺が今言った事をちゃんと聞いてたか?」

「もちろん聞いてたわよ?」

「それならいい。あ、ちゃんと休みはやるから、その時はしっかり休むんだぞ」

「福利厚生の一環として、たまには私とどこかに出掛けてくれてもいいのよ」

「……まあ福利厚生なら仕方ないか、だがあくまで俺の気が向いたらだぞ」

「うん」

 

 そして電話を終えた後、薔薇は一人呟いた。

 

「ちゃんとふれって事でいいのかしら、もう、素直じゃないんだから……

それに私が誰かとくっついても?って聞いた時、微妙にイラついてたような気もするわね」

 

 その事を思い出しながら、薔薇は嬉しそうな顔をすると、今度はこう呟いた。

 

「お前の代わりはいないんだ、か……もう、仕方ないわね、どれだけ私の事が好きなのよ」

 

 

 

 その頃明日奈と美優は、夜の街を二人でドライブしていた。

 

「ふう、お肌が艶々になったよ」

「明日もまた行っちゃう?」

「それでもいいんだけど、温泉でもいいなぁ」

「あ、でも家族の団欒の邪魔をしちゃ悪いか」

「今回の主役は兄さんだし、そういうのは別の機会でいいよ、せっかく美優と会えたんだし」

「それじゃあ明日は温泉だね!」

「うん!」

 

 そしてホテルへ向かう途中、美優が何かに気付いたように、道端に車を停めた。

 

「どうしたの?」

「ううん、あそこって私の友達のコヒーの家なんだけど、

おじさんがいたからちょっと挨拶してもいい?」

「ああ、そういうのって大事だもんね、コヒーって、香蓮さんの事だよね?

学校にも来てたし、歓迎会にもいたよね?まあその二度しか会った事は無いんだけど」

「あ、うん、そうそう、そのコヒーだね」

「でもその時は、どっちもあまり話せなかったんだよね」

「そうだったんだ、ごめん、それじゃあちょっと行ってくる」

 

 そして美優は車を降りると、香蓮の父親に近付いて挨拶をした。

 

「おじさま、こんばんは!」

「お、美優ちゃんじゃないか、久しぶりだね」

「はい、今そこを車で通りかかったんで、挨拶をと思いまして」

 

 そう美優に言われた香蓮の父親は、相好を崩した。

 

「それはそれはご丁寧にありがとうね、あ、そうだ美優ちゃん、

ちょっと変な事を聞いてもいいかい?」

「あ、はい」

「ええと……この前美優ちゃんは、香蓮の所に遊びにいっただろう?

あの子の様子で、何か変わった事は無かったかい?その……恋人がいるとか」

 

 その質問に、美優はあっさりとこう答えた。

 

「コヒーに恋人ですか?いえ、いないと思いますけど」

 

(リーダーの事は、好きな人ってだけで、恋人じゃないしね)

 

「そうかそうか、それじゃあ一応話を進めてみるか……」

「話?」

「ああ、実は今度、香蓮にお見合いの話が持ち上がっていてね、

少し前に、東京で香蓮にパーティーに同席してもらったんだが、

その時その会場にいた若者から、そう問い合わせがあったんだよ」

「あ~………」

 

 そう聞いた美優は、困ったような顔でそう言った。

 

「何か気になる事でも?」

「あ、えっとですね、多分コヒーには、好きな人がいるんじゃないかと……」

「そ、そうなのかい?」

「あ、はい、多分間違いないと思います」

「そうか……まああの子の好きにさせてやりたいが、断るにしても手順があるからなぁ」

「お相手はどんな人なんですか?」

「うちの業界の異端児なんだが、将来性は抜群な男だよ」

「将来性、ですか」

 

 美優は、うちのリーダー程の将来性は無いだろうなと思いつつも、

将来性は恐ろしく高いが、結婚出来る可能性はほぼ皆無な八幡と、

将来性はそれなりだけど、ほぼ確実に結婚出来るその相手とでは、

どちらがいいのか判断に迷うなぁと考えていた。

 

「親としては、香蓮の将来の為にも、より条件のいい方とくっついて欲しいんだけどね」

「あ、それなら東京にいるコヒーの好きな人の方が遥かに上です」

 

 美優はそう断言し、香蓮の父親は驚いた顔をした。

 

「ええっ、本当にかい?香蓮が好きな人は、美優ちゃんの知り合い?」

「あっ……えっと……そうですね」

「どんな人なんだい?」

「え~っと……あまり詳しくは言えないんですが、

誰でも名前を知っているような大企業の後継者で、私も凄く大好きなんですが、

結婚出来る可能性は低い、でもとても私達に良くしてくれる、そんな人です」

「まるで王子様だね、そうか、そんな人が……」

 

 そして香蓮の父親は、少し考えた後に、美優にこう言った。

 

「よし、実際に会いに行ってみるか、その上でどうするか決める事にしよう」

「えっ?」

 

 美優は、これはまずったかもと一瞬考えた。

 

「ちょ、直接会いに行くんですか?八幡さんに」

「その彼は八幡君と言うのかい?ああ、そのつもりだよ。

もしタイミングが合うなら、良かったら美優ちゃんも一緒に来てくれないかい?

私一人だと、香蓮に警戒されそうでね……」

「あ、はい、私で良ければ」

 

 美優は、また八幡に会える、しかも他人のお金で、と現金な事を考えながら、

その頼みを承諾した。

 

「それじゃあまた連絡するよ、宜しくね、美優ちゃん」

「あ、はい、分かりました」

 

 そして車に戻った美優は、明日奈に今の遣り取りを説明した。

 

「あ、あは……」

「ごめん明日奈、何かおかしな事になっちゃって」

「う、ううん、彼女としては複雑だけど、

でも望まぬ結婚を強いられるのは絶対に良くないと思うしね」

 

 明日奈は一瞬須郷の事を思い出してそう言った。

 

「それじゃあ明日奈を送ったら、私がリーダーに説明しておくね」

「うん、私がその話をもう知ってて、内容を承諾してるって事も伝えといて」

「本当にごめんね、明日奈」

「ううん、いいよ、だって私達、親戚じゃない」

 

 その言葉に美優はとても嬉しそうな顔をした。

 

「うん!」

 

 こうして八幡は、更なるトラブルに巻き込まれる事となった。




作者はとんでもない方向に爆走中です!

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