「あ、コヒー?大変だ変態だ大変だ!」
「美優?いきなり自己紹介を始めてどうしたの?」
「ちっが~う!私は変態じゃない、愛の狩人だ!」
「罠を仕掛けて待ち伏せオンリーの狩人?」
「くっ、言うようになったじゃないかコヒー、だが今回罠にはまったのはコヒーなのだ!」
「え?」
香蓮はその美優の言葉に戸惑った。GGOで何か罠にはまった記憶が無いからだ。
「GGOでは罠にはめる事はあってもはめられた事は無いよ?」
「ゲームの話じゃないんだコヒー、
先日コヒーはお父さんに頼まれて、東京でパーティーに出席した、オーケー?」
「あ、うん、よく知ってるね、美優」
「そこで、西山田炎って人と知り合った、オーケー?」
「知り合ったって程じゃないかな、挨拶したくらいだよ」
「でも覚えてはいるんだ」
「まあ、個性的な名前だったから……炎って書いてファイヤって読むしね」
「実際コヒーから見て、そのファイヤ君はどうだったのかね?」
香蓮はそう尋ねられ、ファイヤの顔を思い出そうとしたが、
なんとなくしか思い出す事は出来なかった。
「顔すらハッキリとは思い出せないし、どうだったと言われても……」
「何か言葉を交わしたりしなかったの?」
「ううん、別に。あ、でも私を見る目が普通だったかな、
他の人達は、どうしても私の背の高さを見てぎょっとしたりするしね」
「なるほど、そこは好印象だと」
「そこまでじゃないよ、他にもそういう人がいない訳じゃないし、
名前と身長が普通だったら覚えてなかったと思う」
「………身長が何か?」
「西山田さん、凄く背が小さかったの、
まあ本人はまったく気にしてないみたいだったから、そこは凄いなとは思ったけどね」
「ふむぅ……」
美優は、香蓮のその興味が無さそうな態度を見て、これは脈が無いなと思いつつ、
一応八幡に対する態度と比較してみる事にした。
「ねぇコヒー」
「うん、何?」
「うちのリーダーが……」
「は、八幡君がどうしたの!?もしかして私の事、何か言ってた?」
その香蓮の食いつきの良さに、美優は若干引きぎみになった。
「うわ、分かりやす……」
「え、何が?」
「単刀直入に聞きます、コヒーには今好きな人がいますね?」
「ええっ!?、い、いきなり何を……」
「いますね?」
「う、うん……」
香蓮は恥らいながらもそう答えた。
「そして、今コヒーには、リーダー以外に親しくしている男友達は誰もいませんね?」
「失礼ね!わ、私にだって男友達くらい、い、い……」
「い?」
「いない……けど」
「ああ~もう、何で私はライバルの応援なんかしちゃってるんだ、
意味が分かんねええええええ!」
「み、美優?」
美優はジレンマに陥ったのか、そう絶叫した。
「でも大親友だから仕方ない、仕方ないんだ、
何とか二人とも幸せになれるルートを探さねば……」
「今日はどうしちゃったの美優?やっぱり変態なの?」
「誰が変態か、救いの神に向かって!いいかいコヒー、数日中に、
コヒーのお父さんからコヒーにとんでもない話が告げられると思うけど、
落ち着いて冷静にその話を受けなさい、大丈夫、私もそっちに行くから」
「え、美優がまたこっちに来るの?」
「近いうちにね、という訳で、首を長くして待っているのだよ、コヒー!」
「う、うん、別にいいけど、来る前にはちゃんと連絡してね?」
「アイアイサー!それじゃあおやすみ、コヒー」
「う、うん、おやすみ」
美優は電話を切ると、深呼吸を一つした後、八幡に電話を掛けた。
やはりまだ少し緊張するらしい。
「あ、リーダー?私、えと、フカちゃんです」
「もちろん分かってるが……お前そんな遠慮がちなキャラだっけ?」
「えと……今日は大事なお話があるのです」
「大事な話?まあいいか、聞こう」
「ありがとござます」
そして美優は、ついさっきあった出来事を八幡に説明した。
「ああ?香蓮に見合い話だと?しかも俺を香蓮が好きな人として紹介しただぁ?」
「はいでふ」
「というか香蓮が好きなのが俺とは限らないだろ、
好きな奴なんかいないかもしれないじゃないか」
八幡は往生際が悪くそう言い、美優はそれを真っ向から否定した。
「今好きな人は確かにいるそうでふ、さっきコヒーに聞きました」
「そ、そうか……」
「更に今、コヒーと親しい男性は、リーダーしかいないそうれふ、
男友達も他に誰もいないそうれふ、さっきコヒーに聞きました」
「お、おう……」
「と、いう事はつまり……」
「分かった分かった、俺が悪かった」
「分かればいいのだよ分かれば!」
「調子に乗んな」
「はひ」
そして八幡は、美優に言った。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「何も」
「何も?」
「先方からの申し込みを受けて、会うだけ会ってもらえれば、何も」
「それで事が収まるのか?」
「コヒーのお父さんが、リーダーに対するコヒーの態度を見たら、
それで全て解決すると思うのです」
「そ、そうか……それでいいなら、お前の言う通りにするわ」
「我が友の為に、お手数をおかけします」
そう神妙に言う美優に、八幡は珍しく優しい声で言った。
「お前は友達思いのいい奴だよな、美優」
「へっ?そ、そそそそれはもしかして、フカちゃんの事を褒めてますか!?」
「それ以外の意味に聞こえたのか?」
「も、もう一回お願いします!」
「お前は友達思いのいい奴だよな、美優」
「ありがとうございます、録音しました!」
「お前、そういうとこ抜け目ないよな……」
八幡は苦笑しつつ、そう美優に言った。
「で、お前、今度俺の遠い親戚になる事がほぼ決定らしいな」
「はい、もし従姉妹がしくじっても、私が仮面夫婦として嫁いで、
浩一郎さんとはそのまま別居して、ずっとリーダーの所にいるつもりです!」
「お前、そういうとこ手段を選ばないよな……」
「似たような事をよく言われます、主にリーダーに!」
「確かに何度か言ってる気もするな……」
そして八幡は改めて美優にこう言った。
「まあそれがお前の個性なんだろう、一度決めたら何がなんでも目的を達成する、
お前のそういう所を俺はきちんと評価してるからな」
「リ、リーダー……」
「とりあえず香蓮の事は任された、お前は北海道でどんと構えて待っててくれ」
「あ、私も同席するんで」
「お前も来るのかよ!」
八幡は思わずそう突っ込み、美優は電話の向こうで、にひひと笑った。
「まあいい、とりあえずお前、大学を卒業したらどうするつもりだ?」
「仲間達と共に歩みたいと思っています」
何ら躊躇う事なくそう答えた美優に、八幡はしばし沈黙した後にこう告げた。
「うちは能力主義だ、入る時こそ俺との関係も考慮されるだろうが、
ある程度の能力を示せない場合は簡単に切られるぞ、
ヴァルハラをクビになる事は無いが、もしそうなったら気まずい思いをする事になる、
お前にその覚悟はあるのか?」
「ありません!だからそうならないように手段を選ばずガンガンいきます!」
「そうか……くれぐれも法は犯すなよ」
八幡がいきなりそう言い、美優は最初何の事か分からなかったが、
それが八幡のお墨付きだという事を理解した瞬間、美優は歓喜に包まれ、
思わず余計な一言が口をついて出た。
「リーダー、愛してます!」
「俺は愛してないけどな、そういうのはいいから勉強しろ勉強」
「ちなみに今求められているのはどんな人材で?」
「俺の使いっぱしりだ」
その言葉に美優は沈黙した後、自分なりの解釈でこう答えた。
「機転がきいて、ある程度オールマイティな人材ですか……」
「お前がそう思うならそうなんだろうな」
「了解!命令を受諾しました!」
「卒業まで死ぬ気で頑張れ」
「はい!私とリーダーの未来の為に!」
「お前の未来の為な」
次の日の朝、八幡は、前日に二つの事案を抱えてしまった為、
疲れが完全には抜け切れていない事を自覚していた。
「いかん……とりあえず風呂だな……」
八幡はそう呟くと、重い足をひきずりながら部屋を出て、浴室へと向かった。
「さすがにこの時間だと誰もいないよな」
八幡は誰もいない事を何度も確認してから服を脱ぎ、浴室へと入って鍵を閉めた。
「ふう……やはり広い風呂はいいな、疲れがとれる……」
かなり疲れていたのだろう、八幡はそのまま寝てしまった。
どこか遠くでバタンという音がして、直後に浴室のドアが開けられたような気がした。
八幡は、閉めたはずの浴室の鍵が、どうして開いているんだろうと思ったが、
頭が上手く働いていないのか、直ぐにその意識は深く沈んでいった。
その直後に、八幡の体が激しく揺さぶられ、八幡の意識は完全に覚醒した。
「っ……何だ!?」
「八幡様、八幡様!」
「八幡、大丈夫?」
「うわぁん、八幡!」
「………え?」
気が付くと目の前には全裸の三人がおり、三人は悲鳴を上げる事もなく、
隠そうとするそぶりもまったく見せず、ただひたすら心配そうに八幡を見つめていた。
八幡は慌ててそちらから目を背けながら言った。
「お、お前らどうして……」
「それはこっちのセリフです、八幡様、どうやらここのお風呂は、事故対策の為に、
中に入った人が五分以上まったく動かないと、自動で警報が鳴って、
入り口の鍵が開く仕組みになっているみたいですよ」
「えっ、そ、そうなのか?」
「だから慌てて三人で駆けつけたって訳。大丈夫?体は何ともない?」
「ああ、ちょっとうとうとしちまっただけだ、迷惑をかけてすまん、今度から気を付ける」
「そっか、良かったぁ……」
「でもそれ、ここを利用する全員に言える事よね、脱衣所に注意書きが必要だね」
「だな、で、お前らのその格好は……」
八幡は顔を赤らめながら、三人にそう尋ねた。
「あ、実は私達、全員浴衣一枚で寝てたんですよね」
「浴室に入るのに浴衣のままって訳にもいかないし、
水着を取ってくる暇なんか無かったので、そのまま浴衣を脱いで中に入ったんです」
「もう、それくらい本当に焦ってたんだからね」
「す、すまん……」
八幡は抗議しようにもする訳にもいかず、ただひたすら目を背けながら恐縮していた。
「クシュン!」
その時エルザがくしゃみをし、八幡は、苦渋に満ちた表情で三人にこう言った。
「………せっかく風呂にいるんだし、三人とも一緒に入ってったらどうだ?
そのまま風邪をひいたりしたらまずいからな」
三人は顔を見合わせ、その提案をあっさりと受けた。
「あ、そうだね、それじゃあせっかくだし」
「お言葉に甘えます」
「せっかくだし、こっちをじろじろ見てもいいんだよ?」
「黙れ変態、今は本当に申し訳ないと思ってるから、仕方なく我慢しているだけだ」
エルザはそう言われ、ニヤニヤしながら八幡に言った。
「え、嬉しくないの?」
八幡は、歳ごろの男として、内心嬉しくない訳でもなかったが、
そう答える訳には絶対にいかなかった為、顔を背けたままこう抗議した。
「というかお前ら、悲鳴くらいあげろっての、
そんなに堂々とされるとこっちが恥ずかしいだろうが」
「えっ、やだ、八幡がかわいい……」
「これはもう……」
「やるしかないですね」
「なっ……」
八幡は不穏な気配を感じ、脱兎の如くその場から逃げ出した。
「バスタオルは用意しといてやるから、お前らはそこでゆっくりしてろ!」
こんな時でもそんな気遣いに溢れる言葉を言いつつ、八幡は脱衣所へと逃げていき、
残された三人は呆れながら会話を交わしていた。
「まあ無理やり何かするつもりは無かったけど、恐ろしい逃げ足の早さね」
「まあ八幡様が無事だったので問題なし」
「私はこのまま既成事実を作っちゃいたかったけど、まあそれはそのうちでいいかなぁ」
「それにしても八幡に何もなくて良かったわね」
「本当に焦ったね」
「さて、今日はどこに連れてってもらおう?」
「何か楽しいね」
「うん」
「今後は他のみんなと一緒にここに来たいよね」
「ふう、や、やばかった……もう絶対に風呂では寝たりしないようにしないとだな……」
八幡は、三人分のバスタオルを用意し、脱ぎ散らかしてあった浴衣をハンガーに掛けると、
リビングへと移動し、ソファーに越しかけて一息ついた。
「まったくあいつら、少しは恥じらいを持てってんだよ、
とはいえあの状況なら俺も同じ事をしたかもしれないし、怒れないよな……」
そして八幡は頭をぽりぽりとかきながら立ち上がった。
「さて、朝食の準備くらい俺がやっておくか、後で改めて御礼も言わないとだしな」
こうしてささやかなハプニングと共に、旅行二日目の幕が上がる事となった。