ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第452話 二つの事案と朝の事故

「あ、コヒー?大変だ変態だ大変だ!」

「美優?いきなり自己紹介を始めてどうしたの?」

「ちっが~う!私は変態じゃない、愛の狩人だ!」

「罠を仕掛けて待ち伏せオンリーの狩人?」

「くっ、言うようになったじゃないかコヒー、だが今回罠にはまったのはコヒーなのだ!」

「え?」

 

 香蓮はその美優の言葉に戸惑った。GGOで何か罠にはまった記憶が無いからだ。

 

「GGOでは罠にはめる事はあってもはめられた事は無いよ?」

「ゲームの話じゃないんだコヒー、

先日コヒーはお父さんに頼まれて、東京でパーティーに出席した、オーケー?」

「あ、うん、よく知ってるね、美優」

「そこで、西山田炎って人と知り合った、オーケー?」

「知り合ったって程じゃないかな、挨拶したくらいだよ」

「でも覚えてはいるんだ」

「まあ、個性的な名前だったから……炎って書いてファイヤって読むしね」

「実際コヒーから見て、そのファイヤ君はどうだったのかね?」

 

 香蓮はそう尋ねられ、ファイヤの顔を思い出そうとしたが、

なんとなくしか思い出す事は出来なかった。

 

「顔すらハッキリとは思い出せないし、どうだったと言われても……」

「何か言葉を交わしたりしなかったの?」

「ううん、別に。あ、でも私を見る目が普通だったかな、

他の人達は、どうしても私の背の高さを見てぎょっとしたりするしね」

「なるほど、そこは好印象だと」

「そこまでじゃないよ、他にもそういう人がいない訳じゃないし、

名前と身長が普通だったら覚えてなかったと思う」

「………身長が何か?」

「西山田さん、凄く背が小さかったの、

まあ本人はまったく気にしてないみたいだったから、そこは凄いなとは思ったけどね」

「ふむぅ……」

 

 美優は、香蓮のその興味が無さそうな態度を見て、これは脈が無いなと思いつつ、

一応八幡に対する態度と比較してみる事にした。

 

「ねぇコヒー」

「うん、何?」

「うちのリーダーが……」

「は、八幡君がどうしたの!?もしかして私の事、何か言ってた?」

 

 その香蓮の食いつきの良さに、美優は若干引きぎみになった。

 

「うわ、分かりやす……」

「え、何が?」

「単刀直入に聞きます、コヒーには今好きな人がいますね?」

「ええっ!?、い、いきなり何を……」

「いますね?」

「う、うん……」

 

 香蓮は恥らいながらもそう答えた。

 

「そして、今コヒーには、リーダー以外に親しくしている男友達は誰もいませんね?」

「失礼ね!わ、私にだって男友達くらい、い、い……」

「い?」

「いない……けど」

「ああ~もう、何で私はライバルの応援なんかしちゃってるんだ、

意味が分かんねええええええ!」

「み、美優?」

 

 美優はジレンマに陥ったのか、そう絶叫した。

 

「でも大親友だから仕方ない、仕方ないんだ、

何とか二人とも幸せになれるルートを探さねば……」

「今日はどうしちゃったの美優?やっぱり変態なの?」

「誰が変態か、救いの神に向かって!いいかいコヒー、数日中に、

コヒーのお父さんからコヒーにとんでもない話が告げられると思うけど、

落ち着いて冷静にその話を受けなさい、大丈夫、私もそっちに行くから」

「え、美優がまたこっちに来るの?」

「近いうちにね、という訳で、首を長くして待っているのだよ、コヒー!」

「う、うん、別にいいけど、来る前にはちゃんと連絡してね?」

「アイアイサー!それじゃあおやすみ、コヒー」

「う、うん、おやすみ」

 

 美優は電話を切ると、深呼吸を一つした後、八幡に電話を掛けた。

やはりまだ少し緊張するらしい。

 

「あ、リーダー?私、えと、フカちゃんです」

「もちろん分かってるが……お前そんな遠慮がちなキャラだっけ?」

「えと……今日は大事なお話があるのです」

「大事な話?まあいいか、聞こう」

「ありがとござます」

 

 そして美優は、ついさっきあった出来事を八幡に説明した。

 

「ああ?香蓮に見合い話だと?しかも俺を香蓮が好きな人として紹介しただぁ?」

「はいでふ」

「というか香蓮が好きなのが俺とは限らないだろ、

好きな奴なんかいないかもしれないじゃないか」

 

 八幡は往生際が悪くそう言い、美優はそれを真っ向から否定した。

 

「今好きな人は確かにいるそうでふ、さっきコヒーに聞きました」

「そ、そうか……」

「更に今、コヒーと親しい男性は、リーダーしかいないそうれふ、

男友達も他に誰もいないそうれふ、さっきコヒーに聞きました」

「お、おう……」

「と、いう事はつまり……」

「分かった分かった、俺が悪かった」

「分かればいいのだよ分かれば!」

「調子に乗んな」

「はひ」

 

 そして八幡は、美優に言った。

 

「で、俺はどうすればいいんだ?」

「何も」

「何も?」

「先方からの申し込みを受けて、会うだけ会ってもらえれば、何も」

「それで事が収まるのか?」

「コヒーのお父さんが、リーダーに対するコヒーの態度を見たら、

それで全て解決すると思うのです」

「そ、そうか……それでいいなら、お前の言う通りにするわ」

「我が友の為に、お手数をおかけします」

 

 そう神妙に言う美優に、八幡は珍しく優しい声で言った。

 

「お前は友達思いのいい奴だよな、美優」

「へっ?そ、そそそそれはもしかして、フカちゃんの事を褒めてますか!?」

「それ以外の意味に聞こえたのか?」

「も、もう一回お願いします!」

「お前は友達思いのいい奴だよな、美優」

「ありがとうございます、録音しました!」

「お前、そういうとこ抜け目ないよな……」

 

 八幡は苦笑しつつ、そう美優に言った。

 

「で、お前、今度俺の遠い親戚になる事がほぼ決定らしいな」

「はい、もし従姉妹がしくじっても、私が仮面夫婦として嫁いで、

浩一郎さんとはそのまま別居して、ずっとリーダーの所にいるつもりです!」

「お前、そういうとこ手段を選ばないよな……」

「似たような事をよく言われます、主にリーダーに!」

「確かに何度か言ってる気もするな……」

 

 そして八幡は改めて美優にこう言った。

 

「まあそれがお前の個性なんだろう、一度決めたら何がなんでも目的を達成する、

お前のそういう所を俺はきちんと評価してるからな」

「リ、リーダー……」

「とりあえず香蓮の事は任された、お前は北海道でどんと構えて待っててくれ」

「あ、私も同席するんで」

「お前も来るのかよ!」

 

 八幡は思わずそう突っ込み、美優は電話の向こうで、にひひと笑った。

 

「まあいい、とりあえずお前、大学を卒業したらどうするつもりだ?」

「仲間達と共に歩みたいと思っています」

 

 何ら躊躇う事なくそう答えた美優に、八幡はしばし沈黙した後にこう告げた。

 

「うちは能力主義だ、入る時こそ俺との関係も考慮されるだろうが、

ある程度の能力を示せない場合は簡単に切られるぞ、

ヴァルハラをクビになる事は無いが、もしそうなったら気まずい思いをする事になる、

お前にその覚悟はあるのか?」

「ありません!だからそうならないように手段を選ばずガンガンいきます!」

「そうか……くれぐれも法は犯すなよ」

 

 八幡がいきなりそう言い、美優は最初何の事か分からなかったが、

それが八幡のお墨付きだという事を理解した瞬間、美優は歓喜に包まれ、

思わず余計な一言が口をついて出た。

 

「リーダー、愛してます!」

「俺は愛してないけどな、そういうのはいいから勉強しろ勉強」

「ちなみに今求められているのはどんな人材で?」

「俺の使いっぱしりだ」

 

 その言葉に美優は沈黙した後、自分なりの解釈でこう答えた。

 

「機転がきいて、ある程度オールマイティな人材ですか……」

「お前がそう思うならそうなんだろうな」

「了解!命令を受諾しました!」

「卒業まで死ぬ気で頑張れ」

「はい!私とリーダーの未来の為に!」

「お前の未来の為な」

 

 

 

 次の日の朝、八幡は、前日に二つの事案を抱えてしまった為、

疲れが完全には抜け切れていない事を自覚していた。

 

「いかん……とりあえず風呂だな……」

 

 八幡はそう呟くと、重い足をひきずりながら部屋を出て、浴室へと向かった。

 

「さすがにこの時間だと誰もいないよな」

 

 八幡は誰もいない事を何度も確認してから服を脱ぎ、浴室へと入って鍵を閉めた。

 

「ふう……やはり広い風呂はいいな、疲れがとれる……」

 

 かなり疲れていたのだろう、八幡はそのまま寝てしまった。

 

 

 

 どこか遠くでバタンという音がして、直後に浴室のドアが開けられたような気がした。

八幡は、閉めたはずの浴室の鍵が、どうして開いているんだろうと思ったが、

頭が上手く働いていないのか、直ぐにその意識は深く沈んでいった。

その直後に、八幡の体が激しく揺さぶられ、八幡の意識は完全に覚醒した。

 

「っ……何だ!?」

「八幡様、八幡様!」

「八幡、大丈夫?」

「うわぁん、八幡!」

「………え?」

 

 気が付くと目の前には全裸の三人がおり、三人は悲鳴を上げる事もなく、

隠そうとするそぶりもまったく見せず、ただひたすら心配そうに八幡を見つめていた。

八幡は慌ててそちらから目を背けながら言った。

 

「お、お前らどうして……」

「それはこっちのセリフです、八幡様、どうやらここのお風呂は、事故対策の為に、

中に入った人が五分以上まったく動かないと、自動で警報が鳴って、

入り口の鍵が開く仕組みになっているみたいですよ」

「えっ、そ、そうなのか?」

「だから慌てて三人で駆けつけたって訳。大丈夫?体は何ともない?」

「ああ、ちょっとうとうとしちまっただけだ、迷惑をかけてすまん、今度から気を付ける」

「そっか、良かったぁ……」

「でもそれ、ここを利用する全員に言える事よね、脱衣所に注意書きが必要だね」

「だな、で、お前らのその格好は……」

 

 八幡は顔を赤らめながら、三人にそう尋ねた。

 

「あ、実は私達、全員浴衣一枚で寝てたんですよね」

「浴室に入るのに浴衣のままって訳にもいかないし、

水着を取ってくる暇なんか無かったので、そのまま浴衣を脱いで中に入ったんです」

「もう、それくらい本当に焦ってたんだからね」

「す、すまん……」

 

 八幡は抗議しようにもする訳にもいかず、ただひたすら目を背けながら恐縮していた。

 

「クシュン!」

 

 その時エルザがくしゃみをし、八幡は、苦渋に満ちた表情で三人にこう言った。

 

「………せっかく風呂にいるんだし、三人とも一緒に入ってったらどうだ?

そのまま風邪をひいたりしたらまずいからな」

 

 三人は顔を見合わせ、その提案をあっさりと受けた。

 

「あ、そうだね、それじゃあせっかくだし」

「お言葉に甘えます」

「せっかくだし、こっちをじろじろ見てもいいんだよ?」

「黙れ変態、今は本当に申し訳ないと思ってるから、仕方なく我慢しているだけだ」

 

 エルザはそう言われ、ニヤニヤしながら八幡に言った。

 

「え、嬉しくないの?」

 

 八幡は、歳ごろの男として、内心嬉しくない訳でもなかったが、

そう答える訳には絶対にいかなかった為、顔を背けたままこう抗議した。

 

「というかお前ら、悲鳴くらいあげろっての、

そんなに堂々とされるとこっちが恥ずかしいだろうが」

「えっ、やだ、八幡がかわいい……」

「これはもう……」

「やるしかないですね」

「なっ……」

 

 八幡は不穏な気配を感じ、脱兎の如くその場から逃げ出した。

 

「バスタオルは用意しといてやるから、お前らはそこでゆっくりしてろ!」

 

 こんな時でもそんな気遣いに溢れる言葉を言いつつ、八幡は脱衣所へと逃げていき、

残された三人は呆れながら会話を交わしていた。

 

「まあ無理やり何かするつもりは無かったけど、恐ろしい逃げ足の早さね」

「まあ八幡様が無事だったので問題なし」

「私はこのまま既成事実を作っちゃいたかったけど、まあそれはそのうちでいいかなぁ」

「それにしても八幡に何もなくて良かったわね」

「本当に焦ったね」

「さて、今日はどこに連れてってもらおう?」

「何か楽しいね」

「うん」

「今後は他のみんなと一緒にここに来たいよね」

 

 

 

「ふう、や、やばかった……もう絶対に風呂では寝たりしないようにしないとだな……」

 

 八幡は、三人分のバスタオルを用意し、脱ぎ散らかしてあった浴衣をハンガーに掛けると、

リビングへと移動し、ソファーに越しかけて一息ついた。

 

「まったくあいつら、少しは恥じらいを持てってんだよ、

とはいえあの状況なら俺も同じ事をしたかもしれないし、怒れないよな……」

 

 そして八幡は頭をぽりぽりとかきながら立ち上がった。

 

「さて、朝食の準備くらい俺がやっておくか、後で改めて御礼も言わないとだしな」

 

 こうしてささやかなハプニングと共に、旅行二日目の幕が上がる事となった。


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