「みんな、それじゃあこの部屋を、一緒に改造するよ!」
明日奈の鶴の一声で、女性陣は一斉に動き出した。
「八幡君、このボックスをクローゼットに設置しておいて」
「え、あそこにか?今ある奴に、何人かの下着が入ってて、色とか薄っすら見えてるから、
出来れば遠慮したいんだが……」
「だからこそ八幡君がやらないといけないんだよ、
それは一度出して、新たにこっちを設置ね、ほら、動いて動いて」
「お、おう……」
八幡は明日奈にそう言われ、渋々動き出した。
「和人君は、洗面所の壁に、これの設置をお願い」
「これは……ああ、歯ブラシとコップと歯磨き粉を置く為の台か」
「うん」
「任せろ、完璧に仕上げてやるぜ!」
「お願いね」
その間にも、明日奈の所に色々と報告があがっていた。
「通常の炊飯器の他に、大型の炊飯器の設置も完了」
「明日奈、色々な種類の食器を買ってくるね、お茶碗と箸だけは、
各自カタログから選んでもらってるからもうすぐ宅配で届くと思う」
「バスタオルや普通のタオルは共通でいいですよね、それなりの数を揃えておきます」
「必要な消耗品のチェック終了、スーパーへの買い出し部隊、行くね」
女性陣が慌しく動き回る中、八幡が戻ってきて明日奈にこう言った。
「おい明日奈、設置を完了したぞ、二十八段の引き出し型ボックス」
「それじゃあこれ、ここに来る予定になっている人のリスト、
これを見ながら、このシールに全員の名前を書いて、
八幡君が自分の手で場所を決めてシールを貼っておいてね」
「え、俺が書くのか?」
「その方がみんな喜ぶんじゃないかなって。古い引き出しに入ってる分は、
八幡君が入れ替えておいてね、そのリストはこれね」
「いいっ!?ま、まじかよ……」
「ほらほら早く早く!」
「お、おう…………」
八幡は肩を落としながら再び寝室に消えていき、明日奈は次に舞衣を呼んだ。
「イヴ、それじゃあお願いね」
「了解、任務を遂行します」
そしてイヴはカメラのような物を持ち、ベランダへと消えていった。
「さて、明日奈が新しく作ったリストってのはこれか……」
八幡はそのリストを改めて眺め、大幅に名前が増えている事に気が付いた。
「姉さんが決めた時よりも増えてるな、これが明日奈の判断か……
って、小町に直葉はまあ分かるが、香蓮と美優だと!?更に優里奈もか……」
当初の予定と比べ、明日奈は大幅に人数を増やしていた。
「優里奈は隣の部屋に行けばいいだけなんだが、
一々移動してもらうのは面倒だろうという判断だろうか……
そして香蓮は百歩譲るとして、美優の名前があるのは今後に備えてか」
八幡はまだ、香蓮と美優が、数日後にここに泊まる予定な事は知らないようだ。
「う~ん、配置はどうすっかな……」
八幡は考え込んだ後、横四段、縦七段の引き出しに、順にシールを貼っていった。
一番上の左から、明日奈、里香、珪子、陽乃、
二段目の左から、雪乃、結衣、いろは、小町、
三段目の左から、直葉、めぐり、優美子、美優、
四段目の左から、詩乃、マックス、フェイリス、紅莉栖、
五段目の左から、小猫、南、舞衣、かおり、
そして一段飛ばして七段目の左下に香蓮、一番右下に、優里奈という配置となった。
「こんなもんか……しかしマックスとフェイリスだけあだ名なんだな、
まああの二人はその方がいいのか……」
八幡はそう呟くと、次に先ほど出した古いボックスに目を向けた。
「う~む……これを俺が移動するのか……
しかし他の奴らの分はともかく、紅莉栖と南とイヴと折本の分を俺が触るのはな……」
前回のメンバーの分に加え、本社勤務の者達の着替えは、
既に部屋に収められていた為、八幡は激しく悩む事になった。
「あ、っていうか今本人がいるな、明日奈に断って移してもらおう」
八幡はそう決めると、リビングに戻り、明日奈に相談を持ちかけた。
「……という訳なんだが」
「ああ、う~ん、とりあえず本人達にそう言ってみれば?」
「おう、そうするわ」
八幡はこれで明日奈にも了解してもらえたと思い、該当する四人に声をかけた。
「なぁ紅莉栖、ちょっと相談があるんだが……」
そう言って八幡は、紅莉栖に事情を説明した。
「……ああ、そういう事ね、了解よ、自分の分は、今自分で移動させるわね」
「おう、ありがとな、後はっと……南、イヴ、折本、ちょっといいか?」
八幡にそう呼ばれ、何事かと思って集まった三人は、その話を聞いて顔を見合わせた。
その瞬間に三人の間で何かしらのアイコンタクトが交わされ、
代表して南が八幡にこう言った。
「ごめん、私達、今から大事な買い出しがあるんだよね」
「そ、そうなの、だから凄く不安ではあるんだけど、
そこは比企谷を信頼して任せる事にする」
「後はお願いします、イヴのぱんつは八幡様のお好きなようにして下さい」
「なっ……お、お前ら、ちょっと待て!」
「ごめん、急ぐから!」
「うん、それある!」
「頭にかぶっても構いませんからね」
そう言って三人は、脱兎の如く逃げ出し、八幡は呆然とその場に立ち尽くした。
そんな八幡の肩を、紅莉栖がぽんと叩いた。
「あんたも大変ね、八幡」
「そ、そうだ、すまないが紅莉栖、あいつらの分を……」
「任されたのはあんたでしょ、自分でやりなさい」
「まじかよ……」
「別にイヴさんのぱんつを頭にかぶっても私は何も言わないけど、
その後はあんたの事を、変態仮面って呼ぶ事にするからね」
「するわけね~だろ!」
そして八幡は、紅莉栖と共にとぼとぼと寝室に戻り、
紅莉栖に作業をしてもらった後に、肩を落としながら下着の移動を始めた。
「まあ問題ない、今ここにあるのはたった九人分でしかない、
ははっ……余裕じゃないか、たった九回我慢すればいいだけの事だ、
冷静に分析しながらしまう事にしよう、そう、あくまで冷静にだ。
これはただの布だこれはただの布だこれはただの布だ」
八幡はそう呟くと、深呼吸をし、作業を開始した。
「これは姉さんのか、さすがの大きさと言うべきだが、思ったよりも地味で驚いたな」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これは雪乃のだな、デザインが姉さんのと似てるのが興味深い、
やっぱり姉妹だから、こういう所も似るのかな、でもやっぱりワンポイントはネコなんだな」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これは詩乃のか……あいつは一見地味に見えるが、実は派手な下着を好むのか、
うん、詩乃はやっぱりむっつりだ、まあ知ってたけどな」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これをマックスが?う~ん、あいつは俺の前と他人の前では態度が変わるからな、
この生地の少なさは、それ故だと考えておこう」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これは南のか、ああ、何か安心するな、普通が一番だ」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これはイヴのか、機能性重視って感じだな、うん、いいと思うぞ、
でも頭にかぶったりはしないからな、イヴ」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これは折本のか、まさかこんな日が来るとはな……
昔は、それある!だの、うけるし、だの言ってたのに、大人になったんだな、折本」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これはめぐりんのか、どこか癒されるな……
まるで下着から、先輩の優しい人柄が滲み出るようでとても良いな」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これは小猫のだな、見覚えがある。うん、何とも思わないな。
看病の時とかに見たりしてるし、我ながら慣れたもんだな」
八幡はそう口に出して言うと、適当に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「さて、小猫のだけ適当だが、まあいいだろう、
きっとあいつはこの方が喜ぶに違いないからな。さて終わった終わった、明日奈に報告だ」
八幡はそう言うと、明日奈の所に向かった。
「おい明日奈、終わったぞ」
「あ、八幡君、これも今届いたから、追加でお願いね」
「なん……だと……」
八幡はそう言うと、名前の書かれた袋の山を見て呆然とした。
「あ、リズのは和人君に任せた方がいいね、
珪子のは八幡君に任せるって言われてるからお願いね」
「え、まじでか?」
「うん、あ、でも小町ちゃんと直葉ちゃんは後で自分でやるってさ、
まあ当たり前だよね、私もお兄ちゃんの下着をしまえって言われたらちょっとやだし」
「こ、小町ちゃん、お兄ちゃんに任せてもいいんだぞ?」
そんな八幡の耳に、遠くから小町の声が聞こえてきた。
「きもっ……お兄ちゃんの手をそんな事でわずらわせる訳にはいかないから、気にしないで」
その言葉で八幡の心は打ち砕かれ、八幡は黙って和人の手を握った。
「わっ、な、何だよ八幡」
「いいから来い、お前はこっちで里香のぱんつでもかぶってろ」
「何だよそれ、意味が分からないよ!」
そして二人は一緒に寝室へと消えていった。
「こ、これをここにしまえばいいのか?」
「おう、頼むわ、さすがに里香の分は俺がやる訳にもいかないからな」
「逆に言えば残りはほとんど八幡がやるんだろ?まあ頑張れ」
そして和人は、心から八幡に同情したような様子を見せながら、
さっさと自分の仕事を済ませ、部屋の外に出ていった。
極力他の人の引き出しの方を見ないその姿は、
さすがは英雄と呼ばれるだけの事はあるように見えた。
「はぁ…………仕方ない、やるか……」
八幡はそう呟くと、早く仕事を終えてしまおうと思い、作業を開始した。
「これは珪子のか、うん、素直にかわいいと賞賛するぞ、珪子」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「結衣は何というか、イメージ通りだな、このフリルの具合とかがいかにもそれっぽい」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「優美子のこれは……見覚えがある色だな、
そういえば昔、事故であいつの下着を見ちまった事があったが、
いかんいかん、バレないようにしないと殺される……しかし意外だよなぁ、このピンクは」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「いろはは相変わらずあざといな、普通こんな下着を選ぶか?絶対に狙ってるだろこれ」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「え、これって美優のか?何でこれがここにあるんだ?
ああ、明日奈が先日北海道に行った時に預かってきたのか、
それにしても何というか、眼鏡っこの癖に派手だよな、まさに肉食系って感じか、
見た事は無いが、香蓮を見習えってんだよまったく」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「え、おい、フェイリスのはまずいだろ、いいのかこれ?
しかしあいつ、あの言動はやっぱり計算なんだな、
下着から中二っぽい感じがまったく伝わってこねえな」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「ちょっと待て、何故優里奈の下着がここにあるんだ、これも俺がやらないとなのか……?
はぁ、しかも迫力が姉さん並みとか、凄まじい戦闘力だな、
責任を持って俺が社会に出した上で、あいつが変な男に引っ掛からないように注意せねば」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「さてお待ちかね、明日奈の下着か、ふう、落ち着くし安心するわ……
まあ実は試着で見せられたから知ってるんだよな、
何度見ても、明日奈に凄く似合ってていいと思うぞ」
八幡はそう口に出して言うと、丁寧に下着をたたみ、引き出しに収納した。
「これで終わりか……SAN値を削ってくる下着もあったが、よく耐えたぞ、俺」
八幡は満足そうにそう言うと、明日奈の下に戻った。
「終わったぞ、明日奈」
「こっちも大体オーケーかな、それじゃあ冷たい物でも用意するから、
八幡君と和人君は自分達の着替えをそこのボックスにしまった後、
二人で雑談でもしながらお茶でも飲んでてね、私達はこれからミーティングがあるから」
「ミ、ミーティング?何のだ?」
「ここの利用に関してのルールの確認だよ、八幡君」
「そ、そうか、分かった……」
そして女性陣は集合し、ミーティングが始まった。