八幡は、美優を迎える為に、羽田空港へと到着していた。
そしてデッキの向こうから、美優がこちらに手を振っているのが見え、
八幡もそれに答えるべく、手を振り返した。
美優は嬉しそうに八幡に駆け寄ると、開口一番にこう言った。
「リーダー!かわいいフカ次郎が、再びやってきましたよ!」
「おう、よく来たな、かわいいフカ次郎、早速香蓮の家に向かうぞ」
「えっ?」
美優はその八幡の態度に、頬を染めながら喜んだ。
「つ、ついにリーダーの寵愛を手に入れたぞ!」
「うぜえ」
八幡は即座にそう言い、美優は愕然とした顔で八幡を見た。
「い、今ワタクシの事をかわいいと……」
「そんなの冗談に決まってるだろ、ほらさっさと行くぞ」
「えええええええええ!?」
「冗談だ」
八幡は再びそう言い、美優の表情は、ハテナ?となった。
「ど、どっちの意味の冗談!?」
「さあな、ほらいくぞ」
「ちょ、ちょっとリーダー!」
美優は慌てて八幡の後を追ったが、そのとき八幡が微笑んでいた事には、
背後にいた美優は気付かなかった。
そして二人は香蓮のマンションに着き、美優がインターホンを押した。
『はい、小比類巻です』
「コッヒーちゃん、あっそびっましょっ!」
美優がいきなりそう言い、八幡は頭痛がしたのかこめかみを押さえながら言った。
「お前さ、ガキじゃないんだからさ……」
「え~?だってお泊り会の誘いだし、大体合ってるじゃない!」
八幡はそんな美優をスルーし、香蓮に声をかけた。
「あ~香蓮、待たせて悪いな、俺もいるから」
『八幡さん!?今すぐそっちに行くね』
「ちょっとコヒー、親友の事はスルー!?」
『あ、美優、いたの?』
「えええええええええ」
『冗談だってば』
「くっ、今日はリーダーとコヒーに弄ばれてる……
やっぱり二人とも、私の体だけが目的だったのね」
「うぜえ」
そして扉が開き、中から香蓮が顔を出した。
「お待たせしてごめんね、でも美優が来る事は分かってたけど、
八幡さんは今日はどうしてうちに?もしかして美優を迎えに行ってたの?」
「話はどこまで聞いてるんだ?」
「えっと……うちのお父さんから聞いたのは、
西山田さんという方から縁談を申し込まれたから、
他の候補と一緒に会って欲しいって……あ、でももちろん断るつもりだよ?」
「断りきれるのか?」
「それは……何とかするつもりだけど……」
香蓮は渋い表情でそう言った。やはり断りきれない可能性も若干あるのだろう。
「その他の候補ってのが誰なのか知ってるのか?」
「ううん、それは教えてもらえなかったの」
「俺だ」
「………えっ?」
「最初に応対したのは美優だったんだが、どうやらその時、俺の名前を出したみたいでな、
それで香蓮の親父さんが、俺にも会ってみると言い出したらしい。
まあ俺としては、香蓮が望まないなら、今回の件は、いくらでも協力するつもりだ」
「……………ああ、そういう……………」
一瞬喜んだように見えた香蓮だったが、直後に香蓮が目に見えて落ち込んだ為、
八幡はどうしたのだろうと思ったが、直ぐに香蓮は笑顔を見せ、八幡に言った。
「事情は分かった、とりあえずどうすればいい?」
「色々と詳しい話を聞きたいから、
とりあえず今日は美優と一緒に俺のマンションに泊まってくれ」
「えっ、八幡君のマンションに!?分かった、直ぐに準備するから!」
香蓮はそう言うと、部屋の中に駆け戻り、直ぐにバッグを一つ持って戻ってきた。
「準備おっけー!」
「は、早いな香蓮……」
そんな香蓮に、いきなり美優が言った。
「コヒー、予備のぱんつは持った?一応後で詳しく説明するけど、
一組はリーダーの部屋に常時置いておく事になってるから、宜しくね」
「ぱっ…………ちょ、ちょっと美優」
「ん?どうなの?ほらほら、勝負ぱんつは持った?」
「…………だから美優」
香蓮はぷるぷる震えながら再びそう言い、八幡は黙って美優の頭に拳骨を落とした。
「いったぁい!」
「ありがとう八幡君、いい?美優はもう少しデリカシーを持ちなさい!」
「え~?これでも親切で言ったつもりなんだけどなぁ」
「いいからちょっと黙って!」
「もしかして照れてるの?もう大学生なんだし、
勝負ぱんつくらいで恥ずかしがってどうするの?」
「ああ~、もう!とにかく黙ってなさい!」
そして香蓮は一度家の中に戻り、今度はやや時間をかけた後に再び戻ってきた。
「お、勝負ぱんつを選ぶのに時間がかかったのかぁ?
後でちゃんとチェックするからな、コヒー」
「さ、八幡さん、行きましょ」
「あ、ちょっと!無視すんな、あっ、リーダー、私を置いてかないで!」
「知らない!」
香蓮はそう言いながら、八幡の腕をとってスタスタと歩いていき、
美優は慌てて二人を追いかけると、八幡の開いている腕にすがりついた。
「もう、ごめんってば」
「今のはお前が悪いぞ、美優」
「そうよそうよ」
「はいはい、コヒーは照れ屋さんでちゅね」
「違うから!常識だから!」
「で、勝負ぱんつは持ったの?」
「もう、もう!」
「そろそろやめろ美優、香蓮はお前とは違って普通の子なんだからな」
「私だって普通だよ!?」
「お前の中ではそうなんだろうな、お前の中では」
そして三人はキットに乗り込み、八幡のマンションへと向かった。
美優は何も言わずに自発的に助手席を香蓮に譲っており、
なんだかんだ言っても二人は仲良しなんだろうなと八幡は感じていた。
「香蓮ちゃん、フカちゃん、いらっしゃ~い!」
「明日奈、北海道ぶり!」
「あ、明日奈さん、久しぶり!」
「二人ともいらっしゃい、さあ上がって上がって」
マンションに着くと、明日奈が三人を笑顔で出迎えた。
どうやら優里奈は既に自分の部屋に戻ったようだ。
「そういえば美優は、北海道で明日奈さんとずっと一緒だったんだよね?」
「うん、明日奈のお兄さんとうちの従姉妹が今度結婚する予定だから、
そうしたら私達は親戚になるんだよ、えっへん!」
「そうなんだ、すごい偶然だね」
「つまりここはもう、私の家と言っても過言ではないね!」
「調子に乗るな」
即座に八幡が、美優に拳骨を落とし、美優は涙目になった。
「いったぁい!もう、何度も何度も殴られたら、私が馬鹿になっちゃうじゃない!」
「心配しなくてもお前は最初から馬鹿だ」
「ええ~?そ、そんな事は無い………よね?コヒー」
「えっ?」
「えっ?って………何で顔を背けるの!?……明日奈まで!」
二人は困ったように、美優から顔を背けており、美優は涙目で八幡に振り返った。
八幡は、美優の視線を受け、笑顔でこう言った。
「早く人間になれよ、美優」
「ちっ、畜生!家出してやる!」
美優はそう言いながら、寝室へと駆け込んだ。それを見ていた香蓮は、八幡にこう尋ねた。
「えっと……あの部屋は?」
「寝室だな」
「寝室に家出ね……」
「まあ丁度いいさ、明日奈、香蓮を寝室に案内してやるといい、荷物も整理しないとだしな」
「あ、そうだね、丁度いいね、それじゃ香蓮ちゃん、こっち」
「あ、うん」
香蓮は明日奈に手を引かれ、寝室へと入った。そして中を見た二人は完全に固まった。
「こ、これがリーダーが使っているベッド……むっはー、マーキングしておかないと!
かわいいフカちゃんの残り香を君に!そしてここはクローゼット?
も、もしかしてここにリーダーのぱんつが!?こ、これはかぶらねば!」
「フカちゃん………」
「ご、ごめんなさい、馬鹿な友達で……」
「う、ううん、大丈夫だよ香蓮ちゃん」
明日奈はそう言うと、美優に呼びかけた。
「フカちゃん、そのベッドを今日使うのは私達だからね、
そしてそのクローゼットには、私達の下着が入ってるだけだよ、
もちろんフカちゃんの下着ももう収納済だよ」
「な、何と!?」
そして美優はクローゼットを開けた瞬間に固まった。
「こ、こりは……何と壮観な眺め……」
「ど、どうしたの?美優」
「コ、コヒー、これを見るんだ、これが秘宝、支配者のクローゼットだよ!」
「ひ、秘宝?………えっ?こ、これは……」
「あは、ちょっと人数が多いよね、ちなみに二人の名前が書いてある引き出しが、
それぞれ二人専用になるから覚えといてね。ちなみに名前は八幡君に書いてもらいました!」
「わ、私の名前をリーダーが自ら?」
「わ、私の名前を八幡君が自分で?」
二人はそう言って、じっと自分の名前が書かれたシールを見た。
二人は妙に感慨深げであり、明日奈は八幡に書いてもらったのは成功だったと確信した。
「フカちゃんは自分の下着がちゃんと入ってるか確認してね、
ちなみに畳んでしまってくれたのも八幡君だからね」
「な、何ですと!?そ、そんな夢のようなイベントが!?」
「あ、うん、ちなみにその時のコメントは、
『まさに肉食系って感じか、見た事は無いが、香蓮を見習えってんだよまったく』だったよ」
「が~~~~~~~~~~ん!またコヒーに持ってかれた……」
美優は、その八幡の言葉が期待とまったく違った為、落ち込んだ。
「まあさすがにこれは……」
「美優、やりすぎ」
「くっ……計算を間違えた……」
さすがの美優も、明日奈と香蓮にそう評された事で、自分の失敗を悟った。
だがさすがは美優である、女ゼクシードと言われてもおかしくない程メンタルが強い。
「決めた!今すぐそれを着けて、今着けている下着をリーダーにしまってもらう!」
そう言っていきなり脱ぎだした美優を、二人は必死に止めた。
「フカちゃん、落ち着いて!さすがの八幡君も、それは絶対拒否すると思うから!」
「言わなければバレないはず!」
「私達が言うから無理だってば!」
「う、裏切り者どもめ!」
「人として当たり前の行動だから!」
その時扉がノックされ、八幡が呼びかける声が聞こえてきた。
「おい明日奈、バタバタしてるみたいだが大丈夫か?」
「あっ、ごめん、大丈夫、大丈夫だから今は中に入ってこないで!
フカちゃんの格好が危ないから!」
「そ、そうか、着替え中だったか」
八幡はどうやらその言葉を素直に受け取ったようで、
扉から離れていく足音が聞こえてきた。
「リ、リーダー、リーダー!今の私を見て!」
「はいはいもう諦めなさい」
「くっ、コヒーめ、余裕を見せやがって」
「私に何の余裕があるのよ……」
「コヒーはまだ、そのバッグの中に眠っている下着を、
リーダーにしまってもらえるチャンスがあるじゃないか!」
「しないってば」
香蓮はそう否定したが、そんな香蓮に明日奈は言った。
「そっか、香蓮ちゃんも八幡君にしまってもらう?」
「え、あの、その……」
「大丈夫だよ、実はここにある下着のほとんどは、八幡君にしまってもらった物だからね」
「そ、そうなの!?」
「うん、でもまああくまで個人の希望に沿ってやってもら……」
明日奈がそう言いかけた瞬間に、香蓮は顔を赤くしながらこう言った。
「お、お願いします!」
「え?あ、う、うん、分かった」
そんな戸惑う明日奈に、美優がそっと囁いた。
「明日奈、コヒーはこう見えて、かなり負けず嫌いなの」
「ああ、そういう……」
明日奈はその言葉に納得すると、どこからかペンと紙袋を取り出し、
その紙袋に香蓮の名前を書き、その中に香蓮の下着を入れてもらうと、
その袋をクローゼットの前に置いた。
そして二人の手を引くと、寝室の外に出て、八幡に声をかけた。
「八幡君、ちょっといい?」
「ん、荷物整理は終わったのか?」
「うん、大丈夫だよ、ところで八幡君、平等って大事だよね」
「………ん?お、おう、まあそうだな」
「それじゃあお願いね?」
そう言って明日奈は八幡を寝室に押し込み、三人は部屋の外からそっと中を覗いた。
「…………おい三人とも、何であからさまに中を覗いてるんだ?」
その質問には誰も答えず、八幡は首を傾げつつも、きょろきょろを辺りを見回し、
床に置いてある紙袋の存在に気が付いた。
「何だこれ……香蓮?」
そして八幡は何気なく袋の中を覗き、それが何か理解した瞬間に固まった。
同時に香蓮も恥じらいのあまり固まり、明日奈と美優は、必死に香蓮を呼び戻そうとした。
「香蓮ちゃん、ほら、再起動して!」
「おいコヒー、ここからが大事な場面だ、しかとその目でリーダーの雄姿を見届けるんだ!」
その言葉で香蓮は意識を取り戻し、恥じらいながらもじっと八幡を見つめた。
同じ頃、八幡も再起動したのだが、何を期待されているのかは理解したが、
どうしても背後からの視線が気になって、八幡はまったく動く事が出来なかった。
「動かないね……」
「どうする?」
「このままだとコヒーだけ一歩後退?」
「むう……」
その言葉が香蓮の心に火を付けた。香蓮はいきなり立ち上がり、
寝室の扉をバタンを開け、つかつかと八幡に歩み寄ると、
八幡の手に、自分の下着が入った紙袋をしっかりと握らせると、クローゼットの前に行き、
自分の名前が書いてある引き出しを開け、そのまま部屋を出ていき、元の体勢に戻った。
それを見た明日奈と美優は、思わず拍手した。
「おお……」
「勇者がここにいた!」
そして八幡は、三人にじっと見つめられるプレッシャーに負け、
深呼吸を一つした後、思い切って袋の中から香蓮の下着を取り出した。
昨日は一日下着ソムリエをしていた八幡にとっても、
このシチュエーションは中々きついものがあった。
だがここでただ立っていても、何も状況は変わらない。
八幡はそう考え、何というべきか、下着を見つめながら真面目な顔で考えていた。
実にシュールな光景である。そして八幡が、ついに口を開いた。
「やっと自分の魅力に気付きつつあるんだろう、かわいいだけでも格好いいだけでもなく、
あくまで自然体で選ばれたと思われるこの下着が、今の香蓮を象徴しているな、
出来ればそのまま真っ直ぐ歩いていってくれよ、香蓮」
そう言って八幡は、下着を丁寧に畳むと、引き出しへとしまった。
「さて、そろそろ寝室を出るとするか」
その言葉を合図として、三人はリビングのソファーに座り、
そして寝室を出た八幡も、何も無かったかのようにソファーに座り、
先に座っていた三人に声を書けようとしたのだが、
明日奈は難しい顔で考え込んでおり、ぶつぶつと呟いていた。
「やはり香蓮ちゃんは、四天王の中では最強……細心の注意を払わないと」
「お~い明日奈?お~い?」
美優も難しい顔で考え込んでおり、ぶつぶつと呟いていた。
「やばい、このままだとコヒーに負ける、そして友情と恋愛の板ばさみに……」
「おい美優、聞こえてるか?お~い」
一方香蓮も、難しい顔で考え込んでおり、ぶつぶつと呟いていた。
「かわいいだけでも格好いいだけでもなく、あくまで自然体……う~ん、難しい、
でも八幡君は、今のままでいいと言ってくれた、私は多分正しい道を歩いてる、
うん、きっとこのままでいいんだ、とにかく頭を空っぽにして前に進んでいこう……」
「香蓮もか……おい香蓮、お~い?」
そして八幡は、仕方ないという風に立ち上がると、三人の頭に順に拳骨を落としていった。
「きゃっ!」
「ぎゃふん!」
「痛っ!」
「おい三人とも、落ち着いたら今日の本題に入るぞ」
その言葉で三人は居住まいを正し、こうして情報交換が始まった。