「最初に俺が調査させた結果を発表しておく。
西山田ファイヤ、(株)ファイヤ・ロータスの社長であり、
北海道の建設業界の中では急成長中の注目株。
その経営姿勢は基本ワンマンであり、財力を背景にした強引な手法も目立つ。
香蓮の実家の小比類巻建設ともいくつかの事業で提携したりと、
それなりに関係は深いようだな」
「単純に条件としては、実は悪くない?」
「財力と将来性の面から考えるとそうかもしれないが、
正直本人に会ってみないと何とも言えないな、
そして俺の知る限りにおいては、どうやらファイヤは今、
香蓮の情報をしきりに集めているようだな。ついでに言うと、
お前がGGOをやっている事は既に掴んでいるようだ。
中々優秀だと言わざるを得ないな」
「そ、そうなんだ」
「ちなみにパーティーの時に香蓮と会って、運命を感じたらしいんだが……」
「えっ、何それ、そんな事まで分かるの?」
香蓮はそんな事まで分かるのかと、逆に八幡の持つ情報力に驚いた。
「香蓮ちゃん、GGOをやってるの?良かったら今度一緒に遊ばない?」
「明日奈さんもGGOをやっているの?」
「うん」
「ちなみに明日奈もお前と同じ、P90使いだぞ、香蓮」
「えっ、そうなんだ!」
「香蓮ちゃんも?」
「うん!」
「そっかぁ」
二人はそう言うと、とても嬉しそうに見つめあった。
同じ銃を使う者同士のシンパシーという奴であろう。
「それじゃコヒー、パーティーの日の流れを教えて?」
「あ、うん、普段はお父さん絡みのパーティーは、うちのお姉ちゃん二人のうち、
どっちかが同行する事が多いんだけど、その日はたまたま都合がつかなくて、
仕方なく現地にいる事もあって、私が同行する事になったの」
「香蓮にはお姉さんが二人いたのか」
「うん、まあうちの会社はお姉ちゃん二人のうち、どっちかと結婚する人が継ぐだろうし、
私は比較的自由にさせてもらってるから、お父さんのこういう頼みって断りづらいんだよね」
「まあそういう事ってあるよね」
「コヒーは特に進学の時、かなり強引に頼み込んでたしね」
「うん……」
「なるほど」
八幡は、確かにそれだとお見合いの話も断りづらいだろうなと感じた。
実際香蓮は、進学の事で多少なりとも親に負い目を感じているように見えた。
「でね、同じ北海道の、同じ業種の人だって言ってあの人を紹介されたから、
私は普通に自己紹介だけしたんだよね、それ以外の接触はまったく無かったよ」
「ふむ……それじゃあ香蓮、これを見てくれ」
八幡は、PCをリビングのモニターに接続し、何か操作を始めた。
そしてモニターに映し出されたのは、そのパーティー当日の香蓮とファイヤの姿だった。
「こ、これは……?」
「これがさっき説明した事の根拠だ、
ちなみにこれは、当日の会場の監視カメラをハッキングした映像だ、ここをよく見てくれ」
そして八幡は、香蓮が挨拶の為に頭を下げた瞬間の、
ファイヤの口元をアップにし、スローで再生した。
「ここだ、香蓮は頭を下げているから見えなかったかもしれないが、
ここでファイヤは、『これは運命か』と言っている。これは読唇術によって判明した」
「ハッキングに読唇術……」
「ソレイユやばいソレイユやばい……」
「それを踏まえて香蓮、どうだ?」
「あ、確かに何かぶつぶつ言ってた気はする、
それに私が名乗った時、一瞬ハッとした気もする」
「なるほど、名前か」
八幡は頷きながら、説明を続けた。
「うちのスタッフの分析だと、ファイヤ・ロータスのロータスは蓮の事で、
香蓮の蓮と一致する事から、おそらく運命とは、
二人の名前の組み合わせの事だったのではないかという推測がされているんだが、どうだ?」
「あ~……安直だけど確かにそれっぽい……」
「でもまあ恋の始まりってそういうものじゃない?」
「それは否定出来ないけど……」
「まあ状況から、その可能性が高いというだけの事だ、実際そうなのかは分からない」
「でも本当にそれっぽいよねぇ……」
こうして今回の件の背景に対する推測は成された。
そして当日の対応についてだが、当然恋人のフリをする事など出来ない為、
香蓮が直接断りを入れるのを、八幡が黙って見守るという事になった。
香蓮の父親に対する対応は、本人の気持ちの問題を強調しつつ、
相手を貶めないように、無難に進める事と決定された。
「正直ちょっと物足りない気がしない?」
「そうだねぇ、でもまあ角がたたないようにしないとだしね」
「でもこれで相手が引くかなぁ?」
「まあ辛抱強く断るしかないんじゃないかな」
明日奈と美優は、お風呂場でそんな会話を交わしていた。
一緒に入っていた香蓮は、苦笑しながらその会話を聞いていた。
「まあ私の問題だし、何とか説得してみる」
「無理だったらどうするの?」
「そうねぇ、家出でもしてやろうかな」
「えっ、本当に?」
「まあ、状況が許せばだけどね」
「学費とか色々あるもんね……」
「まあほら、それは奨学金的な扱いで、ソレイユから借りるって手もあるし」
「まあ本当にそうなったらまた考える」
そして三人は仲良く風呂に浸かり、お風呂で女子トークをした。
一方その頃八幡は、アルゴの来訪を受けていた。
「よっ、ハー坊、オレっちの情報は役に立ったカ?」
「微妙に引かれちまったかもしれないが、役には立ったぞ」
「まあそれは仕方ないだロ」
「で、今日は何の用だ?」
「ボスに頼まれて、これを持ってきたんだゾ」
「ああ、アミュスフィアか、悪いなアルゴ」
「なぁに、家に帰るついでだから問題なイ」
八幡は、アルゴがちゃんと家に帰ってくれているようなので少し安心した。
「ちゃんと家に帰ってるんだな、えらいぞ」
「まあさすがにあんな羞恥プレイはもうご免だからな。
で、今日はアーちゃん達がいるんだよな?今は風呂か何かカ?」
「ご明察だ、今三人で風呂に入ってるよ、お前も乱入するか?」
八幡にそう言われ、アルゴは部屋をチラッと覗きこんだ後、こう言った。
「そうしたいのはやまやまだけど、最近仕事が忙しいから凄く眠いんだよ、
だから帰って直ぐに寝たいんだよナ」
「そうか……悪いな、余計な事を頼んで負担をかけちまって」
そう謝る八幡に、アルゴは鷹揚に首を振った。
「問題ないから気にすんナ」
「別にお前もここを利用してもらってもいいんだぞ?」
「もうちょっとこっちの仕事が落ち着いたら考えておく、
オレっちの部屋は近いし、それほど必要性がある訳でもないしナ」
「そうか、それじゃあゆっくり休んでくれ、くれぐれも無理はするなよ、アルゴ」
「おう、おやすみハー坊」
そしてアルゴは二つ隣の部屋に去っていき、
八幡は寝室とリビングで、アミュスフィアを使えるように手早くセッティングを済ませた。
丁度そこに、三人がお揃いの浴衣姿で現れた。
「……………おお?」
「どう?似合う?」
「リーダー、かわいいフカちゃんが参上だよ!」
「は、八幡君、どうかな?」
「おう、三人とも凄くかわいいと思うぞ」
その八幡の言葉に、三人は手を取り合って喜んだ。実に微笑ましい。
「で、それはどうしたんだ?」
「夏場にパジャマの代わりに着るのもいいかなって、
サイズ各種をみんなで共用出来るように、何着か揃えてみたんだよね。
着るのは簡単でね、羽織ったら前を合わせて、このマジックテープの帯で止めるだけなの」
八幡は、そんな物もあったのかと感心した。
「ほうほう、それを着て外に出る訳じゃないし、それはお手軽でいいな」
「うん、かわいいしね。あっ、それ、アミュスフィア?どうしたの?」
明日奈は目ざとくアミュスフィアを見つけ、八幡にそう尋ねた。
「ついさっき、アルゴが届けてくれたんだ、この部屋には無い方がおかしいしな」
「なるほど、で、アルゴさんは?」
「眠いから寝るってさ」
「そっかぁ、忙しそうだもんね」
「だな、もっと負担を軽減してやりたいんだがな」
そして美優が、アミュスフィアを見てぽつりと言った。
「あ、せっかくこっちに来たんだし、ここからALOにログインして、
みんなに挨拶して来ようかな」
「あっ、それじゃ私も付き合うよ、もし誰もいなかったら寂しいしね。
八幡君と香蓮ちゃんも、せっかくだからGGOでちょっと遊んでくれば?」
明日奈は、香蓮を一人にする訳にはいかないと思い、そう言った。
「そうだな、ちょっとひと狩りするか?香蓮」
「寝る前の軽い運動だね、まあ実際に体を動かす訳じゃないけどね」
こうして二組に分かれ、ログインする事が決定した。
「とりあえず今は、リビングと寝室で二台ずつ設置してあるぞ」
「設置しなおすのも面倒だし、そのまま分かれればいいかな?」
「そうだな、それじゃあ香蓮はこのソファーベッドで、
俺はこっちの普通のソファーでログインするか」
「え、そんな、悪いよ」
「いや、俺はソファーで寝るのは慣れてるし、そんな長時間やる訳じゃないから問題ない。
遠慮しないでそっちを使ってくれ」
「う、うん、ありがとう」
そして明日奈と美優は寝室へと移動し、八幡は香蓮にこう尋ねた。
「俺はちょっとトイレに行ってくるから、先にログインしておいてくれ。
ああ……香蓮はトイレとか、大丈夫か?」
「うん、大丈夫、それじゃあ先にログインしてるね」
八幡は言いにくそうにそう言ったが、香蓮は平気な顔でそう答えた。
八幡が変な意味で言っているのではない事を、香蓮はちゃんと理解していたからだ。
そして香蓮はGGOにログインし、八幡はトイレへと向かった。
「さて、香蓮が待ってるだろうから、早くログインしないとな」
八幡はそう呟きながらリビングへと戻った。
「よっと…………って、まじか……」
八幡は、ログインする前に香蓮の方をチラッと眺めたのだが、
浴衣が若干小さめだったせいか、香蓮のスラリと伸びた生足が、
太ももまで露出されている事に気が付き、どうすればいいかと激しく葛藤した。
「困ったな……ここで放置すると、香蓮が戻った後、恥ずかしがらせてしまう事になる。
だが直そうにも、構造的に俺の手が香蓮の足に触る事は避けられない、
そしてその拍子に、見えてはいけない物が見えてしまう可能性も否定出来ない……
というか今でもかなり際どい……ここは素直に明日奈に頼るべきだな」
八幡はそう考え、寝室の扉をノックした。だが返事は無い。
「もうログインしちまったのかな……」
八幡は一応もう一度ノックをし、返事が無い事を確認すると、
困った顔でリビングへと戻った。
「まずい、まずいぞ………って、そうか!」
八幡は何か思いついたのか、部屋の隅にあるカラーボックスを開いた。
そこにはタオルケットのような物が収納されており、
八幡はそれを、香蓮の下半身が隠れるようにかけた。
ちなみにこれは、八幡がリビングで寝る時に使っている物である。
「ふう、これで良しっと、さて行くか」
シャナはGGOに降り立つと、とりあえずレンの姿を探した。
「あのピンクは目立つから、直ぐに見つかると思ったんだがなぁ……」
近くにレンの姿は無く、シャナはフレンドリストから、レンの居場所を探した。
「総督府?何であんな場所に……」
シャナはその事を訝しく思いながら、レンにメッセージを送ったが、返事はない。
「何かトラブルか……?」
そう思いながら、シャナは総督府への道を急いだ。
そして総督府に着いたシャナの目に、長身でガッシリとした体格をして、
整った顔をしたプレイヤーが、レンに話しかけている姿が映った。
レンがとても困ったような顔をしてた為、シャナはやはりトラブルだったかと思いながら、
二人に近付いていき、声をかけようとした。
「………ですから香蓮さん」
「だから、その名前で私を呼ばないで、ファイヤさん!」
シャナはその言葉を聞き、一瞬呆然とした。
「何でリアルの名前で呼び合ってるんだよ……」
シャナはそう思い、二人に声を掛けた。
「随分と危険な会話をしているが、ここは公の場だ、ちょっと黙った方がいいな」
「シャナ!」
レンは嬉しそうにシャナに駆け寄り、シャナにひそひそと話しかけた。
「シャナ、この人西山田さんみたいなんだけど、私の事を本名で呼ぶから困ってるの。
その上、自分のプレイヤーネームも本名のファイヤにしてるみたいなの」
「まじかよ、本人か、分かった、何とかする。で、レンは何でここにいたんだ?」
「ほらあれ」
そのレンの指差す先には、『開催、スクワッド・ジャム』の文字が躍っていた。
シャナはそれが何を意味するのか知りたいと思ったが、
とにかく先ずは移動しないとまずいと考え、先にファイヤに近付き、こう言った。
「ここは人目が多いから、会話をするのに向いている場所じゃない。
誰にも邪魔されずに話せる場所が近くにあるから、そこに移動しないか?」
「あ、ああ、分かった」
さすがのファイヤも周りの目を多少気にしていたのだろう、素直にそう答え、
シャナは黙って二人をレンタルスペースへと案内した。