ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第461話 強化外骨格

「で、話ってのは何だい?」

「この前一緒に遊んだピンクの女の子、覚えてるか?」

「当たり前だ、レンちゃんだろ?」

「実はそのレンがピンチなんだ、力を貸してほしい」

「レンちゃんが?どういう事だい?」

「実はな……」

 

 シャナはゼクシード達三人に、ファイヤという男の事を、

リアル情報をぼかしながら説明した。

 

「何それ気持ち悪い」

「同じ女としては、もし自分がそんな立場になったらって思うとぞっとするんだけど」

 

 ユッコとハルカはそう感想を述べ、ゼクシードもそれに同意した。

 

「というか、同じ世界を生きている人間だとは思えないよ」

「俺もそれには激しく同意するが……」

「というか、その態度がありえない」

「まあ私達も昔の事を考えると、人の事は言えないかもだけどさ!」

 

 ユッコとハルカは自虐的にそう言った。

 

「お前らはあいつとは違う、一緒にするな」

「それ、本来は私達が言うべきセリフだよね?」

「でもありがとう」

 

 二人はシャナに、そうお礼を言った。随分と丸くなったものである。

 

「で、僕達は君達を優勝させる手伝いをすればいいのかい?」

「いや、それはさすがに悪いから、積極的に他のチームを潰していってくれるだけでいい、

そして最後に俺達二チームが残ったら、そこで雌雄を決しようぜ」

「オーケー、それならこちらとしても何も言う事は無いよ」

「悪いな、恩に着る」

「なぁに、君には何となく、借りがあるような気がしてならなかったから、

これでおあいこって事でいいさ」

「借り?そんなものあったか?」

「いや、無いはずなんだが、どうしてもそんな気分になってしまうというか……」

 

 そんなゼクシードを、シャナ達三人は、面白そうに眺めていた。

 

「ま、まあそんな話はどうでもいいじゃないか、とにかく話は分かった、

それじゃあ早速申し込みをしてくるよ」

「すまん、頼む」

 

 こうしてあっさりとゼクシードの協力をとりつける事に成功したシャナは、

三人に報告する為にそのままログアウトした。

 

 

 

「話がまとまったぞ、今回に限り、ゼクシードは味方という事になる」

「随分スムーズに決まったんだね」

「ああ、あまりの物分りの良さに、別人かと思ったくらいだ」

 

 とにもかくにも話がまとまったという事で、香蓮は若干明るい表情を取り戻す事となった。

だが次の話に移った瞬間、香蓮の顔は再び曇った。

 

「あとは、明日をどう乗り切るかなんだが……」

「もう行くのをやめちゃおっか、八幡君」

「気持ちは分かるが、そういう訳にもいかないだろ、香蓮」

 

 そう言われた香蓮は、どよんと落ち込んだ。

 

「はぁ……贅沢は言わないから、

とにかく日本語が通じて、一般常識をそれなりに備えている人と会うんだったら、

ここまで落ち込まなくていいんだけどな……」

「まるで宇宙人だしな……」

「八幡君がそこまで嫌がるなんて珍しいね」

 

 明日奈のその言葉に、八幡はとても嫌そうな顔で言った。

 

「そうだな、あいつは自信にそれなりに根拠のあるクラディールから、

ネットリテラシーを取り払ったような奴だからな」

「クラディールって聞くだけで、もう近寄りたくなくなるね……」

「だろ……どうしたもんかな」

「まあ明日は仕事モードで行けばいいんじゃない?

別に仲良くなろうって訳じゃないんだし」

「そうするか……」

 

 八幡は明日奈のアドバイスを受け、明日はそれでいこうと素直に決断した。

 

「あ、あの、リーダーの仕事モードって?」

「そうだね……今ちょっと練習してみれば?」

「そうだな、いきなりだと香蓮が驚くかもしれないしな」

 

 そう言って八幡は、微笑をたたえながら美優に手を差し出した。

 

「ようこそ北海道から遥々おいで下さいました、篠原さん」

「あ、ど、どうも……」

 

 美優はいきなりそう言われ、反射的に手を差し出し、八幡と握手した。

 

「噂通りのお綺麗な方だ、こうしてお会い出来た事を本当に嬉しく思います」

「えっ、あ、は、はい、ありがとうございます」

「どうぞ緊張なさらずに、リラックスして下さい、

私の事は、お気軽に八幡と呼んで頂いて構いませんので」

「あ、は、はい、それでは………八幡さん」

「はい、今後ともどうぞ宜しくお願いしますね、美優さん」

「よ、宜しくお願いします!」

 

 美優は盛大に顔を赤くしながらそう言った。

その瞬間に八幡は、どんよりとした表情を浮かべながらソファーにどっと腰を下ろした。

 

「はぁ……思ってもいない事を言わないといけないのは疲れるわ」

「がああああああああああああん!」

 

 そう頭を抱える美優に、八幡は再び微笑しながらこう言った。

 

「冗談ですよ、美優さんは本当にかわいらしいですね、

それにとても感情豊かで僕は凄く好きですよ」

 

 そう言われた美優は、途端に復活し、嬉しそうに八幡に返事をした。

 

「はっ、はいっ」

「あっと、美優さん動かないで、こんな所に大福が付いてますよ」

「はい………えっ、大福?」

「これです」

 

 その瞬間に八幡は、美優のほっぺたをぎゅっとつまんだ。

 

「い、痛い痛い!」

「あれ、この大福取れませんね」

「そ、それは大福じゃないです!かわいいフカちゃんのほっぺたです!」

「ああ?どうやら逆のほっぺたにも大福がぶら下がっているようですね」

「い、痛い!でもリーダーにつままれていると思うとちょっと気持ちいい不思議!」

 

 その瞬間に、八幡は凄く嫌そうに手を離した。

 

「お前もそっち系かよ……」

「失礼な、誰の事かは知らないけど、フカちゃんはオンリーワンのフカちゃんですよ!」

「うぜえ」

 

 そして八幡は、美優を放置し、香蓮の方に向き直った。

 

「香蓮さん、お久しぶりですね、お元気でしたか?」

「えっ、あ、は、はい、元気です」

「そうですか、それは良かった、またお会い出来ると聞いて、

実はとても楽しみに思っていたんですよ」

「あ……わ、私もです」

「そうでしたか、それは光栄ですね」

「い、いえ、私なんか、ただ背が高いだけの……」

 

 そう自分を卑下するような事を言いかけた香蓮の唇に、八幡の人差し指が当てられ、

香蓮はそれ以上何も言えなくなった。

 

「それは長所だって言ったじゃないですか、いいんですよ、そのままで。

むしろそのままがいいんです」

「は、はい!」

 

 香蓮は目を潤ませながらそう言った。八幡はにこにこと微笑したままでおり、

それを見ていた美優が、八幡に言った。

 

「リ、リーダー、そこからいつ落とすんですか?」

「あ?何で落とさないといけないんだ、オチなんか無いぞ?」

「えっ?でもさっきは、このフカちゃんを調教しようとしてきたじゃないですか!」

 

 八幡はため息をつくと、再び美優の両頬をつまんだ。

 

「お前はとりあえずしばらく黙ってような」

「き、気持ちいい!」

「今度は離さないからな」

「リ、リーダーの顔が近い……これは千載一遇のチャンスでちゅぅ!

ア~ンドだいちゅきホールド!」

 

 そう言いながら美優は、強引に八幡の膝の上に跨ると、八幡の頭の後ろに手を回し、

唇を尖らせ、八幡の唇に自分の唇を徐々に近付けていった。

 

「おいてめえ、それ以上顔を近付けるんじゃねえ」

「欲望の力で、フカちゃんの戦闘力は上がるのだよ!」

「はぁ……面倒臭え………」

 

 八幡はそう言いながら両手を左右に広げ、美優の腕を外して立ち上がった。

そのせいで美優は後ろに倒れそうになり、慌てて八幡の腰を足でガッチリとホールドした。

そのせいで美優の浴衣の裾がめくれあがり、下着が八幡に丸見えになったが、

八幡はまったく興味を示さないまま美優をお米様抱っこし、そのせいで美優の足が外れた。

 

「な、なんですと!?」

「香蓮、寝室のドアを開けてくれ」

「あっ、は、はい」

 

 香蓮はいきなりそう言われ、慌てて寝室のドアを開けた。

そして八幡は、寝室のベッドに美優を放り投げ、そのままバタンとドアを閉め、

そのドアの前に座り込んだ。直後にドンドンとドアが叩かれた。

 

「ちょ、ちょっとリーダー?」

「あ~、聞こえない聞こえない」

「警察だ、このドアを開けろ!開けないとコヒーの命は無いぞ!」

「美優、私はこっち側にいるからね?」

「ならばコヒーの子供の頃の嬉し恥ずかしちょっとえっちなエピソードを披露するぞ!」

「だそうだぞ、香蓮」

「そんなエピソードは無いから大丈夫だよ」

「くそ~、万策尽きたぜ!」

「お前の策はペラッペラだなおい」

「ぐすっ、もうしません許して下さい……」

「仕方ない、今回だけは許してやる」

 

 そう言いながらも八幡は、明日奈と香蓮を手招きし、ドアの前で待機させた。

そして八幡はドアの前からどき、美優に声をかけた。

 

「もういいぞ、美優」

「ジュ・テーム!」

 

 その瞬間にドアが開き、中から浴衣を脱いで下着姿になった美優が飛び出してきた。

その突進を八幡はひらりと避け、明日奈と香蓮がガッシリと美優の両手をホールドし、

そのまま二人は寝室へと入っていった。

 

「それじゃあ香蓮、明日はさっきみたいな態度をとるから、適当に合わせてくれ」

「合わせるって、どうすれば……」

「コヒーは普通にしてればそれでいいんじゃないかな」

「香蓮ちゃんは素の状態で受け答えしていればいいと思うよ」

「そ、そうなの?分かった、そうするね」

「おう、それじゃあそのまま寝ちまってくれ、もういい時間だしな」

「そうだね、そうするよ」

「おやすみなさい、八幡君」

「おうおやすみ、明日奈、香蓮」

「リーダー、私におやすみの挨拶は!?」

「おう、美優もぐっすりと永眠しろよ」

「生きてる、私まだ生きてるから!」

 

 その後しばらく部屋の中はバタバタしていたが、直後にひそひそと会話をする声が聞こえ、

やがて室内は静かになり、八幡も疲れた体をソファーベッドに横たえた。

 

 

 

「さっきのリーダー、まるで別人みたいだったね」

「ああ、強化外骨格の事かな?」

「多分それかな、でもあれなら明日も大丈夫だね、コヒー」

「むしろ私の方が対応をミスりそうで心配なんだけど」

「コヒーなら大丈夫、いつも通りでいいのだよ、いつも通りで」

「そうなのかな?」

「だって……」

「ねぇ?」

 

 二人は先ほどの光景を思い出しながらこう言った。

 

「香蓮ちゃん、どこからどう見ても恋する乙女に見えたしね、

まあ彼女としては複雑だけど、今回はまあ仕方ないね」

「コヒー、さっき顔がにやけてたよ」

「あ、えっと………そ、そんなに?」

「うん、だから明日も何も考えないで、

目の前の八幡君に素直に返事をしておけばいいんじゃないかな」

「羨ましいぞ、コヒーめ!」

 

 その後もしばらく三人は雑談をしていたが、やがて順に眠くなったのか、

三人はそのまま深い眠りへと落ちていった。


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