「で、話ってのは何だい?」
「この前一緒に遊んだピンクの女の子、覚えてるか?」
「当たり前だ、レンちゃんだろ?」
「実はそのレンがピンチなんだ、力を貸してほしい」
「レンちゃんが?どういう事だい?」
「実はな……」
シャナはゼクシード達三人に、ファイヤという男の事を、
リアル情報をぼかしながら説明した。
「何それ気持ち悪い」
「同じ女としては、もし自分がそんな立場になったらって思うとぞっとするんだけど」
ユッコとハルカはそう感想を述べ、ゼクシードもそれに同意した。
「というか、同じ世界を生きている人間だとは思えないよ」
「俺もそれには激しく同意するが……」
「というか、その態度がありえない」
「まあ私達も昔の事を考えると、人の事は言えないかもだけどさ!」
ユッコとハルカは自虐的にそう言った。
「お前らはあいつとは違う、一緒にするな」
「それ、本来は私達が言うべきセリフだよね?」
「でもありがとう」
二人はシャナに、そうお礼を言った。随分と丸くなったものである。
「で、僕達は君達を優勝させる手伝いをすればいいのかい?」
「いや、それはさすがに悪いから、積極的に他のチームを潰していってくれるだけでいい、
そして最後に俺達二チームが残ったら、そこで雌雄を決しようぜ」
「オーケー、それならこちらとしても何も言う事は無いよ」
「悪いな、恩に着る」
「なぁに、君には何となく、借りがあるような気がしてならなかったから、
これでおあいこって事でいいさ」
「借り?そんなものあったか?」
「いや、無いはずなんだが、どうしてもそんな気分になってしまうというか……」
そんなゼクシードを、シャナ達三人は、面白そうに眺めていた。
「ま、まあそんな話はどうでもいいじゃないか、とにかく話は分かった、
それじゃあ早速申し込みをしてくるよ」
「すまん、頼む」
こうしてあっさりとゼクシードの協力をとりつける事に成功したシャナは、
三人に報告する為にそのままログアウトした。
「話がまとまったぞ、今回に限り、ゼクシードは味方という事になる」
「随分スムーズに決まったんだね」
「ああ、あまりの物分りの良さに、別人かと思ったくらいだ」
とにもかくにも話がまとまったという事で、香蓮は若干明るい表情を取り戻す事となった。
だが次の話に移った瞬間、香蓮の顔は再び曇った。
「あとは、明日をどう乗り切るかなんだが……」
「もう行くのをやめちゃおっか、八幡君」
「気持ちは分かるが、そういう訳にもいかないだろ、香蓮」
そう言われた香蓮は、どよんと落ち込んだ。
「はぁ……贅沢は言わないから、
とにかく日本語が通じて、一般常識をそれなりに備えている人と会うんだったら、
ここまで落ち込まなくていいんだけどな……」
「まるで宇宙人だしな……」
「八幡君がそこまで嫌がるなんて珍しいね」
明日奈のその言葉に、八幡はとても嫌そうな顔で言った。
「そうだな、あいつは自信にそれなりに根拠のあるクラディールから、
ネットリテラシーを取り払ったような奴だからな」
「クラディールって聞くだけで、もう近寄りたくなくなるね……」
「だろ……どうしたもんかな」
「まあ明日は仕事モードで行けばいいんじゃない?
別に仲良くなろうって訳じゃないんだし」
「そうするか……」
八幡は明日奈のアドバイスを受け、明日はそれでいこうと素直に決断した。
「あ、あの、リーダーの仕事モードって?」
「そうだね……今ちょっと練習してみれば?」
「そうだな、いきなりだと香蓮が驚くかもしれないしな」
そう言って八幡は、微笑をたたえながら美優に手を差し出した。
「ようこそ北海道から遥々おいで下さいました、篠原さん」
「あ、ど、どうも……」
美優はいきなりそう言われ、反射的に手を差し出し、八幡と握手した。
「噂通りのお綺麗な方だ、こうしてお会い出来た事を本当に嬉しく思います」
「えっ、あ、は、はい、ありがとうございます」
「どうぞ緊張なさらずに、リラックスして下さい、
私の事は、お気軽に八幡と呼んで頂いて構いませんので」
「あ、は、はい、それでは………八幡さん」
「はい、今後ともどうぞ宜しくお願いしますね、美優さん」
「よ、宜しくお願いします!」
美優は盛大に顔を赤くしながらそう言った。
その瞬間に八幡は、どんよりとした表情を浮かべながらソファーにどっと腰を下ろした。
「はぁ……思ってもいない事を言わないといけないのは疲れるわ」
「がああああああああああああん!」
そう頭を抱える美優に、八幡は再び微笑しながらこう言った。
「冗談ですよ、美優さんは本当にかわいらしいですね、
それにとても感情豊かで僕は凄く好きですよ」
そう言われた美優は、途端に復活し、嬉しそうに八幡に返事をした。
「はっ、はいっ」
「あっと、美優さん動かないで、こんな所に大福が付いてますよ」
「はい………えっ、大福?」
「これです」
その瞬間に八幡は、美優のほっぺたをぎゅっとつまんだ。
「い、痛い痛い!」
「あれ、この大福取れませんね」
「そ、それは大福じゃないです!かわいいフカちゃんのほっぺたです!」
「ああ?どうやら逆のほっぺたにも大福がぶら下がっているようですね」
「い、痛い!でもリーダーにつままれていると思うとちょっと気持ちいい不思議!」
その瞬間に、八幡は凄く嫌そうに手を離した。
「お前もそっち系かよ……」
「失礼な、誰の事かは知らないけど、フカちゃんはオンリーワンのフカちゃんですよ!」
「うぜえ」
そして八幡は、美優を放置し、香蓮の方に向き直った。
「香蓮さん、お久しぶりですね、お元気でしたか?」
「えっ、あ、は、はい、元気です」
「そうですか、それは良かった、またお会い出来ると聞いて、
実はとても楽しみに思っていたんですよ」
「あ……わ、私もです」
「そうでしたか、それは光栄ですね」
「い、いえ、私なんか、ただ背が高いだけの……」
そう自分を卑下するような事を言いかけた香蓮の唇に、八幡の人差し指が当てられ、
香蓮はそれ以上何も言えなくなった。
「それは長所だって言ったじゃないですか、いいんですよ、そのままで。
むしろそのままがいいんです」
「は、はい!」
香蓮は目を潤ませながらそう言った。八幡はにこにこと微笑したままでおり、
それを見ていた美優が、八幡に言った。
「リ、リーダー、そこからいつ落とすんですか?」
「あ?何で落とさないといけないんだ、オチなんか無いぞ?」
「えっ?でもさっきは、このフカちゃんを調教しようとしてきたじゃないですか!」
八幡はため息をつくと、再び美優の両頬をつまんだ。
「お前はとりあえずしばらく黙ってような」
「き、気持ちいい!」
「今度は離さないからな」
「リ、リーダーの顔が近い……これは千載一遇のチャンスでちゅぅ!
ア~ンドだいちゅきホールド!」
そう言いながら美優は、強引に八幡の膝の上に跨ると、八幡の頭の後ろに手を回し、
唇を尖らせ、八幡の唇に自分の唇を徐々に近付けていった。
「おいてめえ、それ以上顔を近付けるんじゃねえ」
「欲望の力で、フカちゃんの戦闘力は上がるのだよ!」
「はぁ……面倒臭え………」
八幡はそう言いながら両手を左右に広げ、美優の腕を外して立ち上がった。
そのせいで美優は後ろに倒れそうになり、慌てて八幡の腰を足でガッチリとホールドした。
そのせいで美優の浴衣の裾がめくれあがり、下着が八幡に丸見えになったが、
八幡はまったく興味を示さないまま美優をお米様抱っこし、そのせいで美優の足が外れた。
「な、なんですと!?」
「香蓮、寝室のドアを開けてくれ」
「あっ、は、はい」
香蓮はいきなりそう言われ、慌てて寝室のドアを開けた。
そして八幡は、寝室のベッドに美優を放り投げ、そのままバタンとドアを閉め、
そのドアの前に座り込んだ。直後にドンドンとドアが叩かれた。
「ちょ、ちょっとリーダー?」
「あ~、聞こえない聞こえない」
「警察だ、このドアを開けろ!開けないとコヒーの命は無いぞ!」
「美優、私はこっち側にいるからね?」
「ならばコヒーの子供の頃の嬉し恥ずかしちょっとえっちなエピソードを披露するぞ!」
「だそうだぞ、香蓮」
「そんなエピソードは無いから大丈夫だよ」
「くそ~、万策尽きたぜ!」
「お前の策はペラッペラだなおい」
「ぐすっ、もうしません許して下さい……」
「仕方ない、今回だけは許してやる」
そう言いながらも八幡は、明日奈と香蓮を手招きし、ドアの前で待機させた。
そして八幡はドアの前からどき、美優に声をかけた。
「もういいぞ、美優」
「ジュ・テーム!」
その瞬間にドアが開き、中から浴衣を脱いで下着姿になった美優が飛び出してきた。
その突進を八幡はひらりと避け、明日奈と香蓮がガッシリと美優の両手をホールドし、
そのまま二人は寝室へと入っていった。
「それじゃあ香蓮、明日はさっきみたいな態度をとるから、適当に合わせてくれ」
「合わせるって、どうすれば……」
「コヒーは普通にしてればそれでいいんじゃないかな」
「香蓮ちゃんは素の状態で受け答えしていればいいと思うよ」
「そ、そうなの?分かった、そうするね」
「おう、それじゃあそのまま寝ちまってくれ、もういい時間だしな」
「そうだね、そうするよ」
「おやすみなさい、八幡君」
「おうおやすみ、明日奈、香蓮」
「リーダー、私におやすみの挨拶は!?」
「おう、美優もぐっすりと永眠しろよ」
「生きてる、私まだ生きてるから!」
その後しばらく部屋の中はバタバタしていたが、直後にひそひそと会話をする声が聞こえ、
やがて室内は静かになり、八幡も疲れた体をソファーベッドに横たえた。
「さっきのリーダー、まるで別人みたいだったね」
「ああ、強化外骨格の事かな?」
「多分それかな、でもあれなら明日も大丈夫だね、コヒー」
「むしろ私の方が対応をミスりそうで心配なんだけど」
「コヒーなら大丈夫、いつも通りでいいのだよ、いつも通りで」
「そうなのかな?」
「だって……」
「ねぇ?」
二人は先ほどの光景を思い出しながらこう言った。
「香蓮ちゃん、どこからどう見ても恋する乙女に見えたしね、
まあ彼女としては複雑だけど、今回はまあ仕方ないね」
「コヒー、さっき顔がにやけてたよ」
「あ、えっと………そ、そんなに?」
「うん、だから明日も何も考えないで、
目の前の八幡君に素直に返事をしておけばいいんじゃないかな」
「羨ましいぞ、コヒーめ!」
その後もしばらく三人は雑談をしていたが、やがて順に眠くなったのか、
三人はそのまま深い眠りへと落ちていった。