「まずい!」
ゼクシードはそう叫ぶと、咄嗟にユッコとハルカを地面に押し倒した。
「「きゃっ!」」
そして地面に伏せた三人の頭上を、多数の弾丸が通過していった。
「あははははは、撃て撃てぇ!」
「やっぱりマシンガンこそ至高にして最強!」
幸いな事に、ZEMALのメンバー達は、
高笑いしながら水平にマシンガンを連射していただけだったので、
その弾丸はゼクシード達にまったく命中する事は無かったが、それも時間の問題であろう。
少し冷静になれば、銃口を少し下に下げるだけで、ゼクシード達は蜂の巣になるのだ。
「させないっ!」
そこに突っ込んできたのはレンだった。
レンは横合いからPちゃんをフルオートで連射しつつ、
一番手前にいたZEMALのメンバーを蜂の巣にした。
「うおっ、何だこいつは!」
「まさか、噂になってるピンクの悪魔ってこいつなのか!?」
「反撃、反撃!」
「あ、あれ?」
慌ててそちらに銃口を向けた時、そこにレンの姿はもう無かった。
だがよく見ると、地面すれすれにピンク色が見える。
「上下の動きは膝の伸縮で!」
レンは先日シャナに教えられた事を忠実にこなし、
凄まじいスピードで体制を低くする事で、自分を一瞬消えたように見せかけ、
そのまま一気に横へと飛んだ。
「ど、どこだ!?」
「遅い!」
そしてレンは、敵の後方から再び射撃を加え、更に一人のメンバーを屠った。
「くそっ……」
「後ろだ!」
残った四人のメンバーが振り向いた時、またしてもそこにレンはいなかった。
「えっ……?」
「どこに隠れやがった!」
その時レンは、背面走りで下がりつつ、たまたま地面の凹凸に躓き、
そのまま転がって物陰に隠れた所だった。
「射撃体勢は崩さない、そして今のうちにリロード!」
レンはそう呟きながら、Pちゃんに弾丸を補充した。
その瞬間に、明らかにマシンガンとは違う銃声が聞こえ、
レンはチラリと顔を覗かせ、ZEMALの様子を探った。
どうやら今の一連のやり取りで、チーム『セクシード』は、体制を整える事が出来たようで、
三人は物陰からZEMALをけん制しつつ、後退しているようだった。
「よし、このまま合流だ!」
そしてレンは、一気に『セクシード』の横合いに移動し、道を挟んで反対側から、
同じようにZEMALにけん制射撃を始めた。
「ゼクシードさん、大丈夫ですか?」
「レンちゃん、助かった、ありがとう!」
「いえいえ、敵の増援が来る前に、隙を見てこのまま後退しましょう!」
「了解だ!」
四人はそのままけん制を続け、じりじりと後退していった。
だがある程度下がった所で、今度はビルの上からの攻撃が始まり、
角度があるせいで、四人はそれ以上後退する事が出来なくなった。
「ちっ、まずいな、レンちゃん、どうする?」
「大丈夫です、多分そろそろです!」
「そろそろ?」
シャナの事を信じきっていたレンは、シャナからの援護が来る事をまったく疑っておらず、
ゼクシードを安心させるようにそう叫んだ。
その直後にビルの上から一人のプレイヤーが落下してきた、どうやら撃たれたらしい。
そして遅れて銃声が四人の耳に届いた。
「この音は、M82か!」
「さすがシャナさん、タイミングバッチリ!」
そして再びプレイヤーが落下し、それと同時に一時的に、上からの銃声がやんだ。
「よし、レンちゃん、あのマシンガン野郎共に全力射撃、直後に離脱しよう!」
「はい!」
そして四人はZEMALに向けて、激しい面攻撃を加え、
ZEMALが慌てて物陰に隠れた瞬間に、全力で後方へと走り出した。
「今だ!」
「はい!」
四人はそのまま離脱し、シャナのいる南を目指した。
そしてレンに、シャナからの通信が入った。
『レン、右に十五度だ』
「はい!」
レンは訓練の成果を遺憾なく発揮し、微妙に角度を修正しながらゼクシード達を先導した。
そして前方の小さな丘の上で、単眼鏡を覗くシャナの姿を見付けた四人は、
それでやっと落ち着く事が出来、そのままシャナと合流した。
「ゼクシード、大丈夫か?もう追っ手はいないから、安心して少し休んでくれ」
「おかげさまでね、正直助かったよ、シャナ」
「「シャナさん!」」
「ユッコとハルカも大丈夫か?どこか怪我はしてないか?」
「うん、大丈夫」
「ありがとうね」
そしてシャナは、嬉しそうに駆け寄ってきたレンの頭を撫でた。
「ちゃんと見てたぞ、教えた事をちゃんと生かせてたな、えらいぞ、レン」
「シャナ!私、頑張った!」
そう言いながらレンは、飛び上がってシャナに抱きついた。
「おっと」
「やっぱシャナは力持ちだねぇ」
シャナはレンを軽々と支え、レンは感心したようにそう言った。
「まあ、ただのステータスのせいだけどな。
それよりもレン、その、俺の手の位置がまずいんだが……」
「手の位置?って………きゃっ!」
レンは、自分の体重を支える為に、
シャナの手がレンのおしりをまともに掴んでいる事に今更ながら気がつき、
慌ててシャナの腕の中から飛び降りた。
「もう、シャナさんのえっち」
「今のは百パーセントお前のせいだからな……」
「う……ま、まあいいや、広い心で許します」
「お、おう、ありがとな」
レンは恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうにそう言い、
シャナも微笑しながらそうお礼を言った。
そんな二人の会話を、ゼクシードは少し羨ましそうに、
そしてユッコとハルカは微笑ましそうに見つめていたが、
やがてユッコとハルカが、何かに気づいたようにハッとした。
「あっ!」
「そういえば……」
その二人の言葉を聞いて、シャナとレンは何事かと思い、二人に注目した。
そして二人は、次の瞬間ゼクシードに詰め寄った。
「そういえばゼクシードさん!」
「ん?どうした二人とも」
「さっき助けてくれた時、さりげなく私の胸に触ってましたよ!」
「私のおしりにも触りましたよね!?」
「えっ?」
ゼクシードはそう言われて戸惑った。咄嗟の事だったので、
その時の状況を詳しく覚えていないからだ。
しかしこの二人が言うならそうなのだろう、ゼクシードはそう考え、素直に二人に謝罪した。
「そ、そうだったのか、すまなかった」
そんなゼクシードを二人は笑顔で見つめており、
ゼクシードは、先ほどのシャナとレンの姿を思い出し、
二人の許しの言葉に備えてお礼を言う準備をした。
だが二人の言葉は、ゼクシードの予想とは微妙に違うものだった。
「もう、仕方ないですね、十万クレジットで許してあげます」
「うんうん、そのくらいが妥当かな、広い心で十万クレジットで許します」
「ありが………とう?」
思わず疑問系でそう言ったゼクシードに対し、二人はきょとんとした。
「ゼクシードさん、どうして疑問系なんですか?」
「あ、いや、別に何でもないよ……
ただちょっと、シャナとレンちゃんの姿を見た後だったから、
どうなのかなって………あ、あはは……」
「やだなぁ、よそはよそ、うちはうちですよ」
「本当に頼りにしてるんですからね、ゼクシードさん」
「そ、そうか………うん、そうだね、つまらない事を言って悪かった。
僕は二人に頼りにされてるんだよな、
よし、この大会が終わったら三人でリアルで食事にでも……」
ゼクシードが、そう不穏な事を言いかけた瞬間に、
ユッコとハルカは目配せすると、いきなりシャナにしなだれかかり、
さりげなくその手を自分達の胸に当て、シャナにこう言った。
「あっと、いきなり眩暈がああ!」
「きゃっ、シャナさん、手が、手が私達の胸に!」
「うおっ、何だお前らいきなり……」
「ふえっ!?」
驚くシャナとレンをよそに、二人はしばらくそうしていたが、
やがてシャナから離れ、こう言った。
「もう、シャナさんのえっち」
「仕方ないから、広い心で許してあげます」
その二人の言葉に、シャナは戸惑いを隠せず、
レンは二人に真似をされ、恥ずかしそうに頭を抱えた。
「うひゃぁ、私ってばあんな事をしてたんだ、うぅ、恥ずかしい……」
そして二人は何事も無かったかのようにゼクシードに駆け寄ると、
笑顔でゼクシードに言った。
「さあゼクシードさん、頑張りましょう!」
「ここから巻き返しますよ、ゼクシードさんの事は、本当に頼りにしてますからね!」
「あ、うん、そ、そうだね……」
納得しがたい表情を浮かべながらゼクシードはそう言い、
同じく顔に疑問符を浮かべていたシャナが、ゼクシードの横に並んだ。
「……よく分からないが、とりあえずゼクシード、この状況をどう思う?」
「そうだね……」
そして二人は会話しながらとりあえず南西に移動を始め、
その後をレンとユッコとハルカも会話をしながら付いていった。
「あ、あの、お二人とも、さっきのって……」
「あ、ごめんねレンちゃん、びっくりさせちゃった?」
「は、はぁ……」
「ほら、あの時ゼクシードさんが、またおかしな事を言いかけたでしょ?」
「あ、リアルで食事云々ってやつですね!」
「ああいうのはうちら興味が無いから、シャナさんをだしに使わせてもらったの、ごめんね」
「まともに断ると、チームとして気まずくなる事もあるからね」
「あ、そういう……」
レンは、その説明に納得した。
「確かにちょっとやりすぎちゃった気もするけど、
シャナさんには何度か高い食事を奢ってもらってるから、
まあちょっとくらいならいいかなって」
その言葉を聞いたレンは、焦ったように二人に尋ねた。
「お、お二人はシャナとリアルで会うくらいの仲だったんですか!?」
そんなレンを見て、二人は笑いながらレンに囁いた。
「違う違う、実は私達、シャナさんと同じ学校だったのよ」
「だから元々顔見知りだったの。でも心配しないで、高校の時は何も無かったから」
「むしろ私達、シャナさんの事を嫌ってたしね」
「ほえ~……」
レンはその言葉に驚いた。とても今はそうは見えないからだ。
「あ、あの、今はシャナの事、嫌いじゃないんですか?」
「そうねぇ……まあ別に嫌いじゃないかな」
「好きでもないけどね!」
「なるほど……」
事情を聞いて、納得しつつも安心したような表情を浮かべるレンを見て、
二人は面白そうな顔をして言った。
「レンちゃんは、シャナさんの事が大好きなんだね」
「ふえっ!?え、えっと、あのですね……」
「ああ、いいのよいいのよ、私達、レンちゃんと同じような目をした人を、
何度も何人も見てきてるからね」
「あ、えと………は、はい」
「まあ苦難の道のりになるだろうけど、頑張ってね」
「応援するから!」
「はい!ありがとうございます!」
そして三人は笑い合い、丁度その時レンに、シャナが声をかけてきた。
「レン、楽しそうなところを邪魔して悪いがちょっといいか?
さっきの戦闘について、ゼクシードがいくつか聞きたい事があるそうだ」
「あ、今行きます!」
そしてレンの代わりに下がってきたシャナが、ユッコとハルカに話しかけた。
「おいお前ら、さっきのは一体何だったんだよ……」
「とか言いながら、嬉しかったんでしょ?」
「ああいうのは間に合ってるから別に嬉しくはない」
「じゃあ何でそんな赤い顔をしているの?」
「あ、暑いだけだ、あ~暑い暑い、今年の夏も暑くなりそうで困ったもんだな」
「気候とかが関係ないGGOの中でそんな事言われてもねぇ……」
そして二人はレンに言った説明と同じ事をシャナに説明した。
「ああ、そういう事か、まあでも、やり方くらいはもう少し考えてくれよ……」
「ごめんごめん、さすがにちょっとやりすぎちゃったね」
「いや、そういう事じゃなく、お前らがその……俺なんかに胸を触られて、嫌だったろ?」
「えっ?」
「あ、うちらの事を考えてくれたんだ」
「べ、別に……」
そう顔を背けるシャナがかわいく思えたのか、二人は両脇から再びシャナに抱きついた。
「うわっ、今度は何だよ、おいこら離せ」
「離しません~!」
「これは、素直じゃないシャナさんへの罰なのです!」
「罰ってお前らな……」
そして二人はシャナの耳元で囁いた。
「レンちゃんを泣かせちゃ駄目なんだからね」
「その為にもこの大会、絶対に優勝するんだよ」
二人はそう言って、前を歩いているゼクシードとレンの方へと走っていった。
「まったくあいつらは……もう昔の面影がまったく無いじゃないかよ」
シャナはそう呟きながら、前にいる四人の方へと走っていった。
その表情は、とても穏やかななものだった。
ちなみに大会後、八幡はこの事で明日奈と南に責められ、
そのご機嫌をとる為に色々要求される事になる。