その頃『Narrow』のメンバー達は、その戦闘の一部始終を観察していた。
「どうだ?ブラックキャット」
「相変わらずあの人の狙撃は反則ですね、本当に素人とは思えません」
「クリンは?」
「あのピンクのちびっこ、何あの動き?この仕事を命令された時は、
素人相手に戦うなんて、正直どうかと思ったけど、これは腕が鳴りますね」
「まあやりすぎないようにな」
「あの動きをする奴の相手をするのよ、やりすぎるくらいが丁度いいと思います」
「同じちびっこ同士、気が合いそうだけどなぁ」
そう軽口を叩いたケモナーは、いきなりクリンに殴られた。
「痛ってぇ、いきなり何をするんすか!」
「ふん、デリカシーが無いからあんたはモテないのよ」
「俺はネコ耳少女と出会えさえすれば、それでいいっすもん」
「そういえばあの子の帽子は、まるでうさ耳のようでしたね」
トミーが冷静な口調でそう言った。
「確かに……」
ケモナーはそう言われ、レンの姿を思い出しながら言った。
「あれは有りか無しかで言えば有り……いやいや、しかし真のケモナー道の為には、
こんなところで妥協するのは……」
そんなケモナーに、ブラックキャットは呆れた声で言った。
「何?ちょっとでも自分にチャンスがあるとでも思ってるの?
あの子はどう見ても、あの人に惚れてるでしょ」
「やっぱり?くそっ、相変わらず大将はモテるなぁ……ああ~、あやかりたいっす!」
ケモナーはそう嘆いたが、そんな彼を見つめる女性陣の視線は、それは冷たいものだった。
その視線には、あんたには絶対に無理よという意味が込められていたのだが、
他人の目を気にしないで生きてきたケモナーには、まったく通じていなかった。
「まあクリンは大将の事がまだよく分かってないからそっちに目がいくんだろうが、
大将は接近戦でもやばいから、油断だけはしないようにな」
「了解!」
「それで、今後の方針だが……」
そう言いながら、コミケは仲間達の顔を見回した。
「もちろん分かってますって」
「この状況だったらまあ一択っすね」
「他にはありえません」
「あいつら、単純に気に入らないしね」
そんな答えを受け、コミケは頷きながらこう宣言した。
「そういう事だ、数さえ揃えればいいなんて思ってる奴らはこの手で叩きのめす、
誰を倒しても仕事に支障は無い以上、やる事は一つしかない。
あそこでふんぞり返ってる奴らを、片っ端から殲滅するぞ」
「「「「了解!!!」」」」
こうしてNarrowも、ファイヤ達を目標として動き出す事になったのだった。
「空振り?あの数で攻撃したのに?いやいや、センスの低い冗談だよね?」
「はぁ……まさかあのシャナがゼクシードを助けに来るとは想定外でして……」
「えっ、じゃあ本当に?あの状況からこちらは四人も倒されて、向こうの被害はゼロ?
参ったなぁ、思った以上に烏合の衆だったのかな」
「申し訳ありません……」
獅子王リッチーは、ファイヤからの報酬を失いたくない為に、
何を言われてもひたすら我慢して、頭を下げ続けていた。
「まあ状況のせいもあるかもしれないしな……仮に何もない平原とかで、
相手の二チームとこっちの全軍がまともにぶつかったら、さすがに勝てるよね?」
「それは、その………」
「まさか勝てないの!?」
ファイヤは愕然とした顔でそう尋ねてきた。
「ええと……何も隠れる場所が無い所でシャナと戦うというのはですね、
要するに戦車でミサイルを相手にするようなものでですね……」
「遠くから一方的に撃たれて全滅するって事?」
「その可能性は否定出来ません……」
「そうか、事前にその事は知ってたけど、それほどなのか」
さすがのファイヤもいくらか情報収集はしていただけの事はあり、
その事については皮肉も付け加えられなかったようだ。
「よし、それじゃあ要塞化出来る地点を探して、そこで敵を待ち構えようか。
あとは兵力の半数を外に出して、その拠点から離れすぎないように、
内と外で連携して敵の接近に備える事にしよう」
「分かりました、次のスキャンの結果を元に、その事を頭に入れながら、
全員でそれに相応しい地形を探す事にしましょう」
その言葉で、獅子王リッチーはファイヤの事を少し見直した。
同時に、とにかく突撃して敵を倒せと言われなかった事に安堵していた。
まあさすがのファイヤもそこまで馬鹿ではないので、その心配は無用なのだが。
「それじゃあ次のスキャンまで待機だね、
今別行動をしている六チームはここに移動させて休んでもらって、
残りの七チームのうち、三チームをセットとして二交代で外の警戒にあたってもらおうか。
もちろん僕らのチームはここで待機ね」
「分かりました、そうします」
獅子王リッチーはその言葉に従ってチーム分けをし、順番に外へと送り出した。
だがその獲物を見逃すNarrowの面々ではなかった。
彼らはシャナとゼクシードの存在に気をとられるあまり、もう一組の敵の存在を忘れていた。
「隊長、敵の三チームほどが、移動を開始しました、どうやら周囲の警戒にあたる模様」
『そうか、どうだ?各個撃破は出来そうか?』
「楽勝ですね、あいつら連携のれの字もありゃしませんよ」
『よし、俺とブラックキャットは狙撃ポイントに移動する、
そっちは付かず離れずの位置をキープしながら、その時に備えてくれ』
「了解、対象をアルファ、ブラボー、チャーリーと設定、情報共有に入ります」
そしてNarrowチームは行動を開始し、前衛からの情報から、
コミケとブラックキャットはとあるビルの五階に陣取った。
『配置についた、こちらからは今、ブラボーチームが丸見えだ、
あいつら完全に気を抜いてやがるな、そちらはどうか』
「そちらの狙撃と同時に殲滅行動を開始可能、クリンが殺る気満々です」
『オーケーだ、ヒトマルサンマルで行動に移る』
「ヒトマルサンマル、了解」
そして時間になり、コミケとブラックキャットは、
のんびりと立ち話をしていた二人のプレイヤーをビルから狙撃した。
『命中を確認、敵は即死しました』
『こちらも命中、即死を確認……って、クリンの奴……』
二人がそう報告した時には、既にクリンは残る四人の所へと突入していた。
その姿はどうやらコミケには丸見えだったようだ。
その手に持つ銃には銃剣が付けられており、最初から接近戦をする気満々だったのが伺えた。
『トミーとケモナーはクリンを援護、こちらは増援の有無を確認しておく』
「了解」
(おらおらおらおらぁ!)
さすがに実際に叫ぶような事はしなかったが、クリンは高揚した状態で、
心の中でそう叫びながら敵目掛けて突入した。
ゲームの中とはいえ、初めての人相手の実戦なのだ、
格闘徽章までとったクリンにとっては、高揚しないはずがない状況だった。
実際にこの戦闘データが上へと提出されたら、何らかのペナルティを与えられるだろうが、
クリンはそんな事は気にしなかった。これは自分の力を試す、絶好のチャンスなのである。
タタンッ
クリンはまずのんびりと座っていた四人組に銃を撃ちかけ、一番手前にいた一人を屠ると、
相手がまともに銃を構えられていない事を確認し、
そのまま突っ込むと、銃剣で敵の体を串刺しにした。
「何だ!?」
「敵襲!敵襲!」
「くそっ、この位置からじゃ……」
「お前ら俺に構うな、俺ごと撃て、撃て!」
「す、すまん!」
クリンに刺されたそのプレイヤーは、決死の覚悟でそう言い、
残された二人のプレイヤーも、その意気に応えて味方ごと蜂の巣にしようとした。
その瞬間にクリンは、そのプレイヤーを盾にして、その二人に突っ込むと、
その体を二人目がけて投げつけた。
「うわっ」
「て、敵は……」
「クリン、下がれ!」
突然そんな声が聞こえ、クリンが後方に飛んだ瞬間、
トミーとケモナーが横合いから銃弾を連射し、
一歩後ろに下がったクリンも先ほど投げつけたプレイヤー越しに銃弾を叩きこんだ。
そしてまたたく間に三人の死体が出来上がり、そのチームは一瞬で壊滅する事となった。
『北からアルファチームが接近中、物陰に身を隠し、
合図があり次第フルオート射撃を実行せよ』
その追加の指示が聞こえて直ぐに、三人は素早く物陰に隠れつつ、銃の弾をリロードした。
直後に五人のプレイヤーが姿を現し、死体の山を見てぎょっとし、立ち止まった。
実に迂闊な行動だと言わざるを得ない。
その隙を見逃さず、コミケとブラックキャットは再び狙撃をし、
仕留める事は出来なかったものの、二人に傷を負わせ、
五人の意識をビルの方に向けさせる事に成功した。
『撃て!』
そのコミケの通信を合図とし、三人は意識が反れた五人にフルオート射撃を叩きこみ、
その五人はあっけなく死体と化した。ここまで実に、三分間の出来事であった。
『遠くに敵の増援を確認、最初にチャーリー、次に三チームが連続で来るぞ、
猶予は三分、置き土産を設置後、そのまま北へと全力で離脱せよ、
こちらも確認後にビルを捨て、そちらに移動する』
「「「了解!」」」
そして目的を達したNarrowの面々は、正確に三分後にその場を離脱した。
後には十一人分の死体が折り重なるように残されており、銃声を聞いて駆けつけた、
通称チャーリーチ-ムは、その光景を見て戦慄した。
「おい、これってどこがやったんだ?」
「シャナの仕業じゃないよな」
「って事は、東にいたもう一チームか?」
「まじかよ……今の一瞬でこれかよ……」
そして死体に近付いた誰かの足に、何か引っかかる感触があった。
「えっ?」
「おい!」
「やべぇ!」
そして死体に仕掛けられていたブービートラップが発動し、
Narrowによってチャーリーと名付けられたチームは、
そのまま全員吹き飛ばされる事となり、直後に駆けつけた交代組の三チームは、
慌ててその場から引き返し、本隊へと合流する事にした。
『チャーリーの殲滅と敵援軍の撤退を確認、この場を離脱する』
そしてNarrowは姿を隠し、ファイヤは苦虫を噛み潰した表情で、その報告を受けた。
「そうですか、三チームもの戦力が……これは皆さん本気でかからないとまずいかもですね」
「えっ?今までも本気で………い、いえ、何でもありません、
そうですね、本気を出さないとですね」
「まあ倒された三チームは、所謂四天王の中でも最弱、って奴ですよね?」
そう言われ、一瞬呆然とした獅子王リッチーは、直ぐに慌てた顔で言った。
「は、はい、その通りです!」
「だよね、うん、的確な表現を学んでおいて良かったよ。
さて、犠牲は出たが時間は稼げた、そろそろスキャンの時間だ、
敵の位置を把握して、今度はこちらから攻めさせてもらうとしようか」
その直後に、二回目のスキャンが始まった。