ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日の話で、スネークの印象がめちゃめちゃ変わるかもしれませんが……


第469話 スネーク

 スキャン結果が表示された瞬間、その場は大混乱に包まれた。

 

「なっ……SLがいないぞ!?」

「セクシードもだ!」

「どこだ!?」

 

 何故なら最初、Narrowは予想とほとんど変わらない位置に表示されたのだが、

今ざわついているように、SLとセクシードの姿が表示されなかったからだ。

 

「ど、どういう事だ!?」

「メタマテリアル光歪曲迷彩マントは削除されたよな?」

「まさかNarrowってチームがやったのか!?」

「いやいや、位置的にありえないだろう」

 

 そんな大混乱の中、ファイヤはじっと腕組みをして考え込んでいたが、

やがて決断したのか、顔を上げてこう言った。

 

「これ以上考えていても始まりません、

ここは周囲に警戒しつつ、全力でNarrowを潰しましょう」

 

 こうして方針が決定され、一同はNarrowが潜伏している北を目指して進軍を始めた。

一方Narrowも、この事態を受け、混乱していた。

 

「おいおい、大将はやられちまったのか?」

「そんな気配は微塵もありませんでしたけど……」

「そうですよ、あの大将に限ってありえませんって」

「でもこれ、まずくない?」

 

 じっとマップを見ていたクリンが、突然そう言った。

 

「確かにまずいかもしれませんね」

 

 ブラックキャットもそう言い、その二人の言葉で、

遅ればせながらコミケも事態のまずさに気が付いたようだ。

 

「確かにまずいな、今明確に表示されてる敵は、うちだけという事になる、

全員急いで西に離脱だ、全部の敵がこっちに殺到してくるかもしれん!」

 

 ここで一つNarrowには誤算が生じていた。

ファイヤ軍団は、数だけは多いので、無理の無い範囲で扇状に進軍していた為、

その一番西よりのチームが、僅かにNarrowの姿を捉える事に成功したのだった。

そしてその報告は、またたく間に全員に共有された。

 

「西に向かうNarrowを発見!」

「よし、一旦ここで合流し、慎重に追い詰めていきましょう」

「後方への備えはどうします?」

「俺達に行かせてくれ!」

 

 その時突然そう叫ぶ者がいた、ZEMALのシノハラである。

 

「うちは人数が少ないし、何よりこの遮蔽物の少ない地形は俺達に最適だ、

ひたすら物陰に隠れながら、近付いてきたシャナにマシンガンをぶっ放してやるぜ!」

「すまん、頼めるか?」

「任せてくれ、見せ場はもらうぜ!」

「そうか、それじゃあ頼む、でも報告だけは怠らないようにな」

「分かってるって、仕事は果たすぜ!」

 

 こうしてZEMALが殿を務める事になった。

 

 

 

「さて、上手くスキャンは誤魔化せたようだな」

「まさかこんな手があったなんてな」

「前回俺の仲間が実証してくれたんだよ、その場面は中継されなかったらしいから、

多分他のチームはこの事は知らないはずだ」

「何にせよ、これは大きなアドバンテージになるね!」

「だな、ほらレン、この手を掴め」

「ありがとう、シャナ」

 

 シャナはそう言って、川の中にいるレンに手を伸ばした。

同じく川の中にいたゼクシードは、平気な顔で自力で川を出ていた。

 

「ふう、貴重な体験だったよ、全然濡れた感じもしないし、

まあさすがに息は止めたけどね」

「面白かったですね、ゼクシードさん」

「そうだね、レンちゃん」

 

 そして二人が無事に川から出る事に成功した後、一同は北を目指したのだが、

そこにファイヤ達の姿は当然無かった。

 

「やっぱりNarrowの方に向かったみたいだな」

「Narrowってチーム、実はかなり強いですよね、

今のスキャンで三チームも減ってましたしね」

「まああのチームなら、別に驚かないぞ」

「シャナ、知り合いなのかい?」

 

 ゼクシードにそう尋ねられ、シャナはこう答えた。

 

「戦争の時、お前が俺に、車で奇襲をかけてきた時があっただろ?

あの時に乱入してきた人達だよ、あと一の砦の戦いの時に、

門にロケットランチャーを撃ちこんだりもしてたな」

「あいつらか……」

 

 ゼクシードは、その説明でどうやらコミケ達の事を思い出したようだ。

 

「まあ今回は、いきなり参加してたから、会話をする機会も無かったし、

多分敵って事になるんだと思う。

まああのチームには、極力最後まで近寄らないようにした方がいい」

「彼らは強いのかい?」

「おう、知らないプレイヤーが二人いたが、恐ろしく強いぞ、理由は察してくれ」

「なるほど、プロのサバゲーマーか、あるいは本職って所か……」

「まあノーコメントだな」

 

 そんな会話をしている最中に、やや先行していたレンが、こう声を上げた。

 

「シャナ、敵影発見」

「お、どこだ?」

「あそこかな」

 

 そう位置を示されたシャナは、最初敵がどこにいるか分からなかった。

 

「………どこだ?」

「ほら、銃の先が少し顔を出してるでしょ?」

「………本当だ、あんなのよく見つけたな、レン」

「えっへん!」

 

 そしてユッコとハルカも、そんなレンを賞賛した。

 

「レンちゃんは、目がいいんだねぇ……」

「そういえば確かに、あの速さで動いてても、きちんと色々見えてたみたいだしね」

「もしかしてレンは、根本的に目がいいのか?」

「う~ん、動いてる物を見るのは得意だけど、視力自体は普通かも」

「それじゃあ観察力に優れてるのかもしれないな」

 

 そしてゼクシードが、シャナにこう言った。

 

「どうやらあれは、マシンガンの先端のようだね」

「マシンガン?あいつらか……確かZEMALとか言ったか」

「どうする?」

「他に見張りの姿は見えないし、この機会に本隊にダメージを与えておきたい、

ここは一旦西に向かい、そこから北上だな」

「僕もその意見に賛成かな、それじゃあ行こうか」

 

 そして五人は進路を変え、

ZEMALに見つからないルートで敵本隊へと着実に近付いていった。

どうやらしばらくZEMALには、マシンガンを撃つ機会は無さそうだ。

 

 

 

「隊長、やばいかも、どうやら補足されてたみたい」

「どうした?何か見つけたのか?」

「四時の方向に敵影多数、このままだとマップの端に追い詰められる」

「マップの端か………このまま行くと森林地帯か、

ん?何か建物のようなものがあるみたいだが」

「何だろう、とりあえずそこに立てこもる?」

「そうだな、この状況だとそれ以外に無いだろうな」

「幸い森林地帯なら、トラップも仕掛け放題だしね!」

「よし、とりあえず緊急避難だ、俺とブラックキャットで拠点を確保する、

残りの三人はトラップの設置を急いでくれ」

 

 

 

 その少し後、ファイヤ軍は、森林前の広場で停止していた。

 

「ここから森林地帯か、やっかいだな……」

 

 獅子王リッチーは、ゲリラ戦が苦手な為、そう呟いた。

今までの戦闘を見ていても、Narrowの実力はかなり高いと思われ、

当然ゲリラ戦にも精通しているであろう可能性は否定出来なかった。

 

「そういえばスネークは、こういう地形が得意なんだよな?

ん、スネーク?いないのか?」

 

 気が付くといつの間にかスネークは、その場から姿を消していた。

 

「………まあいいか、あいつは忍ぶのが仕事みたいなもんだしな」

 

 獅子王リッチーはそう呟くと、気は向かないが、森林での不正規戦に備え、

突撃するチームを選抜する為に、味方を集めてある広場へと向かった。

 

 

 

 トラップを仕掛けていたクリンは、いきなり背後に人の気配を感じ、

銃を抜きつつ慌てて振り向いた。

その目の前には白旗を掲げた一人のプレイヤーが立っており、

クリンは戸惑いながらも、そのプレイヤーを捕虜にし、コミケに通信を入れた。

 

「隊長、敵を一人捕虜にしたんだけど、どうしよう……」

「捕虜?どんな状況でだ?」

「それが、この人白旗を上げて、いつの間にか私の後ろに立ってたのよ……」

「はぁ?意味が分からん、とりあえずこっちに連れてきてくれ」

「了解」

 

 そして数分後、コミケの前に連れられてきたのは、何とファイヤ軍のスネークだった。

 

「あんたは見た事があるな、確かあれはそう、前回のBoBでだったか、

決勝に出てたよな、そう、確かスネークさんだっけか?」

 

 スネークはその問いに、こくりと頷いた。

 

「そういえば、無言キャラなんだっけか……

まあ答えてもらえるかは分からないけど、時間が無いので簡潔に聞くよ、何で白旗を?」

 

 その問いにスネークは、腕組みをしながらこう言った。

ちなみにスネークが公式に言葉を発するのは初めての事である。

 

「おう伊丹、ちゃんと仕事してるみたいじゃねえか」

「えっ?」

「だ、誰!?」

「その喋り方………いやいや、ありえないでしょう……」

 

 コミケは冷や汗をかきながらそう呟いた。

 

「隊長、この人の事、知ってるんですか?」

「あ~……あの、スネークさんは、もしかして閣下ですか?」

「おう、俺だ。しかし伊丹、いや、ここではコミケか、

名前がそのまますぎて、思わず噴き出しちまったぞおい」

「うわ、やっぱり!閣下、こんな所で一体何をしてるんですか!」

「ん?俺はこのゲームはそれなりに古参だぞ、

俺の趣味が狩猟とクレー射撃だって知ってるだろ?」

「あ~………そういえば昔、オリンピックの日本代表にもなったんでしたっけ……」

 

 コミケは以前スネークの中の人に聞かされた話を思い出した。

 

「そうか、銃は得意なんでしたよね、

でもまさか、GGOをやってるなんて知りませんでしたよ」

「当たり前だろ、俺はスネークなんだからな!」

「いや、意味は分かりますけど、そんなドヤ顔で言われても……」

「まあ俺はこのゲームは古参なんでな、多分お前よりは詳しいぞ」

「よくそんな時間の余裕がありますね……」

「何かあったら強制ログアウトしてもらうように言ってあるからな、

後はやる気だけだ、そうだろ?」

「はぁ、まあそうですね……」

「戦争の時はそっちの味方になれなくて悪かったな、国会の方がどうしても忙しくてな」

「うわ、本当に詳しいんでやんの……」

 

 その国会という言葉を聞いたクリンが、焦った口調でコミケに尋ねてきた。

 

「あ、あの、隊長、この方はもしかして……」

「おう、俺達の上司で、このお仕事の命令を出した人……嘉納太郎防衛大臣、通称閣下だ」

 

 その言葉にクリンは完全に固まった。

 

「まあ今は時間が無い、色々と話はあるが、この状況を何とかしてからだ。

さっさと敵に備えろ、俺も味方してやるからな」

「い、いいんですか?」

「おう、何か弱い物いじめしてるみたいで、あの中にはいたくねえんだよ、

まあ今のところ、お前らを含めて敵の方が圧倒的に強いんだけどな、がはははは!」

 

 スネークはそう豪快に笑うと、中距離狙撃銃のような物を取り出した。

 

「それってもしかして、豊和M1500ですか?」

「おう、ゲームの中でくらい、国産の銃を使ってやりたいじゃねえか」

「閣下らしいですね」

 

 そしてスネークは、通信機を取り出すと、獅子王リチャードと通信を始めた。

 

『………お?スネークか?今どこだ?』

「悪い、俺は今回は敵に付く事にした、また戦場で会おう」

『お前喋れたのかよ!?ってかどういう事だ?おい、おい!』

 

 そこでスネークは通信を切り、そのまま通信機を破壊した。

 

「これでよしっと、それじゃあおっぱじめんぞ!」

 

 そう言いながら、スネークはクリンのおしりをパーンと叩き、それでクリンは覚醒した。

 

「きゃっ」

「おらおら、いつまでも固まってるんじゃねえ、さっさと配置に付け!」

「は、はいい!」

「やれやれ、無理しないで下さいよ」

「まだまだ若いもんには負けん!」

 

 こうして戦いは、次の局面へと移行した。




ちなみに本物の閣下は、本当に銃が得意です。

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