ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第472話 奇襲、待ち伏せ、殲滅

 その頃Narrowの立て篭もる建物周辺では、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「くそっ、こいつら手ごわい」

「まだ入り口は突破出来ないのか?」

「バレットラインがほとんど見えないぞ、どうなってるんだ!」

 

 ファイヤ軍の五チーム連合軍は、かなり苦戦しているようで、そんな声が飛び交っていた。

 

「このままじゃらちが明かない、俺達が裏に回って突入する、

正面に攻撃を集中して、そちらに敵を引き付けてくれないか?」

 

 そんな中、MMTMからそんな提案が成され、そのまま実行に移される事となった。

 

「分かった、頼むぜ!」

「突入までは俺達がフォローするぜ」

「T-Sか、頼む」

「おう!」

 

 残る三チームは、ここが勝負どころだとばかりに、派手に正面を攻撃し始めた。

その甲斐もあったのか、MMTMとT-Sは、

あっけない程簡単に裏門へと到着する事が出来た。

一応罠の存在も確認したが、罠は仕掛けられていないように見えた。

 

「こんなに簡単でいいのか?おかしくないか?」

「陽動作戦がきいてるんじゃないのか?」

「それにしてもな、罠の一つも無いとか……

「だがもうここまで来てしまったんだ、やるしかないだろ」

「だな、何とかここで、悪い流れを止めてみせるぜ」

 

 デヴィッドも彼なりに、このままだと負けるかもしれないと感じていたのだろう、

この時既に、居残っていたファイヤ軍の本隊は壊滅していたのだが、

彼はその事をまだ知らず、ここで何とかNarrowを叩ければ、

まだ勝ち目はあると認識していた。だがその頃、本隊だけではなく、

表門に残っていた別働隊の三チームも、壊滅の危機に瀕していた。

 

 

 

「おらおら、撃て、撃て!」

「敵の目をこっちに向けるんだ!」

 

 そう叫びながら、張り切って攻撃中のプレイヤー達を、

背後から忍び寄ったシャナ達がじっと観察していた。

 

「全部で十三人か?少し減ってるな」

「うん、そのくらいだと思う」

「三チームかな?」

「って事は、残りの二チームは裏にでも回ったか?」

「敵の目をこっちに向けるんだ、とか叫んでるしね」

「だな、あいつらは馬鹿なんだろうか……」

 

 そう言いつつもシャナは、Narrowの様子もチェックしておこうと思い、

建物の方へと単眼鏡を向けた。建物の中には、ぱっと見では分からないが、

単眼鏡で目の前の敵を観察するコミケの姿がチラリと見え、

シャナは懐かしさで胸を熱くした。丁度その時、たまたまコミケがシャナの方を見た。

コミケは驚いて単眼鏡を一度下ろし、もう一度見直したので、

こちらに気付いた事は間違いないだろう。

それを確認したシャナは、試しにハンドサインでのコミュニケーションを試みてみた。

 

『お久しぶりです』

『久しぶり、元気か?』

 

 この短いやりとりで、会話が可能だと判断したシャナは、

引き続きハンドサインでの会話を試みた。

 

『敵の二チームが背後に向かっているみたいですよ』

『知ってる、今どうしようか検討中』

『正面の三チームは、こちらで処理しておきましょうか?背後から襲えるチャンスですし』

『助かる、頼む』

『了解』

 

 シャナは会話の結果を仲間達に伝え、三本の輝光剣を取り出した。

 

「アハトライトはユッコに、アハトレフトはハルカに、

そしてこのエリュシデータはレンが使うんだ、俺は短剣を使うから」

 

 前回のBoBの後、キリトがALOに戻る時、その装備はシャナに返却されていた。

 

「これ……いいの?」

「この方が、人を斬るのに精神的に楽だろうからな、ゲーム感覚でいける」

「あ、なるほど」

「そういう事ね」

「レンには一応短剣の使い方はレクチャーしたが、

今回必要になるのは、ファンタジー的運用だから、こっちの方が適していると思う」

「じゃあシャナはどうするの?」

「俺か?俺は普通の短剣を二本使うさ、第一回BoBの時みたいにな」

「あ、その動画なら見たわ、何か懐かしい」

 

 そして四人は、森の中でバラけながら銃を乱射していたプレイヤー達にこっそり近付き、

一人、また一人と、静かに葬っていった。

 

 

 

「どうやら大将が正面の敵を倒してくれるらしい、

という訳で、俺達は背後の敵を殲滅するぞ」

「ええっ、ここに来てるの?敵の本隊を迂回でもしてきたの?」

「そういえばそうだよな……」

「大将ですもん、きっと軽く一捻りしてきたっすよ!」

「あはははは、そうだったらいいね」

「いや、でも分からんぞ、あいつらはそこそこ出来る奴らばかりだったが、

何せトップがアレだからな」

 

 そんな会話をしながらも、Narrowのメンバー達は、着実に迎撃準備を整えていた。

そして準備が整い、一同は配置に付くと、MMTMを待ち伏せした。

 

「おいコミケ、正面の銃声が、どんどん少なくなってないか?」

「きっと大将の仕業ですよ、閣下」

「それなら普通、銃声が増えるもんなんじゃないのか?」

「普通ならそうですけど、多分銃を使ってないんじゃないですかね」

「あ、輝光剣か……なるほどな」

 

 丁度その時、MMTMのメンバーが、室内に滑り込んできた。

 

「おお、中々スムーズだな、よく訓練されてるみたいだな」

「ですね、素人さんも中々やる」

「でもこういう侵入経路がバレバレな状況だと、

待ち伏せされたらもう終わりなんです………よっと」

 

 MMTMが、逃げ場の無いやや長い通路に侵入した瞬間、

隠れていた者達が一斉に射撃を開始し、それによって一瞬にして三人が倒された。

これは結果を早く出そうと焦ったデヴィッドのミスである。

 

「まずい、一旦退却!」

「でもそう上手くはいかないんだよねぇ、ごめんねぇ」

 

 そう指示を出したデヴィッドの背後からそんな声がし、

デヴィッドが慌てて振り向くと、いつの間に回りこんだのか、

その目の前にはクリンがいた。クリンはデヴィッドの心臓を銃剣で一突きし、

そのままデヴィッドを蹴り倒すと、そのまま銃を乱射し、その後ろにいた二人を葬った。

あまりにもあっけない決着である。ここぞとばかりにプロとアマチュアの差が出た格好だ。

表門の三チームが健在で、そちらに何人か人手が割かれていれば、

もう少しいい勝負が出来たかもしれないが、

後顧の憂い無く全戦力を投入され、その上地の利までとられたら、もうどうしようもない。

 

「クリア」

「クリア」

「クリア」

「さて、残る一チームだが、表門の方はどうなった?」

 

 そのままNarrowのメンバーは、トミーとクリンを見張りに残しつつ、

二階から表門の様子を伺った。その直後に銃声が聞こえ、

それ以降、急に表門が静かになった。

 

「まさか三チームもいたのに、もう終わったのか?」

「そのまさかのようだな」

「スネークさん、どうでした?」

「最初に五人だった、右側に陣取っていたチームが急に沈黙してな、

そいつら以外の銃声は聞こえなかったから、てっきりリロード中だとでも思ったんだろうな、

中央と左側の奴らは気にせずそのまま攻撃を続けていたんだが、

次に左の奴らが静かになって、最後はそのまま中央を背後からズドン!で終わったぞ、

ほれ、シャナのお出ましだ、見てみろ」

 

 そうスネークに説明されたコミケは、渡された単眼鏡を覗いた。

そこには輝光剣を構える三人の女性を従えたシャナがおり、

コミケは、相変わらず大将は女性に囲まれてるなと思いつつも、

いつ見ても輝光剣の威力はえぐいなと嘆息した。そしてコミケは平然と姿を晒し、

ハンドサインでシャナに回り込んで裏門に向かうように頼んだ。

 

『裏門挟撃頼む、残りは一チーム』

『了解』

 

 その頃急に戦場が静かになって、不安に思いつつも、

どうすればいいのか判断に迷っていたT-Sは、

そのまま二チームに包囲され、これまたあっさりと、全滅する事となった。

銃での戦いは、どんな強い者でもこうやって一方的にやられる事がある。

今回この戦闘に参加した者達は、その事をこれでもかと思い知らされる結果となった。

まあ今回は相手が悪かった上に、状況が彼らには不利すぎた、

要は本隊があっさりと壊滅したのが敗因であり、それは決して彼らのせいではない。

 

 

 

「コミケさん、お久しぶりです」

「よぉ大将、とんだ再会になったな、でも助かったよ」

「いえいえ、気にしないで下さい、こっちこそ助かりました。で、何でスネークがここに?」

 

 シャナはスネークの方をちらりと見てそう尋ねた。

 

「あ~、実はな……この人、俺達の知り合いだったんだよ」

「そうなんですか?」

「ちゃんと話すのは初めてだな、スネークだ、宜しくな」

 

 そうスネークに挨拶されたシャナは、とても驚きながら言った。

 

「お、お前、喋れたんだ……」

「まあ普段は極力喋らないようにしてるからな」

 

 そう言いながらスネークはシャナに右手を差し出し、シャナもその手を握った。

そしてスネークはシャナの耳元でこう言った。

 

「今度呼び出すから、その時は宜しくな」

「えっ……?あ、はい」

 

 シャナはこの言葉で、相手がそれなりの地位にいる人物だと確信し、素直にそう答えた。

 

「それじゃあ俺は、疲れたから先にリタイアしとくわ、

あとは若い者同士で好きにしてくれ」

「お疲れ様でした」

 

 そう言ってスネークは、あっさりと大会からリタイアした。実にフリーダムである。

 

「相変わらず自由な人だなぁ……」

「トミーさんとケモナーさんもお久しぶりです、えっと、そちらのお二人は……」

「クリンです、君、強いねぇ」

「え?あ、どうも」

 

 クリンに獰猛な笑顔を向けられ、シャナは困ってしまったのだが、

そんなクリンを制してブラックキャットが前に出た。

 

「お久しぶりね、シャナ君」

「えっ?あの、どちら様ですか?」

「嫌ね、先日会ったばかりじゃない」

「えっと……俺にそっち系の女性の知り合いは、確かに二人いますけど……」

 

 そう言われたブラックキャットは、満面の笑顔で言った。

 

「美人な方が私よ」

「うわ……間違えたら死ぬ選択肢だこれ」

「大将、頑張れ……」

 

 ケモナーとコミケがそう言い、シャナは必死な顔で考え込んだ。

そしてブラックキャットの顔をチラチラ見ながら、

シャナはブラックキャットの耳元でこう言った。

 

「えっと………黒川さん?」

「正解よ、やっぱり私の方が美人だと思ってくれているのね」

「あ、えっと………も、もちろんですよ、はは……」

 

 シャナはそう答える他なく、そんなシャナに、黒川は笑顔で言った。

 

「まあ今日はお仕事だから、後日また連絡するわね」

「え?あ、分かりました」

 

 ここへ来てからシャナは、ずっとこんな感じで戸惑ってばかりである。

その姿を気の毒そうに見つめていたコミケに、シャナは言った。

 

「で、この後はどうするんですか?俺達は残る敵に攻撃を仕掛けに行きますけど」 

「この後なぁ……もう十分にサンプルはとれたから、

俺達もこのままリタイアしてもいいんだけどなぁ」

 

 その言葉で、シャナは今回のお仕事とやらの内容を、なんとなく理解した。

 

「なるほど、サンプルですか」

「ああ、まあそういう事なんだよね」

 

 そう頷くコミケに、シャナはこう尋ねた。

 

「俺達もサンプルにしますか?」

「俺は正直気が乗らないんだけど、こいつがなぁ……」

「隊長、私、この人達とやりあってみたいです!

それとは別にシャナ君と、近接戦闘でタイマンしてみたいです!」

 

 コミケに視線を向けられたクリンは、勢い込んでそう言った。

 

「だそうだ……優勝は譲るから、相手をしてもらってもいいかな?

もしこっちが勝ちそうになったら、即チームとしてリタイアするから」

「分かりました、それじゃあファイヤ達を倒した後でもいいですか?」

「ああ、それでいいよ、せっかくだし手伝おうか?」

「う~ん、それじゃあフォローだけお願いしてもいいですか?」

「決着は自分の手で付けるってか」

「まあそうしないとあいつは納得しなさそうですしね」

「分かった、それじゃあここで次のスキャンを待とうか」

「あ、それじゃあそれまでクリンさんの相手をしましょうか?」

「いいの?」

「はい、まだ多少時間がありますからね」

「よっしゃあ!」

 

 こうしてシャナは、スキャン結果を待つ間、クリンと戦う事になった。


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