「あそこか……」
残っているであろうメンバーと、敵が逃げた方向を考慮し、
シャナが多分ここだろうとマップを見ながら結論づけた場所に、確かにファイヤ達はいた。
「ねぇ、あそこを攻めるのは少しきつくない?」
「敵の武器が、機関銃とマシンガンってのがちょっとね」
「だな、こんな遮蔽物の何もない場所じゃ、避けるにしても限界があるからな」
敵が立てこもる岩山は、微妙に人工物のような手が加えられており、
高さもある程度ある為に狙撃も上手く出来ない、やっかいな場所にあった。
「さて、どうするか……」
シャナはそう呟いたが、実はもう結論は出ていた。
シャナが突っ込み、頭と心臓へと届く弾だけ出来るだけ防ぎながら、
その後ろを三人に付いてきてもらい、シャナが耐え切れずに死んだら、
そのままシャナの死体を運べる弾除けとして使ってもらい、
それを利用して敵陣に突っ込んでもらう、というのが、
今シャナが考えている作戦だった。
「シャナ、どうするの?」
「一応作戦は考えた、今説明する」
「……ってな感じだ」
「なるほど、でもこの後のNarrowとの戦いはどうするの?」
「まああれは後日でもいいだろうし、そこは侘びを入れるさ」
「確かにそう言われるとそうだね」
「それじゃあ準備しましょうか」
ユッコとハルカはあっさりとそう言い、即座に準備に入った。
「え?え?本当に?」
レンは納得しがたいのか、戸惑っていたようだが、
他の三人が何も言わない為、仕方なく自分も準備を始めた。
シャナはアハトXを持ち、可能な限り敵の弾を斬り落とすつもりだった。
「さすがにキリトみたいに上手くいくかは分からないが、
それでも何発かはこれで叩き落せるだろ、
はぁ、ここにあいつがいれば、最高の弾除けにしてやるんだが」
どうやら他の三人も準備が整ったようで、最後に軽く打ち合わせをする事になった。
そこでユッコがいきなりこんな質問をしてきた。
「ねぇシャナさん、その前にさ、人を盾として運ぶのって、どう持てばいいの?」
「う~ん、そうだな……」
シャナは、そう言われて困ってしまった。人を盾に使った経験は無いし、
運ぶといっても、お姫様抱っことお米様抱っこ以外の経験が無いからだ。
そんな迷うシャナを見て、ユッコとハルカが言った。
「それじゃあ今、私達のどっちかを盾にするつもりで持ってみてよ」
「今ジャンケンでどっちにするか決めるから」
二人はそう言ってジャンケンをし、勝ったユッコが一歩前に出た。
「よし、勝ったぁ!」
「くぅ……負けた……」
「なぁ、そういうのって普通負けた方がやるもんじゃないか?」
「いいのいいの、それじゃあ持ってみて」
「分かった」
シャナは言われた通り、背中側からユッコの両脇を手で持ち、そのまま上に持ち上げた。
「こんな感じか?」
「う~ん、でもこれ、持っている方が走りにくくない?」
「確かにちょっと走りにくいかもしれないな……」
シャナは実際にやってみて、思ったよりも難しいなと感じていた。
「こういう時、映画とかだとこう持たない?」
そう言って前に一歩出たハルカが、ユッコの正面に立ち、
左手をユッコの右脇に通し、右手をユッコの股の間に通し、軽々と持ち上げた。
「ほら、安定安定!」
「いやいやいや、どんな罰ゲームだよそれ」
「え~?何がぁ?」
「いやほら、そうなると、俺の右手がその………な?」
そんなもじもじするシャナを見て、ユッコとハルカは驚いた。
「あ、あんた、いつもあんなに女の子に囲まれてるのに、意外とピュアピュアなのね……」
「てっきり毎日とっかえひっかえやりまくりだと思ってたのに……」
「んな訳あるか!」
シャナはそう言われ、激しく抗議した。
「まあでもこれは勝利の為に必要な事だから、我慢して試してもらわないと」
「いやいやいや、今ハルカがユッコを持ち上げられたんだから、
わざわざ俺が試す必要はもう無いはずだろ?」
「あ……」
「チッ」
ハルカはしまったという風にそう言い、ユッコは舌打ちした。
「チッて何だよチッて!」
「いや、これくらいのご褒美はあってもいいかなって」
「別にそんなのご褒美じゃないだろ………」
「え~?レンちゃん、ご褒美よね?」
「えっ?」
そう突然話を振られたレンは、シャナにじっと見つめられ、
もじもじと恥ずかしそうに身をよじらせながら、真っ赤な顔でこう答えた。
「う、うん……ご褒美……かな」
それを見たシャナ達三人は、レンの恥ずかしさが伝染したのか、同じように顔を赤くした。
「ま、まあいいだろ、これで目的は達成だな」
「あっ、で、でもシャナ、そうすると、シャナの………」
そう言いながらレンは、視線を下に向け、思わず手で顔を覆った。
シャナもその意図を理解したのか、ハッとした顔でユッコを見た。
「チッ」
「お前、またチッて……」
「はぁい、すみませんでした、反省してまぁっす」
ユッコはまったく反省しているようには見えない態度でそう言った。
「お前な……」
そう言ってシャナは呆れた顔で下を向き、かぶりを振った。
その瞬間にユッコとハルカが目配せするのをレンは目撃した。
(あれ………何だろう?)
そんなレンの目の前で、いきなりユッコが動いた。
ユッコは、そんな隙だらけのシャナにいきなり飛びかかり、
いわゆるだいしゅきホールドの形でシャナに抱きついた。
「うおっ、な、何するんだよ!?」
「うわ、うわぁ……」
シャナはその状況に頭が付いていかずに動揺し、
レンは手で顔を覆ったまま、指の間からそれを覗き見ていた。
だがレンは、最初こそ恥ずかしそうにしていたが、ユッコの表情を見てハッとした。
そしてユッコは落ち着いた声でハルカに言った。
「ハルカ、やって」
「あいよ~、はぁ、ジャンケンで勝ちたかったな」
「ドンマイ」
そしてハルカは、いつの間にか手に持っていた銃でユッコの頭を打ち抜いた。
「なっ……何やってるんだよお前ら!」
そんなシャナに、今にも死にそうなユッコがこう言った。
「これであんたの両手が開いた状態で、私が盾になれるっしょ、
これが勝利の方程式ってやつよ。
後は任せたわ、女の子にここまでさせたんだから、絶対に勝ってね」
「お、おい、お前らまさか、最初からそのつもりで……」
だがユッコからの返事は無い、どうやらもう死体になってしまったようだ。
代わりにハルカがシャナに返事をした。
「ゼクシードさんが、いいお手本になってくれたからね、
だから何かあったら私達も同じ事をしようって話してたんだ、
でもまさかこうなるとは、本当にジャンケンに負けて悔しいよ」
「あのな……」
「でもこうなったらもうやるしかない、でしょ?」
「それは……」
そんなシャナにレンが言った。
「シャナ、ここまでしてくれた二人の気持ちに応えなきゃ!
それにユッコさん、さっき凄く真面目な顔をしてたよ、
だから絶対にふざけてやったとかじゃない、
ユッコさんの死を無駄にしない為にも、絶対にこの戦い、勝とう!」
そんなレンの姿を見て、ハルカもうんうんと頷き、シャナも真面目な顔でこう答えた。
「分かった、聞こえるかユッコ、恥ずかしい思いをさせて本当にすまない、
この借りは必ず返すからな」
「あ、それはもう、今度ご飯を奢ってもらうって事で決まってるから、
むしろそれがメイン目的……あ、いや、違う違う、私達はあくまで義憤にかられて……」
そうカミングアウトしそうになったハルカを見て、シャナは苦笑しながら言った。
「仕方ない、また今度な」
「べ、別にお礼なんか、そんなのいいって、でもごちそうさま!」
「はいはい、分かってるって」
そんなハルカを、レンは羨ましそうに見つめていた。
それに気付いたハルカは、シャナに言った。
「あ、シャナさん、レンちゃんも一緒でもいい?」
「ん?そうだな、打ち上げみたいなもんだし、レンも一緒にどうだ?」
「い、いいの?やった、ごちそうさま!」
レンはとても嬉しそうにジャンプし、ハルカはシャナに近付き、耳元でこう囁いた。
「あ、でもゼクシードさんは誘わなくていいからね」
「いいのか?」
「だって、ここで下手に会ってあげたら、あの人調子に乗っちゃうかもしれないじゃない」
「なるほど、納得した、ゼクシードには悪いが、まあそういう事なら仕方ないな」
「うんうん、仕方ない仕方ない」
そして次にハルカはレンの所に行き、こう言った。
「レンちゃんどう?これがシャナさんに恩を押し売りするコツよ」
「なるほど!」
「最初にシャナさんの為に何かをしてあげて、
で、後から、ご飯でも奢ってくれればいいよって言う、
これが私達が考えた、必殺のシャナメソッドよ!」
「勉強になります!」
「お前ら、全部聞こえてるからな……」
そして三人は、改めて作戦を立て直した。
「俺が先頭で突っ込むのは同じだ、だがとりあえず二人にはこれを渡しておく」
そう言ってシャナは、ストレージからゴーグルのような物を三つ取り出し、
一つを自分が付け、二つを二人に渡した。
「これは?」
「防塵ゴーグルだ、二人ともこれを装備してくれ」
「何に使うの?」
「このアハトな、実はこう繋げられるんだ」
シャナはアハトライトとレフトを平行に組み合わせた。
「ふむふむ」
「この状態だと、拡散レーザーっぽい感じで射撃が出来て、
そうすると凄まじい砂埃が上がるんだ」
「あ~、そういう事か!」
「これでこっちの同士討ちの危険も減るはずだろ?」
「うん」
「色々持ってるんだね……」
二人は感心したようにそう言い、そしてシャナはこう宣言した。
「よし、さっさと決着をつけにいくか」
「うん」
「ユッコ、あんたの分も頑張るから、そこで応援しててね」
こうして三人は、ファイヤ達の陣へと攻め込んだのだが、
シャナの正面にユッコが抱きついたまま死んでいるせいで、
見ている者達にとっては、それはとてもシュールな光景となったのだった。
明日奈さんがアップを始めました。