ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第475話 道化退場

 シャナ達の姿を発見した時、獅子王リッチーとZEMALの生き残り達は色めきたった。

だがシャナの姿が伝えられた瞬間、ZEMALのメンバー達は絶叫した。

 

「何だよあの格好は、俺達への当て付けか!?」

「ふざけんな、ふざけんな!」

「そもそもあいつってゼクシードの女だろ?シャナに乗り換えたのか?」

「戦いを侮辱しやがって、絶対にマシンガンの錆にしてやる!」

 

 ちなみにZEMALのリーダーのシノハラは、二十台で塾講師をやっており、

保護者や生徒からの評判も良く、実は案外モテるのだが、

彼自身はベッドにマシンガンのモデルガンを持ち込むような男であり、

女性からの好意にまったく興味を示さない。

ちなみに先のコメントの最後がシノハラのコメントである。

微妙に他のメンバーと温度差があるのが興味深い。

そして最後に獅子王リッチーが、大地を揺るがす程の大声で叫んだ。

 

「絶対にミサキさんにチクってやるからな!!!!!」

 

 そんな事を言っている間に、シャナが射程距離に入ってきた為、

五人は全弾撃ちつくすつもりで猛烈な射撃を開始した。

そして直ぐに、おかしな事に気が付いた。

 

「あれ……なんで弾が弾かれるんだ?」

「背中に例の、宇宙船の装甲板でも仕込んでるのか?」

「それなら普通に後ろ向きで走ってくればいいだけなんじゃないか?」

「うん、ああする理由が分からないな」

 

 そんな中、いきなり後方から一同に声が掛けられた。

それは一人戦意喪失し、三角座りをしてずっと黙っていたファイヤだった。

ファイヤはどうやら、先の獅子王リッチーの声を聞き、

何事かとこちらを観察しに来たようだった。

 

「君達馬鹿なの?あれはどう見ても死体でしょ、

まあ伝え聞くシャナの性格だと、あんな事を了承するはずがないから、

多分彼女が自ら進んでその身を差し出したんだろうね」

「マジか、普通そこまでするか?でも確かにそれなら弾は弾かれるな」

 

 シノハラは冷静にそう言ったが、他の四人の反応はまったく違った。

 

「彼女が……」

「自ら……」

「進んでその身を差し出した!?」

「まさかミサキさんもそうするというのか!?」

 

 そして四人は今まで以上に頭に血を上らせ、身を乗り出して激しい攻撃を開始した。

 

「うおおおおおおおお!」

「撃て、撃て!」

「ゲム充の存在を許すな!」

「ミサキさん、あなたは私が守ります!」

「お、お前ら……まあいいか、とにかくマシンガンが撃てればそれでいい!」

 

 シノハラも結局それに乗り、一同はノリノリで射撃を開始した。

ファイヤは呆れた顔でそれを見ていたが、

せっかくだからこの機会に銃を撃っておこうとでも思ったのか、

AK47を取り出し、五人の隣で射撃を開始した。

そのうち楽しくなってきたのか、ファイヤも他の五人と同じように、

徐々に身を乗り出し始めた。ちなみに彼がAK47を選んだ理由は、

世界で一番有名な銃だとどこかに書いてあったから、というだけの話である。

 

 

 

「お、撃ってきたな」

「何か叫んでたね……ミサキが何とかって」

「それは獅子王リッチーだろうな、まあどうでもいい話だが」

「あんなペースで撃ってたら、すぐ弾切れになりそうだよね」

「だな、まあこっちはこっちで落ち着いて敵を狙っていこう」

 

 三人はそのままトレイン状態で突き進み、しばらく相手に反撃はしなかった。

ユッコは期待通りに敵の攻撃をはね返し、味方で誰も攻撃をくらった者はいない。

そんな時、いきなり敵の攻撃がやんだ。

 

「何だ?」

「あ、見て、あのファイヤってのが何か言ってるみたい」

「本当だ、何だろ?」

 

 だがその直後に再び絶叫が聞こえ、先ほどよりも更に激しい攻撃が開始された。

 

「何があったんだろうな」

「またミサキって聞こえたわね」

「あ、でも見て、さっきよりも随分身を乗り出してるわよ」

「チャンスだな、ここからこっちも攻撃開始だ、

走りながらだから当たりにくいと思うが、狙いは慎重にな」

 

 そして三人は、不自由な体制ながらも射撃を開始した。

それにより、三人のZEMALのメンバーが倒され、

残るはファイヤ、獅子王リッチー、シノハラの三人となり、

さすがの三人も危険を感じたのか、キッチリと物陰に身を隠し、

それでいて攻撃の手を緩めないように、必死に反撃してきた。

だがその時点で、彼我の距離はもうかなり詰まっていた。

 

 

 

「ぎゃっ」

「うわっ」

「ひっ」

 

 立て続けにそんな悲鳴と共に、仲間が倒れるのを見たシノハラは、

それで頭が冷えたのか、ファイヤと獅子王リッチーに言った。

 

「まずい、前のめりすぎだ、落ち着いて少し下がろう」

 

 二人はその忠告に従い、少し身を下げた。そのまま尚も射撃を継続していた三人だったが、

ついにその時がきた。獅子王リッチーとシノハラが、弾切れを起こしたのだ。

その瞬間にシャナが右手の銃を捨て、左手に持っていた棒状の物をこちらに向けてきた。

 

「あれは何?」

 

 ファイヤはそう二人に尋ねたのだが、弾の補充で忙しい二人は何も答えなかった。

そしてその直後に、その棒状の物から光の洪水が溢れ、その場は凄まじい砂埃に包まれた。

 

「うおっ」

「こ、これは……」

「戦争で見た、輝光剣の散弾か!」

 

 だが時既に遅く、その場の視界はほぼゼロになっていた。

その時獅子王リッチーがこう叫んだ。

 

「まだだ、冷静に壁の上だけ見ておけば、それを乗り越えてくる奴らを見つけられるはずだ」

「わ、分かった」

「了解、壁の上だけでいいなら何とか見えるぜ!」

 

 だがその直後にゴトッという音が聞こえ、

先ほどまで壁だと思っていた場所から、いきなりシャナがその姿を現した。

 

「なっ……」

「よぉ、リッチー、お前も相変わらず懲りない奴だよな」

「うるせえ、ミサキさんをさっさと解放しろ!」

「俺がいつあの人を拘束したってんだよ、まったく訳が分からない奴だな、

まあいい、それじゃあまたな」

 

 シャナはそう言って、いつの間に分離したのか、

両手に持ったアハトライトとレフトで獅子王リッチーを真っ二つにした。

同時にシャナの後ろから飛び出してきたハルカがファイヤに銃を付きつけ、

レンはシノハラの懐に飛び込み、教わった通りにカゲミツを持ったままその横を通過し、

その勢いでシノハラを真っ二つにした。

 

「ど、どうして……」

 

 その間に砂埃が晴れ、最後にシノハラが見たのは、壁に開けられた大穴だった。

おそらくシャナがアハトXで開けたのだろう。

 

「そ、そういう事か……でもまあ、マシンガンを沢山撃てたから、楽し……かっ……た」

 

 そして獅子王リッチーとシノハラも死体となり、そこにはファイヤだけが残された。

シャナはここでやっとユッコを下ろし、そのままファイヤと対峙した。

 

「ま、まさかこんな……」

「ファイヤさん、初めてのGGOはどうでした?楽しかったですか?」

「た、楽しいわけ無いだろ!何でこう何もかも上手くいかないんだよ!」

 

 ファイヤはそう言って、最後の意地とばかりにレンに銃を向けた。

 

「せめて死ぬ時はレンちゃんと一緒に……」

「何を言ってるんだお前は、お前にはレンと一緒に死ぬ機会すらやらねえよ」

 

 そう言ってシャナは、ファイヤの銃を持つ左腕を肩から斬り落とし、

ファイヤはがっくりとその場でうな垂れた。

 

「僕の計算だと、今こうなっているのは君達のはずだったのに……」

「どういう計算をしたのかは知らないが、そんな机上の空論が上手くいく訳無いだろ、

そもそもお前、数を集めただけじゃないかよ」

「数を集めてジョイントベンチャーを立ち上げ、

そこに資金を投入するのは当たり前の事じゃないか!」

「リアルと一緒にすんなっての」

 

 そしてシャナは、冷たい声でファイヤに言った。

 

「という訳で、賭けはほぼこちらの勝ちだ、もうレンの事は諦めて、

他にお前の言う事を何でも聞いてくれる、素敵な女性を探すんだな」

 

 シャナが皮肉たっぷりにそう言うと、

ファイヤは苦渋に満ちた表情で、ぼそりと言った。

 

「くっ、こうなったら仕方ない、結婚ではなく改めて小比類巻さんに、交際のお願いを……」

「別の頼みだから賭けは無効だってか?格好悪いぞ、お前」

「それも含めて実力ってものだよ、小比類巻さんなら俺の頼みを聞いてくれるはずだしね」

「何でそう思うんだ?あっちの方が大手なんだろ?」

「そんなの関係無いさ、全ての工程を一社だけで賄える訳じゃない、

今後うちを含めた関連会社が仕事を請けなければ、

小比類巻さんにとっては大打撃になるはずだからね」

「他にも仕事を請けてくれる会社は沢山あるはずだろ?」

「他の会社とは付き合いが無いはずだ、そう上手くはいかないと断言出来る」

「個人の問題に……」

「まあレン、気にするな、大丈夫だから」

 

 シャナは、激高しかけたレンの頭に手を乗せ、落ち着かせると、

淡々とした口調でこう言った。

 

「そう思うならやってみるといい、お前が誰に何を言おうとしても、

それはお前の自由だからな、好きにしてくれ」

「ふん、言われなくても!」

「だがその話が纏まるまでは、約束は守れよ」

「分かってる、賭けの結果がその通りになればね」

 

 その微妙な言い方に、シャナとレンは顔を見合わせた。

その隙を突く格好で、ファイヤが動いた。

ファイヤは残された右手を懐に突っ込むと、何かを引き抜くような動作をした。

その瞬間に一人だけ動いた者がいた、じっとその様子を観察していたハルカである。

ハルカはシャナとレンを突き飛ばすと、ファイヤに抱き付き、

そのまま強引に走り出すと、ファイヤと共に、壁の手前にあった小さな階段を駆け上った。

 

「ハ、ハルカ、一体何を……」

「手榴弾よ!」

 

 ハルカはシャナに答え、そう叫んだ。

それでシャナは何が起こったのかを理解した。同時にシャナは、自分の甘さを悔いていた。

 

「くそっ、俺がもう片方の腕も斬っておけば……」

「何だよお前、関係無いだろ、離せよ!」

「黙りなさい、このうじ虫が」

 

 そう罵声を浴びせ、暴れるファイヤを押さえつけながら、

ハルカは笑顔のまま、落ち込むシャナにこう言った。

 

「あ~あ、どうせ抱き付くなら、あんたの方が良かったわ」

「ハルカ!」

「ハルカさん!」

「レンちゃんまたね、あとあんたは食事の約束、忘れないでね!」

 

 そう言ってハルカはファイヤと共に壁から飛び降り、

その直後に壁の向こうで爆発が起こった。

シャナとレンは、その爆発が収まると同時に壁から身を乗り出して下を見た。

そこには二人の姿は無く、ただ二つの死亡マーカーだけが残されていた。

そのうちの一つに向け、シャナは言った。

 

「分かってるって、確かに約束したからな、今度連絡するわ」

「ハルカさん、本当にありがとう、今度はリアルで会おうね!」

 

 二人はそう言い、ハルカの死亡マーカーへと手を振った。

そしてユッコとハルカにお別れをした二人は、Narrowとの戦いについて話し出した。

 

「さて、後は最後の戦いだが、さすがにここに篭るような卑怯な真似はしたくないよな」

「シャナ、それについては私に考えがあるんだけど……」

 

 そう言ってレンは、懐から旅行バッグのような物を取り出したのだった。


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