ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第477話 観戦者達 SideGGO 前編

「おい、シャナがあのピンクの悪魔と二人でスクワッド・ジャムにエントリーしてるぞ!」

 

 BoBに出るようなトッププレイヤー達は、

こんな大会には参加しないだろうと言われていたスクワッド・ジャムであったが、

にわかに注目を浴びるようになったのは、まさにこの一言がキッカケだった。

 

「でも、今回参加しているBoBの常連組って、他にはゼクシードくらいじゃないか?」

「あいつは何にでも参加するから参考にならないよな」

「十狼の戦いはもう見られないのかねぇ……」

「シャナとコンビを組んでいるのも、十狼のメンバーじゃないルーキーだしな」

「ピンクの悪魔か……俺、前あいつにあっさり殺されたんだよなぁ……」

「俺も俺も!」

「まあ何にせよ、当日が楽しみだな」

 

 

 

 そして同時刻の、GGO内のとある酒場では、

ファイヤがまさに、獅子王リッチーをスカウトしている真っ最中だった。

 

「やぁ、君が獅子王リッチーさん?」

「………誰だお前」

「僕の名はファイヤ、君に仕事をお願いしたく、参上した」

「仕事だぁ?」

「今報酬として考えているのは百万クレジットだ、どう?興味が出てきたろ?」

「………話を聞こう」

 

 こんな感じでファイヤは、あっさりと獅子王リッチーを味方にする事に成功した。

 

「さて、他には誰を誘えばいいと思う?」

「といっても、BoB組はほとんどが敵だからな、残るはスネークくらいか」

「じゃあそうしよう」

 

 そしてスネークとそれなりに交流のあった獅子王リッチーの仲介で、

ファイヤはスネークをチームに迎える事に成功した。

スネークはまったく喋らなかったが、

旧交のある獅子王リッチーの誘いを断れないように見えた。

そして更に戦争繋がりで、元平家軍の中堅チームのリーダー三人を仲間にしたファイヤは、

その足で、他に参加する予定のチームの所を尋ね歩いた。

人に任せず、自分で頼みにいく所は、ファイヤの長所ではあるのだろう。

 

「マシンガンが撃てて、その上報酬までもらえるなんて最高だな!」

「ん?別にいいよぉ、シャナさんに取り入る為にも、

せめて敵としてでももっともっと目立たないといけないしね」

「……シャナが出るならピトフーイも出るかもしれないしな、別に構わないぞ」

「重装備を揃えすぎて、丁度金が無い所だったんだ、その申し出は渡りに船だな」

 

 さすがに報酬の額が額だけに、断るチームはほとんどいなかった。

唯一断ったのが、ゼクシード達のチーム『セクシード』である。

 

「断る」

「………何でか理由を聞いてもいいかい?」

「自分より下の実力の奴と組むとろくな事がない」

 

 ファイヤはそう答えたゼクシードをじっと見つめた後、あっさりと引き下がった。

 

「了解だ、邪魔したね」

 

 ファイヤは獅子王リッチーに、シャナとゼクシードのライバル関係について聞いており、

放っておいても勝手にシャナと敵対してくれるだろうと考え、

この場はあっさりと引き下がったのだった。

そして試合開始当日、GGO内では妙な噂が飛び交っていた。

 

「シャナとファイヤがピンクの悪魔を取り合っているって本当か?」

「おう、聞いた聞いた、そういう噂が流れてるらしいな」

「っていうか、ピンクの悪魔って女性プレイヤーだったのか……」

「何でもファイヤはこの勝負に、ピンクの悪魔とのデートを賭けているらしい、

負けたらもうピンクの悪魔には関わらないっていう不公平な賭けみたいだな」

「何だそれ、何でファイヤはそんな条件にしたんだ?」

「さあ……」

 

 この噂は、ファイヤが自分の所の社員にキャラを作らせて、故意に広めた物だった。

これは単純に、レンの逃げ道を塞ぐのと同時に、

自分がいかに不利な状況で戦っているかを周知する事で、

これから自分がとる戦法に対してバッシングが起きないようにしたいという、

姑息な考えから行われたものであった。だがこれは、所詮素人の浅知恵である。

多くのGGOプレイヤーは、この話を聞いてこう考えた。

 

「勝ったらデートしてくれって言われてシャナに助けを求めるって、

ピンクの悪魔が本当に嫌がってるって事だよな?」

「そもそもシャナが味方してる時点で、どっちが正義かっていったら、なぁ?」

「当然シャナだよな!」

 

 丁度そこに、シャナと共に、マントで顔を隠したレンが入場してきた。

ちなみに今回の大会は、BoBの会場であるドームが流用されており、

中継もそこで見られる事になっていた。

そして参加者は、開始時間までにそのドームの中にいないといけない事になっており、

間に合わなかった場合は失格となるルールなのであった。

 

「来たぞ、シャナだ」

「ピンクの悪魔も一緒だ!」

「あの子、レンって名前なのか、知らなかったわ」

「シャナ、ファイヤに負けるなよ!その子を守ってやれよ!」

 

 その言葉を聞いた二人は、電光掲示板に表示されている参加予定チームのリストを眺めた。

そこにファイヤの名前を見付け、驚いた顔をした二人は、

声援を送ってくれるプレイヤー達に手を振りながら、控え室へと入っていった。

その直後に闇風と薄塩たらこと銃士Xが現れ、会場に緊張が走った。

 

「おい、闇風に薄塩たらこ、それに銃士Xだぜ」

「他の十狼のメンバーはいないのか?」

「みたいだな」

 

 実は銃士Xは、学校で雪乃に雪ノ下家で一緒に観戦しようと誘われていたのだが、

前日にたまたま闇風と遭遇し、試合観戦に誘われていた為、

先約があるからとその誘いを断り、今日はここにいるのだった。

そして大会の開始が宣言され、最初のスキャン結果が表示された瞬間に、

闇風が憤った様子で立ち上がった。

 

「ちっ、こいつらまた群れてやがんのか」

「闇風、弟子が心配?」

 

 銃士Xは、無表情で闇風にそう尋ねた。

 

「おい、聞いたか?ピンクの悪魔は闇風の弟子らしいぞ」

「まじかよ……確かにスタイルは似てるよな」

 

 そんな外野の声を聞きながら、闇風は銃士Xにこう答えた。

 

「いや、まったく?」

「師匠の癖に冷たい」

「だってシャナが一緒なんだぜ、何とかしてくれるに決まってんだろ」

 

 そう言われた銃士Xは、手をぽんと叩きながら言った。

 

「真理、私が間違っていた、確かにシャナ様に任せておけば問題は無かった」

「だろ?」

 

 そして画面に、疾走するシャナとレンの姿が映った瞬間、会場中がどよめいた。 

 

「おい、シャナのあの格好……」

「お揃いのピンクか……」

「それよりも見ろよ、ピンクの悪魔が素顔を晒してるぜ!」

 

 そしてレンの愛らしい姿を初めて見た多くの者達は、

噂とのギャップに驚きつつも、一斉にレンの応援を始めた。

 

「まじかよ、ファイヤってのは、あんな子に迷惑かけてんのか」

「シャナの保護者っぷりが半端ないな」

「二人とも、頑張れ!」

「でもあの二人、どこに向かって走ってるんだ?」

「そういえば中央に、ゼクシード達がいたな、いや、セクシードと呼ぶべきか」

「まさかゼクシードを自らの手で仕留めるつもりか?」

「ありえるな……」

 

 だがその直後にレンが単独で走りだし、シャナが信号弾を撃った為、

観客達の顔は、ハテナ?となった。

 

「今のは何の信号だ?」

「そもそも誰に向けた信号だよ」

 

 観客達が戸惑う中、薄塩たらこが銃士Xに尋ねた。

 

「なぁ、今の信号ってどんな意味なんだ?」

「あれはシャナ様の個人識別信号、八方向に広がるようになっている。通称お米信号」

「………何だそれ?」

「米という漢字を思い出してみるといい」

「………おお、八方向!」

「そういう事」

 

 その説明中に、どうやら大会に動きがあったようだ。

 

「おい、見ろ、ゼクシードが動き出したぞ」

「移動するつもりか?囲まれてるのにどこに行こうってんだよ!」

 

 そして観客達が見守る中、ゼクシードはシャナが撃った信号弾の方へと向かい、

何とレンに向かって手を振った。

 

「………え?」

「………は?」

「まじか!」

「あのゼクシードが………」

「「「「「「「シャナと組んだ!?」」」」」」」

 

 だが驚く暇もなく、ZEMALが現れ、セクシードにマシンガンの銃口を向けた為、

観客達はごくりと唾を飲み込み、状況の推移を見守った。

その時いきなり画面の向こうにピンクの閃光が走り、

レンは凄まじいスピードで、またたく間に二人のプレイヤーを葬った。

 

「やるな愛弟子、また強くなってやがる」

「何て動きだよ……おい闇風、お前が教えたのか?」

「いや、今の動きはシャナだな、レンちゃんは、シャナに徹底的に鍛えられてるからな」

「まじかよ……要するにシャナとお前、二人の弟子って事か、そりゃ強いわけだよ……」

「否、シャナ様の教えが良かっただけ、闇風はおまけ」

 

 突然銃士Xがそう言い、闇風はその言葉に肩を竦めた。

 

「お前は相変わらずだなぁ」

「自明の理、私の忠誠心は変わる事はない」

「へいへい、ご立派ご立派」

「それよりも、私の勘だとそろそろシャナ様が戦場に介入する」

 

 その瞬間に銃声が轟き、ビルの中にいたプレイヤーが落下した。

そして闇風は、ドヤ顔をしている銃士Xを、嫌々ながら賞賛した。

 

「はいはい、えらいえらい」

「当然」

 

 そして画面の中では、シャナとゼクシードが合流を果たしていた。

その時レンが飛び上がってシャナに抱きついたのを見て、

観客達は、やはりレンはシャナと一緒にいたいんだなと感じ、

それに伴いファイヤを応援する声は、まったく無くなった。

 

「卑怯な手を使った癖に、簡単に突破されてやんの」

「まああのファイヤって奴、何を喋ってるか分からないが、いかにも素人っぽいしな」

 

 だがその直後に、レンが自分のおしりを押さえながらもじもじし、

更にその直後にユッコとハルカが、シャナの手を自分達の胸に押し付けるに至って、

シャナに対する声援もまた、鳴りを潜めた。

 

「シャナの野郎……」

「羨ましいぞ畜生!」

 

 だが声援が無くなっただけで、観客達はやはりシャナを応援していた。

その流れが変わったのは、闇風の質問に対し、銃士Xがこう言った時である。

 

「なあ、今のはお前的には羨ましくないのか?」

「別に。今度シャナ様のマンションにお泊りする時に、

レンちゃんの前で同じ事をすればいいだけ」

「ホワイ?」

「何?」

「お泊り?シャナのマンションに?」

「肯定、何かおかしい?」

「レンと二人で?」

「再び肯定」

「まじかよ、いつの間にそんな事に!」

「何だよそのハーレムマンション!」

 

 その闇風と薄塩たらこの叫びによって、二重三重の誤解が生まれ、

その場は男どもの絶叫に包まれた。

そんな中、いきなりNarrowが動き出し、

またたく間に三チームを壊滅させた。それを見た男達は、驚きの声を上げた。

 

「うおっ、何だ今のは」

「ちょっとプロっぽくなかったか?」

「まさか現役の自衛隊員のチームだったりしてな」

「あはははは、無い無い」

「中にはコミケに行く自衛官や、ケモナーの自衛官がいたっていいだろ!」

「あははは、そんなのいる訳無いだろ」

 

 直後にスキャンが開始され、SLとセクシードの不在が確認され、観客達は再び絶叫した。

本当に忙しい事である。

 

「あ、あれ……?」

「お、おい……SLもセクシードもいなくなかったか?」

「いやいやいや、でもどっちもちゃんといるよな?」

 

 おりしも中継カメラがシャナ達の下へと到達し、その様子を映したのだが、

既にメンバー達は全員普通にしており、そのからくりは観客達には分からなかった。

 

「ほらいた」

「まさかのバグか?」

「あ、でも第三回BoBの時……」

「メタマテリアル光歪曲迷彩マントは削除されたしなぁ」

「いやそっちじゃなく、優勝者の……」

「ああ~あったあった、確かに一度だけ、キリトの姿が見えなかった事があったな」

「あいつってシャナの親友なんだろ?」

「つまり、何かまだ秘密があるんだな」

「さすがはシャナだぜ!」

 

 そんな会話が飛び交う中、画面の中ではファイヤ軍が、続々と移動を開始していた。

 

「お、どうやらファイヤの奴、Narrowを攻めるつもりだな」

「さてさてどうなる事やら」

「シャナに背後を突かれてやられちまうんじゃないか?」

「お、どうやらそっちにも備えるっぽいな」

「本当だ、一チームだけ別方向に移動してるな」

「「「「「「「「「「ってZEMALかよ!」」」」」」」」」」

 

 観客達は、口を揃えてそう言った。

 

「あいつらに守らせるとか、ファイヤ終わった……」

「いや、でも遮蔽物の無い場所だとそれなりにやれるんじゃないか?」

「問題はそこじゃない、あいつらは、一度マシンガンを撃ち始めると、

そのまま恍惚としちまって、ちっとも敵に銃を向け直さないんだよ」

「それじゃ意味無えじゃねえかよ……」

 

 だがZEMALは、あっさりとシャナに見つかり、

観客達はひたすら待ち続けるZEMALに憐憫の視線を向けた。

 

「かわいそうに……」

「どうせシャナにやられるなら、

せめてあいつらの大好きなマシンガンくらい撃たせてやりたいよなぁ」

「お、ファイヤ軍は結局二手に分かれたのか」

「さすがのNarrowもこれは厳しいか?」

 

 そしてMMTMやT-Sが裏へと移動していき、大会は最初の山場を迎える事になる。


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