ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第479話 観戦者達 SideGGO 終盤戦

 その戦いは唐突に始まった。SLとNarrowが合流し、

この大会もほぼどちらかの優勝で決まりだと思われた矢先、

シャナとクリンがいきなり対峙したかと思うと、

いきなり短剣と銃剣で戦い始めた為、観客達は何が起こっているのか分からずに、

ただあんぐりと口を開けて、その戦いを見ている事しか出来なかった。

その戦いに最初に反応したのは銃士Xだった。

銃士Xは、シャナがクリンに対してマウントポジションをとった瞬間に、

とても悔しそうにこう言った。

 

「ぐぬぬ、まだ私もされた事が無いのに……あのクリンって女、いつか殺す」

 

 そのセリフを聞いた観客達は我に返り、モニターと銃士Xを交互に見た。

 

「いきなり戦い始めたと思ったら、恐ろしくハイレベルな攻防をしてやがる……」

「っていうか銃士Xちゃんってあんなキャラだっけ?」

「まあでもただのマウントポジションだしな」

「気にするなよ、銃士Xちゃん!」

 

 銃士Xはその言葉には反応せず、怒りと焦りが混ざったような表情で、続けてこう言った。

 

「もしこれで、シャナ様があの女の胸をうっかり揉むような事があれば、

私としてはその感触を上書きする為に、

この身を差し出してうっかりシャナ様の手を握って私の胸に押し付けざるを得ない」

「それはうっかりとかそういうレベルじゃねえよ!」

「完全にわざとやってるよな?な?」

 

 闇風と薄塩たらこは、血を吐くような思いでそう突っ込んだ。

だが銃士Xはそれも無視し、画面の隅に映っていたケモナーに厳しい視線を向けた。

 

「あの男が、シャナ様に揉めと言っているような気がする……」

「え?」

「エスパー?」

 

 その瞬間にケモナーの背筋に冷たいものが走ったが、

ケモナーは多分気のせいだと思い、気にしなかった。

そのままだと恐らくケモナーは、銃士Xの制裁対象になってしまったであろうが、

幸いな事に、シャナはクリンの胸を揉む事は無く、

そのままクリンの攻撃を避ける為に飛び退いた為、銃士Xは大人しくその場に座った。

画面の中では、シャナがクリンの攻撃にカウンターを放ち、

銃を持つ手を狙われたクリンは思わず銃から手を離していた。

それを見た観客達は、この勝負はここまでだと判断した。

 

「おお、完璧なカウンターだな!」

「これは勝負あったか?」

「まああのクリンって子もよくやったよ」

「さすがはシャナ様………むっ」

 

 その直後にクリンが落下中の銃をシャナ目掛けて蹴りつけ、

それを避けたシャナに、何といきなり抱きついた。

 

「えええええええええ?」

「何だ今の、凄え判断と反応の速さだったな」

「でもここから逆転出来る手があるのか?」

「あのクリンの形相、もしかしてさば折りでも狙ってるのか?」

 

 だが銃士Xは、まったく別の反応を示した。

 

「いつ私がシャナ様に抱きつく事を許したか!」

 

 隣にいた二人はその言葉に驚き、銃士Xを宥めた。

 

「落ち着いて銃士Xちゃん、多分締め技だよ締め技」

「そうそう、あんなのシャナなら簡単に外せるって」

「でもおかしい、シャナ様が外さない……それどころかあんなにいちゃついて……」

「いや、確かにそう見えるけどよ……」

「き、きっと何か考えがあるんだよ」

 

 その直後にシャナがクリンの拘束から脱出する為に下に沈み、

クリンの胸に顔を埋めながらしゃがみこんだ瞬間、

二人は恐ろしくて銃士Xの方をまともに見れなかった。

だが案に相違して、銃士Xは冷静な声でこう言った。

 

「なるほど、シャナ様は胸での癒しを求めていたご様子、

次に会った時には、私の無駄に成長した胸を活用すべく動く事にする」

「銃士Xちゃんの価値基準が分からない……」

「いやいや銃士Xちゃん、成長した胸は無駄なんかじゃねえよ!」

「突っ込むとこそこかよ!」

 

 そんな闇風に、銃士Xは憐れむような視線を向けながら言った。

 

「この機会に一つ教えてあげる、いい?一定以上成長した胸というのは、

とても重くてつらいものなのよ」

「それはまあ聞いた事があるけどよ………」

「つまり世の中の女性は、常に肩に重しを乗せているような状態にある。

そしてその重さは、シャナ様に揉んでもらう事で軽くする事が可能」

「なん………だと………」

「し、信じるなよ闇風、そんな訳無いだろ!」

 

 薄塩たらこは常識的な思考からそう言った。

 

「ちなみに私は、そのシーンをイメージするだけで、肩こりを治す事が可能」

 

 銃士Xに真顔でそう言われ、薄塩たらこは段々と自信が無くなってきた。

これは彼に女性経験が無い為であり、その真偽を確認する事は不可能だからだった。

 

「故にシャナ様に揉んで頂けない成長した胸は、ただの駄肉でしかない、証明終了」

「全然証明になってない気が……」

「ならば違うという証明を、実地で示してみるといい」

「じ、実地だと………」

「馬鹿な………」

「なっ……」

 

 その時銃士Xが、画面を見ながら絶句したような声を上げた。

同時に他の観客達も、その予想外の展開に声を上げた。

 

「こ、これは……」

「うお、ジャイアントスイングかよ」

「見てるだけで目が回っちまうな」

「なるほど……ふむ、ふむ……」

 

 銃士Xは、画面を見ながら何かぶつぶつ言い始めた。

 

「後日私がシャナ様に、『ジャイアントスイング凄かったです私も体験してみたいです』

と持ちかけ、表面上はホットパンツか何かに見えるような細工をスカートに施し、

上も簡単にめくれあがるような細工を服に施す。

そうすれば技をかけられた瞬間に、私の胸とぱんつが露出し、

そうするとおそらくシャナ様は、それでも表面上は冷静な風を装いながら、

私の胸とぱんつをじっくりと鑑賞する事になる。

そして技を終わらせた直後に、シャナ様と私は足がフラフラになって、

そのままもつれるようにベッドに倒れこむ。

その段階で既に興奮が頂点に達しているシャナ様は、我慢出来ずに目の前の私に手を出す。

うん、これはいけるかもしれない………」

「なぁたらこ、今とてつもなく羨ましくも杜撰な計画が聞こえた気がするんだが……」

「突っ込んだら負けだぞ闇風、スルーだスルー」

 

 二人はこの状態になった銃士Xには何を言っても無駄だと思い、

黙って画面に集中する事にしたようだ。

やがて銃士Xも落ち着いたのか、何事も無かったかのように席に座りなおした。

画面は別カメラに切り替わっており、ファイヤ達の様子が映し出されていた。

ファイヤは三角座りをしながら何かぶつぶつ呟いているように見え、

観客達はその子供じみた態度に苦笑する事しか出来なかった。

 

「何だあれは」

「ガキかよ」

「まあ気持ちは分かるよ、普通あの状態から負けるとか思わないもんな」

「まあこの前の戦争で、まったく同じ事があったんだけどな」

 

 そこにZEMALの残党が合流し、五人は拠点っぽい場所に陣取り、武器を構えた。

戦力にならなそうなファイヤの事は、無視する事にしたようだ。

 

「この場所……開けた場所だけど、微妙に見張り台というか、

敵からの攻撃を防ぐ作りになってるな」

「ここにヴィッカース重機関銃とマシンガン?鉄壁じゃねえか」

「これはまさかの逆転があるか?」

「シャナがどうするか見物だな」

 

 そして再びカメラが切り替わった。既に四人はファイヤ達が見える位置まで移動しており、

どう対処するか話し合っているように見えた。

 

「……あいつら何やってるんだ?」

「シャナがユッコを持ち上げてるな」

「意味が分からん、体重チェックか?」

「シャナ様、私の体重も、そのやり方で計って下さい!」

 

 その直後にハルカがユッコを別の体制で持ち上げ、

シャナがもじもじした為、観客達は驚愕した。

シャナのそんな姿を見るのは初めてだったからである。

 

「察するに、シャナに『こう持つのよ』とか言ってるような感じか?」

「確かにあんな持ち方は、同性相手じゃないとちょっと厳しいものがあるよな」

「シャナ様がおかわいい……とてもおかわいい……」

「銃士Xちゃん、よだれ、よだれ!」

「って、おいいいい!?」

 

 画面の中では、ユッコがいきなりシャナにだいしゅきホールドをかけていた。

薄塩たらこと闇風は、やばいと思って銃士Xをなだめようとしたのだが、

そんな二人を銃士Xは、ひどく真面目な顔で制した。

 

「黙って」

「どうした?」

「多分ユッコが死ぬ」

 

 その言葉を聞いた一同は、驚いて画面を見た。

茶化したりする者は一切おらず、その場の全員が、何が起こるのかと画面に集中していた。

 

「あの顔は、決意を固めた女の顔。今回ばかりは私も冗談を言っている場合じゃない」

「いや、さっき呟いてたの、絶対に本気だよね?」

「そうだそうだ、ってか銃士Xちゃんの、さっきまでの状態とのギャップが……」

「いいから黙って見てなさい」

「はい……って、まじか!」

「うお、本当に死んだ……」

 

 銃士Xの予想通り、ユッコがハルカに撃たれたのを見て、その場にいた全員が驚愕した。

 

「何であんな事を……」

「シャナも驚いてたし、これ、絶対にあの二人の作戦だよな」

「でも、これに何の意味が……」

「盾」

 

 銃士Xはその観戦者の問いに、短くそう答えた。

 

「しかも最強の」

 

 その言葉通り、そのまま一列に並んでファイヤ軍に突撃を開始したシャナ達は、

全ての攻撃を、ユッコのおかげで防ぐ事に成功していた。

同時にZEMALのメンバーも三人倒している。

 

「そ、そういう事か……」

「凄えなあの二人、思いついても普通実行するか!?」

「ゼクシードもレンちゃんを庇ってたし、今回のあいつらは一体どうしちまったんだ」

「あの二人、中々やる、かなり参考になる、

あれを真似出来れば、私とシャナ様の距離ももう少し縮まるかもしれない」

 

 最後の銃士Xの言葉には、もう誰も突っ込まなかった。

そして皆がざわついていると、いきなりその場に閃光が走り、

画面が砂埃でいっぱいになった。

 

「うおっ」

「シャナの仕業か!」

「どうなってるんだ?見えないぞ?」

「いや、黒い光が見える、あれは輝光剣だ!」

「って事は……」

 

 そして砂埃が晴れると、そこにはファイヤに銃を突きつけるハルカの姿があり、

他には死体が五つ転がっているだけだった。

 

「まじかよ、今の一瞬で二人仕留めたのか」

「シャナはともかくレンちゃんも凄くね?」

「どうだお前ら、俺の弟子も凄いだろ?」

 

 突然闇風が立ち上がり、自慢げにそう言った。

 

「お、おう……」

「悔しいが、認めざるをえない」

「この戦いで、ピンクの悪魔レンの名前が一気に広まるな」 

 

 その直後に最後の山場が訪れた。ハルカがファイヤの自爆を察知し、

拠点の壁を乗り越えそのまま一緒に死亡したのだ。

 

「「「「「「「うおおおおおおお」」」」」」」

 

 その瞬間に、観客達は絶叫した。

 

「ハルカちゃんまで!」

「どうなってるんだよ今回のあいつらは、これはもうMVPものだろ!」

「三人とも仲間を守る為に死んでいったよな!」

「セクシードなんてふざけた名前だと思ったけど訂正する、お前ら最高だ!」

「残るはSLとNarrowの最後の戦いだけだな!」

「ん、レンちゃんは何を出そうとしてるんだ?」

「秘密兵器か?」

 

 そんな観客達の期待を背負いながらレンが取り出したのは、ただの旅行バッグだった。

 

「は?」

「シャナと旅行でも行くつもりか?」

「いやいや、あそこに実は、マシンガンとかが仕込んであるんだろ、

ほら、よく映画とかで見るだろ?」

「それ、意味あるのか……?」

 

 そして二人は街の方へと向かって移動し、

十字路でレンは、帽子をシャナに渡すと、その旅行カバンの中に入った。

 

「「「「「「「「「「「中に入った!?」」」」」」」」」」」」

 

 まさかそんな用途で使うとは誰も思っておらず、場はかなり盛り上っていた。

 

「そうか、だから旅行カバンが落ちていてもおかしくない街中に移動したのか」

「シャナは少し離れたビルに陣取るみたいだな」

「お、Narrowが来たぜ」

「あいつら驚くだろうなぁ……」

「完璧な奇襲になるな」

 

 そしてシャナが銃を持った瞬間に、Narrowが全員それに反応するのを見て、

観客達は、完璧に奇襲が決まったと確信した。

その確信の通り、レンが旅行カバンから飛び出し、またたく間に三人を倒すのを見て、

観客達はその戦闘の凄まじさに驚愕した。

 

「速え……」

「まるで闇風だな」

「そうだろうそうだろう、まるで俺だろ?」

「闇風、調子に乗んなよ!」

「はっはっは、何とでも言え、今の俺はとても気分がいい」

「くそ、でも本当に凄えよ、残るはクリンとコミケか……」

「でも今は、シャナがフリーなんだよな」

「あ~……」

 

 そしてクリンがレンを迎撃しようと構えた瞬間に狙撃されるのを見て、

観客達は、やっぱりかと天を仰いだ。

 

「ですよね……」

「せめて足を止めなければな」

「まあでも仕方ないだろ、今はレンちゃんが凄すぎた」

 

 そして最後に残ったコミケに対し、レンはすれ違いざまに足を切断すると、

コミケの背後に到達した瞬間にいきなりコミケの頬に回し蹴りを放ち、

それで銃を手放してしまったコミケはたまらず両手を上げた。

 

「レンちゃん凄ええええええええ」

「今の動きはシャナっぽかったな」

「これで優勝はSLで決まりだな」

「はい解散、皆お疲れ!」

「おう、お疲れ!」

 

 こうして第一回スクワッド・ジャムは、SLの優勝で幕を閉じ、

レンの名前は一般プレイヤー達の間で、急上昇のキーワードとなるのだった。




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