この日、雪ノ下家には、第一回スクワッド・ジャムの観戦を行わう為、
次のメンバーが集まっていた。明日奈、陽乃、雪乃、南、薔薇である。
「いよいよ始まるね、明日奈ちゃん」
「うん姉さん、でも手伝えないのははがゆいよ……」
「まあ仕方ないわね、事情が事情ですもの」
「ゆっこも遥も大丈夫かなぁ……」
「大丈夫よ南、あの二人はもう昔の二人じゃないから」
「室長、だといいんですけど……」
そして大会が始まり、画面に各チームの位置が表示された。
「あら?各チームが随分綺麗な円状に散らばっているわね、
最初からこの配置なのかしら?ねぇ明日奈、こういう大会では、
最初のスキャンまではあまり動くのは推奨されない仕様なのよね?」
「うん、BoBと同じでそのはずなんだけど……」
「これ、元はこうだったんじゃない?」
そして陽乃が、これはここ、これはこの辺りと、各チームを順番に指差し始めた。
「これは……」
「結託して最初に中央のチームを叩こうとしているの?」
「それは違うわね、スキャン結果が分かるまでは、そこにチームがいるとは分からないはず。
なので中央で合流しようとしていた結果、包囲する事になったというのが正確ね。
それに中央のチームが敵とは限らないわよ、案外仲間かもしれないわ」
「どこのチームなの?」
家庭等でPCを使って観戦する場合、スキャン結果はいつでも呼び出す事が出来、
チーム名も簡単に分かる仕様となっていた。
それを利用し、陽乃はそのチーム名を表示させた。
「セクシードね」
「セクシードって、まさかゼクシードさんのチーム?」
「多分そうだと思うけど、参加者名簿を表示させてみるわ」
それでセクシードは、ゼクシードのチームだと確認された。
そして明日奈は、他には誰が参加しているのか何となく眺めていたが、
そこにいくつかの知っている名前を見付け、驚いた。
「えっ、これ……ねぇ雪乃、これって……」
「あら、コミケさんにトミーさん、そしてケモナーさんじゃない」
「知り合い?」
「うん、戦争の時一緒に戦った仲間だよ」
「そうなんだ」
こういう事に慣れていない南に、明日奈はそう説明した。
その時ロザリアが、驚いた様子で突然こう言った。
「明日奈、こ、これ……」
「え?………えっ、ファイヤ?それってまさか……」
「どうやら敵の親玉が、身の程も知らずに参加してきたみたいね」
「でもチームメンバーが……獅子王リッチーにスネーク?
他の三人の名前も聞いた事があるかも」
「という事はこの動きは、彼の意思が働いている結果という可能性が高いわね」
「つまりセクシードとNarrow以外は全員結託した敵だという事なのかな?」
「そのようね、ある意味戦争の再現よ」
「八幡君、どうするんだろ……」
明日奈は少し心配そうにそう呟いた。戦争の時と違い、今回八幡の傍にはレンしかいない。
誰も助ける事は出来ないのだ。
「多分最初にセクシードの救出に向かうのではないかしら、
Narrowは当面安全だと思うし」
「それが最初の山場になるね」
「そうね、まあゼクシードの奴も強いのだし、そう簡単にはやられないでしょう。
ここはとりあえずどうなるのか八幡君のお手並み拝見といこうではないか!」
「え?奴?いこうではないか?」
「雪乃ちゃん?」
「あっ……」
そう声を掛けられ、雪乃はうっかり先生が混じった口調で喋ってしまった事に気が付いた。
そして雪乃は、南と陽乃にニコニコと笑顔を向けながら言った。
「南、姉さん、一体何を言っているの?」
「え?今うちの耳には確かに雪乃っぽくないセリフが聞こえた気が……」
「うん、確かに聞こえたわね」
そう言う二人に、雪乃は笑顔を崩さないまま再びこう言った。
「南、姉さん、一体何を言っているの?デトックスしてあげましょうか?」
「ひっ」
「そ、そうね、気のせいだったみたい」
その圧力を受け、二人はそれ以上突っ込む事をやめた。
そして五人は画面に目を戻した。そこでは状況を把握したセクシードの面々が、
しきりに何か動いているのが見てとれた。
「これは、迎え撃とうとしているの?」
「ううん、多分脱出の準備だと思う」
「そうなんだ」
「さすがにあの人数が相手だと、狙撃を交えないときついはずだからね」
「どうやら屋上に立てこもった風を装うみたいね、
それで突入してきた敵をやり過ごしてその隙に脱出するのかしら」
「あっ、コミケさんだ」
その時画面が変わり、コミケ達が相談している姿が見えた。
陽乃と雪乃はその画面をじっと見つめ、何を喋っているのか知ろうとしているようだ。
「え?」
「お仕事?」
「どうしたの?」
「ええと……今日はコミケさん達は、どうやらお仕事でこの大会に参加しているみたいなの」
「えっ?でもコミケさん達の仕事って……」
「明日奈は知ってるのね、そう、あまり大きな声じゃ言えないけど、自衛隊よ」
「じ、自衛隊?」
「嘘、本職?」
「うん」
五人は、自衛隊がGGOで仕事とは一体何の事だろうと考え、
しばらくして答えにたどり着いた。
「姉さん、これって……」
「多分GGOを、訓練の一環として使えないかどうか調べに来ているのではないかしらね」
「でもGGOは射撃のシステムが……」
「そうね、あれは訓練にはならないと思うけど、
でも同じようなシステムをうちで開発し、極限までリアルに近付ける事は可能ね、
薔薇、至急アルゴちゃんに連絡して、そういう事があるかもしれないって伝えといて」
「分かりました」
そして薔薇はアルゴに連絡を入れ、直ぐに承諾を得た旨を陽乃に伝えた。
「さすがよねぇ、アルゴちゃんがいなかったらと思うと、正直ぞっとするわ」
「八幡君と私のおかげかな」
「そうね、本当にいい人材と知り合ってくれたと思うわ」
そんな和やかな雰囲気もそこまでだった。
「ごっ……」
「合コン!?」
「あっ……」
明日奈は二人がそう言うのを聞いて、内心焦っていた。
明日奈はその事を既に八幡に聞いていたが、その事は秘密だったからだ。
「まずい……」
「どういう事なの?明日奈はこの事を知っているの?」
「え、えっと……う、うん、多分名前からして、このブラックキャットって人が、
黒川さんっていう八幡君がお世話になった人なんだと思う」
「で、それを認めたの?どうして?」
「え、えっと……それは……」
そして明日奈は、とても気まずそうにこう言った。
「わ、私も参加……するから……」
「何ですって!?」
「そうなの?」
「う、うん……」
「どうしてそんな事に?」
「それはえっと……」
そして明日奈は、その理由を語り始めた。
「最初その話を聞いた時に私が思ったのは、私も行きたいな、だったの。
何故なら私、そういうのには縁が無かったから。
で、そんな私の気持ちに気付いてくれた八幡君が、
『そういえば俺達、そういうのには縁が無いよな、それなら明日奈も一緒に行くか?』
って言ってくれて、それで参加させてもらえる事になったの」
「そういう事……」
「ああ~、確かに明日奈は合コンとか行った事が無くて当然だよね」
「南はあるの?」
「うん、うちはあるよ。まあ今時の学生ならそれくらいはね」
「そうなんだ」
「薔薇さんは?」
「学生の時に普通にあるわよ、これでもそれなりにモテたんだからね」
「なるほど」
「私も当然あるわよ」
そこで口を挟んできたのは陽乃だった。
「まあ楽しくはなかったけど、付き合いとしてそれなりにはね」
「姉さんは楽しくなかったの?」
明日奈が不安そうにそう尋ねてきたのを見て、陽乃は言葉が足りなかったと思い、
笑顔で明日奈に言った。
「私はほら、事情が特殊だからね。あくまで付き合いで参加してただけだから、
正直嫌々だったし、私と二人きりになろうとする男を上手くあしらうのも面倒臭かったし、
そもそも興味が持てる男がまったくいなかったからね」
「そっかぁ……」
「まあ今回はそんな事は無いと思うし、仮に飲んで潰れたとしても、
帰りは八幡君もいて安心だし、友達を増やすつもりで楽しんでくるといいわ」
「うん、楽しんでくるね」
そんな明日奈を、雪乃が羨ましそうに見つめていた。
「くっ……まさか明日奈に合コンデビューの先を越されるとは……」
「ご、ごめんね雪乃?今から予約を増やすのって無理らしくって……」
「まあ大丈夫よ、そもそも私がそういう所で楽しめるとも思えないものね」
「あ、あは……雪乃は確かにそうかもしれないね……」
その時画面の中から爆発音がした。
「何?」
「あっ、見て、セクシードがいたビルが……」
その直後に信号弾が上がり、陽乃と南以外の三人が、思わずあっと叫んだ。
「あ、お米信号!」
「何それ?」
「八幡君が、自分がここにいるって知らせる為の信号よ」
「ほら、お米って字は八方向に広がっているでしょう?」
「ああ~そういう」
その後多少の窮地はあったが、SLとセクシードが無事合流した為、
一同はほっと胸をなでおろした。
「良かった良かった」
「これでとりあえずの窮地は脱したね」
「レンちゃん、あんなにかわいいのに強いなぁ……」
「あの耳がネコ耳だったら最高なのだけれど。絶対にお持ち帰りしてみせるわ」
「雪乃ちゃん、自重しなさい……」
「さて、ここからどうするかだけど……」
その後、レンがシャナに抱き付いた時は、それほど波風は立たなかった。
「何か微笑ましいわね」
「まああの見た目だとね」
「私としては、あの大人しい香蓮さんがあんな態度をとるなんて、
凄く意外でびっくりしたよ」
「みんな心が広いんだねぇ、うちなんかやきもきしちゃうんだけど」
「そのうち慣れるわよ、南」
「慣れていいものなのかなぁ……」
直後にレンが、おしりを押さえてもじもじした時も、
一同は寛容な態度でそれを見守っていた。
「初々しい、それにかわいい」
「まあでも今のは仕方ないわよね」
「あそこでレンちゃんを支えないような男なら、私達の中心にはなれないわ」
「だね!」
「でもちょっと羨ましい」
だがその直後に、ユッコとハルカがよろけたようにシャナにすがりつき、
あまつさえシャナの手を自分達の胸やおしりに当てた時、その場はシンとなった。
「ゆっこ……遥……う、うちだってそういう事をしたいのに!」
「落ち着いて南ちゃん、欲望がだだ漏れよ」
「南、あの二人の家はもちろん知ってるよね?今から襲撃に行くよ!」
「明日奈ちゃんも落ち着いて、あの二人が八幡君の事を何とも思っていないのは、
明日奈ちゃんもよく知っているはずよ」
明日奈と南が動揺する中、陽乃が冷静な口調でそう言った。
「な、何で姉さんはそんなに落ち着いているの?それに雪乃も!」
「会話の内容を知っているからよ」
「そうそうそういう事、あの二人が何でいきなりあんな行動に出たか、
何となく分かっちゃうんだなぁ」
「どういう事?」
「さっきゼクシード君がこう言ったの、この大会が終わったら三人でリアルに食事でもって。
だからそれをうやむやにする為に、あの二人はあんな態度に出たんだと思うわ」
「姉さんの言う通りよ、私もそう思うわ」
「ぐぬぬ……」
「気持ちが分かる分、それは微妙に怒りにくい内容だね……」
だがその直後に、申し訳なさそうなシャナと二人が何か言葉を交わしたかと思うと、
突然二人が再び抱き付いた為、南は再びエキサイトしかけたが、
明日奈はここでは意外にも余裕を見せた。
「明日奈、二人があんな事を!」
「待って南、あれは私的にはセーフだよ」
「ええっ!?」
「今の八幡君の表情、あれは、自分が悪いと謝る時の表情なの。
でもさっきの状況で、八幡君が謝る余地なんかまったく無かったでしょ?
という事はつまり、あの二人は謝られる必要がない部分で謝られて、
八幡君をいさめるつもりであんな事をしたんだと思うの。
事実あの二人、八幡君に何か囁いて、直ぐに離れたじゃない?つまりそういう事なんだよ、
ね、そうでしょ?姉さん、雪乃」
そう話を振られた二人は、明日奈に頷いた。
「八幡君はあの状況で、『俺なんかに胸を触られて、嫌だっただろ?』って謝ったの。
本当に彼らしいとは思うけど、その場にいたら、呆れるしかない言葉よね」
「だから二人は、『これはシャナさんへの罰なのです』って言いながら、
彼に抱きついたというのが真相のようね」
「ふふん、ほらね、私の言った通り」
明日奈は鼻高々にそう言い、南は明日奈の洞察力に感心した。
「明日奈は凄いね、あの場面でそこまで観察出来るなんて」
「八幡君と付き合う上での必須技能だよ、たまに呆れるくらい、本当に素直じゃないもん」
「だね!」
「でも油断してなければ、さっきのは色々と避けられたと思うんだよね」
「えっ?」
突然手の平を返した明日奈を、南は驚いた顔で見つめた。
「なので今度お仕置きを兼ねて、八幡君にお説教だね、
胸やおしりを触った事は事実なんだし、そういうのは私だけにしてもらわないと」
明日奈は怒っている様子は無かったが、少し赤い顔でそう言った。
「えっと……ねぇ明日奈、もしかしてヤキモチを焼いてる?」
「ま、まさか、そ、そそそんな事ある訳無いじゃない」
「目が泳いでるわよ、明日奈」
「もう、明日奈ちゃんはかわいいなぁ」
「あ、見て、Narrowが動き出したわ」
明日奈が三人にいじられていた時、それを笑顔で見ていた薔薇が突然そう言った。
画面の中では、今まさにNarrowがファイヤ軍の哨戒部隊に襲いかかるところだった。