ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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観戦者編が予定より伸びてしまったので、今日一日で終わらせようと思います、
なので18時にもう1話投稿しますので、ご注意下さい!


第481話 観戦者達 Side雪ノ下家 中盤戦

「ファイヤ軍の人達は、どうやらかなり油断してるみたいね」

「緩んでるよね、数が多いとやっぱりああなるのかなぁ」

「素人の私が見ても、だらだらしてるように見えるよ」

「『どうだ?各個撃破は出来そうか?』

『楽勝ですね、あいつら連携のれの字もありゃしませんよ』

『よし、俺とブラックキャットは狙撃ポイントに移動する、

そっちは付かず離れずの位置をキープしながら、その時に備えてくれ』

『了解、対象をアルファ、ブラボー、チャーリーと設定、情報共有に入ります』だそうよ」

「うわぁ、さすが本格的ぃ」

「さて、お手並み拝見だね」

「どうやら中距離狙撃から開始するみたいね」

 

 そして五人が見守る中、Narrowは敵に襲いかかった。

 

「うわ」

「あのクリンって子、女の子だよね……」

「勇猛ね」

「あらまああっさりと……」

「やっぱり銃での戦いは、ALOとは違って決着が早いわね」

「あ、罠を仕掛けるみたい」

 

 そしてその罠にかかったもう一チームが壊滅し、Narrowは素早く撤収していった。

 

「引き時も見事の一言に尽きるわね」

「この人達が敵じゃなくて良かったね」

「でもまだ味方とは言えないのではないかしら」

「あ、スキャンの時間だね」

 

 そして表示されたマップには、ぽっかりと抜けているものがあった。

 

「あれ……SLとセクシードがいない?」

「ああ~、これ、前にキリト君が言ってた奴だ、

水の中とかにいたら、スキャンが通用しなくなるって奴」

「これで八幡君は、一時的に自由に動けるようになったわね」

「あ、でも、って事は……」

 

 その明日奈の視線の先には、Narrowを示す光点があった。

その言葉通り、ファイヤ軍が北のNarrow目がけて移動を始めた。

 

「やっぱり……」

「当然そうなるわよね」

「八幡君、どうするのかな……」

「Narrowには悪いけど、囮になってもらって、

その間に敵を片っ端から殲滅しにかかると思うわ」

 

 薔薇がそう言い、四人もそれに頷いた。

 

「Narrowは森林地帯に移動したわね」

「見て、建物があるよ」

「あそこに篭って迎え撃つつもりなのかしら」

「あ、また罠を設置してる」

「「「「「あ」」」」」

 

 五人はそう言って、ぽかんと画面を見つめた。

画面の中ではクリンが罠を設置しており、その背後に白旗を持ったスネークが、

いきなり姿を現した為だ。

 

「クリン、後ろ後ろ!」

「クリン、後ろ後ろ!」

「しむら、後ろ後ろ!」

「クリン、後ろ後ろ!」

「クリン、後ろ後ろ!」

 

 五人は異口同音?にそう言い、はたと止まってお互い顔を見合わせた。

 

「今何か、おかしな言葉が混ざっていなかった?」

 

 雪乃がそう言い、

 

「うん、確かに別の言葉が聞こえた」

 

 南がそれを受けてそう言った。

 

「この中に一人、昭和の女がいるわね」

 

 陽乃が面白そうな顔でそう言い、

 

「で、でもそれだと、三十代って事になっちゃうけど、今ここにいる全員二十代だよ?」

 

 明日奈がそれに対して疑問を投げかけた。

 

「誰よ、しむらなんて言ったのは!」

 

 そして最後に薔薇がそう言い、残りの四人はじっと薔薇を見つめた。

 

「な、何?」

「薔薇ちゃん、今の状況で、よくしむらって単語をハッキリと聞き取れたわね」

「あっ……」

「犯人はお前か!」

 

 陽乃はそう言いながら、いきなり薔薇の胸を揉んだ。

それで決着がついたと思ったのか、残りの三人は、

百合百合しい陽乃と薔薇をそのまま放置し、再び画面へと視線を戻した。

 

「スネークとコミケさん、どうやら知り合いだったみたいね」

 

 雪乃がそう言い、陽乃がそれに興味を引かれたのか、顔を上げた。

 

「『おう伊丹、ちゃんと仕事してるみたいじゃねえか』

そう、コミケさんの本名は、伊丹って言うのね」

「そんな事まで言ってるんだ」

「って事は、あのスネークって人も自衛隊の人?」

「そうね、でもそれにしてはちょっと言い方がおかしいわね、まるで上司が部下に……」

 

 そう言いかけ、雪乃はハッとした顔で陽乃を見た。

陽乃はそれに頷き、薔薇を放置して画面に見入った。

 

「『あ~……あの、スネークさんは、もしかして閣下ですか?』」

「閣下ですって?」

「何それ?」

「しっ」

 

 陽乃にそう言われ、明日奈と南は押し黙った。

そしてその会話が通訳される度、一同は顔を青くしていった。

 

「国会とか言ってるんだけど……」

「オリンピックの元日本代表で政治家?」

「嘉納太郎防衛大臣………通称閣下」

 

 最後に陽乃がそう呟き、一同はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「これは大物の名前が出てきたわね」

「確かBoBの時、クルスに倒されたんだよね」

「まさかそんなえらい人だったなんて……」

 

 そんな話をしている間に、どうやら敵が攻めてきたようだ。

爆発音が何度か聞こえ、それでも唇の動きを読んでいた陽乃と雪乃が、

驚いた様子で顔を見合わせた。

 

「ちょ、ちょっと姉さん、今閣下が、凄く場違いな言葉を口にした気がしたのだけれど……」

「間違いないわよ雪乃ちゃん、私もハッキリ見たから」

「何?どうしたの?」

「これは言っていいのかしら……」

「いいんじゃない?もし他人に言っても、信じてもらえない類の話だけど」

「そうね……彼が言うには、八幡君に国民栄誉賞を与えようという動きが一時あったようよ」

 

 そう言われた残りの三人は、こいつ何言ってるの?という視線を雪乃に向けた。

 

「え………」

「こ、国……?え?え?」

「でも、さすがにあの事件の内幕を全て公にする事は、

余計な個人情報を開示する事になってしまうから、取りやめになったらしいわ」

 

 あの事件、という言葉を聞いた三人は、

それが冗談でも何もなく、真実なのだとこの時理解した。

 

「えっ、えっ?本当に?」

「嘘……まさかそんな……」

「でも確かに、八幡君と和人君は、数千人単位の人間を救ってるもんね……」

「それは明日奈もでしょ?」

「私はほら、ALOの時は捕まってただけだから」

「ちなみにどうやらメディキュボイドの事も加味されているようね、

『今後も別方面で多くの人の命を救うだろう』って言われてるわ」

「うわ、そこまで知ってるんだ、さすがというか……」

「あっ……」

 

 そこで雪乃が驚いたような声を上げ、陽乃は慌てて薔薇にこう言った。

 

「薔薇ちゃん、さっきの話、前倒しで進めるようにアルゴちゃんに伝えて」

「ど、どうしたんですか?」

「閣下が八幡君を呼び出す事を決めたらしいの、話がしたいんだって。

そこで今回の『お仕事』についての話が出る可能性はかなり高いわ」

「分かりました、すぐ連絡します」

 

 こうして一瞬慌しくなった後、雪乃がさらっとこう言った。

 

「あら、このクリンって子も、例の合コンに参加するみたいね」

「そうなんだ!そっかぁ、どんな人なんだろ」

「楽しみが増えたわね」

「うん!」

 

 そこに薔薇も戻ってきて、陽乃にこう言った。

 

「オーケーだそうです、ダル君を呼び出してしばらくこき使うとかなんとか」

「ダル君も、すっかりアルゴちゃんに使われちゃってるわねぇ」

「まあ本人は喜んでいるみたいだからいいんじゃないでしょうか、

この前も部長に向かって、とても嬉しそうに、イエス、マム!って言ってましたし」

「アルゴさん、ダル君の事を本当に上手く操縦してるね……」

「このままだと、コミケが終わるまでくらいはずっと拘束する事になりそうね」

 

 ちなみにこの流れでコミケのソレイユブースにも参加する事になったダルは、

そこでソレイユのバイトとしてコスプレをしていたとある女性と、

運命的な出会いを果たす事になる。

 

「あっ、見て、八幡君が狙撃体制をとってる」

「ついに始まるのね」

「でも左右の肌色の物体は何なんだろ、

八幡君も、ちょっとそっちを気にしてるみたいだけど」

 

 そして画面が引き、その物体が何なのかを、五人は理解した。

 

「あ、これ、二人の足だったんだ」

「防御体制……なのかしら、まあそれは分かるんだけど」

「でもあいつ、あまり気にしてなくない?」

「ううん南、一見そう見えるかもだけど、八幡君、随分気にしてるよ」

「そうなんだ、私には分からないけど……」

 

 そんな二人に、薔薇がこう言った。

 

「これはもう有罪でいいんじゃないかしら」

「そうね、それでいいと思うわ」

 

 雪乃もそれに同意し、明日奈はそれを受け、頷いた。

 

「そうだね、これで前科二犯か……これはいじりがいがありそう」

 

 八幡の運命は、どうやらこの時点で既に決まっていたようだ。

 

「うぅ、うちには何も無いのに、何であの二人ばっか……」

「その分今度、八幡君に言う事をを聞かせればいいんじゃないかな」

「うん、そうしてみる」

「南も言うようになったわね」

「そうじゃないと、あいつの秘書はやってられないと思うので」

「まあそうね」

 

 そして戦闘が始まり、画面の中のシャナは、森の中へどんどん銃弾を送り込んでいった。

 

「………どうしてあんな狭い木の間に弾を通せるの?」

「それは八幡君だからとしか……あ、でも多分シノのんにも出来るのかも」

「二人とも化け物ね……」

「あ、場面が変わった、そして銃弾が奥から飛んでくる……」

「ちょっと怖いわねこれ、森の中からいきなり即死級の弾が飛んでくるとか」

「八幡君に敵対するというのはこういう事なのね」

 

 そしてついに獅子王リッチーが、ファイヤの手を引いて逃げ出し、

森の中のファイヤ軍は壊滅する事となった。

 

「内と外で、ほぼ全滅させたわね」

「ゼクシード君もレンちゃんも、楽だったでしょうね」

「もぐら叩きみたいなものだったしね」

「あれ、でもほらここ、一人プレイヤーが生き残ってない?」

「あら本当、よく見つけたわね明日奈」

「うん、自分でもそう思う」

「でもこれって危なくない?」

「もしこのプレイヤーが仕掛けてきたら、一人くらいはやられちゃうかもね」

 

 その心配は的中する事になる。SLとセクシードが敵の殲滅具合を確認する為に分かれ、

レンが連絡役として派遣された時、それは起こった。

 

「あっ、ここ、狙ってる!レンちゃんが危ない!」

「誰か、レンちゃんを守って!」

「あっ」

 

 その声が聞こえた訳ではないだろうが、ゼクシードがレンを庇い、そのまま死体となった。

彼をよく知る雪乃が絶句していた為、その死ぬ直前の言葉を陽乃が三人に伝えた。

 

「『レンちゃん、五チームが多分奥の建物に侵攻中、可能なら倒した方がいい。

あと、俺はここまでだけど、お前は絶対にレンちゃんを勝たせろと、シャナに伝えて』

『頑張れ』だそうよ」

「ゼクシードさん……」

「ゼクシードが最後に男を見せたわね」

「ちょっと格好良かったかも」

「いつもの彼は、どちらかというとギャグ担当だったはずなのに、変われば変わるものね」

「あっ、見て、レンちゃんが!」

 

 画面の中ではレンが雄叫びを上げ、そのプレイヤーに突っ込んでいく所だった。

レンはそのプレイヤーの股下をくぐり、いつの間にか背中に差していた短剣を抜き、

そのプレイヤーの太ももを斬り裂いていた。

 

「速っ」

「よく見えなかった……」

「レンちゃん、やっぱり凄い……」

「あら、このプレイヤーは確か……クラレンス、だったかしら」

「ああ~、確か戦争後にこの木なんの木の拠点防衛戦にいた人だ」

「今回は敵に付いたみたいね」

「あ、見て、八幡君が動くよ」

 

 ゼクシードにお別れを言い、その死体にハッキリと勝利を宣言したシャナは、

その遺言ともいえる言葉を実行に移し、Narrowと連携して、敵を殲滅した。




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