ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第482話 観戦者達 Side雪ノ下家 終盤戦

「随分あっさりと合流出来たものね」

「まあGGOだと、先手さえ取れれば一方的な展開になったりするからね」

「あ、二人とも凄く嬉しそう」

「あの二人、気が合いそうだものね」

 

 シャナとコミケが手を握り、再会を喜びあっているのが手にとるように分かり、

五人はほっこりとした。

 

「そういえば、八幡君にはお兄さん的ポジションの人がいないわよね」

「コミケさんがそうなってくれればいいのだけれど」

「それならこの私が男装をして……」

 

 突然そう言い出した陽乃に、雪乃は冷たい目を向けながら言った。

具体的にはその陽乃の胸に。

 

「そうね、手始めにまずはその重しをもぐところから始めましょうか」

「ちょ、ちょっと雪乃ちゃん、顔が本気に見えるんだけど……」

「私はいつでも本気よ、姉妹なのだから分かるでしょう?」

「ひいっ……」

 

 そんな陽乃を助けようとした訳ではないだろうが、明日奈が雪乃にこう言った。

 

「あ、見て、閣下が八幡君に何か話してる」

「さっき言ってた呼び出しかしらね」

「どうやら八幡君も、何かを感じ取ったのか、素直に頷いているようね」

「いつくらいになるんですかね」

「嘉納さんはせっかちな人だと聞いているから、

もしかしたら明日とかにいきなり……いや、この大会の直後にオファーがくる可能性も……」

 

 そしてスネークがログアウトした数分後、陽乃の携帯が着信を告げた。

 

「あれ、お母さんからだ」

 

 そして陽乃は電話に出ると、開口一番にこう言った。

 

「お母さんどうしたの?ちなみに雪乃ちゃんと明日奈ちゃんなら、

今私の隣で寝ているわよ、もちろん全裸で」

「なっ……」

「ごほっ、ごほっ……」

 

 雪乃はその言葉に目を剥き、明日奈は丁度飲み物を口に運んでいたところだったので、

それを噴き出すまいと堪えた為、むせてしまった。

 

「え、私も混ぜろ?娘達と裸の付き合いがしたい?

そんな事したら、私が八幡君に殺されちゃうから却下。って、八幡君も呼べばいい?

それなら丸く収まる?いやそれは魅力的な提案だけど、

ここには今、薔薇と南ちゃんもいるからね?え?一緒でいい?

う~ん、まあそういう事ならみんなで一斉に彼に愛されるのもアリかもだけど……」

「だ、駄目ぇ!」

 

 焦った明日奈が陽乃に詰め寄り、陽乃は明日奈の頭を撫でながら言った。

 

「明日奈ちゃん、冗談、冗談だってば、で、お母さん、本題は?

ふむふむ、ああ、もう動いたんだ……本当にせっかちな人だなぁ、

分かった、大会が終わり次第八幡君に伝えて、

そのまま予定を組む事にするから、先方にはそう伝えといて」

 

 そう言って陽乃は電話を切った。

 

「姉さん、今のはやっぱり……?」

「うん、うちのお母さんは閣下と知り合いだったみたいで、

明日八幡君に会わせてもらえないかって、うちのお母さんに直接連絡してきたって」

「凄まじい行動力ね……」

「自由な人ですね……とりあえず部長に連絡を入れておきます、

プランだけでも提示出来ればいいと思うので」

「まあその話も前進したって事で、今はとりあえず大会を楽しみましょう」

 

 丁度その時画面の中では、ブラックキャットがシャナに話しかけている最中だった。

 

「『美人な方が私よ』」

「うわ、ちょっと姉さん、ここに姉さんと同じ性格の人がいるわよ」

「ちょっと雪乃ちゃん、それどういう意味?私は全然そんな性格じゃないわよ、ねぇ?」

 

 そう同意を求められた他の三人は、気まずそうに陽乃から目を背けた。

 

「あ、あれ?ねぇちょっと、私ってそんなに厚かましくないよね?」

「姉さんは本当に、いつも綺麗だよね、スタイルもいいし」

「ボス、私はボスの魅力をちゃんと分かってますから」

「社長は凄く気が強くて、そういう所、うち、憧れます!」

「三人とも、否定も肯定もしないのね………」

「当たり前じゃない、姉さんは自分の胸に手を当てて、

今までの自分の行いについて、よく考えるべきね」

「うん、聖人君子のような女性が見えるわ、あと胸が大きい」

「………………本当にもぐわよ」

「冗談、冗談だってば、痛い、痛いから、ごめんなさい!」

「もう…………」

 

 そしてシャナがブラックキャットに何か言い、ブラックキャットは満面の笑みを浮かべた。

 

「『正解よ、やっぱり私の方が美人だと思ってくれているのね』」

「うわ、ぐいぐい来るなぁ……」

「まあでも女ってそういうものだよね?ね?」

「姉さん、いい加減に諦めなさい」

 

 そしてあれよあれよという間に、シャナとクリンが対峙し、五人は呆気にとられた。

 

「この男、何をのんびりと相手をしているのかしら」

「優勝を譲るからって条件に乗ったのかな?」

「八幡君らしくない気もするけどね、今回は絶対に負けられないからかな?」

 

 だがその疑問は、次のシャナの一言で解消された。

 

「『本職相手にあまり自信は無いが、サトライザーの実力がどの程度か、

いい比較になるだろうし、まあ楽しんでくるわ』」ですってよ。

「ああ~、サトライザー!」

「確かに同じ軍人が相手だと過程すると、参考になるかもしれないわね」

「八幡君、やっぱりあの負けが相当悔しかったんだね……」

「まあそういう事なら興味があるわ、ここはじっくりと見せてもらいましょう」

「ねぇ、サトライザーって何?」

 

 南にそう問われ、明日奈は南に解説を始めた。

 

「そんな人がいたんだ」

「確かにサトライザーの強さは異常だったんだよね、

この戦いで、八幡君が何か掴んでくれればいいんだけど」

「あ、始まるみたい」

 

 そしてシャナとクリンの戦いが始まった。

 

「カウンター狙い?」

「受け流そうとしただけかしらね」

「でも動かないね、重心がしっかりしてるのかな」

「っと、アッパー?」

「まあ八幡君なら避けるよね」

「って、ここでタックル?」

「さっきとは別の意味でぐいぐいくるなぁ」

「でもあいつがこんなに簡単に倒されるなんて、初めて見たかもしれないわ」

「クリンって人、技の繋ぎが上手いなぁ……」

「まだ続いてるわよ」

 

 その言葉通り、クリンの体を足で締め付けたまま、

そのままの勢いで後方に転がったシャナは、

逆にクリンに対してマウントポジションをとった。

 

「上手い!」

「でもまだ相手は銃を持ったままよ」

「銃を手放させる為に、揉みまくる手もあるわね」

「姉さん、八幡君がそんな事する訳ないでしょ!」

「あっ、銃で殴ってきた」

「さすがに一旦離れたわね」

「これで振り出しか……」

「『ふう、さすがにやるわね』『お褒めに預かり光栄です』

『ふうん、紳士なのね、それなのにあんなに荒々しく私を押し倒したりして、

うん、悪くない、むしろそういうのは大好物ね』

『風評被害が広がるからやめて下さいよ』だそうよ」

「クリンさんって肉食系……?」

「まあ見るからにそうよね……って、武器を投げた?」

「違うわ、凄い速さの突きね」

「でも八幡君には通じない」

 

 シャナはその突きにも対応し、見事なカウンターを放っていた。

クリンの手は今は自由に動かす事は出来ない。

だがクリンは、辛うじて動く足を思い切り振りぬき、

落下中の銃をシャナ目がけて蹴りつけた。

 

「うわ、凄い事するなぁ……」

「って、何でそこで八幡君に抱き付くの!?」

 

 明日奈は思わずそう絶叫した。

 

「むしろ他に選択肢が無かったようにも見えたわね」

「でも、でも……」

「よく見なさい明日奈、二人とも凄く真剣よ」

「まあ力は八幡君の方が上だろうし、すぐに拘束を力ずくで外すのではないかしら」

 

 その雪乃の予想は見事に外れた。シャナは力をこめては緩めるのを繰り返し、

その表情は困っているように見えた。

 

「どうしたんだろ」

「何か困ってない?」

「ま、まさか八幡君、クリンさんの胸の感触を楽しんでいるとか!?」

「もしそうだったら、生きているのが辛いような目にあわせてあげるのだけれど」

「雪乃、どっちを!?」

「そんなの決まってるじゃない、うふ、うふふふふ」

「姉さん、雪乃を止めて!」

「こうなった雪乃ちゃんはもう止まらないわよ」

「そ、そんなぁ……」

 

 そう焦る明日奈を、八幡相手に胸を押し当てた経験が豊富で、

こういう時の状況を的確に判断出来る薔薇がいさめた。

もちろんそんな事は口には出せないのだが。

 

「落ち着いて、多分あれは、下手に動くと余計に胸を押し付けられる結果になるから、

外すに外せないんだと思うわ」

「そ、そっか、さっすが紳士!」

「でもどうするのかしら、そうなるとずっとこのままという事になるわよ?」

「八幡君ならきっとなんとかしてくれるよ!」

「あっ、見て!」

 

 その時突然シャナの体が沈みこみ、クリンの胸に顔を埋めながら、

シャナは脱出に成功した。直後にシャナがクリンの太ももを抱え込み、

ぐるぐると回り始めた。いわゆるジャイアントスイングである。

これにより、目を回したクリンはそこでぐったりしたが、

そんなクリンを強引にお姫様抱っこしたシャナは、そのままクリンを下に下ろした。

それを見た五人は、皆押し黙ったままだった。

そして雪乃がぷるぷる振るえながら明日奈に話しかけた。

 

「…………ねぇ明日奈」

「うん………」

「あの男、仕方ないとはいえとんでもない事をしでかしたように見えたのだけれど」

「胸に顔を埋めてから太ももをまさぐり、最後はお姫様抱っこだったね」

 

 無表情でそう言う二人に危機感を覚えたのか、

八幡に対して一番忠誠心が高い薔薇が、慌てて八幡のフォローに回った。

 

「まあほら、胸に顔を埋めたのは、その一瞬で済めば多少ましって考えで、

足を持ったのは多分、ガチの格闘だと不利かもって考えたかもだし、

最後のお姫様抱っこは、目を回した相手の体を心配して、

乱暴に持ちあげるのを避けたんじゃないかしらね?」

「まあ理屈はそういう事なんだろうけど」

「納得出来ない部分もかなりあるわね」

「そ、それは……」

 

 薔薇は困り果て、少しでも八幡の傷が少なくなるように、逆に自分からこう言った。

 

「そ、それじゃあ前科三犯という事で、ここは一つ……」

「野球ならスリーアウトね」

「まあいいや、後でちゃんとお話しすればいいだけだよね」

「納得のいく説明を期待しておきましょうか」

「で、でも良かった事もあるよね?」

 

 ここで同じく危機感を覚えた南が、慌ててそう言った。

 

「南、どのあたりが?」

「ク、クリンさんがスカートじゃなかったから、被害は少なかったんじゃないかな!」

 

 その言葉に明日奈と雪乃は思わず噴き出した。

 

「南、そっち!?」

「あはははは、確かにそうだね、もしクリンさんがスカートだったら……」

 

 そして二人は再び真顔になって言った。

 

「もぐのは確定だったよ」

「もぐのが確定だったわね」

「ひ、ひぃ………」

 

 そして大会は、次なる山場を迎える事になる。

 

「さて、いよいよファイヤ軍の討伐ね」

「敵はマシンガンやら機関銃やら、拠点防衛向きの装備を持つ人が残ってるけど……」

「どうやらあの拠点っぽい場所に立てこもるみたいね」

「ファイヤって人、三角座りしちゃってるよ……」

「現実逃避かしら、情けない男ね」

 

 そしてシャナがアハトXを取り出すのを見て、一同は何をするつもりなのか薄々察した。

 

「あ、どうやらキリト君戦法をとるつもりみたい」

「『はぁ、ここにあいつがいれば、最高の弾除けにしてやるんだが』だそうよ」

「ああはははは、確かにそれが出来れば楽そうだね」

「アハトXをぐるぐるして敵の弾を防ぐつもりなのかしら」

「漏れが無ければいいんだけど……」

「それも想定して、自分が死んだら盾にしろって言ってるわよ」

「うわ、それも込みなんだ」

「でも他に手が無い訳じゃないわよね?まあ八幡君には実行出来ないと思うけど」

 

 陽乃がそう言い、他の四人は首を傾げた。

 

「八幡君には実行出来ない事?」

「ええそうよ、彼は、女性を犠牲にして盾にする事なんか出来ないものね」

「ああ~!」

「そっか、その手が……」

 

 一同は納得し、南は友達付き合いしていた二人の性格を考えながら言った。

 

「ゆっこと遥が自主的にそれをやるとは思えないしね」

 

 一同はそれに頷き、相手を持ち上げあっている画面の中の四人を見ながら言った。

 

「今は二人が、八幡君に人の運び方を聞いてるのかな?」

「何というか、はたから見ていると間抜けな光景ね」

「でも脇の下に手を入れて持ち上げるとか、厳しくないかしら」

「あ、同じ事を考えたのかな、ハルカさんが別の持ち方をアピールしてるね」

「八幡君が何か言ってるけど……」

「どうやら手を女の子の股の間に潜らせるのがNGだと言っているようね」

「さすが紳士?」

「疑問系なのね……」

「ぷっ……」

 

 その時陽乃が突然噴き出し、通訳を始めた。

 

「『あ、あんた、いつもあんなに女の子に囲まれてるのに、意外とピュアピュアなのね……』

『てっきり毎日とっかえひっかえやりまくりだと思ってたのに……』

『んな訳あるか!』だってさ」

「ああ~、まあそう見えても仕方ないよね」

「女の子三人が何か話してるけど……」

「口元が見えないわね、残念」

「でもレンちゃんが顔を赤くしてる、かわいい……」

「あれ、今ゆっこと遥が目配せした?まさか裏切るつもりじゃ……」

「って、えええええ?」

「何で抱き付くの?」

 

 あまりの展開の早さについていけなかった五人は、

次の瞬間にハルカがユッコの頭を撃ちぬいたのを見て、度肝をぬかれた。

 

「なっ………」

「ま、まさかこれって……」

「嘘、まさかのまさか?あの二人が自主的にさっき言ってた事を実行するなんて……」

「でも事実ね、目の前でこれだけの覚悟を見せられたら、さすがに怒るに怒れないよ……」

「そうね、あの二人、やるじゃない」

「ゆっこ、遥、裏切るつもりなのかって疑ったりしてごめん……」

 

 その直後に、ハルカが食事を奢ってもらうと言い出したのを聞いて、

五人は微妙な雰囲気になった。

 

「ご飯目当て……?」

「どうだろう、案外そっちは照れ隠しかもしれないし」

「何ともいえないね」

「でも彼女達の決意は評価に値するよね」

 

 その直後にハルカがレンに説明したシャナメソッドの話を聞いた五人は、

もう直前の出来事についてはどうでもよくなり、おお、と手を叩いた。

 

「そんな手が……」

「確かのあの男には有効かもしれないわね」

「恩を押し売りする方法か……その発想は無かったね」

「八幡君の事を異性としてあまり意識していないが故の発想なのでしょうし、

私達には思いつかなくて当然だと思うわ」

「でもこれは………使える!」

 

 五人はそう頷き合った。今後の八幡の財布の中身が心配である。

 

「さて、いよいよかな」

「もうさっさと片付けちゃって!」

「しかしシュールな光景よね……」

「今頃GGO内の中継を見てる人達は、大騒ぎだろうね」

「まあもう勝負はあったわね」

 

 その言葉通り、ファイヤ軍はあっさりと殲滅され、残るはNarrowのみとなった。

 

「まさか遥まで……うち、本当にあの二人に謝らないといけないな」

「いい友情を保てるといいわね、南ちゃん」

「はい!」

「しかし最後まで往生際が悪い男だったわね」

「まあこれで、レンちゃんの安全は確保されたのかな?」

「一応Narrowと決着はつけるのではないかしら」

「そっか、それじゃあこっちが本番って事になるのかな」

「本職相手にあの二人はどう戦うのかしらね」

「ん?旅行バッグ?」

 

 レンが旅行バッグを取り出したのを見て、一同は何をするつもりなのか、

興味津々に観察していた。

 

「あれに爆弾を詰めても起爆出来ないよね?」

「手榴弾を詰めて狙撃すればあるいは……でもそこまで細かく設定してあるのか謎ね」

「不発弾とかも無いしねぇ」

「銃の異常は検知されるみたいだけどね」

「まあ元から故障があるのだから、それは妥当ではないかしら」

 

 そうわいわい話している五人の目の前で、レンはするっと旅行カバンの中に入った。

 

「って、えええええええええええ?」

「嘘……物理法則を無視しちゃってない?」

「レンちゃんって、体柔らか……」

「あ、それは多分、八幡君の教育のせいかも、ゲーム内だと体が固いのはうんぬんっていう」

「これは相手にバレなければ勝ち、バレたら負けという賭けになりそうね」

「レンちゃんの力、本職の人達に通用するかな?」

「するでしょ、銃での戦いは、奇襲が決まればほぼ勝ちだもの」

 

 そして五人が見守る中、シャナとレンは賭けに勝ち、見事優勝する事が出来た。

 

「やった!」

「レンちゃん凄い!」

「八幡君とのコンビも完璧だったね」

「これは明日奈ちゃんもうかうかしていられないわね」

「や、やっぱりそうかな?」

「まあ八幡君が浮気するとは思えないけどね」

「八幡君といえば、お仕置きもしくは何を要求するのかは、考えておかないとだ」

「あまり無理なお願いをしちゃ駄目よ、明日奈」

「うん、まあ今回はレンちゃんの為に頑張ったんだし、ほどほどにしておくよ」

「それじゃ、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 

 五人は祝杯をあげながら、二人の優勝と香蓮の無事を祝った。

こうして第一回スクワッド・ジャムは終わり、

レンの名前が有名になるのと同時に、こうした公式の大会で、

最強と言われながら未だに無冠だったシャナが、ついにその栄誉を手に入れる事となった。




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