無事優勝を果たしたシャナとレンは、控え室で勝利を喜んでいる最中だった。
「やったねシャナ!」
「レンも凄かったぞ、もう闇風を超えたんじゃないか?」
「そんな、私なんかまだまだだから!」
「そうか?少なくとも高速で動きながらの反応の早さは、闇風以上だと思うぞ」
「そうかなぁ、必死にやってるだけなんだけど」
「まあ闇風を超えるくらいの意気込みが無いと駄目だと思うしな、
俺もまだまだ教えないといけない事もあるし、これからも頑張ろうな」
「うん!」
シャナは、レンが教えた事をどんどん吸収していくのを見て、
教師として目覚めてしまったようだ。
闇風も同じ事を感じており、これからレンはどんどん強くなっていくであろう。
そんな時、シャナのウィンドウにメッセージの着信が告げられた。
「ん……これは外部からだな、って、はぁ?おいおいまじかよ……」
「どうしたの?」
「スネークから呼び出しをくらったわ……」
「どういう事?実はリアル知り合いだったとか?」
「いや、あの人はコミケさん達の上司っぽかったから、
多分それなりの地位にある人なんだろうなとは思ってたんだが、
予想以上に大物だったらしくてな……さっき落ちる時に、
今度呼び出すから宜しくって言われて、一応覚悟はしてたんだが、
どうやら俺にはまだ覚悟が足りなかったみたいだ」
そう大げさな事を言うシャナに、レンは首を傾げた。
そもそもシャナに呼び出しをかけられるというのがおかしい。
例え自衛隊の上の役職の人でも、そんな権限は無いはずだ。
「呼び出しって、強制?」
「いや、要請だが、これは断る訳にはいかないんだよな」
「そうなの?スネークさんって何者?」
「…………そうだな、なぁレン、嘉納太郎って知ってるか?」
その質問に、レンは当然のようにこう答えた。
「防衛大臣の人だよね?ってまさか、ええええええええええ?」
答えた後で、どうやらレンは、その質問の意味に気が付いたようだ。
「おう、そのまさかだ、本人だったそうだ」
「そ、そうなの?さっきシャナってば、『お、お前、喋れたのか……』
とか失礼な事を言ってなかった!?」
「だな……ついでに言うと、前回のBoBであの人を倒したのは、うちのマックスだな」
「そうなんだ、大丈夫なの?まさかお礼参りとか?」
「いや、あの人はそんな人じゃないと思う。まあ話の内容は想像がつくから大丈夫だ」
「それならいいんだけど……」
「まあこの話は大丈夫だ、そんな訳で、ユッコ達に連絡をとって、お礼を言いにいくか」
「あ、そうだね、うん、行こう!」
そして二人はユッコに連絡をし、
フードをかぶってゼクシード達が使っている控え室へと移動し、
コンコンコンとノックをした。
ちなみに何故ユッコに連絡をとったのかというと、
シャナはゼクシードとはまだ、フレンド登録をしていないからだった。
「どうぞ」
そう返事があり、二人は素早く中に入った。
そこには微妙に疲れた顔をしたゼクシードと、元気そうなユッコとハルカがいた。
「やぁシャナ、レンちゃん、優勝おめでとう」
「ゼクシード……今回は本当に助けられた、ありがとうな」
「ゼクシードさん、ありがとう!」
「君にお礼を言われる筋合いはないよ、僕はあくまでレンちゃんを助けたんだからね」
「……だな」
ゼクシードが少し照れたような様子を見せていた為、シャナはただそう返事をした。
「で、ファイヤの事は解決したのかい?」
「ああ、ユッコとハルカのおかげでな」
「そうか……レンちゃんの為に役にたてたなら、本当に良かったよ。
だが次は本気でやるから、覚悟しておくといいよ」
「だな、そのうちまた勝負だ」
「まあ次も負けたらその次、そこでも負けたらその次って、延々と続くんだけどね」
「お前も本当に負けず嫌いなんだな……」
「もちろんさ、闇風ともまた戦うつもりだしね」
「そうか、まあこれからも宜しくな」
二人がそう話している横で、レンもまた、ユッコとハルカと仲良く話していた。
「ユッコさん、ハルカさん、今日は本当にありがとうございました!」
「いいのよレンちゃん、凄く楽しかったし」
「そうそう、それに何ていうか、うちらこういう大会で活躍出来たのって初めてだから、
凄く満足してるっていうか、達成感があるよ」
「まあ表舞台に出た最初の大会で優勝しちゃうレンちゃんほどじゃないけどね」
「わ、私なんか、シャナがいなかったらとてもとても……」
「そんな事無いわよ、レンちゃんは強かった、ね?ゼクシードさん」
ハルカにそう話を振られたゼクシードは、レンの顔を見てうんうんと頷いた。
「そうだね、少なくとも闇風相手でもいい戦いが出来ると思えるくらい、
今回のレンちゃんはいい動きをしていたと思うよ」
「本当ですか?嬉しいです!」
「これからステータスやスキルを鍛えていけば、
いずれシャナすら倒せるようになるかもしれないね」
そうかなり本気で言うゼクシードに対し、レンはもじもじしながら言った。
「いや、それはどうですかね、だって私、シャナを傷つける事なんか出来そうにないし……」
そんなレンを、ユッコとハルカがいきなり抱きしめた。
「うわ、レンちゃんかわいい!」
「だよねだよね、やっぱり愛する人は傷つけられないよね!」
「ひ、ひゃっ!?べ、べべべ別に私はそんなつもりじゃ……」
「いいっていいって、ああもう、お持ち帰りしたい!」
「うんうん、レンちゃんは本当にかわいいなぁ」
一方シャナは、微妙に疲れた表情をしているゼクシードの事を気にしていた。
「なぁゼクシード、どこか調子でも悪いのか?微妙にだるそうに見えるが」
「ん?ああ、実はブランクの影響があるのか、
まあ本来は、体調がVRにそこまで影響するとは思えないんだけど、
でもまだちょっと疲れやすい気がするんだよね」
「精神的な疲れがまだ残ってるのかもしれないな、
遠慮しないで落ちて、ゆっくり休んでくれよ」
「そうだね、表彰式はユッコとハルカに任せて、僕は先に落ちるとするよ、
ユッコ、ハルカ、後は任せてもいいかな?」
「別にいいですよゼクシードさん、体を大事にしてください」
「ですです、優勝したならともかく、三位の表彰くらいは私達が立派にこなしてみせます」
「そうか、それじゃあ宜しく頼む、シャナ、レンちゃん、それじゃあまたね」
「おう、またな、ゼクシード」
「ゼクシードさん、また一緒に遊びましょうね!」
「うん、また遊ぼうね、レンちゃん」
そしてゼクシードは、そのままログアウトした。
「なぁ、あいつ大丈夫か?何か変わった事は無いか?」
「うん、いつも平気だから、多分大丈夫だと思う」
「今日は慣れない事をして、余計疲れたんじゃないかな?」
「まあ確かに、今日のあいつは今までのあいつと全然違ったと思うし、それもそうか」
「うんうん、大丈夫大丈夫」
「で、食事の話だけど……」
ハルカが話題を変え、シャナは頷きながらこう答えた。
「明日はちょっと用事が出来ちまったんでな、明後日以降ならいつでもいいぞ、
レンと相談してもらって、決まったら連絡してくれ」
「やった、ごちそうさま!」
「いやぁ、体を張った甲斐があったわ」
「ああそうだ、ユッコには恥ずかしい思いをさせちまって本当にすまなかった」
ユッコのその言葉を聞いたシャナは、咄嗟にそう謝った。
「いいっていいって、っていうかあれよ、
嫌いな奴に抱きつかないといけなかったハルカよりはマシだからさ」
「もう、嫌な気分になるから言わないでって」
「ごめんごめん、まあそんな訳で、気にしなくていいからさ……って、
何であんた、そんなに顔を赤くしてるの?」
ユッコはシャナが少し顔を赤くしながら微妙に下を向いている事に気付き、そう言った。
そんなユッコに答えたのはハルカだった。
「ちょっとユッコ、当たり前じゃない、今の言い方だと、
どう聞いてもユッコがシャナさんの事を好きみたいに聞こえるよ?」
「え?どこが?」
「だってほら、嫌いな奴に抱きつかないといけなかったハルカって、
それじゃあユッコは別に嫌いじゃない相手だったからオッケーだって事になるじゃない」
「ああ~!」
それで納得したのだろう、ユッコは、あははと笑いながら、シャナに言った。
「えっと、そういう意味じゃなくて、少なくとも今はもう、私達はあんたの事、
それなりに好ましく思っているっていうか、
とにかくそういう好きじゃなくて、仲の良い友達だって思ってるって、
それだけの話だからさ、本当にごめん、ごめんってば」
からかうでもなく、むしろ謝ってくるユッコに対し、
シャナもその言葉が本心だと悟ったのか、逆にユッコに謝った。
「そ、そうか、こっちこそすまん、気を遣わせちまった。
これからも友達として宜しくな、二人とも」
「うん、もちろん!」
「それそれ、ねぇ、今度また同窓会があるらしいから、そこで他の人を驚かせてやろうよ!」
「おお、それは面白いかもしれないな、そうするか」
「お、ノリがいいねぇ」
「楽しみだねぇ」
「まあもう身内にはバレちまってるけどな」
「あはははは、それもそうだね」
そんな三人を、レンが羨ましそうに見つめていた。
そんなレンの態度に気付いたのか、シャナがレンに手招きした。
「今日は本当によく頑張ったなレン、もう大丈夫だ、何も心配はないはずだ。
これで何かあったら、もう家出するなりなんなりしちまえって」
「それでレンちゃんは、比企谷家の子になると」
「もしくは雪ノ下家でもいいかもしれないけどな」
「ううん、それは大丈夫だと思うから、心配しないで。
でもそうなったら宜しくね、シャナ」
「おう、任せておけって」
そして四人は連れ立って、表彰式へと向かった。
そこには一位から三位の順位が表示されていたが、セクシードが単独三位となっており、
そこにはファイヤのファの字も何も無かった。
「あれ、お前らが単独三位なのか?」
「ああそれね、HPの差で、私の方が遅く死んだから、こっちが単独三位になったみたいよ」
「ああそうか、それは確かにそうだよな」
「おかげで賞金を分けなくて済んだよ、本当にラッキー!」
「だな、お、コミケさん達がいるな」
シャナはそう言いながらコミケに手を振った。
コミケもシャナに手を振り返し、そこで表彰式が始まり、
観客達のやっかみを受けながらも、シャナは初めてこういった大会での栄冠を手にした。
「これで名実共に、シャナがこのゲームのトップって事になるのか?」
「次のBoBで優勝したら、間違いなくそうなるな」
「サトライザーが出てきた上でそうなったらいいんだけどな」
「出てこなくても、シャナが強い事に変わりはないけどな」
「でもやっぱり、シャナにはサトライザーを倒して欲しいじゃないかよ」
「だな!」
そんな表彰式の様子を、ファイヤは影からこっそりと見ていた。
「くそっ、絶対にここから巻き返してやる……先ずは小比類巻さんに連絡をとって、
後は政治力を生かして何が何でも香蓮さんをこの手に……」
そう言ってファイヤはそのままログアウトしたが、
既に小比類巻建設と雪ノ下建設の間で、業務提携の話が進んでいる事を、彼はまだ知らない。
そして彼が懇意にしている政治家が、嘉納派に所属しており、
そちらからも手が回る事を彼が知るのはもう少し先の事になる。
「なぁ大将、ちょっと話があるんだがいいか?」
「待って下さい隊長、こっちに先に話をさせて下さい、すぐ済みますから」
横からブラックキャットにそう言われ、コミケは大人しく引き下がった。
「お、おう、それじゃあ先に話していいぞ」
「という訳でシャナ君、合コンの話だけど……」
「ああ、そういえばそうでしたね、いつがいいとか希望はありますか?」
「私達はいつでも大丈夫だけど、クリンはどう?」
「今週中ならどこでも大丈夫、次の日休みにするから!」
「ああ、クリンさんも参加者に入ってるんですね」
「うんそうなの、当日は宜しくね、あ、そのまま私のマウントをとってくれてもいいのよ?」
そうあっけらかんと言うクリンに対し、シャナは返事に困り、何とかこう答えた。
「は、はは………そのお気持ちだけで……それじゃあブラックキャットさん、
決まり次第すぐに連絡を入れますね」
「ええ、お願いね、ああ、楽しみね、クリン」
「だね、それじゃあまたね、シャナ君!」
「はい、お二人ともまたです」
こうしてブラックキャットとの話はあっさりと終わり、その日はレンもログアウトした。
そしてシャナとコミケはそのまま連れ立って、鞍馬山へと向かった。
「おお、ここが大将の拠点か?」
「はい、ここならどんな話をしても問題ありませんので」
「そうか、それは助かるな」
「それじゃあ中へどうぞ」
そして中に入った二人は、そのまま話を始めた。
「とりあえず、今日は驚いただろ?俺達も昨日突然この話を命じられてさ、
本当はコミケ、トミー、ケモナーの三人は、別に育成されたキャラが用意されてたんだけど、
名前が気に入らなくて、自分のキャラを使う事にしたんだよ」
「そうだったんですか、どんな名前だったんですか?」
「エスケープ、ノッポ、ドライバー、かな」
その何とも言えない名前を聞いて、シャナは何か意味があるのか気になった。
ブラックキャットという名前が黒川と酷似していた為、
おそらくメンバーありきで決められた名前だと推測したからだ。
「………ちなみに何か由来が?」
「エスケープは俺だけど、俺ってば逃げるのが得意だからさ……
で、ノッポはそのまんま、ドライバーは、ケモナーが車の運転とかが得意だからかな、
ちなみにクリンは、あいつの苗字からきてるんだ」
「なるほど、まあ担当の人が、頑張って考えた名前なんでしょうね」
「多分ね、で、本題なんだけど、明日の事なんだ」
「あ、それ、さっき外部からのメールで聞きました、
スネークって、嘉納大臣だったんですね……」
「話が早くて助かるよ、で、その場には護衛を兼ねて、俺だけが同席する事になったから、
それを伝えておこうと思ってさ」
「そうなんですか、コミケで初めて会う作戦が失敗しちゃいましたね」
「まったくだ、そっちの方が、俺としては楽しみが大きくなって嬉しかったんだけどな」
「ですね、で、話ってやっぱり、今回のお仕事に関する話ですかね?」
その言葉にコミケは、真面目な顔で考え込んだ。
「確かにその話も出ると思うよ、俺自身大会中に話した事は報告しないといけないし、
今日のシミュレーション結果についてもレポートを出さないといけないしね」
「あれ、って事は、その報告の前に、俺は呼び出されたって事になりますよね?」
「そうなんだよ、多分、興味本位での呼び出しなんじゃないかって思うんだよね、
ほら、あの人はそういう人だからさ……」
「だから呼び出しというか、要請だったんですね、本当に自由な人なんですね」
シャナは苦笑しながらそう言った。
「そうなんだよ、でもまあ話の分かる面白い人だよ、
ああ見えてオリンピックの日本代表になった事もあるらしいし」
「そうだったんですか!それは知りませんでした」
「だからまあ、このゲームに興味を持ったんだろうね、訓練の件も、あの人の発案らしいし」
「なるほど」
「という訳で、話はそれだけだ、明日は宜しく頼むよ、大将」
「はい、必ず伺いますね」
こうして二人の話は終わり、
八幡は次の日、何故か香蓮と二人で嘉納大臣の下を訪れる事になった。