ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第486話 食事会

「やぁ比企谷、噂は色々聞いてるよ、随分活躍してるみたいじゃないか」

「悪いな葉山、いきなり呼び出したりして」

「いや、別に問題ないよ、それにしても食事会なんて、比企谷らしくなくて少し驚いた」

「相談に乗ってもらうのに、手土産無しじゃ悪いと思ってな。

とはいえまあ、ついでだついで。飯を食わせないといけない奴等がいるから、

それに便乗して今日来てもらったって訳かな」

「なるほど、そこに俺を呼ぶって事は、他の参加者も俺の知り合いって事か」

「一人は違うけどな、さあこっちだ、テーブルに着いても驚かないでくれよ」

「ははっ、ご期待に沿えるかどうかは分からないけど、心の準備だけはしておくよ」

 

 閣下と面会した次の日、八幡は、この機会についでに同窓会の事を相談しようと思い、

食事会の席に葉山を呼んでいた。これはまあ至極当然の事である。

何故なら同窓会を開こうにも、八幡が連絡先を知る同窓生の数など、たかがしれているのだ。

その数は十人程度しかおらず、八幡が頼りに出来るのは、葉山くらいのものなのだった。

そしてテーブルに案内された葉山は、さすがに心の準備をしていただけの事はあり、

そこにいた二人の顔を見ても、表面上は顔色一つ変えなかった。

 

「ええと、ゆっこさんに遥さん、お久しぶり」

「あ、葉山君、久しぶり!そして前回の同窓会の時は、

私達のせいで不快な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい」

「うん、あれは完全に私達が悪かったです、心の底から本当にごめんなさい」

 

 いきなり二人にそう謝られた葉山は、さすがに驚きで顔色を変えた。

そして葉山は、口をぱくぱくさせながら、八幡に尋ねた。

 

「ええと………なぁ比企谷、一体何が?」

「いや、そう言われると俺も困っちまうんだが……

何かキッカケになるような事って、あったか?」

 

 そう改めて言われた二人は、顔を見合わせると、腕を組んで考えこんだ。

 

「ハッキリ認識したのって、いつだっけ?」

「ええと……あ~、あれだよ、戦争の時!」

「あ、銃士Xちゃんの時だ!」

「ああ、あの時か」

「八幡君、戦争って?」

 

 その時横から香蓮が八幡にそう尋ねてきた。

 

「ああ、香蓮も知らないのか、まあ説明する前に、とりあえず香蓮、

こちらは葉山隼人、俺の高校時代の同級生で、友達だ」

「葉山隼人です、宜しくお願いします、香蓮さん」

「私は小比類巻香蓮です、宜しくお願いします」

 

 そして葉山が着席した所で、事前に注文していた料理が運ばれてきた。

 

「うわ、豪勢だね」

「まあ今日は祝勝会だからな」

「祝勝会?そんな所に俺が来ても良かったのかい?」

「ああ、よく分からなくて困っちまうと思うが、気にせず一緒に勝利を祝ってくれ」

「あはははは、うん、それじゃあ気兼ねなく便乗させてもらうよ」

 

 そして食事をしながら、八幡はなるべく複雑にならないように、

葉山に事の次第を説明した。

 

「この前GGOっていうゲームで、殺人事件があっただろ?」

「ああ、あったね、って、まさかあれに関わってたのかい?」

「実はここにいる四人全員、あのゲームをやってたんだよ。

まあ香蓮が始めたのは事件の後だから、関係無いんだけどな」

「………比企谷なら分かるけど、二人もあのゲームを?」

「うん、これでもそこそこメジャーなプレイヤーになったんだよ」

「うちら結構頑張ったもんね」

「そうなのか、でも何でGGOを初めようと思ったんだい?」

「そういえば、それは俺も聞いた事が無かったな……」

 

 そう問われた二人は、きまり悪そうにぼそぼそと、あの時の事を話し始めた。

 

「あ~……えっと、あの時はさ……」

「同窓会直後で、むしゃくしゃしてて、帰りにたまたまゲーム屋の前を通りかかって……」

「その、現実じゃ絶対無理だろうけど、銃で戦うゲームだったら、

例えばあんたみたいな人を倒す事も、ワンチャンあるかなって……」

「お金も稼げるみたいだったし、それじゃあやってみるか~って、その……ノリで?」

 

 そう言われた八幡は、思わず噴き出した。

 

「ははっ、まじか、そんな理由だったのか、倒されてやれなくて悪かったな」

「う~、ごめんってば、もうそんな事まったく考えてないから」

「純粋に楽しんでるしね」

「いやいや、気にしないでくれって、あのゲームはそういった番狂わせが多いし、

その判断は的確だったと思うぞ。でも動機はそれか、くくっ、これは予想外だったわ」

「もう、からかわないでよ」

「今考えると私達、本当に馬鹿だったなって思ってるんだから!」

「悪い悪い、もう笑わないって」

 

 そして八幡は、葉山に説明を続けた。

 

「で、あの事件の犯人にはめられて……まあここは推測だけどな、

俺とその仲間の悪い噂がゲーム内で蔓延させられてな、仲間が一人、拷問にあったんだよ」

「拷問!?それは穏やかじゃないな……」

「まあそれで死ぬ訳じゃないし、痛くもなんともないからそれはいいんだが、

さすがにそれで俺もカチンときてな、GGOの開発をしているザスカーにねじ込んで、

戦争イベントを発生させてもらって、ついでに自分達の正当性を、

声高に叫ばせてもらったんだよ」

「そ………それはまた派手な事を……」

 

 葉山は呆れたようにそう言い、八幡は困った顔で言った。

 

「今思えばかなりやりすぎた感があるのは否定出来ん……」

「まあいいじゃない、丸く収まったんだし」

「そうそう、気にしない気にしない、戦力比にして二十五倍の敵に勝ったんだし」

「二十五倍!?」

 

 香蓮はその言葉に驚いた。

 

「ああ、レンちゃんは知らなかったんだ、あの時の動画って結構存在するから、

今度機会があったら見てみるといいよ」

「うん、そうする!」

「まあそんな訳で、いくつかの戦いを経て、最終決戦の直前の戦いの時にな」

「うちらが遂に、シャナ……あ、シャナってのは、比企谷のゲームの中の名前ね」

「そのシャナを、狙撃するチャンスを掴んだの」

「で、一発逆転を狙って狙撃したんだけどね」

「そんなシャナを、銃士Xっていう女の子が、その身を犠牲にしてかばって、

その時うちらもシャナの逆襲にあって、倒されちゃったの」

「ほう……」

 

 そう興味深げに言う葉山に、八幡が補足説明をした。

 

「あいつは何故か俺に好意を持っていてな、何とか俺の仲間になろうとして、

俺の窮地に格好良く登場しようと機会を伺ってたらしいんだが、

敵の幹部を倒して俺の所に来る途中に、その場面に遭遇して、

そのまま俺をかばって死んで、それで戦争からリタイアする事になっちまったんだ」

「あの子、街に戻ってから凄く泣いてたんだよ、私は良くやった、

シャナ様の前には立てなかったけど、でも凄く頑張ったって」

「そしたらそこに、比企谷が別キャラで現れたの」

「わざわざALOからキャラをコンバートさせてまでね」

「まああいつをそのまま放っておく事なんて出来なかったからな」

 

 そんな八幡に、葉山は微笑みながら言った。

 

「それは、その銃士Xって子からすれば、とても嬉しかっただろうね」

「その時に、うちらも初めてシャナさんが比企谷だったって知ったの」

「そんな場面を見せられたら、もう比企谷の事、悪く言えないじゃない」

「なるほど、そんな事があったんだね」

 

 葉山は一人頷き、香蓮は感動のあまり、目を潤ませていた。

 

「あ、ちなみにその直後の動画がこれ」

「比企谷がその子をお姫様抱っこして運んでいる途中で、

敵対する勢力の幹部に絡まれた時に、それを蹴散らした映像ね」

「そんなのがあるのか、どれ……」

「私も見たいです!」

 

 突然そう言われ、八幡は狼狽した。

 

「べ、別に面白いものじゃないと思うが……」

「高い高~い!」

「!?」

 

 突然ゆっこにそう言われ、八幡は思わず羞恥で顔を赤らめた。

 

「何の事だい?」

「見てれば分かるよ、葉山君」

 

 そしてその場面が訪れ、レンは目を点にし、葉山は苦笑しながら八幡の肩を叩いた。

 

「比企谷は、その女の子を立派に守ったんだな」

「お、おう、フォローありがとな……」

「しかしこれ、何度見ても凄いよね、人がサッカーボールみたいに飛んでくなんて……」

 

 そんなハルカの言葉に、八幡は淡々と言った。

 

「まあALOとGGOじゃ、リリース時期の関係で、そもそものステータスが違うからな」

「なるほど、だからこんなに強いんだね」

「まあそういう事だ」

 

 そして動画を見終わった後、葉山は真面目な顔で八幡に言った。

 

「で、あの殺人事件に関わったって、どういう事だ?」

「実はあの事件で狙われた奴の中に、俺の仲間が一人いたんだよ、

それとは別に、このゆっこと遥の仲間が現実で殺されそうになってな」

「そ、そうなのか?」

「うん、その人ゼクシードさんって言うんだけど、大丈夫、比企谷に助けてもらったから」

「メディキュボイドってのの力でね」

「メディキュボイド……そうか、あれを使ったのか……」

「で、俺の仲間の方は、今まさに襲われそうになっていた所に乗り込んで、

無事助ける事に成功したんだよ、実行犯の少年Aってのがそいつの事だ」

「そうか、少年Aは、比企谷が捕まえたのか……」

「あいつも俺達の仲間だったはずなんだけどな、残念だよ……」

 

 そんな八幡の手を、香蓮がきゅっと握った。

その顔はとても心配そうであり、八幡はそんな香蓮に笑顔で尋ねた。

 

「ん、どうした香蓮」

「その人を助ける為に仕方なかったんだろうとはいえ、あんまり危ない事はしないでね」

「ああ、ごめんな心配させて、気をつける」

 

 そんな二人の姿を見て、葉山はゆっこと遥にそっと囁いた。

 

「なぁ、香蓮さんってもしかして……」

「うん、そういう事みたいだよ」

「相変わらず比企谷ってモテるよね」

「そうか、明日奈さんが悲しんでいなければいいんだが」

「あ、それは大丈夫っぽいよ、仲良しだって聞いた」

「あの子も大変だよね、比企谷の大奥を仕切らないといけないんだし」

「大奥か」

 

 その言葉に葉山は苦笑しながら、再び八幡の肩を叩き、こう言った。

 

「比企谷、頑張れよ」

「ん?何がだ?」

「まあ色々だな」

「……お、おう、よく分からないが、頑張るわ」

 

 そして暗い話はそこまでとなり、話は次の同窓会の話へと移った。

 

「なるほど、サプライズをね」

「おかしな派閥が出来ないように、俺達が仲直りして、

今は友達だって事を周知させたいってのもあるんだよな」

「そうだね、せっかくの同窓生なんだ、出来れば仲良くしたいしね」

「だな」

 

 そう八幡が同意したのを見て、葉山は改めて、八幡の変化を感じた。

 

「まさか比企谷の口から、他人と仲良くなんて言葉が出るとはね」

「だよねだよね」

「もう高校の時とは別人だよね、もしかして、中の人が変わった?」

「中の人って何だよ、まあ俺もそれなりに苦労してきてるからな、

敵対する人間は少ない方がいいというのは、骨身にしみてる」

 

 その微妙に捻くれた言い方に、ゆっこと遥が反応した。

 

「そこはまだ打算が入るんだね」

「まあでもあんたらしくていいんじゃない?」

「全ての人と心から仲良くってのは俺には無理だからな、

それならせめて、普通の関係でいられれば、仲間を守る事も容易くなる、

そう思うようになっただけだ」

「はいはい、そうだね」

「これからも頑張んなよ、仲間の為に」

「ああ、もちろんだ。だからお前らも、困ったらいつでも俺を頼ってくれよ、

俺に助けられる事なら、甘やかさない範囲で助けるからな」

 

 突然そんな事を言われたゆっこと遥は、驚きのあまり固まった。

 

「ん、どうしたんだ?」

「あ、いや……えっと……」

「不意打ちすぎるでしょ……」

「何がだ?何かおかしな事を言ったか?っておい、どうしちまったんだよお前ら……」

 

 二人は目を潤ませており、八幡はそれを見て狼狽した。

 

「わ、悪い、また俺は、何かお前らを悲しませる事を言っちまったか?」

「もう、そんなんじゃないって」

「うんうん、仲間認定がちょっと嬉しかっただけだから、悲しいとかじゃないから」

「そ、そうか、それならいいんだが……」

 

 そんな三人を、葉山と香蓮が暖かい目で見つめていた。

 

 

 

「それじゃあ比企谷、戸部と相談して、早いうちに同窓会を企画するよ」

「悪いな、仕事を押し付ける事になっちまって」

「大丈夫、戸部に色々頑張ってもらうから」

 

 葉山は冗談めかしてそう言い、そんな葉山に八幡は言った。

 

「まああいつとは、明日会うんだけどな」

「そうなのか?じゃあ戸部にも宜しくな。今日は貴重な話を聞けて楽しかった、

本当にごちそうさま、またな、比企谷」

「うちらもありがとね、比企谷」

「ごちそうさま!」

「ああ、二人もまたな」

 

 そして三人と別れた後、八幡は香蓮を自宅へと送る事にした。

 

「そういえば今頃は、うちの学校の理事長が北海道で、

香蓮の親父さんと話をしている頃だな」

「えっ、そ、そうなの?」

「ああ、色々と仕事の話でな」

「理事長さんとは一度会ったけど、学校の理事長がどうしてうちとお仕事の話を?」

 

 そう香蓮に言われた八幡は、その疑問に納得し、こう説明した。

 

「ん、ああ、香蓮は知らなかったのか、うちの理事長な、雪ノ下建設の人なんだよ」

「あ、ああ~、そういう事だったんだ!」

「まああの人に任せておけば、交渉事はどんな事でも問題ないはずだ」

「そんなに凄い人なの?」

「まあそうだな、でもまあとりあえず、進捗状況を電話で尋ねてみるわ」

 

 そして八幡は北海道にいる朱乃に連絡を入れた。

 

「ああ、理事長ですか?は?おい、最初の言葉がそれかよ、寂しい訳ないだろうが!

で、小比類巻社長との話はどうですか?はぁ、はぁ、まあ当然ですよね、

何も心配はしてませんでしたよ、俺は理事長を信頼してますからね。

え?ご褒美?いつも優しくしてるじゃないですか、あれ以上どうしろと……

ああ、お土産ですか、何か気を遣わせてすみません、それじゃあええと、

ドラキュラの葡萄、ソフトカツゲン、リボンナポリンをお願いします、

調べて興味が沸いたので、どんな味なのか試してみたいんですよ。

無理なら何も無しでもいいですからね。って、今ファイヤの声が聞こえましたけど、

今そこにいるんですかね?もしそうならこう伝えて下さい、

『一時的に負担をかける事になってすまない、

政府からも頼まれているから、色々と落ち着いたら仕事の半分は受け持つから、

それまで頑張って耐えてくれ』って。

まあ皮肉ですけど、理事長そういうの得意ですよね?言い方とかはお任せしますから。

それじゃあ今から香蓮を家まで送っていくので、電話を切りますね、はい、また学校で」

 

 こうして理事長との電話を終え、八幡は香蓮に向き直った。

 

「どうやら話はまとまったみたいだ………って、香蓮?」

「は、八幡君、なまらかわいい………」

 

 香蓮がそう呟きながら、必死に笑いを堪えていた為、

八幡は恥ずかしさを覚えつつも、香蓮に尋ねた。

 

「な、何かおかしかったか?」

「お、お土産でその名前が出てくるなんて思わなかったから……」

「あ、そういう事か、香蓮にはありふれた物ばかりなのかもしれないが、

調べてみて興味が沸いたんだよ、べ、別にいいだろ」

「う、うん、別に悪くないよ、なまらかわいいって思っちゃっただけだから」

「そ、そうか」

 

 こうして食事会も終わり、明日はいよいよ合コンの日である。

八幡は、今日みたいに平和に終わればいいなと思いつつ、

何も問題が起こりませんようにと、神に祈るのだった。




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