「やぁ比企谷、噂は色々聞いてるよ、随分活躍してるみたいじゃないか」
「悪いな葉山、いきなり呼び出したりして」
「いや、別に問題ないよ、それにしても食事会なんて、比企谷らしくなくて少し驚いた」
「相談に乗ってもらうのに、手土産無しじゃ悪いと思ってな。
とはいえまあ、ついでだついで。飯を食わせないといけない奴等がいるから、
それに便乗して今日来てもらったって訳かな」
「なるほど、そこに俺を呼ぶって事は、他の参加者も俺の知り合いって事か」
「一人は違うけどな、さあこっちだ、テーブルに着いても驚かないでくれよ」
「ははっ、ご期待に沿えるかどうかは分からないけど、心の準備だけはしておくよ」
閣下と面会した次の日、八幡は、この機会についでに同窓会の事を相談しようと思い、
食事会の席に葉山を呼んでいた。これはまあ至極当然の事である。
何故なら同窓会を開こうにも、八幡が連絡先を知る同窓生の数など、たかがしれているのだ。
その数は十人程度しかおらず、八幡が頼りに出来るのは、葉山くらいのものなのだった。
そしてテーブルに案内された葉山は、さすがに心の準備をしていただけの事はあり、
そこにいた二人の顔を見ても、表面上は顔色一つ変えなかった。
「ええと、ゆっこさんに遥さん、お久しぶり」
「あ、葉山君、久しぶり!そして前回の同窓会の時は、
私達のせいで不快な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい」
「うん、あれは完全に私達が悪かったです、心の底から本当にごめんなさい」
いきなり二人にそう謝られた葉山は、さすがに驚きで顔色を変えた。
そして葉山は、口をぱくぱくさせながら、八幡に尋ねた。
「ええと………なぁ比企谷、一体何が?」
「いや、そう言われると俺も困っちまうんだが……
何かキッカケになるような事って、あったか?」
そう改めて言われた二人は、顔を見合わせると、腕を組んで考えこんだ。
「ハッキリ認識したのって、いつだっけ?」
「ええと……あ~、あれだよ、戦争の時!」
「あ、銃士Xちゃんの時だ!」
「ああ、あの時か」
「八幡君、戦争って?」
その時横から香蓮が八幡にそう尋ねてきた。
「ああ、香蓮も知らないのか、まあ説明する前に、とりあえず香蓮、
こちらは葉山隼人、俺の高校時代の同級生で、友達だ」
「葉山隼人です、宜しくお願いします、香蓮さん」
「私は小比類巻香蓮です、宜しくお願いします」
そして葉山が着席した所で、事前に注文していた料理が運ばれてきた。
「うわ、豪勢だね」
「まあ今日は祝勝会だからな」
「祝勝会?そんな所に俺が来ても良かったのかい?」
「ああ、よく分からなくて困っちまうと思うが、気にせず一緒に勝利を祝ってくれ」
「あはははは、うん、それじゃあ気兼ねなく便乗させてもらうよ」
そして食事をしながら、八幡はなるべく複雑にならないように、
葉山に事の次第を説明した。
「この前GGOっていうゲームで、殺人事件があっただろ?」
「ああ、あったね、って、まさかあれに関わってたのかい?」
「実はここにいる四人全員、あのゲームをやってたんだよ。
まあ香蓮が始めたのは事件の後だから、関係無いんだけどな」
「………比企谷なら分かるけど、二人もあのゲームを?」
「うん、これでもそこそこメジャーなプレイヤーになったんだよ」
「うちら結構頑張ったもんね」
「そうなのか、でも何でGGOを初めようと思ったんだい?」
「そういえば、それは俺も聞いた事が無かったな……」
そう問われた二人は、きまり悪そうにぼそぼそと、あの時の事を話し始めた。
「あ~……えっと、あの時はさ……」
「同窓会直後で、むしゃくしゃしてて、帰りにたまたまゲーム屋の前を通りかかって……」
「その、現実じゃ絶対無理だろうけど、銃で戦うゲームだったら、
例えばあんたみたいな人を倒す事も、ワンチャンあるかなって……」
「お金も稼げるみたいだったし、それじゃあやってみるか~って、その……ノリで?」
そう言われた八幡は、思わず噴き出した。
「ははっ、まじか、そんな理由だったのか、倒されてやれなくて悪かったな」
「う~、ごめんってば、もうそんな事まったく考えてないから」
「純粋に楽しんでるしね」
「いやいや、気にしないでくれって、あのゲームはそういった番狂わせが多いし、
その判断は的確だったと思うぞ。でも動機はそれか、くくっ、これは予想外だったわ」
「もう、からかわないでよ」
「今考えると私達、本当に馬鹿だったなって思ってるんだから!」
「悪い悪い、もう笑わないって」
そして八幡は、葉山に説明を続けた。
「で、あの事件の犯人にはめられて……まあここは推測だけどな、
俺とその仲間の悪い噂がゲーム内で蔓延させられてな、仲間が一人、拷問にあったんだよ」
「拷問!?それは穏やかじゃないな……」
「まあそれで死ぬ訳じゃないし、痛くもなんともないからそれはいいんだが、
さすがにそれで俺もカチンときてな、GGOの開発をしているザスカーにねじ込んで、
戦争イベントを発生させてもらって、ついでに自分達の正当性を、
声高に叫ばせてもらったんだよ」
「そ………それはまた派手な事を……」
葉山は呆れたようにそう言い、八幡は困った顔で言った。
「今思えばかなりやりすぎた感があるのは否定出来ん……」
「まあいいじゃない、丸く収まったんだし」
「そうそう、気にしない気にしない、戦力比にして二十五倍の敵に勝ったんだし」
「二十五倍!?」
香蓮はその言葉に驚いた。
「ああ、レンちゃんは知らなかったんだ、あの時の動画って結構存在するから、
今度機会があったら見てみるといいよ」
「うん、そうする!」
「まあそんな訳で、いくつかの戦いを経て、最終決戦の直前の戦いの時にな」
「うちらが遂に、シャナ……あ、シャナってのは、比企谷のゲームの中の名前ね」
「そのシャナを、狙撃するチャンスを掴んだの」
「で、一発逆転を狙って狙撃したんだけどね」
「そんなシャナを、銃士Xっていう女の子が、その身を犠牲にしてかばって、
その時うちらもシャナの逆襲にあって、倒されちゃったの」
「ほう……」
そう興味深げに言う葉山に、八幡が補足説明をした。
「あいつは何故か俺に好意を持っていてな、何とか俺の仲間になろうとして、
俺の窮地に格好良く登場しようと機会を伺ってたらしいんだが、
敵の幹部を倒して俺の所に来る途中に、その場面に遭遇して、
そのまま俺をかばって死んで、それで戦争からリタイアする事になっちまったんだ」
「あの子、街に戻ってから凄く泣いてたんだよ、私は良くやった、
シャナ様の前には立てなかったけど、でも凄く頑張ったって」
「そしたらそこに、比企谷が別キャラで現れたの」
「わざわざALOからキャラをコンバートさせてまでね」
「まああいつをそのまま放っておく事なんて出来なかったからな」
そんな八幡に、葉山は微笑みながら言った。
「それは、その銃士Xって子からすれば、とても嬉しかっただろうね」
「その時に、うちらも初めてシャナさんが比企谷だったって知ったの」
「そんな場面を見せられたら、もう比企谷の事、悪く言えないじゃない」
「なるほど、そんな事があったんだね」
葉山は一人頷き、香蓮は感動のあまり、目を潤ませていた。
「あ、ちなみにその直後の動画がこれ」
「比企谷がその子をお姫様抱っこして運んでいる途中で、
敵対する勢力の幹部に絡まれた時に、それを蹴散らした映像ね」
「そんなのがあるのか、どれ……」
「私も見たいです!」
突然そう言われ、八幡は狼狽した。
「べ、別に面白いものじゃないと思うが……」
「高い高~い!」
「!?」
突然ゆっこにそう言われ、八幡は思わず羞恥で顔を赤らめた。
「何の事だい?」
「見てれば分かるよ、葉山君」
そしてその場面が訪れ、レンは目を点にし、葉山は苦笑しながら八幡の肩を叩いた。
「比企谷は、その女の子を立派に守ったんだな」
「お、おう、フォローありがとな……」
「しかしこれ、何度見ても凄いよね、人がサッカーボールみたいに飛んでくなんて……」
そんなハルカの言葉に、八幡は淡々と言った。
「まあALOとGGOじゃ、リリース時期の関係で、そもそものステータスが違うからな」
「なるほど、だからこんなに強いんだね」
「まあそういう事だ」
そして動画を見終わった後、葉山は真面目な顔で八幡に言った。
「で、あの殺人事件に関わったって、どういう事だ?」
「実はあの事件で狙われた奴の中に、俺の仲間が一人いたんだよ、
それとは別に、このゆっこと遥の仲間が現実で殺されそうになってな」
「そ、そうなのか?」
「うん、その人ゼクシードさんって言うんだけど、大丈夫、比企谷に助けてもらったから」
「メディキュボイドってのの力でね」
「メディキュボイド……そうか、あれを使ったのか……」
「で、俺の仲間の方は、今まさに襲われそうになっていた所に乗り込んで、
無事助ける事に成功したんだよ、実行犯の少年Aってのがそいつの事だ」
「そうか、少年Aは、比企谷が捕まえたのか……」
「あいつも俺達の仲間だったはずなんだけどな、残念だよ……」
そんな八幡の手を、香蓮がきゅっと握った。
その顔はとても心配そうであり、八幡はそんな香蓮に笑顔で尋ねた。
「ん、どうした香蓮」
「その人を助ける為に仕方なかったんだろうとはいえ、あんまり危ない事はしないでね」
「ああ、ごめんな心配させて、気をつける」
そんな二人の姿を見て、葉山はゆっこと遥にそっと囁いた。
「なぁ、香蓮さんってもしかして……」
「うん、そういう事みたいだよ」
「相変わらず比企谷ってモテるよね」
「そうか、明日奈さんが悲しんでいなければいいんだが」
「あ、それは大丈夫っぽいよ、仲良しだって聞いた」
「あの子も大変だよね、比企谷の大奥を仕切らないといけないんだし」
「大奥か」
その言葉に葉山は苦笑しながら、再び八幡の肩を叩き、こう言った。
「比企谷、頑張れよ」
「ん?何がだ?」
「まあ色々だな」
「……お、おう、よく分からないが、頑張るわ」
そして暗い話はそこまでとなり、話は次の同窓会の話へと移った。
「なるほど、サプライズをね」
「おかしな派閥が出来ないように、俺達が仲直りして、
今は友達だって事を周知させたいってのもあるんだよな」
「そうだね、せっかくの同窓生なんだ、出来れば仲良くしたいしね」
「だな」
そう八幡が同意したのを見て、葉山は改めて、八幡の変化を感じた。
「まさか比企谷の口から、他人と仲良くなんて言葉が出るとはね」
「だよねだよね」
「もう高校の時とは別人だよね、もしかして、中の人が変わった?」
「中の人って何だよ、まあ俺もそれなりに苦労してきてるからな、
敵対する人間は少ない方がいいというのは、骨身にしみてる」
その微妙に捻くれた言い方に、ゆっこと遥が反応した。
「そこはまだ打算が入るんだね」
「まあでもあんたらしくていいんじゃない?」
「全ての人と心から仲良くってのは俺には無理だからな、
それならせめて、普通の関係でいられれば、仲間を守る事も容易くなる、
そう思うようになっただけだ」
「はいはい、そうだね」
「これからも頑張んなよ、仲間の為に」
「ああ、もちろんだ。だからお前らも、困ったらいつでも俺を頼ってくれよ、
俺に助けられる事なら、甘やかさない範囲で助けるからな」
突然そんな事を言われたゆっこと遥は、驚きのあまり固まった。
「ん、どうしたんだ?」
「あ、いや……えっと……」
「不意打ちすぎるでしょ……」
「何がだ?何かおかしな事を言ったか?っておい、どうしちまったんだよお前ら……」
二人は目を潤ませており、八幡はそれを見て狼狽した。
「わ、悪い、また俺は、何かお前らを悲しませる事を言っちまったか?」
「もう、そんなんじゃないって」
「うんうん、仲間認定がちょっと嬉しかっただけだから、悲しいとかじゃないから」
「そ、そうか、それならいいんだが……」
そんな三人を、葉山と香蓮が暖かい目で見つめていた。
「それじゃあ比企谷、戸部と相談して、早いうちに同窓会を企画するよ」
「悪いな、仕事を押し付ける事になっちまって」
「大丈夫、戸部に色々頑張ってもらうから」
葉山は冗談めかしてそう言い、そんな葉山に八幡は言った。
「まああいつとは、明日会うんだけどな」
「そうなのか?じゃあ戸部にも宜しくな。今日は貴重な話を聞けて楽しかった、
本当にごちそうさま、またな、比企谷」
「うちらもありがとね、比企谷」
「ごちそうさま!」
「ああ、二人もまたな」
そして三人と別れた後、八幡は香蓮を自宅へと送る事にした。
「そういえば今頃は、うちの学校の理事長が北海道で、
香蓮の親父さんと話をしている頃だな」
「えっ、そ、そうなの?」
「ああ、色々と仕事の話でな」
「理事長さんとは一度会ったけど、学校の理事長がどうしてうちとお仕事の話を?」
そう香蓮に言われた八幡は、その疑問に納得し、こう説明した。
「ん、ああ、香蓮は知らなかったのか、うちの理事長な、雪ノ下建設の人なんだよ」
「あ、ああ~、そういう事だったんだ!」
「まああの人に任せておけば、交渉事はどんな事でも問題ないはずだ」
「そんなに凄い人なの?」
「まあそうだな、でもまあとりあえず、進捗状況を電話で尋ねてみるわ」
そして八幡は北海道にいる朱乃に連絡を入れた。
「ああ、理事長ですか?は?おい、最初の言葉がそれかよ、寂しい訳ないだろうが!
で、小比類巻社長との話はどうですか?はぁ、はぁ、まあ当然ですよね、
何も心配はしてませんでしたよ、俺は理事長を信頼してますからね。
え?ご褒美?いつも優しくしてるじゃないですか、あれ以上どうしろと……
ああ、お土産ですか、何か気を遣わせてすみません、それじゃあええと、
ドラキュラの葡萄、ソフトカツゲン、リボンナポリンをお願いします、
調べて興味が沸いたので、どんな味なのか試してみたいんですよ。
無理なら何も無しでもいいですからね。って、今ファイヤの声が聞こえましたけど、
今そこにいるんですかね?もしそうならこう伝えて下さい、
『一時的に負担をかける事になってすまない、
政府からも頼まれているから、色々と落ち着いたら仕事の半分は受け持つから、
それまで頑張って耐えてくれ』って。
まあ皮肉ですけど、理事長そういうの得意ですよね?言い方とかはお任せしますから。
それじゃあ今から香蓮を家まで送っていくので、電話を切りますね、はい、また学校で」
こうして理事長との電話を終え、八幡は香蓮に向き直った。
「どうやら話はまとまったみたいだ………って、香蓮?」
「は、八幡君、なまらかわいい………」
香蓮がそう呟きながら、必死に笑いを堪えていた為、
八幡は恥ずかしさを覚えつつも、香蓮に尋ねた。
「な、何かおかしかったか?」
「お、お土産でその名前が出てくるなんて思わなかったから……」
「あ、そういう事か、香蓮にはありふれた物ばかりなのかもしれないが、
調べてみて興味が沸いたんだよ、べ、別にいいだろ」
「う、うん、別に悪くないよ、なまらかわいいって思っちゃっただけだから」
「そ、そうか」
こうして食事会も終わり、明日はいよいよ合コンの日である。
八幡は、今日みたいに平和に終わればいいなと思いつつ、
何も問題が起こりませんようにと、神に祈るのだった。
本日は12時にもう1話投稿しています、ご注意下さい!