ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第491話 何ですかその格好は

 その後、仲良く部屋を出た一行は、八幡と明日奈と優里奈はそのまま学校へ、

そして茉莉と志乃は、一旦家に着替えやら何やらを取りに戻り、

そのままソレイユへ向かう事となった。

 

「俺も学校が終わったら顔を出しますので、待ってて下さいね」

「うん、分かった」

「それじゃあ後でね、八幡君」

 

 そして学校に着くと、和人がニヤニヤしながら八幡に話しかけてきた。

 

「よぉ八幡、初めての合コンはどうだった?」

「それがな、明日奈が色々とやらかしてくれてな……」

 

 明日奈はその声が聞こえたのか、焦ったように八幡の口を塞いだ。

 

「な、何でもないよ和人君、ああ、合コン楽しかったなぁ」

「なるほど、明日奈があっさり記憶を無くしたのか」

「ど、どうして分かるの!?」

「いや、今八幡が、ハンドサインで教えてくれたからさ」

「なっ……」

 

 明日奈は愕然とした顔で八幡の方を見た。

八幡はくすくす笑いながら、昨日の出来事を和人に教えた。

 

「まじか、明日奈って酔うとそうなるのか」

「ち、違うの和人君、あれは私の巧妙な演技だったのかもしれないよ!」

「ふ~ん、八幡、演技だったのか?」

「俺にも明日奈の記憶がプッツンしてるなんて、まったく分からなかったのは確かだな」

「それくらい巧妙な演技だったんだよ、意識を失うくらいの!

って、もう、二人とも私の話をちゃんと聞いて!」

「はいはい、巧妙巧妙」

「だな、巧妙巧妙」

「うううぅぅぅぅぅ………」

 

 その時教室に、里香と珪子が入ってきた。

 

「おはよう」

「おはようございます!あっ、明日奈さん、合コンはどうでしたか?」

「うう……やっぱりその話になるよね、もういいや、好きに話しちゃって……」

「ど、どうしたのよ明日奈、八幡、何があったの?」

「おう、実はな……」

 

 里香と珪子にそう尋ねられ、八幡は二人にも昨日の事を説明した。

 

「あははははははは、もう明日奈は、ウーロン茶以外は禁止だね」

「も、もうちょっと強くなる予定だもん!」

「挑戦するのは構わないけど、八幡が一緒の時以外は飲むんじゃないわよ」

「もう、分かってるよぉ」

 

 そして昼休み、八幡の耳に、こんな校内放送が聞こえてきた。

 

『比企谷八幡君、比企谷八幡君、私があなたへのお土産を持って朝からお待ちかねよ、

さっさと理事長室に来て、私に死ぬほど感謝した上で、その気持ちを行動で示しなさい』

 

 八幡はその放送を聞いた瞬間に立ち上がった。

 

「くっそ、毎度の事ながら調子に乗りやがって……」

「あはははははははは、これはもうこの学校の名物だな」

「八幡、しっかりね!」

「八幡さん、頑張って下さい!」

「八幡君、屋上で待ってるね、今日は優里奈ちゃんがお弁当を持たせてくれたの」

「おっ、そうなのか、分かった、後で向かうから待っててくれ」

「うん!」

 

 この時八幡の耳には届かなかったが、こんな指令が、

他のクラスメート達の間で交わされていた。

 

「聞いたか?今日は屋上がシャットアウトだ、すぐに各クラスの代表に伝えろ」

 

 そして他のクラスメート達からも、八幡に熱い声援が送られてきた。

 

「参謀、ファイトです!」

「理事長だけじゃなく、私にも優しくして下さい!」

「八幡様、頑張って下さい!」

 

 そして八幡は、理事長室へと向かって歩き出した。

道中でも沢山の声が八幡に届けられ、八幡は気合を入れつつ理事長室のドアをノックした。

 

「あら、もしかして八幡君?」

「はい、呼び出しを受けて参上しました」

「早かったわね、どうぞ、入って頂戴」

「それじゃあ遠慮なく入ります」

 

 そして八幡はドアを開け、中に突入すると、

先ほどの放送について、苦情を述べようとした。

 

「だからあんたはどうしてああいう放送を………って、何ですかその格好!?」

「あら、八幡君は、これが何の格好か分からないの?」

「そんな露出の激しい格好の事なんか分か…………ん、あれ、

もしかしてそれって、ALOのチュ-トリアルNPCですか?」

「正解よ、どう?似合うかしら」

 

 理事長はしなを作ってポーズをとりながら、八幡にそう尋ねてきた。

そして八幡は苦渋に満ちた表情で、ぶつぶつと呟き始めた。

 

「理事長の年齢だと似合うはずがないのに、似合うはずがないのに……

うちの母さんよりも年上なのに、くそっ、くそっ……」 

「で?」

「に、似合ってます……」

 

 その言葉が投げかけられた瞬間、理事長の顔は、花のようにほころんだ。

 

「そう、私もまだまだ捨てたもんじゃないという事ね、どう?興奮しちゃった?」

「そういう事言うなよ!あんたはいつ衰えるんだよ!」

「八幡君が、いつも私を女扱いして優しくしてくれるから、衰えてる暇が無いのよ」

「あああああああああ、だからあんたはたちが悪いんだよ!

いつも優しくしてますって言った手前、おかしな事は言えないじゃないかよ!」

「嫌ねぇ、ありのままに思った事を言ってくれてもいいのよ?」

「…………とりあえずお土産をもらいます、どうもありがとうございます」

 

 ここで八幡は、問いかけに対して黙秘する戦法に出た。

 

「そうね、それじゃあはい、これ」

 

 そう言って理事長は、懐から何かを取り出し、八幡に渡した。

 

「ん、何ですかこれ……って、うわああああああ!」

 

 八幡は、そのお土産といって手渡された、生暖かい布のような物を、

一体何だろうと思って開いてみた。それは所謂ブラジャーと呼ばれる物体であり、

八幡は、焦ってそれを手放そうとした。

そんな八幡の手を、いつの間に近くに来ていたのだろう、

理事長がブラジャーごとそっと握り、八幡の耳元でこう囁いた。

 

「あら駄目じゃない、せっかく北海道で買って、ついさっきまで私が付けておいたのに」

「何だよそれ、意味が分からね~よ、ってか誰も頼んでねえよ!」

「相手の言葉の裏が読めない女は二流なのよ」

「心の中でも思った事はねえよ、人の言葉の裏を捏造すんな!」

 

 そうエキサイトする八幡に、理事長は自愛のこもった笑顔を見せた。

 

「はいはい落ち着いて落ち着いて、もちろん頼まれた物は買ってあるわよ、

ここで別にこれを渡した事には、理由があるの」

「一応聞いてあげますけど、その理由とは?」

「これは私の心臓から一番近い所に付けていた物じゃない、

要するにこのぬくもりが、私のあなたに対する情熱の温度なのよ」

「だから意味が分かんねえよ!いいからさっさと土産をよこせ!」

「もう、照れなくてもいいのよ?

せっかく北海道でも、小比類巻社長にライバル宣言をしてきたのだし」

 

 突然理事長が、そうおかしな事を言い出した為、

八幡は首を傾げながら理事長にこう尋ねた。

 

「はい?ライバル宣言?何のですか?」

「香蓮ちゃんには負けないわよって宣言に決まってるじゃない、

八幡君とこうしていちゃいちゃする権利は他人には渡さないわ!」

「俺がいつあんたといちゃいちゃしたんだよ、そんな事一度もした事無えよ!」

「どこからどう見ても、今まさにいちゃいちゃしてるように見えるんだが」

「えっ?」

 

 突然横からそう声がかけられ、八幡は慌ててそちらを見た。

そこには何と、閣下がソファーに腰掛け、ニヤニヤしながらこちらを見ており、

八幡は頭にのぼった血が一気に下がるの感じた。

 

「か、閣下!?いつからここに?っと、こ、こんにちは」

「おう、こんにちはだな、まあ実は、最初からいたんだがな」

「そうなんですか?すみません、全然気がつきませんでした……」

「まああんな衝撃的な姿を見せられたら、他の奴は目に入らなくて当然だな、

俺ですら、目の毒だと感じたしな」

 

 その言葉を聞きとがめたのか、理事長がその言葉をこう訂正した。

 

「目の毒じゃありませんわ、眼福でしょう?」

「ははははは、そうですな、眼福でしたな」

「で、閣下は何故ここに?」

 

 そう問われた嘉納は、八幡に事の次第を説明し始めた。

 

「いやな、ソレイユからもらった資料に、

キットは元は雪ノ下さんの持ち物だったって書いてあったから、

どこを改造し、何が苦労したのかとか、色々と聞いておこうと思って、

仕事から逃げ……ああいや、仕事の合間を縫って、こうして話を聞きにきたって訳だ。

で、比企谷君にも会いたいなって言ったら雪ノ下さんが、

『それじゃあ直ぐにここに来てもらいますわ』って言って出ていって、即あの放送だろ?

それでわくわくしながらどうなるのか見てた訳なんだが、

まさかこういう展開になるとは、いやぁ、興味深い物を見せてもらった」

「仕事から逃げてきたって言いかけた事は聞かなかった事にしておきますね、

ところでもしかして理事長は、閣下が来た時からこの格好だったんですか?」

「いや、放送室に行った後にこの格好で戻って来たんだよ、

それで俺もびっくりしちまってな、理由を聞いたら、

『この方が八幡君が喜びますのよ』ってな」

「別に喜んではいねえよ!?ってかあんたそんな理由でその格好になったのかよ!」

 

 八幡は、嘉納がいるにも関わらず、そう絶叫した。

 

「違うわよ、陽乃から聞いてないの?

コミケのソレイユのブースに、私もこのコスプレで参加するのよ?」

「…………………………………………………………………………………は?」

 

 八幡は、たっぷり三十秒ほど開けた後、何とかそう言った。

 

「だってソレイユのブースには、香蓮ちゃんもコスプレをして参加するんでしょう?

だったらライバルである私も、それなりの格好をして参加しないと勝負出来ないじゃない」

「何の勝負をするつもりだよ!」

「お客さんからの人気勝負?」

「何でそんな事をする必要があるんだよ!」

「だって香蓮ちゃん、自分に自信が無いんでしょう?小比類巻社長が言ってたわよ?

そのせいで、地元から逃げ出すように東京の学校に行ったって。

だったら自信を付けさせてあげるのが、先達としての努めでしょう?」

 

 その言葉は確かに八幡の胸に響いた。そして八幡は、悔しそうに理事長に言った。

 

「こ、これだからあんたは……」

「どう?参った?」

「はいはい参りました、今日も俺の負けですよ」

「ふふっ、負けを素直に認められるのは、八幡君のいい所ね」

「くそっ、いつか絶対に勝ってやる」

 

 そんな二人を見て、嘉納は感心した顔で言った。

 

「何となくしか事情は分かりませんが、雪ノ下さんは相変わらずですな」

「あら、私も変わりましたのよ、今はこの子にどう使われてあげようかと、

そればかり考えるようになりましたわ」

「なるほど、それは若返りますな」

「ええ、彼から若いエキスをたっぷり頂いてますからね」

「ははっ、それは羨ましいですな、私の立場だと、

そんな事は例え冗談でも言えませんからね」

「閣下もこの人をあまり甘やかさないで下さい、褒めるとつけ上がるんで」

 

 八幡は渋い顔でそう言ったのだが、理事長はそれにこう反論した。

 

「あら、部下を褒めて気持ちよく働かせるのもあなたの努めなのじゃないかしら」

「理事長はまだ俺の部下じゃありません、なので褒めるのはずっと先でいいはずです」

「あら、これは一本取られたわね」

「まあ、これくらいは」

「まあいいわ、それじゃあはいこれ、頼まれていたお土産よ」

「あ、ありがとうございます」

 

 理事長はそう言って、中サイズのクーラーボックスを、八幡に手渡してきた。

中を確認すると、確かに頼んだ物が全て入っており、八幡はここでやっと、顔を綻ばせた。

 

「探すの、大変じゃありませんでしたか?」

「いいえ、全然大変じゃなかったわよ、

それにしても八幡君は、随分庶民的なお土産を頼むのねぇ、

ほとんど街のスーパーに売ってたわよ」

「こういうのが好きなんですよ、それじゃあ理事長、ありがとうございました、

俺は屋上に明日奈達を待たせてるんで、そっちで昼食をとりますね」

「あ、ちょっと待ってくれ、比企谷君」

「あ、はい」

 

 そこで嘉納が、八幡に声をかけてきた。

八幡は何だろうと思ったが、次の嘉納の発言は、八幡にとっては意外なものだった。

 

「比企谷君は、桐ヶ谷君と仲がいいだろう?

もし良かったら、俺に会わせてくれねえかな」

「和人にですか?屋上に一緒にいると思いますから、それは構いませんけど、

何か大事な話でもあるんですか?」

「嫌な、先日比企谷君にもお礼を言ったが、ほら、あの大会の件で、

桐ヶ谷君にも是非お礼が言いたくてな、せっかくここまで来たんだし、

そっちの用事も一緒に済ませちまいたいと思ってな」

 

 八幡はその答えに納得した。

 

「そういう事ですか、別に構いませんけど、理事長との話はもういいんですか?」

「おう、朝から来てたからな、欲しい情報は、もう全部教えてもらったよ」

「朝からですか……まあほどほどにして下さいね」

「なぁに、何かあったらすぐに連絡するように言っておいたから、大丈夫だ。

なべて世は事もなしってやつだな」

「それじゃあ案内しますね、理事長、お土産、本当にありがとうございました」

「どういたしまして」

「それじゃあ雪ノ下さん、今日はありがとうございました」

「はい、嘉納さんもお体にはお気をつけて」

 

 そして八幡は、嘉納と一緒に部屋を出たのだが、

ドアを閉めて少し歩いた後、嘉納が八幡にこう言った。

 

「比企谷君も、あの人の相手をするのに苦労してるみたいだな」

「そうですね、あの人は本当に、もう少し年相応に老けてくれればいいんですが、

まったくそんな気配が見えないから、こっちも余計に困るんですよね、

ってか閣下も、理事長には丁寧な対応をとるんですね、少し驚きました」

「あの人は二十以上も年下だけど、何か頭が上がらないんだよな、

あの人、怖かったしな、でも今日久しぶりに会ってみたけど、随分印象が変わってたなぁ」

「そうですね、俺もSAOに囚われる前と後で、百八十度印象が違います。

でもまあ今の方が、親しみやすくて助かりますけどね」

「ははっ、違いない」

 

 そして八幡と嘉納は、屋上へと続く階段を上り、扉を開けた。

そこには明日奈達以外誰もおらず、嘉納は驚いた顔で、八幡にこう尋ねた。

 

「……昼休みの学校の屋上ってのは、もっと人がいるもんじゃないのか?」

「それなんですけど、どうも俺達がいるという情報が伝わると、

他の奴らが勝手に遠慮して、最初から他の場所に向かうみたいなんですよ」

「なるほどなぁ、まあ今日は助かるけどな」

「ですね」

 

 そして二人が近づいてくるのを見て、明日奈が八幡に手を振ってきた。

 

「あっ、八幡く~ん!って、ええと、こんにちは」

「ん?あら?こんにちは!」

「こんにちは!」

「ど、ども」

 

 他の三人もそう挨拶し、嘉納はにこやかにこう挨拶を返した。

 

「おう、こんにちは、こういう時に挨拶がちゃんと出来るって事は、

雪ノ下さんの教育がいいって事だな」

「えっと、八幡君、こちらの方は?」

「ん、お嬢ちゃんは、昨日俺と会ってるよな?」

「あ、す、すみません、実は私、昨日はすぐに酔ってしまって、

昨日あった事ってあまり覚えていないんです……」

 

 明日奈のその言葉に、嘉納はがははと笑った。

 

「そうかそうか、まあ程ほどにな、それじゃあとりあえず自己紹介といくか、

俺は嘉納太郎、一応この国の、防衛大臣なんてものをやらせてもらっている」

「か、嘉納大臣ですか?あ、テレビで見た事あるかも……

私は結城明日奈です、宜しくお願いします!」

「き、桐ヶ谷和人です」

「私は篠崎里香です」

「綾野珪子です、初めまして!」

 

 他の三人も釣られて自己紹介をし、嘉納は改まった態度でこう言った。

 

「SAO事件の時は、私達政府が何も役にたてなくてすまなかったね、

みんなよく帰ってきてくれた、心から嬉しく思う」

「いえ、そんな」

「迅速に俺達の体を保護してもらいましたし、感謝しかありませんよ」

「そうですよ、その事には凄く感謝してるんです!」

「その後もこんな学校まで建ててもらったしな」

「ですです、こちらこそありがとうございます!」

 

 そう言われた嘉納は嬉しそうに頷くと、和人に向かって言った。

 

「それでだ、今日ここに来たのは、君に会いたかったからなんだよ、キリト君」

「和人としての俺じゃなく、キリトにですか?」

「ああそうだ、その前に俺も改めて自己紹介させてもらうよ、

俺の名はスネークだ、どうだ?覚えてるか?」

「スネーク……?あっ、まさか、BoBに参加してた、あの?」

「おう、その通りだ、で、今日は君にお礼を言う為にここに寄ったって訳だ」

「お礼……ですか?」

「ああ、俺の目の前で起こっちまった殺人事件を、

比企谷君と協力して解決してくれただろ?今日はそのお礼に来たって訳だ」

「そういう事ですか……あれは菊岡さんに頼まれてバイトをしたつもりでしたし、

俺自身は特に危ない目にはあってないんで気にしないで下さい、

本当に汗をかいたのは、八幡の方ですから」

「もちろん比企谷君にもお礼は言ったさ、でも君が最後、時間を稼いでくれたから、

犠牲者の数を減らせたと、俺はそう思っているよ。本当にありがとな、キリト君」

「あ、その、は、はい」

 

 和人は嘉納にそう頭を下げられ、困りながらも素直にそう言った。

 

「さて、そろそろ俺は行くよ、俺も腹が減っちまったんでな」

「あ、それなら大臣、良かったら一緒にここでお昼にしませんか?

今日は優里奈ちゃん……ええと、友達がお弁当を持たせてくれたんですけど、

ちょっと量が多くて、どう考えても残っちゃいそうなんですよ、

この季節ですし、持って帰って悪くなっちゃうと困るんで、

助けると思って是非ご一緒して下さい」

 

 さすがにそう言われると、嘉納に断るという選択肢は無かったようだ。

 

「お、そうなのか?それじゃあ遠慮なく」

「はい、どうぞ!八幡君も早く食べてね」

「おう、それじゃあ頂くわ」

 

 こうして六人は、楽しく会話をしながら昼食をとった。

嘉納はこういった食事は久しぶりだったらしく、とても楽しそうにしており、

その態度もえらぶった所もなく、想像以上に話も分かる人だった為、

そんな嘉納に、八幡以外の者達も皆、好感を持ったようだ。

 

 

 

「それじゃあもし機会があったらまたな」

「はい、またです」

「お仕事頑張って下さい!」

「ははっ、君達も勉強を頑張って、将来この国をしょって立つ大人になってくれよ」

「そういうのは八幡に任せてます!」

「そうかそうか、責任重大だな、八幡君、がっはっは!」

 

 こうして嘉納は去っていき、五人は授業の時間に遅れないように教室へと戻った。

 

「面白い人だったね」

「そうだな」

「でも大臣が何故うちの学校に?」

「実はな、キットの二号機が欲しいらしくて、理事長に色々話を聞きにきてたらしい」

「えっ、キットの二号機を?それって凄く高くなるんじゃ……」

「いや、まあガルウィングにはしないし、防弾仕様にするくらいだから、

ああ、でもやっぱりそれなりにはかかるな、元々高い車ではあるしな」

「うわ、お金持ちだねぇ」

「まああの人の夢だったらしいから、その夢にふさわしい車をプレゼントするさ」

 

 八幡は、嘉納の乗った車が遠ざかっていくのを見ながらそう言った。

嘉納は窓からこちらに手を振ってくれ、五人は授業が始まるまで、

いつまでも嘉納の乗る車に向かって手を振り返していたのだった。


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