「次はお金がかからない所に入ってくれればいいんだけど……」
「あ、詩乃が何か指差してる」
「あれってゲーセン……?」
そして次に二人が入ったのはゲーセンだった。
「そういえばこういうゲーセンって全然来てなかったかも」
「詩乃も多分そうだよね」
「これって詩乃が興味本位でフェイリスさんを連れ込んだみたいな?」
「確かにフェイリスさんを、質問攻めにしてるねぇ」
「あ、見て、何か銃で撃つゲームに興味津々みたい」
「ガンシューティングって奴だっけ」
三人が見守る中、詩乃は銃を手に持ち狙撃体制をとった。
「さすが様になってるわねぇ……」
「あ、プレイするみたい」
フェイリスも同じく銃を手に持ち、そのまま筐体にコインを入れた。
「どれどれ……」
「うわ、気持ち悪いくらい動きがスムーズなんだけど……」
「どう見ても女子高生の動きじゃないよね……」
「フェイリスさんも、付いていくのが精一杯って感じ」
「狙いが正確な上に、行動が的確すぎる……」
そして二人はとんでもない高得点を叩きだし、ハイタッチをした。
「普通に楽しそうだね……」
「私達、何やってるんだろ……」
「今思えば、最初から混ぜてもらえば良かったね……」
「偶然って事にして、今から声をかけてもいいんじゃない?」
「それはありかも」
「ちょっと待って、知り合いがいたっぽい」
その言葉通り、プライズコーナーに差し掛かった時、
詩乃とフェイリスは一瞬驚いた顔をした後、とある筐体の所で五百円玉を積み重ね、
悪戦苦闘している女性に声をかけた。
「紅莉栖さん?」
「クーニャン?」
「あら、珍しい組み合わせね、今日はどうしたの?」
「それはこっちのセリフニャ、そんなに五百円玉を積み重ねて、
何か欲しいものでもあるのかニャ?」
「うん、どうしてもこれが欲しいの」
そう言って紅莉栖が指差したのは、ヽ(*゚д゚)ノと顔に書かれたぬいぐるみだった。
「カイバー……」
「なっ、何でその呼び方を……私オリジナルな呼び方なのに!」
詩乃は勉強会の時の事を思い出し、思わずそう口にしたのだが、
どうやら紅莉栖は、そのぬいぐるみに、カイバーという名前を付けていたようだ。
「前の勉強会の時、ノートに書いてたから……」
「何ですと!?」
「えっと、『ヽ(*゚д゚)ノ<カイバー!』って」
「そういえばそうだった気もする……またネラーバレしてしまった……」
紅莉栖はそう言って、その場に崩れ落ちた。そんな紅莉栖に詩乃が言った。
「でもそれって、そんなに気にする事なのかな?」
「えっ?」
「ネラーって、確実に五百万人以上いるんでしょ?
って事は、例えば街を歩いてる人の二十人に一人はネラーなんじゃない?」
「そ、そう言われると確かに……」
「そんなのありふれた比率でしかないわ、むしろGGOをやっているプレイヤーの数の方が、
よほどレアって事になるんじゃない?」
「うん」
「だから紅莉栖さんが、そこまで気にする必要は無いと思う」
「そ、そうかな?」
「そうニャ、クーニャンは色々気にしすぎニャ」
「そっか、うん、確かにそうよね、それじゃあ気を取り直して、
私、絶対にカイバー君を手に入れてみせるわ!」
「その意気よ!」
「クーニャンファイトニャ!」
それからの紅莉栖は一味違った。他人の目を気にしなくなった事により、
こそこそと焦ってアームを動かす事が無くなった紅莉栖は、
持ち前の頭の回転の速さにものをいわせ、堅実にカイバー君を寄せていき、
ついにカイバー君を手に入れる事に成功したのだ。
「ついにカイバー君を手に入れたぞ!」
「入れたぞ!」
「入れたのニャ!」
そう雄たけびを上げた三人に、周りの観客達が拍手をし、
それで恥ずかしくなったのか、三人はペコペコと頭を下げながら、
自販機の横にあるソファーに腰かけた。
それを見ていたABCの三人は、こう囁きあっていた。
「何、今の一連の流れ……」
「えっと、知り合いがネラーでぬいぐるみがネラー?」
「そして私もネラーです」
「えっ?椎奈もそうなの?」
「ふっふっふ、私は『ヴァルハラ・リゾート・ファンクラブ』というスレッドの住人なのだ」
そうドヤ顔で言う椎奈に、美衣がこう言った。
「えっと、ALOをプレイしてないのに、何の為にそのスレッドを見てるの?」
「そのスレ、たまに動画やSSがあがるから、
それで八幡さん達の活躍を見てニマニマするとか?」
「ああ、それなら理解出来る」
「でしょ?」
「二人とも、今はそんな話をしてる場合じゃないわよ、
それよりももっと重要なセリフが聞こえなかった?」
「重要な?何て?」
「ああ~、勉強会?」
「そう、詩乃はさっき確かに、勉強会って言ったわ」
「繋がった!」
「でもまだ情報が足りないわ、筐体の影に隠れながら移動よ」
「「了解」」
三人は、そのまま自販機の方へと進んでいった。
そして首尾よく死角に入り込み、そこで耳を澄ませた。
「はぁ、楽しかった」
「取れて良かったね」
「私一人じゃ絶対無理だったかも、二人とも、ありがとう」
「紅莉栖さんにはいつも勉強を教えてもらってるし、こういう時くらいはお返ししないと」
「さて、クーニャンはこれからどうするのニャ?」
「私はラボに戻るつもりだけど……」
「ラボに?でもあそこ、暑くないかニャ?」
フェイリスにそう言われた紅莉栖は、ニヤリとしながら言った。
「ううん、実は先日、ついにクーラーが入ったのよ」
「にゃにゃっ!?にゃんと!」
「まあある意味八幡のおかげというか、岡部と橋田が、
ソレイユでのバイト代を出し合って買ったのよ」
「さすがのキョーマもこのところの暑さには音を上げたのニャ?」
「それもあるけど、クーラーなんかいらないと、一歩も譲ろうとしない岡部相手に、
困った顔をしていた橋田を見て、八幡が一言言ってくれたのが効いたのかも」
「八幡は何て?」
「『マッドサイエンティストがクーラーごとき支配下に置けなくてどうするよ』だって」
そう言われたフェイリスは、ぷっと噴き出した。
「その時のキョーマの反応が目に見えるようだニャ」
「まあお金に余裕が出たのが一番大きかったと思うけどね」
「何にせよ、良かったのニャ」
「ねぇ、ラボって何をしている所なの?」
その時詩乃が、興味深そう尋ねてきた。
「役にたたない発明品を開発している場所ね」
「役にたたないの!?」
「まあ趣味みたいなものだからね。でもそれでいて、実は技術力はかなりあるのよね」
「要するにアイデアが悪い?」
「ふふっ、そうかもしれないわね、もし良かったら、これから行ってみる?」
「い、いいの?興味もあるし、それじゃあ行ってみようかな」
「それならフェイリスも行くニャ」
「それじゃあみんなで行きましょうか」
詩乃達が、そう言って去っていこうとしたのを見て、ABCはかなり慌てた。
「今の会話だと、やっぱりあの紅莉栖さんって人が、詩乃の先生なんだ」
「でも随分若そうじゃない?それにあの制服、どこかで見たような」
「菖蒲院女子学園の制服じゃない?少しデザインをいじってるようにも見えるけど」
「あ、それだそれ、って事は、私達と同じくらいの歳なのかな?」
「あっ、行っちゃうよ、ど、どうする?」
「ラボって所に向かうつもりみたいだけど、さすがにそこまでは侵入出来ないよね」
「もうこうなったら、ここで声をかけて、一緒に連れてってもらうしか!」
「それしかないね、よし、行こう!」
そして三人は立ち上がり、偶然を装い、詩乃に声をかけた。
「あ、あれ?詩乃?」
「うわ、偶然だね」
「フェイリスさん、久しぶり!」
「三人とも、久しぶりニャ!」
「え?あ、あれ?三人ともこんな所でどうしたの?」
「ちょっと新しいパソコンが欲しいなって思って見にきたついでに、
街をぶらぶらしてて、で、休憩がてらここに入った感じかな」
椎奈が機転をきかせ、そう言って上手く誤魔化した。
「あ、そうだったんだ、紅莉栖さん、
こちらは映子、美衣、椎奈、私のクラスメートで親友だよ」
「そうなのね、初めまして、私は牧瀬紅莉栖、宜しくね」
「昼岡映子です、こちらこそ宜しくです」
「夕雲美衣だよ、宜しくね」
「夜野椎奈です、ねぇ牧瀬さん、それって菖蒲院女子学園の制服だよね?」
椎奈にそう問われ、紅莉栖は頷きながら言った。
「よく知ってるわね、前に二週間だけ留学してた事があったから、
その時買ったんだけど、デザインが気に入ったから改造してそのまま着てるのよ」
「え?り、留学?」
「どういう事?」
きょとんとする三人に、詩乃がこう解説した。
「紅莉栖さんは私達と同い年だけど、
飛び級で今はアメリカのヴィクトル・コンドリア大学院で研究員をしてるのよ」
「ええっ!?」
「だ、大学院生!?」
「凄い!」
そのまましばらく雑談をしていた六人だったが、
さすがにここで長く話をするのはまずいと思ったのだろう、フェイリスがこう提案してきた。
「私達、これからラボって所に向かうところだったんだけど、
良かったらみんなでこのままラボに行って、休憩がてらお話を続けないかニャ?」
その提案に乗る事になり、六人はラボを目指した。
「こんなに近いんだ」
「怪しい……」
「ふふっ、確かに怪しいビルよね、それじゃあこっちよ」
階段を上り、最初のドアを紅莉栖はノックした。
「誰かいる?」
「牧瀬氏?ドアは開いてるお」
「紅莉栖ちゃん?」
「橋田にまゆり?それじゃ入るわよ」
紅莉栖はそのままドアを開け、中に入った。
そして女子高生がぞろぞろと中に入ってきたのを見て、まゆりは喜び、
ダルは激しく狼狽し、その目は点になった。
実はもうコミケ編に入っている事に、誰も気づいてはいまい!フゥーハハハ!