ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第494話 ぐ、偶然だね

「次はお金がかからない所に入ってくれればいいんだけど……」

「あ、詩乃が何か指差してる」

「あれってゲーセン……?」

 

 そして次に二人が入ったのはゲーセンだった。

 

「そういえばこういうゲーセンって全然来てなかったかも」

「詩乃も多分そうだよね」

「これって詩乃が興味本位でフェイリスさんを連れ込んだみたいな?」

「確かにフェイリスさんを、質問攻めにしてるねぇ」

「あ、見て、何か銃で撃つゲームに興味津々みたい」

「ガンシューティングって奴だっけ」

 

 三人が見守る中、詩乃は銃を手に持ち狙撃体制をとった。

 

「さすが様になってるわねぇ……」

「あ、プレイするみたい」

 

 フェイリスも同じく銃を手に持ち、そのまま筐体にコインを入れた。

 

「どれどれ……」

「うわ、気持ち悪いくらい動きがスムーズなんだけど……」

「どう見ても女子高生の動きじゃないよね……」

「フェイリスさんも、付いていくのが精一杯って感じ」

「狙いが正確な上に、行動が的確すぎる……」

 

 そして二人はとんでもない高得点を叩きだし、ハイタッチをした。

 

「普通に楽しそうだね……」

「私達、何やってるんだろ……」

「今思えば、最初から混ぜてもらえば良かったね……」

「偶然って事にして、今から声をかけてもいいんじゃない?」

「それはありかも」

「ちょっと待って、知り合いがいたっぽい」

 

 その言葉通り、プライズコーナーに差し掛かった時、

詩乃とフェイリスは一瞬驚いた顔をした後、とある筐体の所で五百円玉を積み重ね、

悪戦苦闘している女性に声をかけた。

 

「紅莉栖さん?」

「クーニャン?」

「あら、珍しい組み合わせね、今日はどうしたの?」

「それはこっちのセリフニャ、そんなに五百円玉を積み重ねて、

何か欲しいものでもあるのかニャ?」

「うん、どうしてもこれが欲しいの」

 

 そう言って紅莉栖が指差したのは、ヽ(*゚д゚)ノと顔に書かれたぬいぐるみだった。

 

「カイバー……」

「なっ、何でその呼び方を……私オリジナルな呼び方なのに!」

 

 詩乃は勉強会の時の事を思い出し、思わずそう口にしたのだが、

どうやら紅莉栖は、そのぬいぐるみに、カイバーという名前を付けていたようだ。

 

「前の勉強会の時、ノートに書いてたから……」

「何ですと!?」

「えっと、『ヽ(*゚д゚)ノ<カイバー!』って」

「そういえばそうだった気もする……またネラーバレしてしまった……」

 

 紅莉栖はそう言って、その場に崩れ落ちた。そんな紅莉栖に詩乃が言った。

 

「でもそれって、そんなに気にする事なのかな?」

「えっ?」

「ネラーって、確実に五百万人以上いるんでしょ?

って事は、例えば街を歩いてる人の二十人に一人はネラーなんじゃない?」

「そ、そう言われると確かに……」

「そんなのありふれた比率でしかないわ、むしろGGOをやっているプレイヤーの数の方が、

よほどレアって事になるんじゃない?」

「うん」

「だから紅莉栖さんが、そこまで気にする必要は無いと思う」

「そ、そうかな?」

「そうニャ、クーニャンは色々気にしすぎニャ」

「そっか、うん、確かにそうよね、それじゃあ気を取り直して、

私、絶対にカイバー君を手に入れてみせるわ!」

「その意気よ!」

「クーニャンファイトニャ!」

 

 それからの紅莉栖は一味違った。他人の目を気にしなくなった事により、

こそこそと焦ってアームを動かす事が無くなった紅莉栖は、

持ち前の頭の回転の速さにものをいわせ、堅実にカイバー君を寄せていき、

ついにカイバー君を手に入れる事に成功したのだ。

 

「ついにカイバー君を手に入れたぞ!」

「入れたぞ!」

「入れたのニャ!」

 

 そう雄たけびを上げた三人に、周りの観客達が拍手をし、

それで恥ずかしくなったのか、三人はペコペコと頭を下げながら、

自販機の横にあるソファーに腰かけた。

それを見ていたABCの三人は、こう囁きあっていた。

 

「何、今の一連の流れ……」

「えっと、知り合いがネラーでぬいぐるみがネラー?」

「そして私もネラーです」

「えっ?椎奈もそうなの?」

「ふっふっふ、私は『ヴァルハラ・リゾート・ファンクラブ』というスレッドの住人なのだ」

 

 そうドヤ顔で言う椎奈に、美衣がこう言った。

 

「えっと、ALOをプレイしてないのに、何の為にそのスレッドを見てるの?」

「そのスレ、たまに動画やSSがあがるから、

それで八幡さん達の活躍を見てニマニマするとか?」

「ああ、それなら理解出来る」

「でしょ?」

「二人とも、今はそんな話をしてる場合じゃないわよ、

それよりももっと重要なセリフが聞こえなかった?」

「重要な?何て?」

「ああ~、勉強会?」

「そう、詩乃はさっき確かに、勉強会って言ったわ」

「繋がった!」

「でもまだ情報が足りないわ、筐体の影に隠れながら移動よ」

「「了解」」

 

 三人は、そのまま自販機の方へと進んでいった。

そして首尾よく死角に入り込み、そこで耳を澄ませた。

 

「はぁ、楽しかった」

「取れて良かったね」

「私一人じゃ絶対無理だったかも、二人とも、ありがとう」

「紅莉栖さんにはいつも勉強を教えてもらってるし、こういう時くらいはお返ししないと」

「さて、クーニャンはこれからどうするのニャ?」

「私はラボに戻るつもりだけど……」

「ラボに?でもあそこ、暑くないかニャ?」

 

 フェイリスにそう言われた紅莉栖は、ニヤリとしながら言った。

 

「ううん、実は先日、ついにクーラーが入ったのよ」

「にゃにゃっ!?にゃんと!」

「まあある意味八幡のおかげというか、岡部と橋田が、

ソレイユでのバイト代を出し合って買ったのよ」

「さすがのキョーマもこのところの暑さには音を上げたのニャ?」

「それもあるけど、クーラーなんかいらないと、一歩も譲ろうとしない岡部相手に、

困った顔をしていた橋田を見て、八幡が一言言ってくれたのが効いたのかも」

「八幡は何て?」

「『マッドサイエンティストがクーラーごとき支配下に置けなくてどうするよ』だって」

 

 そう言われたフェイリスは、ぷっと噴き出した。

 

「その時のキョーマの反応が目に見えるようだニャ」

「まあお金に余裕が出たのが一番大きかったと思うけどね」

「何にせよ、良かったのニャ」

「ねぇ、ラボって何をしている所なの?」

 

 その時詩乃が、興味深そう尋ねてきた。

 

「役にたたない発明品を開発している場所ね」

「役にたたないの!?」

「まあ趣味みたいなものだからね。でもそれでいて、実は技術力はかなりあるのよね」

「要するにアイデアが悪い?」

「ふふっ、そうかもしれないわね、もし良かったら、これから行ってみる?」

「い、いいの?興味もあるし、それじゃあ行ってみようかな」

「それならフェイリスも行くニャ」

「それじゃあみんなで行きましょうか」

 

 詩乃達が、そう言って去っていこうとしたのを見て、ABCはかなり慌てた。

 

「今の会話だと、やっぱりあの紅莉栖さんって人が、詩乃の先生なんだ」

「でも随分若そうじゃない?それにあの制服、どこかで見たような」

「菖蒲院女子学園の制服じゃない?少しデザインをいじってるようにも見えるけど」

「あ、それだそれ、って事は、私達と同じくらいの歳なのかな?」

「あっ、行っちゃうよ、ど、どうする?」

「ラボって所に向かうつもりみたいだけど、さすがにそこまでは侵入出来ないよね」

「もうこうなったら、ここで声をかけて、一緒に連れてってもらうしか!」

「それしかないね、よし、行こう!」

 

 そして三人は立ち上がり、偶然を装い、詩乃に声をかけた。

 

「あ、あれ?詩乃?」

「うわ、偶然だね」

「フェイリスさん、久しぶり!」

「三人とも、久しぶりニャ!」

「え?あ、あれ?三人ともこんな所でどうしたの?」

「ちょっと新しいパソコンが欲しいなって思って見にきたついでに、

街をぶらぶらしてて、で、休憩がてらここに入った感じかな」

 

 椎奈が機転をきかせ、そう言って上手く誤魔化した。

 

「あ、そうだったんだ、紅莉栖さん、

こちらは映子、美衣、椎奈、私のクラスメートで親友だよ」

「そうなのね、初めまして、私は牧瀬紅莉栖、宜しくね」

「昼岡映子です、こちらこそ宜しくです」

「夕雲美衣だよ、宜しくね」

「夜野椎奈です、ねぇ牧瀬さん、それって菖蒲院女子学園の制服だよね?」

 

 椎奈にそう問われ、紅莉栖は頷きながら言った。

 

「よく知ってるわね、前に二週間だけ留学してた事があったから、

その時買ったんだけど、デザインが気に入ったから改造してそのまま着てるのよ」

「え?り、留学?」

「どういう事?」

 

 きょとんとする三人に、詩乃がこう解説した。

 

「紅莉栖さんは私達と同い年だけど、

飛び級で今はアメリカのヴィクトル・コンドリア大学院で研究員をしてるのよ」

「ええっ!?」

「だ、大学院生!?」

「凄い!」

 

 そのまましばらく雑談をしていた六人だったが、

さすがにここで長く話をするのはまずいと思ったのだろう、フェイリスがこう提案してきた。

 

「私達、これからラボって所に向かうところだったんだけど、

良かったらみんなでこのままラボに行って、休憩がてらお話を続けないかニャ?」

 

 その提案に乗る事になり、六人はラボを目指した。

 

「こんなに近いんだ」

「怪しい……」

「ふふっ、確かに怪しいビルよね、それじゃあこっちよ」

 

 階段を上り、最初のドアを紅莉栖はノックした。

 

「誰かいる?」

「牧瀬氏?ドアは開いてるお」

「紅莉栖ちゃん?」

「橋田にまゆり?それじゃ入るわよ」

 

 紅莉栖はそのままドアを開け、中に入った。

そして女子高生がぞろぞろと中に入ってきたのを見て、まゆりは喜び、

ダルは激しく狼狽し、その目は点になった。




実はもうコミケ編に入っている事に、誰も気づいてはいまい!フゥーハハハ!

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