ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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人物紹介とかも全て合わせると、今日で500話に到達しました。
長らくご愛顧頂き、ありがとうございます、今後とも宜しくお願いします。
金曜日には実質的な500話で、それまでもそれ以降も、しばらく色々アレな話が続きますが、
どうかお見捨てなきよう宜しくお願いします!


第495話 橋田軍曹

「牧瀬氏、この状況は……?」

「あっ、ダルさん、昨日ぶり」

「あれ、朝田氏?」

「まゆりさんもいつぶりかな、久しぶり」

「前にお店に来てくれた時以来かな、詩乃ちゃん、久しぶり!」

 

 詩乃とまゆりが旧交を温めているその横で、紅莉栖はダルにABCの三人を紹介した。

 

「橋田、こちらの三人は、詩乃の友達で八幡の友達だから、失礼の無いようにね」

「あ、以前会った事があるお、三人とも、お久しぶりだお、

ちなみに三人も、僕の知らないうちに朝田氏同様、八幡のお手つきに?」

「いきなり何を言い出すのよ!私は八幡のお手つきなんかじゃないから!」

 

 ダルがそう言った瞬間、詩乃はマッハでそう突っ込んだ。

 

「え?詩乃は違うの?」

「えっ?」

「そうです、私が八幡さんのお手つきの、昼岡映子です」

「同じくお手つきの、夕雲美衣です」

「そして同じくお手つきにして夜伽担当の、夜野椎奈です」

「あ、これはこれはご丁寧に、それじゃあお返しに、僕も改めまして、

僕の本名は橋田至だお、今は八幡のブレインの一人?

って言ってもいいよね?牧瀬氏」

「別にそう思いたいならそれでいいんじゃない?」

「ちょっ、牧瀬氏、ひどっ……」

 

 その後ろで、詩乃がフェイリスに、こそこそと質問していた。

 

「ねぇフェイリスさん、よとぎ?って何?」

「詩乃にゃんは知らないのにゃ?夜伽ってのは……」

「ふむふむ」

 

 そしてフェイリスが詩乃の耳元で説明していくうちに、

詩乃の顔がどんどん赤くなっていった。

 

「ちょ、ちょっと椎奈、夜伽って何よ!私だってまだした事がないのに!」

「詩乃にゃんストップにゃ!」

 

 そんな詩乃の口を、フェイリスが塞いだ。

詩乃は一瞬抵抗しかけたが、周りの者達の生暖かい視線を受け、

自分が何を口走ったのか気が付き、顔を更に真っ赤にして震え始めた。

 

「まだ?今確かに、まだって言ったよね?」

「予定は未定じゃなく、もう決定だと?」

「もう、詩乃っちはかわいいなぁ」

「もう、もう!」

 

 その様子を見ながら、まゆりはとても楽しそうな表情で言った。

 

「うわ、ダル君、こんなに賑やかなラボは初めてだよ!」

「う、うん、まあそれには同意するけど、まゆ氏もまずは自己紹介しないと」

「あっ、そうだね!」

 

 そしてまゆりも、自己紹介を始めた。

 

「えっと、椎名まゆりです、趣味はコスプレの衣装作り、

好きな物は、ジューシーからあげです!」

「ちなみにまゆりさんも私達と同い年よ」

 

 詩乃にそう言われ、ABCは次々とまゆりに話しかけた。

 

「そうなんだ、まゆりちゃん、宜しくね!」

「どこの学校?」

「うわぁ、自分で衣装が作れるんだ、凄いなぁ」

 

 その様子を見て、ダルは紅莉栖にぼそっとこう言った。

 

「ねぇ牧瀬氏牧瀬氏」

「ん?」

「全員同い年のはずなのに、牧瀬氏だけが浮いている件について」

「う、うるさい!私はちょっと大人っぽいだけだから!っていうか黙れ変態!」

「べ、別に今は変態っぽい事は何も言ってないお!

でももっと罵って下さい!はぁ、はぁ」

「やっぱり変態じゃない!」

 

 直後にダルは、冷静な顔で椅子に座り、紅莉栖に尋ねた。

 

「で、今日はどしたん?」

「……あんたも結構変わり身が早いわよね」

 

 そう言いつつも紅莉栖は、ここに来た理由を説明しようとし、

何か思いついたのか、ドヤ顔でダルに言った。

 

「特に、意味はない」

「それって全然似てないけど、オカリンの真似?」

「う、うるさい!」

「牧瀬氏もかなりオカリンの影響を受けまくってるよね、それともこっちが素?」

「いいから黙りなさいってばぁ!」

 

 こうして自己紹介も済み、ひと段落したところで、まゆりが紅莉栖にこう尋ねた。

 

「で、紅莉栖ちゃん、今日はどうしたの?」

「近くにいたからちょっと休憩がてら、涼みにね」

「ちょっ、僕の質問はスルーだったのに……」

 

 そんなダルの抗議は完全に流され、まゆりはのほほんとこう言った。

 

「なるほどぉ、今日も暑いもんねぇ」

「ここにクーラーが無かったら、絶対来なかったと思うけどね」

「そうだねぇ、本当にまゆしいも、八幡さんには感謝感謝だよ」

 

 そこに何とか会話に加わろうとしたのか、再びダルが口を挟んだ。

 

「それそれ、ねぇ牧瀬氏、あのオカリンの考えを改めさせるなんて、

八幡はオカリンに何を言ったん?クーラーを買うからお前も金を出せって言われた時は、

本当にびっくりしたお」

 

 ダルが、本当に驚いたという顔でそう尋ねてきた。

 

「あ、そういえば橋田は、その場にはいなかったわよね、

でも八幡は、困ってる橋田の様子を見て、後で助け船を出してくれたのよ」

「え?僕?」

「そうよ、前ソレイユでそんな会話が出たじゃない、

あの時、橋田が何を言っても岡部は聞く耳を持たなくて、

橋田が困ったような顔をしてたのを見て、八幡が何か考え込んでたのよ、

で、しばらく後、八幡と岡部と私が三人の時に、八幡が岡部に意見してくれたの」

「そ、そうだったんだ……」

 

 ダルはそう言いながらも、微妙に不本意そうな表情をみせた。

 

「何?クーラーがあるのが嫌なの?」

「べ、別に嫌じゃないお、ただ、僕達が今まで何を言っても聞かなかったオカリンが、

八幡に何か言われただけで考えを変えたのが、何とも言えない気分になるというか……」

「ああ、嫉妬してるのね」

「べ、別に嫉妬とかそういうんじゃ!」

 

 そう言いながらもダルは、わずかに頬を染めた。

 

「赤くなるな、変態!まあいいわ、私の聞いた限りだと、八幡は岡部にこう言ったのよ。

『なぁキョーマ、マッドサイエンティストがクーラーごときを支配出来なくてどうするよ、

存在する道具を使わないってのは、結局その道具に負けた事になるんじゃないのか?

それとも俺が買ってやろうか?その代わり、給料から天引きするが』

ってね。それで岡部は顔色を変えて、購入を決めたのよ」

「まじ?めちゃめちゃ煽ってるじゃん!しかも逃げ道を塞いでるし」

「さすがは八幡ニャね、キョーマの痛いところを的確に突いてきたのニャ」

「八幡さん、凄い凄い!」

「ちなみにキョーマさんは、何て返事を?」

 

 キョーマとソレイユで何度か遭遇し、顔見知りである詩乃が、

興味津々でそう尋ねてきた。

 

「それがね、『それには及ばない、既にあいつらは俺の支配下にある、

まもなく我がラボの虜囚となる予定だ』だって。

で、その後は知ってる通りよ、私と橋田と三人で、設置工事の申し込みをしに行ったわよね」

「うわ、オカリン……」

「キョーマ……」

「ふふっ、オカリンらしいね」」

 

 そう呆れるダルとフェイリスに、まゆりはそう言って微笑んだ。

 

「まあ今は資金にもかなり余裕があるしね」

「そこは八幡様々だお」

「まゆしいもそこは嬉しいのです」

 

 紅莉栖はそう言った後、続けてこう言った。

 

「その後、岡部が八幡と二人の時にこう言ってたの、

やっぱクーラーがあると違うよなぁって。あの二人、本当に仲良しよね」

「確かにちょっと引くくらいだお」

「橋田、あんただって仲良しでしょう?」

「まあそれはそうなんだけど」

「まあこの話はもういいでしょ、ねぇまゆり、何か飲み物はある?」

「え、えっと、今は『選ばれし者の知的飲料』しか……」

「なるほど……橋田、何か買ってきて」

「え~、何で僕が……」

 

 渋るダルをじろっと見ながら、紅莉栖はフェイリスに言った。

 

「フェイリスさん、お願い」

「ダルにゃん、お願いなのニャ」

「う~ん、でも今日は特に暑いしなぁ」

「今日は中々しぶといわね、さてどうするか……」

 

 そして紅莉栖は、一同の顔を見回し、詩乃の所で目を止めた。

 

「ああ、今日は秘密兵器がいたんだったわね」

「ひ、秘密兵器!?私が?」

「ええそうよ、詩乃、ちょっと耳を貸して」

 

 そして紅莉栖は詩乃に何か耳打ちし、詩乃は驚いた顔でこう言った。

 

「えっ、ほ、本当に私がそれを言うの?」

「ええ、それで全て解決よ」

「ほ、本当の本当に?」

「私を信じなさい」

「う、うん」

 

 そして詩乃は、つかつかとダルの前に歩み寄り、少し逡巡した様子を見せた後、

キッと怒ったような顔になり、こう言った。

 

「お前はいつからそんなブタに成り下がったんだ、橋田軍曹!」

「へ……?ぐ、軍曹?」

「いいからさっさと動きなさい、この無能!私の言う事が聞けないというのなら、

このヘカートIIで蜂の巣にするわよ!」

「サ……サー!イエッサー!」

 

 ダルはその瞬間にピンと背筋を伸ばし、敬礼をした。

 

「そんなお前には、迅速に行動出来なかった事への罰を一つ追加する、

飲み物と一緒にアイスも人数分買ってこい!十分以内によ!」

「イ、イエッサー!」

 

 そして詩乃は、途端に相好を崩し、笑顔でこう言った。

 

「お前には期待しているからな、橋田軍曹」

「イエス、マム!」

 

 そう言ってダルは、とても嬉しそうな顔で、駆け足でドアから外に出ていった。

 

「「「「「「おお~!」」」」」」

 

 そして一同から拍手が巻き起こり、詩乃は困ったような表情で言った。

 

「こ、こんな感じで良かった?」

「パーフェクトよ、しかも最後の笑顔、あれアドリブよね?」

「え、えっと……あ、あは……」

「詩乃、凄い凄い!」

「どこであんなやり方を!?」

「そ、その……アルゴさんって人の真似……」

 

 それはアルゴがダルを操縦する時に多用するやり方だったらしく、

詩乃は苦笑しながらそう言った。

 

「なるほど、そう言われると確かにそうね」

「ねぇ詩乃、そのアルゴさんって?」

 

 その美衣の質問に、詩乃はこう答えた。

 

「えっと、ハッカーの人?」 

「え、ハッカーって本当に存在するの?」

 

 驚く美衣に、椎奈がこう言った。

 

「まあソレイユだし、それくらい普通にいるでしょ」

 

 そしてまゆりが横からこう言った。

 

「ちなみにさっきのダル君も、ハッカーの人だよ」

「えっ?まったくそうは見えなかったけど、そんなに凄い人だったの?」

「詩乃っち、そんな人にあんな事を言って大丈夫?」

 

 美衣と映子は心配そうに、詩乃にそう声をかけた。

 

「大丈夫よ、橋田は絶対に喜んでたから」

「まあダル君ならそうかもなのです」

「ダルにゃんなら間違いなくそうニャ」

 

 紅莉栖とまゆりとフェイリスはそう断言し、椎奈は詩乃をこう賞賛した。

 

「さすが詩乃、女王様気質!」

「そ、そんなんじゃないわよ!いっぱいいっぱいだったわよ!」

 

 その瞬間にいきなりドアが開き、ダルが戻ってきた。

 

「橋田軍曹、ただいま戻りました!」

 

 その瞬間に、慌てた詩乃は、咄嗟に腕組みをしながらダルにこう言った。

 

「や、やはりお前は私の期待に応えてくれたな、

これからもお前の働きには期待している」

「イエス、マイロード!」

 

 そしてまゆりがダルにタオルを手渡し、ダルは椅子に腰かけ、

二重の意味ではぁはぁしながら顔にタオルを乗せた。

 

「………やっぱり女王様気質だよね?」

「ち、違うわよ!」

「でも今の、どう考えてもアドリブだよね?」

「う、うう……」

 

 こうしてしばらく詩乃はからかわれ続けた。

ちなみに後日、ソレイユで似たような状況があり、

詩乃は咄嗟に同じような態度をとってしまい、延々と八幡にからかわれる事になる。

 

 尚もラボでの雑談は続く。


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