ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第497話 何故私なんですか?

 ここで話は少し前へと遡る。一色いろはは、久しぶりに八幡から誘われ、

かなり気合を入れてメイクをし、服装にも気を遣っていた。

 

「まったくもう、先輩ったら、急に呼び出したりなんかして、

最近あんまり接する機会が無かったから、寂しくなったのかな、なんて」

 

 いろははそうぶつぶつと呟きつつも、満面の笑顔で家を出た。

 

 

 

 待ち合わせの場所にはもう既に八幡が来ており、

八幡は特にきょろきょろする訳でもなく、悠然とキットに背をもたせかけていた。

通りかかる女性達が、ちらりちらりと八幡の方を見ており、

それだけでいろはは、優越感にも似た喜びを感じる事となった。

自分が待ち合わせている男が他の女性から注目を浴びるのは、存外気分がいい、

いろははそう考えつつ、八幡に声をかけた。

 

「せ~んぱいっ、待ちました?」

「おう、待った待った、もう来ないかと思ったわ」

「ま、まだ待ち合わせ時間より前じゃないですか、

ってか何でそういう事を言うんですか!

そこはどう考えても、足でタバコの吸殻の山をもみ消しながら、

『いや、今来たところだ』って言う場面じゃないですかぁ!」

「お前、さすがにそれはテレビの見すぎだろ、ってか今時そんな奴がいる訳ないだろ、

待ってる間、スマホでもいじってるに決まってる」

「まあそれもそうですね」

 

 そしていろはは、八幡の腕に抱きつき、満面の笑顔で言った。

 

「で、今日はどこに連れてってくれるんですかぁ?」

 

 そんないろはをさりげなく振りほどきながら、八幡はこう返した。

 

「いや、俺はただ、お前に頼みがあったから、

話を聞いてもらおうと思って呼び出しただけなんだが……」

 

 いろはは頼みと聞き、特に深く考えずにオーケーしようとした。

 

「頼みですか?どんな内容でも、先輩の頼みなら別に構いませ……いえ、えっと、

あ~、最近私も忙しいしなぁ、ストレス解消しないと何か頼まれても無理かなぁ、

どこかに私を遊びに連れてってくれるような、甲斐性のある八幡先輩はいないかなぁ」

「お前、今、もろに俺の名前を言ったよね?」

「え~?何の事ですかぁ?自意識過剰なんじゃないですかぁ?」

「自分で名指ししておいて、何言ってるんだお前は……

まあいいや、それじゃあちょっとぶらぶらしてみるか?」

 

 そう軽い調子で言った八幡に、いろははこう言った。

 

「今私の事誘いました?すみません、私はそんな安い女じゃないんで、

ほいほい付いていくなんて思ってくれていいです、それじゃあ行きましょっか」

「……そういえば昔はこういう時、ごめんなさいとか言ってなかったか?」

「あっ……はぁ、あの時に逆の答えを返していれば、もしかしたら今頃先輩は私の物に……」

 

 いろはは突然そう呟いて、落ち込んだようなそぶりを見せた。

 

「わ、悪い、何かまずい事を言っちまったか?」

 

 八幡は慌てていろはにそう謝ったのだが、いろははすぐに顔を上げ、笑顔で言った。

 

「いえいえ、こっちの事です、それじゃあ適当にぶらぶらしましょっか」

「おう、それじゃあキット、どこかの駐車場で待っててくれ」

『分かりました』

 

 そしてキットは走り去っていき、それを見ながらいろはは感慨深げに言った。

 

「やっぱりキットって凄いんですねぇ」

「だろ?ちなみに今、二号機を作ってるぞ」

「そうなんですか?それには誰が乗るんですか?」

「防衛大臣だ」

「ぼっ……」

 

 いろははそう言いかけて絶句した。

 

「ど、どうしてそんな事に?」

「この前ちょっと会う機会があってな、どうしてもって言うからオーケーした」

「軽く言ってくれますね……」

 

 そう言われた八幡は、頭をかき、それを見ていろはは、諦めたような口調で言った。

 

「もう今の先輩は、そういう立場だって分かってますから何も言いませんけど、

博打みたいな事だけはしちゃだめですよ?」

「おう、俺は堅実に生きるつもりだから問題ない」

 

 そして二人は、連れ立って歩き始めた。

 

「そういえば前から思ってたんだが、お前、高校の時から少し背が伸びたよな?」

「あ、分かります?この靴と合わせて、今なら普通に先輩とキス出来ますよ」

「その例えはどうなんだ?」

 

 そう言われたいろはは、話を逸らすように正面の建物を指差しながらこう言った。

 

「あ、先輩先輩、卓球場がありますよ、少しやってきません?」

「おいおい唐突だな……別にいいけど、

こういう時は普通、ビリヤードかボウリングじゃないのか?」

「ボウリングはともかく、先輩ビリヤードなんて出来るんですかぁ?」

「ん?別に普通に出来るが……」

「えっ?」

 

 いろはが本当に驚いたような顔をした為、八幡は凄く情けなさそうな顔で言った。

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ……」

「そ、それじゃあビリヤードで勝負です!私が勝ったらご飯を奢って下さい!」

「いいぞ、それじゃあやるか」

 

 

 

 最初は八幡のブレイクからスタートする事になり、

八幡は最初という事もあり、少し気合を入れてキューを玉目がけて突き出した。

 

『ガコン!』

「うわ、さすが先輩、鍛えてるだけあって力強いですね」

 

 いろはは感心したようにそう言い、八幡はいろはの方に振り返り、自慢げに言った。

 

「まあこれくらいはな」

『コ~ン!』

 

 そして玉がポケットに落ちた音がして、二人は台の方を見た。

 

「お、九番が落ちたな」

「い、いきなりエース!?何なんですかそれ!」

「まあそういう事もあるだろ、とりあえず俺の一勝な」

「ぐぬぬ……」

 

 この後いろはも中々器用なところを見せ、善戦したのだが、

結局勝負は八幡の勝利で幕を閉じた。

 

「ま、負けた……」

「それじゃあ勝負は俺の勝ちだな」

「せ、先輩待って下さい、もう一度、もう一度私にチャンスを……」

「ん?まあ別に構わないが、どうするつもりだ?」

「た、卓球で勝負です!」

「卓球か、さすがに卓球は何年ぶりになるか分からないくらいだが、別に構わないぞ」

「それじゃあ行きましょう!」

「お、おう」

 

 そして卓球の受付で、八幡はちらっといろはの足元を見た後に言った。

 

「卓球台を一時間貸し出しで、ついでに靴も一つお願いします。サイズは……」

 

 そう言って八幡が口に出したのは、いろはの足のサイズだった。

その靴を受け取りながら、いろはは驚いた顔で八幡に言った。

 

「先輩、いつ私の足のサイズを調べたんですか?ま、まさか寝ている私の足に、

ガラスの靴をはかせようとした事が!?」

「ん、そんなの見れば分かるだろ?」

「普通分かりませんよ!っていうか、私の渾身のボケに突っ込んで下さいよぉ!」

「あ~はいはい、はかせたはかせた、

でも入らなかったから、お前はシンデレラじゃなかった」

「そ、そんなぁ……」

 

 そんな会話を交わしながら、二人は卓球台を挟んで対峙した。

 

「行きますよ!」

「あ~ちょっと待て、おいいろは、ちょっとそこで跳ねてみろ」

「えっ?は、はい」

 

 そしていろははその場で軽く跳ねた。それを見た八幡は、満足したように言った。

 

「よし、ちょっと心配だったが、どうやら卓球台に隠れて、

多少激しく動いても、いろはのスカートの中が見える事は無さそうだ」

「えっ、見えないんですか?」

「おう、大丈夫だ、だから安心していいぞ」

「……せっかく勝負ぱんつをはいてきたのに」

「お前は冗談でもそういう事を言うんじゃねえよ………」

「本当ですよ?見てみますか?」

 

 そう言っていろはは自分のスカートをたくしあげようとした。

それを見た八幡は、慌てて目を逸らしたのだが、その瞬間にいろはがサーブを放った。

 

「隙あり!」

「ねえよ」

 

 八幡はそのサーブをあっさりと返した。

 

「くっ……」

「ほれ、次いくぞ次」

 

 その後もいろはは、『死ねぇ!』と叫びながら特大のホームランを放ったり、

落語の時そばを駆使して何とか抵抗しようとしたが、結局大差で敗北した。

 

「うぅ……負けました」

「よし、それじゃあ飯に行くか」

「うぅ……仕方ない、それじゃあ私の奢り……と言うとでも思ったか!」

「ん、お前、何を言ってるんだ?」

「確かに先輩が負けたら奢ってもらうと言いましたが、私が負けたらご飯を奢るとは……」

「ほれ、奢ってやるから早く来いって」

「言ってない……って、あれ!?」

「俺がお前に奢らせる訳ないだろ、ほれ、こっちだこっち」

「あ、ま、待って下さいよぉ!」

 

 そしていろはは、八幡の後を追いかけながらぼそりと呟いた。

 

「もう、そういうとこ、ずるくなったなぁ……」

 

 そう言いながらもいろはの頬は、終始緩みっぱなしなのであった。

 

 

 

「こ、ここですか?」

「おう、たまにはこういうのもいいだろ?」

「は、はぁ……」

 

 八幡がいろはを案内したのは、とあるラーメン屋だった。

 

「ここは昔よく来てたんだよ、あ、でもここに誰かを連れてくるのは初めてだな」

「先輩、早く入りましょう今すぐ入りましょうさっさと入りましょう」

「お、おう……」

 

 そしていろはは、再びぼそっと呟いた。

 

「先輩の初めて………ふふっ」

 

 そして中に入り、注文したラーメンが目の前に置かれ、それを見たいろはは絶句した。

 

「何ですかこれ、油ですか、まじですか……」

「いただきます」

 

 八幡はいろはの隣でそれを平然と食べ始め、いろははかなり逡巡した後、それを口にした。

その瞬間にいろはは、ハッとしたような顔をした後、大人しくラーメンを口に運び始めた。

どうやらお気に召したらしい。八幡はそれを見て、一瞬笑顔を見せた後、食事を再開した。

 

 

 

「先輩、悔しいけど美味しかったです」

「それは良かった」

「私、こういう店に来たのは初めてです」

「まあ女の子一人だと入りづらいからな」

「そうなんですよ、なのでまた、ここに連れてきて下さいね」

「ん?ああ、そうだな、別に構わないぞ」

「よし!」

 

 いろはは小さな声でそう言うと、密かにガッツポーズをした。

実質次のデートの約束をしたようなものだと考えたのだろう。

そして外に出て、適当に店をまわった後に、いろはがこう言い出した。

 

「先輩、この辺りに昔よく通ってたお店があるんですけど、そこで甘い物が食べたいです!」

「そうだな、それじゃあ休憩がてら、ちょっと寄ってくか」

 

 そしていろはの案内で、店が見える位置まで来た二人は、遠くに意外な人物を見つけた。

高校時代、いろはの下で働いていた、副会長と書記の女の子である。

 

「ん、あの二人には見覚えが……」

「あ、あれって副会長と書記ちゃんですよ、先輩、覚えてないですか?」

「ああ、思い出した、そうだそうだ、確かあんな顔だったな」

「せっかくですし、追いかけて挨拶しますか?

ついでに私の彼氏面してくれてもいいんですよ?」

「いや、しないから……まあそこまでする事もないだろ、

元気そうだったし、それを確認出来ただけで十分だ」

「ですね」

 

 そして二人は、そのまま店に入った。

 

 

 

 注文の品が来ると、いろはが急にもじもじし出し、八幡は何事かと思い、いろはに尋ねた。

 

「どうした?トイレか?」

「っ……せ、先輩、もう少しデリカシーというものを持って下さいよ!」

「す、すまん」

「まあ別にいいですけど……で、先輩、あのですね、良かったら一緒に写真を撮りません?」

「え、写真?正直面倒臭……」

 

 いろははその言葉を最後まで聞かず、

注文の品を持ってきてくれた店員に向かってこう言った。

 

「すみませ~ん、写真を撮ってもらっていいですか?」

「俺に選択権が無いなら最初から聞くなよ……」

「てへっ」

 

 八幡はそのいろはの笑顔を見て、仕方ないなと苦笑しながら、

大人しくファインダーに収まった。

 

「それじゃあ頂きましょっか」

「そうだな」

「そういえば先輩って甘党ですよね?」

「おう、そうだぞ」

 

 そう言いながら美味しそうにデザートを頬張る八幡を見ながら、

いろはが嬉しそうに言った。

 

「ふふっ、美味しそうに食べますよね」

「それが甘い物に対する礼儀だからな」

「それじゃあ私も敬意を持って食べる事にします」

「そうしろそうしろ」

「あ、先輩、それで私に頼みというのは……」

「あ、すっかり忘れてたわ」

 

 それで思い出したのか、八幡はいろはにコミケでコスプレをしてくれないかと依頼した。

 

「コミケって、私行った事ないんですよね」

「まあ普通はそうだろうな」

「ソレイユのブースが出てて、そこで愛想を振りまけばいいんですね?」

「身も蓋もない言い方だが、まあそうだな。それにお前、こういうのが得意そうだからさ」

「む~、何ですかそれ」

「別に悪い意味じゃないけどな」

「まあそうかもですけど……」

 

 そしていろはは、考え込んだ後に言った。

 

「ちなみにどんな格好をする事になるんですか?」

「ティターニアだ」

「えっ?本当ですか!?」

「おう、本当だぞ」

「でもティターニアだったら、明日奈さんがやった方が……」

「分かるだろ、俺達が顔出しするのはリスクが高すぎる」

「あっ、確かにそうかもですね……」

 

 そしていろはは、真剣な顔で再び八幡にこう尋ねた。

 

「先輩、一つ教えて下さい、他にも色々なキャラのコスプレがある中で、

どうして私がティターニアなんですか?」

「お前なら出来ると俺が判断したからだ」

「そうですか……」

 

 いろははそう言って下を向いたが、その顔は真っ赤に染まっていた。

どうやら嬉しかったのだろう。そしていろはは顔を上げ、笑顔で八幡に言った。

 

「分かりました、やります」

「そうか、悪いな」

「ちなみに先輩もそのブースに参加するんですよね?

「おう、もちろんだ」

「それじゃあ、ちゃんと私の事、見てて下さいね」

「ああ、ちゃんと出来るか心配だから、しっかりと見てるさ」

 

 八幡はニヤニヤしながらそう言い、いろはは愕然とした顔で抗議した。

 

「ええっ!?もう、さっきと言ってる事が違うじゃないですか!」

「ははっ、まあ気にするな、それじゃあ詳しい事が決まったら連絡するわ」

「もう……」

 

 こうしていろはは、今回のイベントでの大事な役を任される事になったのだった。




この作品の開始時期のせいで、幻と消えたデートイベントでした!
関係性が違うせいで、反応もまったく違う感じになりましたね!
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