ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ついに500話到達です!今後とも宜しくお願いします!


第500話 優里奈と腐海のプリンセス

 振り返った八幡の目に飛びこんできたのは、間違いなく海老名姫菜の笑顔だった。

声からしてもそれは間違いない。だがその姿は、

かつて同じクラスに在籍していた時とは、まったく違う様相を呈していた。

 

「え、海老名さん、その姿はまさか………デスマーチ中か?」

「正解!よく分かったね、さっすが比企谷君」

「いや、まあコミケも近い事だしな……」

 

 姫菜の目の下には、ひどいクマが出来ており、服装はよれよれのTシャツにジーンズのみ、

そしてその手に持つ買い物カゴの中は、栄養ドリンクが大量に詰め込まれていた。

ちなみにお嬢様聖水である。そしてその奥には激強打破も何本か見えた。

 

「お嬢様聖水とはまた海老名さんらしいというか……」

「おっ、YOUお嬢様聖水を知ってるんだ、さっすがお嬢様殺し!」

「いや、意味が分かんねえから……」

「お待たせしました、八幡さん」

 

 丁度そこに、折り悪く優里奈が駆け寄ってきた。

 

「おやぁ?ニューカマー?」

「優里奈、俺の後ろへ。教育に悪いからな」

「え?あっ、はい」

 

 八幡は咄嗟にそう言って優里奈を庇い、優里奈は言われた通り、八幡の陰に隠れた。

 

「ふ~ん」

 

 姫菜はニヤニヤしながらそう言うと、八幡の顔に自らの顔を近付けながらこう言った。

 

「お嬢様殺し!」

「一応言っておくが、優里奈は俺の被保護者だからな」

「ん?足長おじさん始めました?それとも光源氏計画?」

「その二択なら足長おじさんだな」

「優里奈ちゃんって言うんだ、私は海老名姫菜、比企谷君の元クラスメートだよ」

「おい、人の話を聞けよ……」

 

 優里奈はそう言われ、おずおずと八幡の後ろから姿を現すと、姫菜に丁寧に挨拶をした。

 

「えっと、よく分からないですけど、櫛稲田優里奈です、宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくね、しかし相変わらず比企谷君の連れている子はレベル高いねぇ、

明日奈ちゃんに雪ノ下さん、優美子に結衣、それに優里奈ちゃん、

もういつ誰に刺されても不思議じゃないね」

「いや、刺されねえから……まあでどこぞの変な男に襲われたら、返り討ちにするけどな」

「まあそうだよね、その懐に忍ばせているモノで一撃だね」

「何でそんな事が分かるんだよ……」

 

 そう言われた姫菜は、にへらっと笑いながら言った。

 

「右肩に比べて左肩の方が僅かに下に下がってるじゃない」

「どこのゴルゴだあんたは……」

「嫌だなぁ、相方が自衛官の元妻だから、そういう話がたまに出るだけだよ」

「あっ、そういえばその相方って、旧姓伊丹さんの事だよな?」

「確かにそうだけど、よく知ってるねぇ?」

「実は旦那の方が知り合いなんだよ」

「そうなんだ、世間は狭いって本当なんだねぇ」

 

 姫菜は、さも驚いたという口調でそう言った。

 

「ところで今日は、他のボーイズは?」

「期待してるところを悪いが、誰もいないぞ」

「ええっ?そっかぁ、資料が欲しかったから、

旦那のキリト君の写真を撮りたかったんだけどなぁ」

 

 その言葉に八幡は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

「……旦那?旦那って何だ?」

「そんなの決まってるじゃない」

 

 あっけらかんとそう言う姫菜に対し、八幡は心底聞きたくないという表情で、

だがしかし一応確認の為にこう尋ねた。

 

「………まさか新刊か?」

「ええ、腐海のプリンセスの一人であるこの海老名姫菜の新境地!

キリ×ハチと見せかけて、実はゼク×ハチというNTRものよ!」

「海老名さん、本当に自重しなくなったなおい!

っていうか、ゼク?ゼクって何だ?いや、おいまさか……」

 

 焦ったようにそう言ってきた八幡に対し、姫菜はキリッとした顔でこう答えた。

 

「ふっ、結衣からGGOの話は聞いてたけど、いい資料を発掘出来たのは幸いだったよ」

「くそっ、そういう事か……」

「まあ実は私が、最近比企谷君はどう?ってカマをかけて、

色々な話を引き出したんだけどね」

「やり方が汚ねえ……」

「おほほほほ、目的の為には手段は選ばない、

そのおかげで、うちのサークルも今や全国区だよ!」

 

 そう得意げに言う姫菜の顔を見ながら、八幡は深いため息をついた。

 

「はぁ……今思えば高校の時、

海老名さんの手綱をしっかり握ってた優美子は偉大だったんだな……」

「封印は解き放たれたんだよ、今の私は鎖から解き放たれた、腐った獣なの」

「はぁ……」

 

 八幡は再び深いため息をつくと、

まだよく分かってないようにきょとんとしている優里奈にこう言った。

 

「優里奈は絶対に、こんな大人になるんじゃないぞ」

「えっと、そもそも二人の会話に付いていけません……」

「さっき乙女ロードで薄い本が売ってるのを見ただろ?

この人は、ああいうのの作者さんだ」

「どうもどうも、腐海のプリンセス一号だよ」

「なるほど…………」

 

 優里奈はそれで納得したのか、そう言って頷いた後、

驚いたような顔で八幡にこう尋ねた。

 

「えっ?それじゃあ今の話って、八幡さんとキリトさんとゼクシードさんの本の話ですか?

八幡さん、よく怒りませんね」

「俺も昔は怒ったさ、でもこの人はな、そんな事で諦める人じゃないんだよ……」

 

 八幡は、何もかも諦めたような口調で言った。

 

「それで比企谷君達は、今日はどうしてここに?」

「観光がてら、ちょっと常備薬を揃えに来たんだよ、

実は昨日、俺が過労からきたと思われる発熱でダウンしてしまってな、

それで常備薬が何も無い事に気がついて、それで買いに来たって訳だ」

「へぇ~、なるほどねぇ、でもそれって優里奈ちゃんが一緒な理由にはなってないような」

「実は俺は会社の近くに何かあった時に泊まる為のマンションを借りてるんだが、

その隣の部屋に優里奈が住んでるんでな、看病してもらったんだよ」

「ああ~、そういう……被保護者ってのは本当なんだ」

 

 そう言いつつも、姫菜は少し怒ったような表情をしていた。

 

「ちなみに明日奈ちゃんに連絡は……?」

「それなら夜にしておいたぞ、まあ遅い時間だったから、こっちには来れなかったが、

優里奈がいるから安心とか言ってたな」

「それで今日も電話を?」

「おう、朝少し時間に余裕があったから、その時に買い物に行くとは伝えてあるな」

「見損なったよ比企谷君!」

「………お?」

 

 突然姫菜が怒り出し、八幡は、もしかして明日奈も連れてこいと言いたいのだろうかと、

その剣幕に一歩下がった。まあ明日奈は学校に行っているのでそれは無理なのだが。

だが姫菜は、ある意味彼女にとって正当な理由で怒っただけだった。

 

「どうしてそこで、他のボーイズに頼らないの?

そうすれば今この瞬間にも、私の頭の中で色々妄想が捗ったはずなのに、

これはもう凄く大きな損失だよ、本当にそういうところ、もっと考えて欲しいな」

「そんな事考えねえよ!っていうか海老名さんは本当に自重しなくなったな!」

「そんなに褒められても、何も出ないよ?」

「褒めてねえよ!」

 

 八幡は興奮ぎみに、そうまくしたてた。

優里奈はそんな八幡を見て、八幡にも苦手な人がいたんだなと驚いた。

もっともこの状態の姫菜の相手をまともに出来る人間は、そんなにいないのだが。

 

「まあまあ興奮しないでよ、一応店の中だし、ね?」

「あんたがさせてるんだろうが……」

 

 そう言いながら八幡は、下を向いて呼吸を落ち着かせようとした。

その為姫菜の持つ買い物カゴが、八幡の視界に入った。

 

「そういえば、随分不健康な買い物をしてるよな……」

「ああ~、これ?まあ追い込みだから仕方ないんだよ、

比企谷君のせいで、か弱い乙女だった私も、もうすっかり薬漬けだよ」

「人聞きの悪い事を言うなよ……それにしてもお嬢様聖水はともかく、

激強の飲みすぎはやばいだろ」

「ん?大丈夫、こっちは一日一本にしてるから」

「それならいいが、体調にはくれぐれも気をつけてくれよ」

「大丈夫大丈夫、優美子も結衣もいるし、何かあっても誰かしら対応出来るよ」

「何………だと?」

 

 八幡は初耳だったのか、信じられないようなものを見る目で姫菜の方を見た。

 

「な、何であの二人が!?」

「ふふっ、友情を盾にお願いしたら、二つ返事で手伝ってくれる事になったの。

どうやらあの二人、私達の作品を、もっとソフトな作品だと考えてたみたいで、

毎日頭から湯気を出しながら手伝ってくれてるんだよね」

「あ、悪魔め……」

「まあ腐海のプリンセスだから、確かに似たようなものかもね」

 

 姫菜はあっけらかんとそう言い、八幡に別れを告げた。

 

「それじゃあ私もさすがにそろそろ行かないと、またそのうち会おうね、比企谷君」

「ああ、それなら今葉山が、同窓会の予定を組んでくれてるはずだぞ」

「そっか、それじゃあまたそこでね」

「おう」

「優里奈ちゃんも比企谷君のお世話、頑張ってね、

でも甘えたい時は、とことん甘えるといいよ、比企谷君、そうされるのが好きだから」

「なっ……」

「はい、そうしますね、海老名さん、体には気をつけて下さいね」

「うん、ありがとう、それじゃあまた!」

 

 そう言って姫菜は、風のように去っていった。

それを見送った後、八幡は優里奈に懇々と説いた。

 

「いいか優里奈、絶対にああなっては駄目だぞ、俺が困るからな」

「はい、大丈夫ですよ、八幡さん、私はああいう世界にはあまり興味が無いですから」

「そ、そうか、それを聞いて安心したわ」

「ふふっ、海老名さんの事、苦手なんですね」

「普通にしててくれればどうって事はないんだが、あの状態だとな……」

 

 そして二人はそのまま店を出ようとしたのだが、

その途中で激強打破が置いてあり、優里奈は何となくそれを手に取り、成分を確認した。

 

「っひぅ………」

「ど、どうした優里奈」

「は、は、八幡さん、これ………」

「ああそれか、見ちまったんだな……」

「サ、サソっ……それに馬……」

「まあ気にするな、優里奈がそれを飲む機会は多分無いだろうから」

「は、はい、私にはハードルが高すぎでした……」

 

 こうして姫菜との偶然の遭遇もあったが、

二人は無事に常備薬一式を揃え、マンションへと帰還する事にした。




すみません、今仕事でひたすら壁に紙ヤスリをかけているのですが、
そのせいで指先がパンパンで、上手くタイピング出来ません。
なので明日は一日お休みをいただきます、大変申し訳ありません!
一日あれば腫れも引くと思いますので少しだけお待ち下さいorz
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