ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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9/5 追記 台風のせいで色々手間取り、執筆時間がとれませんでしたので、
5日の投稿はお休みになりますすみませんorz


第503話 ゲーム的発想

「実はな、まだ仮システムの段階なのに、あれが既に大人気でな……」

「それはいい事じゃないんですか?」

「まあいい事ではあるんだが、一つ危惧している事があるんだよ」

「危惧ですか?」

「訓練内容がVRに偏る事で、現実での体力が落ちてしまうんじゃないかってな」

「ああ、それは確かに……」

 

 八幡は、今後は別の種類の訓練も、VRの比率が上がる事を確信しており、

というか既に開発中なのだが、確かに体力作りという面に関しては、

大きなマイナス要因となるかもしれないと、その危惧に同意した。

 

「和人君はどう思うかね?」

「そうですね……確かにSAOから現実に帰還した時は、

これが自分の体だとは信じられませんでしたし、

その点に関しては、確実に落ちると思いますね」

「明日奈さんはどうだい?」

「そうですね、私もあの時は……ええと、ちょっとダイエットしすぎちゃったかなって」

 

 その明日奈のユーモアの聞いた言葉に、嘉納は楽しそうに笑った。

 

「ははははは、過ぎたるは及ばざるが如しという奴だね、

で、どうだい?何かいいアイデアはあるかい?」

「単純に時間短縮になった分を、そういった訓練に回せないんですか?」

「そうだな、だがそうすると、訓練そのものの時間が長くなりすぎて、

負担だけが増えてしまう可能性があるんだよな」

「確かに少しせわしないかもしれませんね」

「だろ?かかるコスト的には絶対に有用だから、

導入しないという選択肢はありえないんだが、

それで技術面にばかり偏重して、体力面が落ちるのは避けたいんだよ」

「ですね……」

 

 実際問題、今まで主に防衛費の関係でやりにくかった訓練を、

ほぼ実費無しで行えるというのは大変なメリットである。

なので首脳陣としては、この機会に滞っていた訓練を、

多めに行いたいと考えるのは当然であろう。

 

「う~ん……」

「単純なようで、難しい問題ですね」

「これを解決するには、体力作りの質を上げるしかないんじゃないのか?」

「だよな……でも現状そんなに質が悪い訳がないし、

専門家じゃない俺達には、にわかには思いつかないな」

「確かに君達には畑違いかもしれないな、まあそれは朱乃さんもそうなんだが、

とにかく別視点からの意見が欲しいんだよ」

 

 嘉納も無茶な事を言っている自覚があるのか、申し訳なさそうにそう言った。

 

「まあ確かに、俺達の専門はゲームですしね」

「それ、専門って言っていいのか?」

「別にいいんじゃない?職業とかじゃないけど確かにそうなんだし」

「ははははは、それじゃあその視点から何か気付く事はあるかい?」

 

 嘉納は笑いながらそう言い、三人は何かないかと考え始めた。

 

「ゲームで強くなるには……」

「とにかく戦う?」

「それだけじゃ駄目だろ、考えながら戦わないと」

「強くなろうって意欲がないと無理だよね」

「意欲か……」

 

 そして八幡は何か思いついたのか、嘉納にこう問いかけた。

 

「閣下、実際そういった方面の訓練って、人気は無いですよね?」

「まあそうだな、あれはつらそうだからなぁ、みんなよく頑張ってくれていると思うよ」

「それは正直頭があがりませんね」

「だな」

「ではそれを、少しでも楽しいものに変えられたら、効率も上がりますかね?」

「それはそうなると思うが、何か思いついたのか?」

「はい、実現性も問題ないと思います」

「なるほど、聞かせてもらおうか」

「はい」

 

 そして八幡は、とんでもない事を言い出した。

 

「自衛官の方々の能力を数値化し、それをカード化して、システムに反映させます。

要するに、その能力通りの、本当に自分の分身と言えるキャラで、

VRでの訓練を出来るようにします、場合によっては模擬戦も」

「そ、それは……まさにゲームだな」

 

 嘉納はその提案に、思わず息を呑んだ。

 

「そうか、キャラを育てる喜びか」

「それは確かに楽しいかもね」

「希望すれば直ぐに個々の能力を測定出来るような環境を作って、

データを直ぐに反映出来るようなシステムを構築します。

そうすれば、自分に足りない部分を鍛える人、長所を更に伸ばそうとする人、

場合によってはその為に、仕事外で自主的に鍛えようとする人も出てくるかもしれません。

無理をしないようにメディカルチェックはちゃんとやるとして、

そうなれば、能力の向上も見込めるんじゃないでしょうか」

「でも八幡、それだけだと、少し弱くないか?

せっかくキャラを育てたら、そのキャラを活躍させたいって思うもんだろ?」

「確かにそうだな」

 

 その言葉を聞いて、明日奈が笑顔でこう提案してきた。

 

「それじゃあ何かの競技会を定期的に開けばいいんじゃないかな、

仕事との兼ね合いもあるから全員参加とはいかないだろうけど、

その辺りは閣下に考えて頂くとして、そういった場があれば、

より一層意欲が沸くんじゃないかな」

「確かにそれで、成績優秀者に何かしらの報酬を与えれば、

全体のレベルアップにも繋がりそうだな」

 

 嘉納はその意見に頷き、理事長もその議論に、うんうんと頷いていた。

 

「それは技術的には可能なのかい?」

「はい、案外簡単に実現出来ます、

初期投資の分の資金はかかりますが、それくらいで済みますね」

「ふむ、ちょっと持ち帰って検討するか」

 

 嘉納は興味を示したのか、重々しくそう言った。

その後は細かい話となり、好き勝手に色々な提案が成され、

嘉納はそれを、一つ一つメモしていた。

実現性の低い提案もあったが、大まかなラインとしては、

おそらくその方向で話が進められるだろうという話になり、

嘉納はその後、満足そうに帰っていった。

 

 

 

「本当にあなた達は、面白い事を考えるわねぇ」

「というか、俺達にはこのくらいしか考えられないという方が正解かもしれませんけどね」

「そうそう、どこまでいっても俺達は、所詮ゲーマーなんですよ、

まあ明日奈は違うかもしれませんけど」

「それでいてこの中で一番適正があるかもしれないって、ずるいよな」

「和人、お前も大概だと思うぞ……」

「そんな事を言ったら八幡もだろ!」

「まあまあ二人とも、そのくらいで」

 

 明日奈は自分の事には触れず、二人をそう宥めた。

 

「さて、それじゃあそろそろ俺達も帰るとしようぜ、

会社には、帰ってから連絡を入れればいいか」

「そうだな、ずっと緊張してたから、俺も少し疲れちゃったよ」

「八幡君、私達は急いで夕食の買い物に行かないと」

「しまった、そういえばそうだったな」

「あら、今日の夕食は明日奈さんが作るの?」

「はい、八幡君のマンションに、お腹をすかせてダウンしている人が二人いるんですよ」

「あら、それは急がないといけないわね」

 

 そして八幡は、何となく理事長にこう尋ねた。

 

「そういえば理事長は、夏休み中はどうするんですか?」

「そうねぇ、たまにはかわいい娘達とバカンスにでも行きたいのだけれど、

この分だと忙しくて無理かもしれないわね」

「まあうちにも夏休みがありますから、その時にでも行けばいいんじゃないですかね、

というか俺が無理にでも休ませますから」

「そうしたらそうしたで、あの子は八幡君の所に入り浸りそうなんだけど……」

「いや、それは……」

 

 八幡はそう言われ、確かにそうなるかもしれないと、内心冷や汗をかいた。

もしそうなったら、八幡の貞操の危機だと本能的に感じていたのかもしれない。

 

「それはちゃんと説得しますよ、まあ代わりに何か要求されるかもしれませんけど、

そこらへんは上手くやります」

「そう?じゃあお願いしようかしら」

 

 理事長はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。

 

「それじゃあ俺達はそろそろ行きますね、理事長、また明日です」

「八幡君、終業式の日くらいはちゃんと学校に顔を出すのよ」

「明後日ですよね、はい、そうします」

「っていうか八幡は明日もちゃんと来いよ……」

「ああ、多分大丈夫だ」

「その多分ってのが信用出来ないんだよ!」

「可能な限り前向きに善処する」

「政治家かよ!」

 

 そして三人は学校を出て、それぞれの帰る方向へと去っていった。

 

 

 

「夕食は、手早く出来るものがいいよね」

「そうだな、俺も空腹だし、その方が有難い」

「それじゃあよし、肉を焼こう!」

「まあカレーとかよりはそういうのの方が早いかもしれないな」

「冷蔵庫の中には何か残ってるの?」

「野菜関係はあったから、

もしかしたらもう優里奈がサラダの用意くらいはしているかもしれないな」

「オッケーオッケー、それじゃあこれとこれ、それにこれくらいかな」

「まあそんなもんじゃないか?それじゃあ戻るか」

「うん!」

 

 そして二人がマンションに着いた時、三人は既に起き、

八幡の言葉通り、優里奈はご飯を炊き、サラダを用意している真っ最中だった。

 

「二人とも、お帰りなさい」

「あっ、明日奈、久しぶり!」

「明日奈、あーし凄くお腹が減った……」

「待ってて、すぐ用意するから」

「お願い、もう空腹すぎて、手伝う元気も無いけど……」

 

 その後、明日奈は手早く準備を終え、五人は仲良く夕食を共にした。

結衣と優美子は、久しぶりのまともな夕食に、涙を流していた。

 

「はぁ……やっぱり人間の食事はこうじゃないと……」

「もうドリンクだけの食事とかは勘弁だし……」

「二人とも、災難だったね」

「まだもう少し手伝わないといけないから、

その時は自分で食材を持ち込む事にする……」

「そうだね、それがいいかもね」

「姫菜はよくあれで、体が持つよね……」

 

 こうして二人は多少なりとも生気を取り戻し、

五人はそのまま食後の団欒を迎える事になった。


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