ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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昨日は大変失礼しました、庭がひどい有様になってしまって大変でしたorz


第504話 陽乃の贈り物

「そっかぁ、他のみんなはソレイユのブースにいるんだね」

「それに比べてあーし達は……」

「ま、まあ俺としては頑張れとは言えないが、程ほどにな……」

 

 団欒の最中、話がコミケの話に及ぶと、

結衣と優美子の二人はそう言ってどよんと落ち込んだ。

 

「そもそも何で海老名さんを手伝う事になったんだ?」

「ええと、最近あんまり一緒に遊べなかったから、今年くらいは手伝おうかって」

「美しい友情ってやつか」

「まさかこんなに精神的にくるとは思ってなかったし……」

「二人はそっち方面には疎そうだしなぁ……」

「あたし達もそっちのイベントに参加したかったなぁ……」

「実はコスプレ要員を頼むつもりだったんだけど、

さすがに当日は手伝いで無理だろうと思って諦めたんだよな」

 

 八幡にそう説明され、二人は何ともいえない表情をした。

 

「それってナースとかバニーとか?」

「何でだよ、ソレイユのブースなのにそんな格好をする必要は無いだろ、

そもそも俺はあれをコスプレとは認めん」

「えっ、それじゃあヒッキーは、どういうのがコスプレだと思ってるの?」

「アニメや小説等の、架空の服装以外、俺は認めん!

そもそもナースだの何だのは、仕事で必要な制服じゃないかよ、

そんなのその職業の方に失礼だろ」

「うわぁ、偏ってる……」

「さすがというか……」

「とにかくそういう事だ」

 

 八幡はそう言いながら、ぐびっと飲み物を飲んだ。

そして二人は、今度は明日奈にこう質問した。

 

「それじゃあ明日奈はその日、コスプレをするの?」

「ううん、私や里香や珪子はそういうのはちょっと……

もちろんやりたいって思いはあるんだけど、環境がどうしてもね……」

「環境?」

「問題は、SAOでのキャラが、現実の顔を完全にトレースしてるって部分だな、

こう言えば説明しなくても分かるよな?」

 

 八幡にそう言われ、二人はハッとした顔で頷いた。

 

「そっかぁ、確かにそれは危ないかもね」

「もし何かあったら困るしね」

「まあそういう事だ」

 

 八幡は頷き、結衣は何となしに、隣にいた優里奈を見ながら言った。

 

「それじゃあ優里奈ちゃんは?」

「確かに優里奈なら、世界を狙える器だし」

「優美子はどこを見て言ってるんだ」

「胸」

「お前は相変わらず男前だよな……」

「で、どうなの?」

「高校生にそういう事はさせん」

「うっわ、ヒッキーってば頭が昭和じゃない?」

「何とでも言え、駄目なものは駄目だ」

「うわぁ、頑なだねぇ」

 

 そう言いながら結衣は明日奈の方を見た。明日奈はそれに対して首を振り、

この話題に関してはどうしようもないというゼスチャーをした。

 

「でも何で高校生は駄目なの?」

「まあこのご時勢、会社としては何か問題があったら困るからな」

「それはそうかもだけど、昼間だけなら平気じゃない?」

「ALOの装備はそれなりに露出が激しいからな、

特にこういうイベントだとそうならざるを得ない事からの判断だな」

「そっか、まあ仕方ないんだろうけど、優里奈はどう思ってるの?」

 

 優美子が優里奈にそう尋ね、優里奈は迷いの無い瞳でこう言った。

 

「八幡さんに頼まれたら普通にやりますけど……」

「だってよ」

「少なくとも卒業までは頼まないから問題ない」

「他の高校生チームが納得してなさそう」

「問題ない、きっと分かってくれているはずだ、

それにあいつらの年齢的に、我慢してもらうのは今年だけだしな」

 

 八幡はこう考えていたが、高校生チームはもちろん納得していない。

 

「まあそういう事ならこの話はそれでいっかぁ、

それにしてもコスプレ、してみたかったなぁ、多分ALOのキャラの服装なんだよね?」

「まあそうだな」

「あーしもそれくらいならしてみたかったかも」

「あ、私も私も」

「………」

 

 一緒に同意してくるかと思われた優里奈は、この時は少し悩んだような顔で無言だった。

それを訝しく思った明日奈が、優里奈にこう尋ねた。

 

「優里奈ちゃんも、機会があったら着てみたいよね?」

「あ、はい、それはもちろんなんですけど……」

「ん、どうしたの?何か困ってるように見えるけど」

「ええとですね……」

 

 そして優里奈は、明日奈の耳元でこしょこしょと何か囁いた。

それを聞いた明日奈は目を丸くした。

 

「えっ、それ本当?」

「は、はい、少し前に直接こちらに……」

「なるほど、そうかそうか、結衣、優美子、ちょっと寝室に来てもらっていい?」

「ん?何かあった?」

「いいからいいから」

「ほら結衣、さっさと行くし」

「優美子、行動早すぎ……」

 

 そして四人は寝室の方へと消えていき、

その場にはまったく事情が分からない八幡だけが残された。

 

「説明くらいしてくれてもいいだろうによ……」

 

 八幡は少し寂しそうにそう呟き、その直後に目を鋭くして周囲を見回した。

 

「何だ……?窓の方から何か視線を感じた気がしたが……」

 

 八幡はそう呟き、窓からベランダに出た。

とはいえこの辺りでこの部屋を覗けそうなビルは、ソレイユの本社ビルしかない。

 

「さすがにこの時間に働いてる奴は……ああ、開発室と社長室の明かりはまだ点いてるな、

あのワーカーホリックどもが、もうちょっと休めっての」

 

 八幡は自分の事は棚に上げ、そう言うと、少し涼んだ後に部屋に戻った。

そこに広がっていたのは、思いもよらない光景だった。

 

「な、何だその格好は……」

 

 そこにはかつてヴァルハラ・リゾートが出来る前に、

ALOの中で着ていた装備を身にまとった結衣と優美子と、

血盟騎士団の制服に身を包んだ明日奈の姿があった。

 

「………は?………はぁ?」

 

 よく見ると色々とおかしい部分があったが、

三人が着ているのは、八幡が言うところの真のコスプレで間違いなく、

戸惑いながらも八幡は、辛うじて三人を褒める事に成功した。

 

「よ、よく似合ってるぞ三人とも」

「だってよ」

「いえ~い」

「やりぃ」

 

 三人は手を取り合って喜び、八幡はそんな三人に、何がどうなっているのか説明を求めた。

 

「昼間に姉さんが持ってきたんだってよ、没になった衣装なんだって」

「……あの馬鹿姉、何を考えて血盟騎士団の制服なんぞを発注しやがった……」

 

 八幡はあきれつつも、三人の格好をじっと眺めた。

 

「……明日奈」

「何?」

「それ、自分でもおかしいって気付いてるよな?」

「まあね、お腹の部分の布がバッサリカットされちゃってるから、まあ普通気付くよね」

「……ちょっと露出が激しくないか?」

「まあ夏だからいいんじゃない?八幡君以外が見る事は無いと思うし」

「……………そうか?」

「だってここに持ってきたって事はそういう事じゃない?

さすがに和人君の前でこんな格好をする事は無いと思うし」

「……………………まあいい」

 

 その会話通り、今明日奈が着ている血盟騎士団の制服は、

ビキニタイプというべきか、上下で分かれるような作りになっていた。

その分露出がとんでもないが、それが似合う分、八幡はそれ以上何も言う事が出来なかった。

 

「で、結衣、その格好さぁ……」

「分かってる、分かってるから!自分でもまさか、あの装備を服にすると、

こうなるなんて予想もしてなかったし」

 

 かつての結衣は、正面に意匠の施されたブレストプレートに、

剣のような飾りが裾をぐるっと取り巻いている鉄のスカートをはいており、

全体的に、シュッと細いイメージだった。

その装備が柔らかい布になるとどうなるか、結果は火を見るより明らかである。

 

「というかこれ、ただの水着みたいになっちゃってるね、胸の飾りも歪んでるし、

時間が無かったとはいえ、もう少し素材をどうするか考えるべきだったよねぇ」

「まあさすがは没衣装というべきだし」

「八幡君も、目のやり場に困ってるよ」

 

 そして最後、優美子の衣装は普通の法衣だったのだが、

元々のデザインがそうであるように、内もものところが大きく露出されている。

これはALOの装備によく見られる傾向であるが、

今回の場合、そこから覗いているのは、下着ではないのにも関わらず、

どうしても下着にしか見えない為、八幡はさらに挙動不審になった。

 

「………あんた、どうしたの?」

「いや、だってお前それ、色々とまずいだろ」

「思春期か……」

「う、うるさい」

 

 そして最後、優里奈の出番であるが……

 

「優里奈、準備は出来た?」

「優里奈ちゃん、大丈夫?」

「優里奈ちゃん、ここにはヒッキーしかいないから気にせず出ておいで」

「は、はい………」

 

 そう言いながら、優里奈はおずおずと寝室から出てきた。

その格好は、ユイの妖精バージョンの服であった。

 

「うわぁ………」

「ユイちゃんが成長するとこうなるみたいな?」

「優里奈、ちょっとその胸を少しあーしに分けろし」

「優里奈ちゃんと結衣が並ぶと、迫力だねぇ……」

「あーしと明日奈も普通にある方ではあるけど、これはさすがに……」

「ほら八幡君、褒めて褒めて」

「………優里奈、よく似合っててかわいいと思うぞ」

 

 そして四人はお互いの格好を批評し合っていたが、

その横で八幡は、下を向きながらガシガシと頭をかいていた。

 

「お前ら、かわいいのは分かったからそろそろ元の服装に着替えようぜ、

さすがにこのままだとまともに顔を上げられん」

「あ、じゃあその前に写真を撮ろうよ」

「そうだね、せっかくだしね」

「八幡、シャッターお願い」

「ま、まあそれくらいなら……」

 

 そう言いながら八幡は、スマホごしに四人の姿を見たのだが、

四人がそれぞれ大胆なポーズをとっていた為、スマホで隠れてはいたものの、

八幡の目は盛大に泳ぎまくっていた。

 

「………よし、はいチーズ」

 

 だがそれで終わりな訳はなく、当然次は、八幡と一対一での撮影が始まった。

八幡はそこで強化外骨格を駆使し、そのある種拷問のような、ご褒美の時間を耐え切った。

 

「最後に全員で写真を撮りたいよねぇ」

「どうしよっか」

「う~ん」

 

 その時入り口の扉が突然ガチャガチャと音を立て、そこから陽乃が中に飛び込んできた。

 

「ね、姉さん!?」

「社長!?」

「間に合った……ほうほう、これは中々……」

 

 陽乃はじろじろと四人の格好を見て、満足そうにうんうんと頷いていた。

それで八幡は、さっき感じた視線が、陽乃のものだった事を確信した。

 

「………おい馬鹿姉、お前、社長室からこっちの様子を伺ってやがったな」

「当たり前じゃない、この為に昼に衣装を持ち込んだんだから!」

「開き直りやがって……」

「さあ八幡君、スマホを貸して、私が写真を撮ってあげるわ」

「はぁ………それじゃあお願いします」

「任せて!」

 

 そして写真を撮り終わると、陽乃は仕事があるからと、風のように去っていった。

五人は目を点にし、陽乃の背中を呆然と見送っていた。

 

「この為だけに、走ってきたのかな……」

「まあ本人が嬉しそうだったからいいんじゃね?」

「確かに社長、絶対に今夜着るようにってほのめかしてきましたし……」

「まあいいだろ、ほらお前ら、そろそろ着替えろよ」

「え~?そんなのもったいないよ」

「そうそう、せっかくかわいいって言ってもらえたんだし」

「八幡、もう少し我慢しろし」

「まじかよ……」

 

 こうしてこの日の晩、結衣と優美子は二泊目に突入する事になり、

明日奈と優里奈も交え、四人は寝室で楽しそうにしていた。

そして次の日、さすがに送っている時間が無いからと、

八幡と明日奈だけがそのまま学校に向かい、優里奈達はそれを見送った。


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