ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第507話 八月八日・超えられない壁

「いくぞ!今日こそ憎きヴァルハラに、鉄槌を下してやれ!」

「突撃、突撃!」

「敵の主力は不在だ、今がチャンスだぞ!」

 

 連合の中の、まとめ役を努めている何人かが、メンバー達をそう煽り、

各プレイヤーは、殺せ殺せと叫びながら突撃していった。

コマチとレコンは、アルゴに言われていた通り、即座に敵を釣るのをやめ、引き返した。

 

「敵襲!フォーメーションを組め!先頭はユイユイとセラフィム、

中央に私とクリシュナ、物理アタッカーは左右に展開、魔法アタッカーは後方へ!」

「私も回復を補助するわ!」

「私も微力ながらお手伝いします!」

「私もここは、回復メインでいきます!」

 

 現在残った唯一の専門ヒーラーであるメビウスがそう指示を出し、

リーファとユイとシリカがそう申し出た。

どうやらユイは、その戦闘NPCとしての能力を、ヒール関係に特化させたようだ。

妖精形態のまま、メビウスの肩に乗り、回復対象がかぶらないように声を出しつつ、

ユイはとてもNPCとは思えない、的確な回復支援を行っていた。

 

「敵の魔法部隊を散弾で抑えるわ、援護よろしく」

 

 シノンのその宣言に答えたのはコマチだった。

 

「お待たせ、その援護、コマチに任せて!」

 

 コマチとレコンも無事に仲間の下へと戻り、後衛陣のガードについた。

 

「ありがとう、それじゃあ攻撃を開始するわね」

「その背中、コマチが預かった!」

 

 その瞬間にクリシュナから、遠隔攻撃関連のバフが飛ぶ。

射撃の瞬間にシノンの体が光り、シノンが放った弓は、

敵の魔法使い達が詠唱に集中出来ないように、散弾となって敵に降り注いだ。

これは例の、以前ハチマンにもらった弓の効果である。

 

「くそっ、あの弓使いを狙え!」

「却下、ここは通さない」

「おらおらおらぁ、通れるものなら通ってみなよ!」

 

 セラフィムとユイユイは、近場を通過しようとする敵にシールドバッシュをかまし、

敵の進路を塞ぎながら、遅滞戦闘を行っていた。

 

「くそっ、二人しかいないくせに!」

「大きく回りこめ!敵は少数だ、数の力で押せ!」

「俺達がお前らを簡単に通すとでも?これでもタンク経験だってあるんだぜ」

「侍なめんなよ!時代劇で学んだ殺陣の技術が火を噴くぜ!」

「いやクライン、力が抜ける事を言うなよ……」

 

 そう漫才のようなやり取りをしながらも、エギルとクラインは、

敵をノックバックさせる事に重点を置きながら、敵の侵入をほとんど防いでいた。

 

「くそっ、主力がいないくせに手ごわい」

「中々突破出来ねえ!」

 

 連合のプレイヤー達が口々にそう叫ぶ中、クラインとエギルはそれに反論した。

 

「主力がいない?お前ら何を言ってるんだ?うちは全員が主力だっつの」

「俺達なら簡単に倒せるとでも思ったのか?

そんな甘ったれた奴らに、俺達が倒せる訳が無いだろ」

「そうそう、君達如きの相手は、私達で十分だよ、私達で十分だからね!」

 

 メビウスが何故かその辛辣なセリフを二度言い、

連合のプレイヤー達は、皆頭に血をのぼらせた。

 

「くそが!絶対に全滅させてやる!」

「進め、進め!突破さえすればこっちの勝ちだ!」

 

 

 

「どうしようかなぁ……久々に大きいのを撃ちたいんだけどなぁ……

でも仲間の成長も見守りたいし、でもそろそろかなぁ……う~ん」

 

 一人ログアウトしたフリをし、その場に残っていたソレイユは、葛藤していた。

ハチマンの予定だと、ここでソレイユが奇襲ぎみに大きな魔法をぶつける予定だったのだが、

ソレイユは仲間達が奮戦しているのを見て、

どうやら介入のタイミングを逃してしまったようだ。

それでもそろそろ姿を現そうかと考えた矢先、メビウスの先ほどのセリフが聞こえた。

 

「そうそう、君達如きの相手は、私達で十分だよ、私達で十分だからね!」

「うわ、先を越された上に二回言われた……もしかして念を押されちゃった!?」

 

 ソレイユはそう考え、益々動けなくなっていた。

丁度そこに、ハチマン達が再ログインしてきた。  

 

「おい馬鹿姉、何をやってやがる」

「あ、みんな戻ってきちゃったんだ、それがさぁ……」

 

 ソレイユはハチマン達に状況を説明し、判断をハチマンに丸投げする事にした。

 

「なるほど、そうなるとどうすっかなぁ……」

「確かに新規加入組の実戦経験が足りないのは確かなんだよね……」

「だよねだよね、ユキノちゃんはどう見る?回復は足りそう?」

「見た感じ、まだ魔法アタッカーがほとんど動いていないから、

ここで敵を引き付けて、大きいのをくらわすつもりじゃないかしら、

そうなったら回復の負担も減ると思うわ」

「俺もそう思うな、あいつら何かアイコンタクトしてるし、あっ、ほら、

タイミングを合わせるように詠唱を始めた、そろそろくるぞ」

 

 キリトもそれに同意し、ハチマンはとりあえず、その時を待つ事にした。

 

「それじゃあもう少し様子を見るか」

「そうだね」

「おっ、ついにか」

 

 そして五人が見守る中、イロハ、ユミー、フェイリス、クリスハイトの魔法が発動した。

 

「もうすぐ突破出来るとか思っちゃいましたか?

すみませんが、そうはならないんですよね、範囲拡大アースウォール!」

 

 クリスハイトがそう言って、敵を囲むように土壁を隆起させた。

 

「うわ、今の聞いたか?あいつの性格の悪さが滲み出てるよな」

「もうハチマン君ったら、そういう事を言わないの!」

「ユキノジャベリン!もといアイスジャベリン!」

 

 そしてイロハの氷魔法で作り出された槍が、上空から敵に降り注いだ。

 

「………ねぇ、今イロハさん、私の名前を魔法名扱いしてなかった?」

「ああ、そういえばこの前、アイスジャベリンを使うお前の姿を見て、

私もあれを使いたいとか熱心に言ってたな」

「だからといって、名前まで変えなくても……」

「ああもうきもい、うざい、しつこい、さっさと消えな、回転型ゲヘナフレイム」

 

 そしてユミーが冷たい目で放った魔法は、通常の炎魔法にアレンジを加え、

まるでミキサーの刃のように、炎が回転する魔法であった。

 

「おっ、珍しい魔法だな」

「呪文をアレンジ出来るようになったんだ、やるなぁ」

「ユミーも強くなったものね」

「最後はフェイリスか、まあアレだろうな」

「うん、アレだよね」

「あれはフェイリスちゃんのお気に入りだしねぇ」

 

 そして最後にフェイリスが、高らかにこう叫んだ。

 

「リングスライサー!要するに気円ニャン、改!」

「お、今改って言ったか?」

「どうなるのかしら」

 

 フェイリスが放った光の輪は、敵の中央に達した瞬間、いくつもの輪に分かれ、

四方八方へと飛んでいき、敵を切り裂いた。

 

「これ、広い所だと避けやすいかもしれないが、

こうして狭いフィールドに閉じ込められるとかなりえげつないな」

「高さも太ももの辺りの一番避けにくい所を通過してるしね」

「そこまで考えて呪文をアレンジしたのか、さすが研究熱心だな」

「しかもあれ、中々消えないんだよね」

 

 その瞬間、自陣から何人かのプレイヤーが飛び出した。

フカ次郎、アルゴ、キズメル、リズベット、リーファである。

 

「お待たせしました、フカちゃん降臨!」

「たまにはオレっちも運動しないとナ」

「キズメル、参る」

「あんた達、一人も逃がさないわよ」

「回復メインはここまでよ、この私の剣の錆になりなさい!」

 

 そして混乱する敵の魔法使いを中心に、五人は思うままに蹂躙し、

他の仲間達も、フレンドリーファイアにならないように気を遣いながら、

残る敵に激しい攻撃を加えた。

 

「今の攻撃で、敵は半分くらいにはなったかな?」

 

 その時敵の方から、聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「お、おい、これはさすがにやばくないか?」

「大丈夫だ、援軍の第二陣がもうすぐ到着する、

五十人くらいは確保する事に成功したらしい」

「そうか、それじゃあこのまま人海戦術で押しだな!」

 

 それを聞いたソレイユは、うずうずした表情でハチマンに言った。

 

「ハチマン君、だってよ?」

「………はぁ、分かりましたよ、ユキノ、俺達が外に出たら入り口を塞いでくれ、

キリトとアスナはその後、ユキノと三人でこっちの敵をさっさと全滅させてくれ」

「「「了解」」」

「それじゃあ二十秒後な」

 

 そしてハチマンはソレイユの手を握り、呪文を唱え、その姿を消した。

そのきっかり二十秒後、ユキノの魔法が発動し、

いきなり連合のプレイヤーの背後に巨大な氷の壁が作り出された。

 

「ブリザードウォール」

 

 その壁は、触った者を凍りつかせ、吹き飛ばす仕様になっており、

飛行が不可能なこの場所では、凶悪すぎる性能を誇っていた。

 

「なっ……何だ!?」

「ま、まさか絶対零度が……」

「だってあいつ、ヒーラーだろ?」

「馬鹿野郎、プレイスタイルを決めるのはプレイヤーであり、

別にそういう職業がある訳じゃねえよ!ただ便宜的に分類されてるだけだ!

変な思い込みを持つと、死ぬぞ!」

「す、すまねえ」

 

 そしてユキノが姿を現し、連合のプレイヤーの中からこんな声が聞こえた。

 

「くそ、主力の一人が戻ってきちまった……」

「いや、最初からいたけど見物してただけだぞ?」

 

 その声に呼応するかのように、キリトが続いて姿を現す。

 

「く、黒の剣士……」

 

 そして最後の一人も姿を現した。

 

「そうそう、うちの仲間達は頼りになるから、

何もしなくてもあなた達は全滅してたと思うんだけど、

それだと暇すぎるから、参加する事にしただけだよ」

「バーサクヒーラーまで……」

 

 そして三人は先頭に歩み出て、攻撃体制をとった。

 

「さて、第二ラウンドだ」

「ちっ、し、しかしまだこっちには援軍がいるんだ、

あの氷の壁が、効果時間を過ぎて消えた時が、お前らの最後だ!」

「ん?それならハチマンとソレイユがもう対処してると思うけどな」

「な、何だと……」

 

 その瞬間に、すさまじい炸裂音と共に、大地が揺れた。

 

「ほらな」

「ま、まさか……」

 

 そして氷の壁が消え、その向こうに立っていた人物が、

連合の生き残ったプレイヤー達に、軽い調子で挨拶をした。

 

「よっ」

「ザ・ルーラーだ!」

「くそ、ハチマンめ……」

「もちろん私もいるわよ」

「絶対暴君……」

「いつの間に後ろに……」

 

 そして連合のプレイヤー達を見ながら、ハチマンはにやりと笑いながら言った。

 

「さて、それじゃあ大人しくここで死んでくれ、今日はオレの誕生日なんでな」


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