ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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熱はある程度下がりましたが、喉が駄目なので咳をする度に熱っぽい感じになる状況です、復調まではもう少しかかりそうですが、量を減らしてちょっとずつ書いていきますので、次の投稿は27日木曜を予定しております、申し訳ありませんorz


第517話 五人目

 一方未来ガジェット研究所のラボに集まる女子高生チームであるが、

こちらは衣装の決定に悪戦苦闘していた。

 

「一応まだ仮縫いの段階だけど、どうかな?」

 

 まゆりが様子を伺うように、そう尋ねてきた。

 

「う~ん、フェイリス的には、まだまだ攻められる気がするニャ」

「えっ、わ、私としては、これでも攻めすぎな気がするんだけど……」

「クーニャンは甘いニャ、ここはコスプレ一級鑑定士のダルニャンの意見を聞くのニャ」

 

 そして衝立の向こうにいたダルが呼び出された。

どうやらダルが覗いたりする可能性は誰も考えていないらしい。

こういう所は信頼度の高い変態紳士である。そしてダルは大真面目な顔でこう論評した。

 

「別にいいんじゃない?かなりレベル高いと思うお」

「う~ん……」

「フェイリスたん、何か気になるの?」

「今回は相手が相手だからニャ……」

 

 そして詩乃が、フェイリスの危惧を代弁してダルにこう質問した。

 

「要するにこういう事ね、ねぇダル君、

今の私達を、例えばいろはさんはクルスさんと比べたとして、

ダル君が心惹かれるのはどっち?」

「それはもちろんいろはたんとクルスたんだお」

「やっぱり……」

「あっ、そう考えると確かに何かが足りない気はするかも」

「何が足りないのかしらね、露出はそこまで変わらないと思うんだけど」

 

 ダルはそう問われ、少し考えた後にこう答えた。

 

「それはやっぱりプロ意識だと思うお、あっちのメンバーは何というか、

人に見られる事に慣れている人が大半だけど、

こっちはフェイリスたんはそれなりに場数を踏んでいるとは思うけど、

メイクイーンもやっぱりそこそこ閉じたコミュニティのカテゴリーだし、

常に他人の目を意識して動いてるいろはたんとか、

時には広報として表に出る薔薇たんや、色々なイベントに参加して、

賞をとった事もあるらしい由季さんと比べるとちょっとねぇ」

「何故由季さんだけさん付けなのかはこの際置いておいて、

確かにそう言われるとそうかもしれないわね、

私なんか外との接点は、雑誌のインタビューとかだけだし」

 

 紅莉栖はその言葉にあっさりと同意した。

 

「私もそもそも他人と話すようになったのは最近だし……」

「私も社交的な方だとは思うけど、基本学校内での事だから、

不特定多数の人相手ってなるとどうだろうね」

 

 詩乃と椎奈の感想はそんな感じであった。

 

「それだけじゃなく、敵の精神状態を語る上で、外せない要素が他にもあるニャね、

これがあるのと無いのとでは、テンションがまったく違ってくるはずなのニャ」

「そんなに大事な要素が他にあったかしらね」

「分からないかニャ?八幡の目ニャ」

「あっ」

「確かに……」

「打ち合わせや練習段階で、あの八幡のけだもののような目でなめまわすように見られたら、

もうそれだけで妊娠確実なくらいテンションが爆上げニャ!」

 

 そのフェイリスの言葉に、紅莉栖以外の二人はうんうんと頷いたが、

当然八幡にそんな特殊能力は備わっていない。

仕事として見学してはいるものの、別にけだもののような目はしていないし、

なめまわすようにじろじろと見てもいない、とんだ風評被害である。

 

「つーかさ」

 

 ダルはおかしな方向に進んだ議論をまともな方向に戻そうと、

一つの問題点を提示する事にしたようだ。

 

「そもそも頭数が足りなくない?」

「ダルニャンのその意見はよく分かるのニャ、

でも八幡の周りで当日フリーの高校生となると、この四人くらいしかいないのニャ」

「なるほど……あっ、そういえば……」

 

 その言葉でダルは何か思いついたようだ。

 

「そういえば、前に聞いた事があるんだけど、

八幡の母校の部活に、美少女の後輩がいるって」

「そうなの?」

「その子を何とかスカウト出来ないかな?」

「でも伝手が……」

「それならクラインさん経由でサイレントさんに頼めばいけるかも、

確か八幡の恩師のはずだし」

「それニャ!」

「よし、思いついたら即行動あるのみ!」

 

 詩乃は自らの提案を実現すべく、即座にクラインに連絡し、

クラインは保証は出来ないが、話だけは伝えると約束してくれた。

予想に反してすぐに連絡があり、今日は夏休みながら静が学校におり、

たまたまその女生徒が夏期講習で登校しているとの事で、

幸運にも直ぐにアポをとる事が出来た。

 

「という訳で、いざ総武高校へ突撃よ!」

「「「おー!」」」

 

 まゆりとダルを留守番として残し、四人はその日の午後、

八幡の母校である総武高校へと向かう事となった。

ちなみに目印とされたのはフェイリスのネコ耳メイド服だった為、

四人は問題なく静と合流する事が出来た。

 

「君達と現実で会うのは初めてだね、夜野君だけは本当に初めましてだが、

とにかく総武高校へようこそ」

「うわぁ、静先生って大人って感じで素敵ですね」

「綺麗ニャ……」

「ふふっ、昔はそう言われると、婚期について考えてしまって落ち込みもしたものだが、

私ももうすぐ結婚する身だし、今は素直にそう言ってもらえて嬉しいと思うよ」

 

 そして詩乃が代表してお礼を言い、三人もそれに合わせて静に頭を下げた。

 

「静先生、今日は急な頼みを聞いて頂いてありがとうございます」

「ありがとうございますニャ!」

「お手数をおかけしてすみません」

「ありがとです!」

 

 そう言われた静は、微笑みながら四人に言った。

 

「まあ私も実は、あの子の内向的な部分には手を焼いていたところでね、

この提案は渡りに船だったよ」

「凄く大人しい子なんですか?」

「大人しいというか、そうだな……

ちゃんと仲の良い友達はいるから別に孤立しているとかではないのだが、

どうにも世界が狭いというか、積極性に欠けるというか、そこがとても気になるのだよ。

まあ比企谷絡みで多少煽ってくれれば、負けず嫌いだし、

すぐに乗ってくると思うから、その辺りは何とかやってみてくれたまえ、

別に失敗しても何か問題がある訳じゃないから気楽にな」

「分かったのニャ」

「はい、やってみます」

「大抵の事は私が言い負かしてみせますから」

「ははっ、さすがのあの子も、牧瀬君の相手をするのは荷が重いだろうね」

 

 どうやら静は紅莉栖の事をよく知っているようだ。

ちなみにこれは、彼女の正体を八幡から聞かされ、同僚に彼女の事を尋ねた結果である。

その同僚は紅莉栖の事を、二十年に一度の天才と評していた。

これは蛇足だが、その同僚は、茅場晶彦の事は百年に一度の天才と評していたらしい。

 

「微力を尽くします、八幡をぎゃふんと言わせるのに、

仲間は一人でも多い方がいいですからね」

「ははっ、君もかなりの負けず嫌いなようだね」

 

 静は面白そうにそう笑うと、四人を奉仕部の部室へと案内した。

 

「ここが奉仕部……」

「始まりの場所……」

 

 紅莉栖が思わずそう呟いたのを聞き、静は興味深げに言った。

 

「面白い事を言うね、始まりの場所か……

確かにここは、比企谷にとっては始まりの場所と言っても差し支えないかもしれない」

「実は本人がそう言ってたんです」

「なるほどな、さて、それじゃあご対面といくか、私だ、入るぞ!」

 

 静はそう言って、ノックと同時に奉仕部の部室の扉を開けた。

 

「………先生、いきなり扉を開けるのはやめて下さい」

「ちゃんとノックをしたじゃないか」

「同時に扉を開けたらノックの意味が無いです、

意味が無いという事は、つまりノックをした事実は無かったと言っても、

あながち間違いではないという事です」

「ほら、いきなりこれだ、な、理屈っぽくて負けず嫌いだろ?」

 

 静は留美に苦笑しながらそう言った。

 

「先生、私はそんなんじゃありません、先生に人の道を説いているだけです」

「分かった分かった、今後気を付ける。

という訳で鶴見君、君に会いたいという人達を連れてきた。

さっき説明したと思うが、比企谷に近しい人達だ、仲間と言い換えてもいい」

「はい、もちろん覚えています」

 

 そして留美は立ち上がり、四人に挨拶をした。

 

「初めまして、奉仕部部長の鶴見留美です」

「えっと……」

「雪乃ニャ?」

「驚いた、雰囲気が凄く似ているわね」

「よく言われます」

 

 留美はあっけらかんとそう言い、静が出て行った後、四人にお茶を勧めた。

 

「どうぞ」

「ありがとう!」

「うわぁ、美味しい」

「うちのお店でも出せるレベルニャ」

「このティーセットも、雪ノ下先輩が残していってくれた物らしいですよ」

 

 留美はそう言いながら、自分の分のお茶を入れ、四人にこう切り出した。

 

「で、今日は私に何の用事でしょうか」

「うん、実はね」

「単刀直入に言うニャ、コミケのソレイユブースに乱入して、

八幡に高校生チームの底力を見せつけてやる手伝いをしてほしいニャ」

「コスプレして乱入するんだよ!」

「私達の不参加を決めた事を後悔させてやるんだから」

 

 留美はそう言われ、しばらく沈黙した後に首を傾げた。

紅莉栖は三人の説明の下手さに頭を抱えながら、事の次第を留美に説明し始めた。

 

 

 

「なるほど、お話はよく分かりました」

「ごめんなさいね、この三人は感覚派だから……」

「うぅ……」

「返す言葉もないニャ……」

「ごもっともで……」

「で、どう?やってみない?」

 

 ここで留美は、予想に反して考え込むそぶりを見せた。

予想だと、ここであっさりと断られると思っていた四人は、

どうやって説得するかだけを考えていた為、一瞬言葉に詰まった。

 

「そうですね……」

 

 このところの留美は、密かにストレスを溜めていた。

知り合い連中で遊びにいこうという八幡との約束が、まだ果たされていないからだ。

この機会に八幡を問い詰めれば、その約束は限りなく実現に近くなるだろう。

だが留美としては、かつてのクリスマスイベントの時にそうだったように、

八幡の方から誘って欲しいと考えていた。

今回の提案を受け、自分からおねだりをするような形になったら、

まるで自分が八幡に好意を持っているみたいではないか。

留美はそう考え、さりとて待ちきれないという気持ちも少なからず存在する為、

葛藤に葛藤を重ね、ハッキリと返事をする事が出来ないでいた。

そんな留美の心に、アドリブのきく椎奈がスルリと入り込んだ。

 

「迷ってるみたいだけど、いくら考えても答えは出ないと思うよ、

そういう時は、とりあえず会ってみればいいんじゃないかな」

「とりあえず……会う?」

「そう、留美ちゃんと八幡さんの間がどんな関係なのかは分からないけど、

一人で溜め込むくらいなら、言いたい事をバシッと直接言ってみて、それでも駄目なら……」

「駄目なら………諦めるの?」

 

 留美がか細い声でそう尋ねてきた。

それに対して椎奈はぶんぶんと首を振り、悪そうな顔で言った。

 

「八幡さんの頬を引っぱたいて、無理やり言う事を聞かせるのよ!」

 

 他にも色々な手段はあると思われたが、椎奈が選択したのはこの言葉だった。

そしてそれは、負けず嫌いでやや好戦的なところのある留美の好みにピタリとはまった。

 

「八幡さんと昔知り合いだったって言うなら、五年前とかだよね?

その頃の留美ちゃんは多分小学生でしょ?

多分八幡さんは、まだその頃のイメージが抜けてないと思うし、

この辺りで一つ、バシッと言ってやるべきだと思うな、

私はもう子供じゃない、立派なレディーよ、ってね!」

「や、やっぱりそうかな?」

「そうそう、八幡は言わないと分からないところがあるからニャ」

「普段は理屈っぽい癖にね」

「時々女心をまったく分かってないんじゃないかって思うわよね」

 

 他の三人もそれに同意し、留美もその言葉に背中を押されたのか、笑顔で四人に頷いた。

 

「分かりました、そのイベント、私も参加します」

「やった!」

「これで一人確保ニャ!」

「ありがとう留美ちゃん!」

「さて、あとはもう一人、どうしても確保したい子がいるわね」

 

 喜ぶ三人を尻目に、紅莉栖が突然そう言った。

どうやら紅莉栖には、他にも誘いたい者がいるようだ。

 

「他に高校生なんかいたっけ?」

「いるじゃない、とんでもない最終兵器が」

「えっと……」

 

 そして紅莉栖は、その女性の名を口に出した。

 

「今おそらく明日奈さんの次に八幡に近い存在、

そしていつも私達もお世話になっているあの子よ」

「あっ」

「そ、そうだったニャ……あの子も高校生だったのニャね」

「だ、誰?」

 

 唯一接点の無い椎奈以外の二人は、その言葉にハッとした。

そして紅莉栖は、厳しい顔つきでこう言った。

 

「櫛稲田優里奈、あの子の参加の是非が勝敗を分ける事になるわ」




熱はある程度下がりましたが、喉が駄目なので咳をする度に熱っぽい感じになる状況です、復調まではもう少しかかりそうですが、量を減らしてちょっとずつ書いていきますので、次の投稿は27日木曜を予定しております、申し訳ありませんorz

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