次の投稿は30日日曜日を予定していますが、その辺りからペースを徐々に上げていきたいと思っています、お待たせして申し訳ありません!
櫛稲田優里奈は、いきなり自宅に三人の知り合いと、
二人の見知らぬ少女が尋ねてきた為、とても戸惑っていた。
「初めまして、私は夜野椎奈、詩乃の同級生にして親友だよ」
「鶴見留美です、八幡の後輩で、総武高校で奉仕部の部長をやっています」
「これはこれはご丁寧に、私は櫛稲田優里奈です、
ええと、今は八幡さんに保護されています」
優里奈は、知らない者が聞いたら間違いなく誤解されそうな事を平然と言った。
幸い二人は事前に説明を受けていたので誤解はしなかったのだが。
「あ、あの、鶴見さんは、雪乃さんのご親戚か何かで?」
「………やっぱりそこからきますか」
「え?あ、はい」
「よく言われますが違います」
「あ、そうでしたか、何かすみません」
「いえ、慣れているので平気ですが、いつかはこの関係を逆にしたいですね」
要するに留美が雪乃に似ているのではなく、雪乃が留美に似ていると言わせたいのだろう、
留美の表情から察するに、これはどうやら留美の密かな野望であるようだ。
だがこの時の留美は、本当に冗談のつもりでそう発言していた。
「雪乃さんは手ごわいですよ、頑張って下さいね」
しかし優里奈は留美に応援するような事を言い、留美は内心ぎょっとした。
どう見ても優里奈が本気で言っているように見えたからだ。
この時点で留美は、優里奈には冗談が通じないのかもしれないと感じていた。
それは正確ではないのだが、優里奈はその真面目さ故に、
冗談を冗談だと感じる範囲が狭いのは確かである。
「で、今日はどうしたんですか?八幡さんのマンションに集合じゃなく、
わざわざこっちの部屋に来るなんて」
「その前に優里奈ちゃん、ちょっといい?」
「え?やっ、あっ、ちょ、ちょっと……」
椎奈が突然優里奈の胸を揉み始め、一同は呆気にとられた。
そして椎奈は優里奈の胸からすぐに手を離し、次に自分の胸を揉み、
ひどく落ち込んだような表情でこう言った。
「ま、負けた……」
「あ、あの………」
困ったような顔をする優里奈に、椎奈が勢いこんでこう尋ねた。
「一体何をどうすればそこまで立派になれるの?」
その問いに、残りの者達はそ知らぬ顔をしていたが、
耳に神経を集中させ、一言も聞き漏らすまいとしているのが丸分かりであった。
唯一の例外が留美である。留美は小学生の時のイメージがあり、
八幡も再会した時にそんな目で見ていた為、気付かなかったのだが、
胸に関してはそれなりにある。その点は完全に同じ頃の雪乃を越えていた。
「別に変わった事は何も……」
優里奈の答えからは特に何か参考になるような事は何も引き出せず、
その場はがっかりとしたような雰囲気に包まれた。
そしてその場の重苦しい雰囲気に耐えられなくなったのか、
優里奈は本題について尋ねてきた。
「で、その、今日のご用件は一体………」
それで我を取り戻したのか、紅莉栖と留美が、二人で優里奈に説明を始めた。
これは先ほど感覚系と言われた二人が、説明する事を遠慮した結果である。
「実は、優里奈に私達と一緒にコミケにコスプレで参加して欲しいの」
「全員でコスプレして、ソレイユのイベントに乱入するつもり」
「なるほど、それは面白そうですね、とりあえず詳しいお話をお願いします」
この時点で五人は内心で、勝ったと思っていた。だがそれは苦難の始まりであった。
「お話は分かりました」
「そ、それじゃあ……」
「参加してもらえますか?」
「……ごめんなさい、どうやら私はご期待には添えないようです」
「ど、どうして!?」
「えっと、私がそういう格好をするのは、多分八幡さんが快く思わないと思うんですよ、
それにそもそも八幡さんが駄目というなら私はそれに従うだけですし、
私としては、可能な限り八幡さんの要望には答えたいと思っているので、
今回はごめんなさいという事でご理解をお願いします」
その優里奈の優等生的な返事に五人は天を仰いだ。
優里奈とほとんど接点の無い椎奈と留美でさえ、これは無理かもしれないと思わせる程、
そう語る優里奈の表情は、八幡への信用と信頼と信仰に溢れていたのだ。
「………これ、ちょっとまずい流れじゃない?」
「それでも彼女がいるいないでは私達の戦闘力が違いすぎるわ、何とか説得しないと」
「努力してみましょう」
そして彼女達は、優里奈を説得しようと必死で頑張った。
「八幡はネコ耳が好きなのニャ、だから一緒にネコ耳を付けてコスプレしてみないかニャ?」
「あ、そうなんですか?それじゃあ今度それで八幡さんのお世話をしてみようかな」
「嫌よ嫌よも好きの内って言うじゃない、
だから案外八幡も、優里奈の多少露出のあるコスプレ姿を喜ぶんじゃないかな?」
「ゲーム内での私の体型まで気にする八幡さんですよ?
家ならともかく外でそれはありえないです、必ず心配が先にたちます」
「ほら、私達って似た体型同士じゃない?だから優里奈ちゃんも、
好きな人に色々セクシーな格好を見せつけたいっていう私の気持ち、分かるよね?」
「それには同意しますけど、その為にプライベートの服装で工夫しているので、
今のところそれは間に合ってますね」
「八幡がぎゃふんとさせられる姿を見てみたいの、お願い、協力してもらえないかな?」
「あ、それなら今度紅莉栖さんが隣の部屋に泊まる時、
そうなるように色々仕込んでみますね、楽しみにしてて下さい」
「私は八幡に、私はもう子供じゃないってところを見せ付けてやりたいの、
優里奈さんもそういった気持ち、あったりしない?」
「私は家事を担当してる分、
たまに自分が八幡さんのお母さんになったような気持ちになる事があるんですよね……
子供っぽさを見せる為に、たまには思いっきり甘えてみるべきなんですかね……」
五人が何を言っても、中々優里奈の心の琴線に触れる事は出来なかった。
だが必ず何か、説得の手段があるはずなのだ。
優里奈は大人びて見えても、まだ自分達と同じ高校生なのだから。
「こういう時は怒らせるってのもありだと思うんだけど……」
「喜怒哀楽の怒って事ね」
「煽るにしても、煽りどころが謎よね」
それに対してフェイリスが、こんな事を言い出した。
「でも優里ニャンが怒ったところなんて、今まで一度も見た事が無いニャよね?」
「確かに私も無いわ……」
「確かに優里奈ちゃん、滅多に怒らなさそうに見える」
「そうすると……哀?」
「この状況からの泣き落としって、いかにもって感じでわざとらしく思われそうじゃない?」
「そうすると、喜か楽?」
その言葉に、椎奈がニヤニヤしながらこう言った。
「楽は楽でも快楽ってのは?」
「椎奈、あなたね……」
「でもありかもしれないニャよ、優里ニャンは絶対に八幡の事が大好きなのニャ」
「でもそれだと、プライベートで二人きりの時にいくらでも可能なのよね」
「それを言われると打つ手無しだね……」
そう話し合う五人に、優里奈はお茶を差し出してきた。
「まあ無理に私を誘わなくてもいいじゃないですか、
五人とも凄く魅力的なんだし、きっと八幡さんも何か感じてくれますよきっと。
という訳で皆さん、お茶をどうぞ」
五人はそれぞれ優里奈にお礼を言い、お茶を飲んで一息いれた。
それで落ち着いたのか、留美がこんな事を言い出した。
「要はつまり、ここで優里奈さんが参加しないと、
八幡が困るって思わせないと駄目という事よね?」
「そういう事になるニャね」
「その理論の構築は、さすがに無理があると思う」
「確かにねぇ……」
そこで椎奈が、首を傾げながらこんな提案をしてきた。
「正攻法じゃ無理筋かもだけど、ここは屁理屈でもいいんじゃないかな」
「屁理屈か………確かに」
「八幡に反抗する事を正当化するって、反抗期の演出?」
「その線で押してみましょうか」
「ここは優里ニャンの勉強の先生である、クーニャンにお願いするのがいいかも」
「屁理屈か……分かったわ、優里奈の真面目さにつけこんで、何とかしてみる」
そして紅莉栖は、にこやかな笑顔で優里奈に語りかけた。
「ねぇ優里奈、優里奈は八幡の言う事は基本ちゃんと聞いていきたいって思ってるのよね?」
「え?はい、そうですね」
「でもそれって本当にいい事なのかな?」
「えっ?」
「八幡からしてみれば、内心で優里奈に断って欲しいと思いつつも、
仕方なく何か無理なお願いをするってケースももしかしたらあるんじゃない?」
その発想は優里奈には無かったようで、優里奈は難しい顔をして考え込んだ。
「そ、それは確かにそうかもですね……」
「例えばお世話になってる知り合いに、優里奈とデートしたいと言われて、困った八幡が、
『一応本人に聞いてみますが、駄目だったら諦めて下さいね』とか返事をしたとして、
それで優里奈に、こう躊躇いがちに、『あいつと出かけてみたりする気はあるか?』
って聞いてきたとするじゃない、それで優里奈が『はい、分かりました』って返事をしたら、
八幡としては何ともいえない気分になると思うの」
「そ、それは……」
「その為にも、ここは一つ、いつも素直な優里奈でも、
八幡の意思に逆らってでも、やる時はやるってところを見せておく事も必要なんじゃない?」
「………それが今回のケースだと?」
「ええ、今回のケース、人前に出る時は優里奈は大人しめの格好でいればいいと思う。
それでも優里奈は目立つと思うし、参加だけしてくれれば何も問題は無いと思うの。
その上で、八幡と二人きりになった時に、上に着ていた服を一枚脱ぐとかして、
若干露出の高めな格好に変身して、その姿を八幡だけに見てもらうというのはどう?
多分八幡は、顔を赤くしながらも、優里奈の事を褒めてくれ、
かつ優里奈も自立している事を確認出来て、内心で安心するんじゃないかなって思うの」
「なるほど………」
優里奈がぐらついているのを見た他の四人も、ここで畳み掛けるように説得を始めた。
「それに都合のいい衣装は、うちのまゆしいがキッチリ仕上げてくれるニャ」
「確かALOにも、大人しめの衣装は沢山あるしね、何ならうちの制服でもいいと思う」
「いいね、ヴァルハラの軍服風の制服、あれを優里奈ちゃんが着たら、
八幡さんもきっと驚きつつも、嬉しく思ってくれるんじゃないかな」
「娘の心配をするのも保護者の努めだけど、
娘のかわいい姿を見れるのも、また保護者の特権と言うべきなのかもしれないわね」
「八幡は昔から押しに弱いから、将来の幸せの為にも、ここで優里奈さんも押すべき」
「………八幡さん、それで私の事を、少しは意識してくれるようになりますかね?」
この瞬間に、五人は勝利を確信し、同時に優里奈にこう言った。
「「「「「もちろん!」」」」」
「………分かりました、今回はあえて八幡さんの指示に逆らいます、
私もそのイベントに参加させて下さい」
「「「「「喜んで!!!!!」」」」」
そしてついに優里奈も折れ、イベントへの参加を承諾し、
ついに女子高生チームの戦力が、全て揃う事となった。