次の投稿は二日(火)、その次は四日(木)、そこからは毎日投稿に戻る予定です、
もしかしたら投稿出来ない日もたまにあるかもしれませんが、今後とも宜しくお願いします!
そして迎えたコミケ当日、ソレイユのスタッフ達は、前の日遅くから集合し、
会場設営の準備を着々と進めていた。
「ふう、こんなもんか?」
「そうだな、オレっちの方の準備は大体オッケーだゾ」
「こんな時間から悪いなアルゴ、それじゃあちょっと軽食でもとりながら休憩を……」
そう言って振り向いた八幡の目に、見知らぬ女性の姿が飛び込んできた。
「…………誰?」
「今自分で名前を呼んでおいてそれは無いだロ……」
「え、お前もしかしてアルゴなの?」
「おいおい、他の誰に見えるんだって言うんだヨ」
「むしろ他の誰かにしか見えないんだが……」
表に立つ事を極端に警戒しているアルゴは、
どうやら会場に着いた後に変装する事にしたようだ。
丸いサングラスに金髪のウィッグ、顔のペイントは消し、
不健康そうな白い肌は、化粧で完璧に隠されており、何と青い口紅を引いていた。
「っていうか何で青い口紅を?」
「オレっちには青い血が流れているから、唇も青くなるのサ」
「そ、そうか……」
気取った感じでそういうアルゴを、残念な人を見る目で眺めながら、
八幡は他に言うべき言葉を見つけられず、ただそう言う事しか出来なかった。
「八幡、夢乃氏、こっちの準備も大体終わったお」
「………ああ、なるほど、今日は夢乃なんだな、
それにしてもさすがはダル、仕事が早いな、それじゃあ一緒に軽く飯でも食うか?」
「お、何か用意してあるん?」
「昨日明日奈が用意してくれたサンドイッチがあるから、一緒に食おうぜ」
「おお、明日奈さんの手作り?」
「当たり前だろ」
「神よ、この素晴らしい恵みに感謝します、八幡、僕達ずっと友達だお!」
「大げさだっつの……」
そして三人は並んで座り、もぐもぐとサンドイッチを頬張りながら、雑談を始めた。
「一年前は、まさかコミケにこういう形で参加する事になるなんて思いもしなかったお」
「何かうちの仕事ばっか請けてもらって悪いな、ダル」
「いやいや、こんな貴重な経験、望んでも簡単に出来るものじゃないからね」
「オレっちだって、昔と今の生活のギャップが大きすぎて、時々戸惑うゾ」
「俺達の受け皿を用意してくれた姉さんには本当に感謝だよな」
「確かになぁ……そのボスを含めて、他の連中もあと三時間くらいで到着するナ」
「サークル入場と一緒くらいの時間に入ってくるはずだお」
「どうする?それまで仮眠しておくか?」
「う~ん、確かに昨日早めに寝てはきたけど、さすがに長丁場だし、そうするカ」
「先は長いしな、その為に一応寝れる準備はしておいたから、
そこのタオルケットとマットを使ってくれ」
「あいお」
「それじゃあお休みだお、また後で」
「おう、また後でな」
そして三人は、直ぐに寝息を立て始めた。
アルゴは寝ているうちに転がったのか、八幡に寄り添うように寝ており、
ダルは大の字になり、その巨体をあますところなくアピールしていた。
他のスタッフ達も、近くで交代で仮眠をとりつつ、その三人の姿を微笑ましく眺めていた。
「う、腕がしびれる……それに腹が重い……」
それから三時間後、八幡は、寝苦しさを感じて目を覚ました。
見るとダルが八幡の腹を枕にして寝ており、
アルゴは八幡の腕を枕にし、八幡の方を向いて丸まって寝ていた。
「そういう事か……」
そして八幡は先にダルを起こそうと、その体を揺すった。
「おいダル、そろそろ時間だぜ」
「ん………おお?ごめんごめん、僕ってば昔から寝相が悪いから……」
ダルは自分が八幡の腹を枕にしていた事に気付き、すまなそうにそう言った。
「いや、途中で目を覚ましちまった訳じゃないから問題ないさ、
それよりこれ、どうすればいいと思う?」
八幡はそう言いながら、目でアルゴの方を指し示し、
それを見たダルは、自身のスマホを取り出して、パチリとその写真をとった。
「おお、チャンス到来!」
「何故そこで写真を……」
「後で夢乃氏に売るんだお」
「商魂逞しいなおい」
八幡は苦笑しながら、そのままアルゴの膝の裏に手を回し、
アルゴを抱き上げると、そのまま壁にアルゴをもたれかけさせるように下ろし、
優しくアルゴの肩を揺すった。
「おいアル……じゃない、夢乃、そろそろ起きる時間だぞ」
「ん………おお?ハー坊、オレっちに夜這いとは思い切ったな、まあウェルカムだけどナ」
「お前は何を言ってるんだ、おら、さっさと覚醒しろって」
「あれ、ここは……ああそうか、お仕事の時間カ」
アルゴは少し寝ぼけていたのか、
きょろきょろと辺りを見回しながらハッキリした口調でそう言い、
スッと立ち上がると、首をぐるぐると回した。
「さてさて、仕上げといくカ」
「そうだね、さっさと仕上げちゃおう」
「それじゃあ俺は他の奴らを迎えに行ってくるわ、後は任せた」
「あいヨ」
「任された!」
八幡はそう言って、企業関係者の搬入口へと向かおうとし、チラリと後ろを振り返った。
見るとダルがアルゴにスマホを見せ、何か言っている所だった。
(さっき撮った写真か……)
そしてアルゴはその画面を見て、即座に財布から金を取り出し、ダルに差し出した。
(即決で買うのかよ……)
八幡は呆れながらそのまま前を向き、移動を開始した。
そしてサークル入場者の通るルートに通りかかり、
少し離れた所から、大勢の人達の入場する姿をしばらく眺めていた。
「こっちも凄い人なんだな……」
八幡は感心しながら、何となくその人の波を眺めていた。
そして見覚えのある人物を見つけた八幡は、咄嗟に目を逸らそうとしたが、
それは少し遅く、バッチリとその人物と目が合ってしまった。
「うげ……」
「やぁボーイズ、凄く久しぶりだね、相変わらず色々な少年達とイチャイチャしてる?」
(ボーイズって、海老名さんの目には、エア男子でも見えてんのか……?)
八幡はそう思いつつも、表面上は冷静に、姫菜にこう返した。
「この前ぶりだな、海老名さん」
「この前偶然会わなかったら、私は同窓会にも行けなかったから、何年ぶりかになってたね」
「今度またやる予定だから、その時参加すればいいさ、
それにしてもそっちはサークルの方が忙しいみたいだな、大人気のようで何よりだよ」
(内容にはあまり触れたくないがな)
八幡はそう思いつつ、姫菜に対して大人の反応をした。
「うんうん、おかげさまでね、これもみんな比企谷君のおかげだよ」
「何が俺のおかげなのかサッパリ分からないが、まあほどほどにな」
「やだなぁ、そんなの決まってるじゃない、新刊に比企谷君が……」
「そ、その説明は別にしてくれなくていいから、本当に大丈夫だから」
「そう?残念だなぁ、この熱い思いを是非共有してもらいたかったんだけどなぁ」
「いやいや、その気持ちだけで十分だ、まあ頑張ってくれ」
八幡は顔を引きつらせながらも大人の反応を続けていたが、
その時横からハァハァと興奮した女性が八幡の前に立ち、
いきなり顔を近付けてきたので、たまらず一歩後ろに下がった。
「うわっ」
「リアル八百万様来たああああああああああ!」
「や、やおよろず?一体何の……」
その八幡の質問を無視し、その女性は尚も興奮した様子で八幡との距離を詰めた。
「え、海老名さん、この方は?」
八幡は助けを求めるようにそう言い、姫菜の後ろにいた男性が、
その女性の肩をぽんぽんと叩き、それでその女性は、どうやら我に返ったようだ。
「あ、あれ、伊丹さん?」
「よぉ大将、早いんだな」
「何で伊丹さんがここに?」
「ああ、まあ荷物持ちって奴だ……」
「なるほど……」
そして八幡は、その女性から逃げ出すように伊丹の前にさりげなく移動し、
しっかりと握手をしつつ、伊丹を盾にするように自身の位置を変えた。
伊丹はそんな八幡に苦笑しながら、その女性の事を説明した。
「怖がらせちまって悪いな、これは俺の元嫁さんの、葵梨紗、
まあ基本無害だから、あまり怖がらないでやってくれ」
「初めまして、いきなり取り乱しちゃってごめんなさい、いつもお世話になってます」
梨紗はそう言ってペコリと八幡に頭を下げた。
八幡は、お世話については何も言わず、ただ自己紹介をするだけにした。
「海老名さんの元同級生の比企谷八幡です、初めまして」
「うん、宜しくね!」
「大将、後でそっちに顔を出すから宜しくな」
「はい、お待ちしてますね」
「それじゃあ私達は先を急ぐから、また後でね。
結衣と優美子とサキサキも後で合流する予定だから、まあ楽しみにしてて」
「川崎も!?」
驚く八幡をよそに、姫菜達は準備が忙しいらしく、そのまま移動していった。
「あ、やべ、行くつもりは無かったのに、約束させられた形になっちまった……」
八幡はそう言って肩を落としながら、陽乃達を迎える為に、再び移動を開始した。
「八幡君!」
「おう明日奈、昨日はよく寝れたか?」
「うん、大丈夫、バッチリ寝たから!」
「あれ、和人も来たのか?」
「おう、バイトだバイト」
「お前も何気によく働くよな……」
「リズ達と出かける資金を稼がないといけないんだよ……」
「お前、例の事件の時にそれなりに稼いだはずだろ?何に使ったんだよ……」
「いや、新しいPCとか、色々とその……な?」
「相変わらずだな……」
そして後ろにいた陽乃が八幡に進捗状況を尋ねてきた。
「大体準備はオーケーです、交代で仮眠もとりましたしね」
「そう、夜遅くからありがとうね」
「姉さんに徹夜なんかさせたら、ただでさえお肌の曲がり角な姉さんの肌が、
益々荒れちゃいますからね」
その瞬間に陽乃はマッハで八幡の足を踏み、八幡は涙目になった。
「ふんっ」
「ぐ………」
そんな八幡に、薔薇が呆れた口調で言った。
「泣くくらいなら言わなければいいのに」
「うるせえ小猫、お前は司会のお姉さんプレイのイメージトレーニングでもしてろ」
「プレイって何よ!私は正真正銘司会のお姉さんよ!」
「ああ、はいはい、ちゃんと子供達に怖がられないようなメイクをしろよ」
「ど、どうして私に対する態度だけそうおざなりなのよ!」
「いいからさっさと移動するぞ移動」
「くっ……」
そして八幡は、最初に唯一身内ではない由季の前に行き、丁寧に挨拶をした。
「由季さん、今日は宜しくお願いします」
「はい、頑張ります!」
そしてその後に身内達の所へ行き、それぞれに声を掛けた。
「理事長……今日はまた一段と若々しいっすね……」
「あら、そんなに褒められたら後でご褒美をあげないといけないわね」
「いえ、結構です……」
「いろは、また昔みたいなあざとさを期待してるからな」
「わ、私は別にあざとくないですし!」
「クルス、お前には期待しているからな」
「はい、任務を完遂します」
「美優………は、まあいいか」
「ちょ、ちょっとリーダー、このかわいいフカちゃんにも何かお言葉を!」
「香蓮、露出の少ない格好とはいえ、恥ずかしいかもしれないが、
ちゃんと見ててやるから、今日はしっかり頼むぞ」
「う、うん、私、頑張るね」
そして八幡は、女性陣をぞろぞろと引きつれ、ソレイユのブースへと戻り、
一同はそれぞれの準備を開始した。
こうしてこの夏最大の祭りが始まった。