ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第528話 何だこのマネキンは

「あ、あれ……?ゆきのん?」

「ユイユイ、大丈夫?」

「う、うん、ゆきのんが助けてくれたの?ありがとう」

「直接助けてくれたのはクルスよ、お礼ならあの子に言って頂戴」

「そうなんだ、うん!」

 

 最初に結衣に活を入れた後、次に雪乃は優美子に活を入れた。

 

「優美子、大丈夫?」

「ん………あれ、雪乃?陽乃さんは?」

 

 優美子は頭を振りながら雪乃にそう尋ねた。

 

「クルスが倒したわ」

「え、本当に?よくまああの陽乃さんを……」

「優美子も災難だったわね、うちの姉さんが迷惑をかけてごめんなさい」

「で、陽乃さんは?」

「そこよ」

「そこ……?って、まさかこれ?」

「ええ」

「うわ、高そうな下着だねこれ……」

「最初に出てくる感想がそれなのね……」

 

 結衣と優美子はとりあえずといった感じでブラだけ着用した。

服装はとりあえずまだ男装のままである。

そして陽乃の太ももをつんつんして遊んでいる優美子を残し、

雪乃は最後に明日奈を覚醒させた。 

 

「雪乃……?ごめん、よく覚えてないんだけど、もしかして私、いきなりやられちゃった?」

「いいのよ、私も同じようなものだから」

「えっ、雪乃も?それじゃあ一体誰が助けてくれたの?」

「クルスよ」

「あ、そうなんだ!」

「問題ない、全ては八幡様に褒めてもらう為だから」

「あ、あは……それじゃあ沢山褒めてもらってくるといいよ」

「うん、早速行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 クルスはそう言って、わくわくした表情で部屋の外に出ていった。

そして残った四人は陽乃を取り囲んだ。

 

「で、姉さん、何か申し開きはあるかしら?」

「うぅ……反省してます……」

 

 陽乃はこんな格好をさせられた事で頭が冷えたのか、素直にそう謝った。

 

「そもそも何でこんな事に?」

「だ、だって、みんなが八幡君に胸とかをチラチラ見られてるのに、

私だけちっとも見てもらえないから、何か理由があるのかなって」

「………え?」

「いやいや、さっきは言えなかったけど、それは無いっしょ」

「そもそもこの中で一番胸が大きいのは姉さんだし」

「でも確かに胸を見られていると、直ぐに分かるわよね?

それなのに視線を感じないって事は、やっぱり見ていないという事なのかしら」

「もしかしてあの男、あの若さで枯れたのかしら、明日奈、どうなの?」

「「「どうなの?」」」

 

 そう尋ねられた明日奈は、顔を真っ赤にしながら、搾り出すような声でこう答えた。

 

「う、ううん、そんな事はまったく無い………よ?」

「そう、それはいつ頃の話なのかしら」

「えっ、そ、それはええと先………あっ」

 

 明日奈は素直に白状しかけ、三人のニヤニヤした視線に気がつき、言うのをやめた。

おそらく茶巾の中の陽乃もニヤニヤしているのだろう。

 

「も、もう、もう!」

 

 明日奈は更に顔を赤くしながら三人をポカポカ叩いた。

 

「ふふっ、ごめんなさい明日奈、さて、からかうのはこのくらいにして、

どうやらあの男の性欲には何の問題も無いようね」

「ゆきのん、性欲って……」

「それじゃあ何か他に理由が?」

「これはもう本人に聞くしかないようね、ちょっと呼んできましょうか」

「そうだね、それじゃあ私、八幡君を呼んでくるね」

「それまでに私達は、この姉さんの拘束を解いておくわね」

「うん」

 

 明日奈はそう言って八幡を呼びにいき、残りの三人は、陽乃に話しかけた。

 

「さて姉さん、もう何もしないと約束出来るかしら」

「ごめんなさい、もうしません……」

「本当に?」

「本当の本当に!」

「ねえ陽乃さん、これって勝負ぱんつ?」

「なっ……」

「ゆ、優美子!?」

 

 突然優美子がそんな質問をし、雪乃と結衣は驚いた。

 

「な、何でそんな質問を……」

「え、だって、陽乃さんの下着を見る機会なんてほとんど無いし、興味ない?」

「確かにそう言われると……」

「むむ……」

 

 そして下半身に三人の視線を感じたのか、陽乃は足をもじもじさせ始めた。

 

「あ、あんまり見ないでってば……」

「で、姉さん、どうなのかしら」

「え、えっと……ち、違います」

「違うの!?」

「違うんだ……」

「これで違うのね……」

 

 三人は驚き、再びしげしげと陽乃の下着を観察し始めた。

 

「普通でこれとは驚きね」

「勝負ぱんつがどんなのか想像出来ない……」

「うん……」

「お前ら、何やってるんだ?姉さんは?」

「「「!?!?!?」」」

 

 そこにいつの間に入ってきたのだろう、八幡がそう声を掛けてきた。

後ろには明日奈とクルス、そして沙希の姿もある。

 

「ん、何だそれ、マネキンか?」

「あっ………」

「まったく何でそんな物が……しかも高そうな下着まで履かせて……

とりあえずこれは横に片付けておくからな、で、姉さんはどこだ?」

 

 そう言いながら八幡は、マネキンを片付けようと、その太ももをわし掴みにした。

 

「………ん?」

 

 そして八幡は、手にむにゅっとした感触を感じ、不思議そうにその太ももを撫で回した。

 

「やぁん!」

 

 その瞬間にどこからかそんな声が聞こえ、八幡はビクっとして手を離した。

見るとマネキンの足がもじもじし出し、八幡は愕然とした顔で振り返った。

 

「お、おい………まさかこれ………」

「そう、姉さんよ」

「姉さんだよ」

「陽乃さんだね」

「陽乃さんの生足と生ぱんつ?」

「さすがは八幡様、男らしい」

「あ、あんた、何で気付かないの?」

 

 振り返った八幡の視界に、笑いを堪えている一同の姿がうつった。

お堅い沙希ですら、我慢出来ないというようにぷるぷる震えていた。

 

「ち、違う、誤解だ、俺はもちろんこれが姉さんだと、ちゃんと気付いていた」

「「「「「「へぇ~?」」」」」」

「だがみんなの手前、悪い事をした姉さんをそのまま普通に扱うのは良くないと思い、

あえて物扱いしたんだ、そう、あえてだ。

まあそういう理由な訳だが、もちろんお前らは信じてくれるよな?」

「つまり、分かってて姉さんの下着をずっと直視していたのね?」

「うっ………」

 

 八幡は雪乃にそう言われ、言葉に詰まった。

 

「えっち」

「えっちだし」

「えっちね」

「八幡君、見たいなら正直にそう言ってくれれば……」

「八幡様、水くさい、クルスはいつでも八幡様に全てを見せる用意があります」

「私は見せないわよ」

 

 六人にそう責められ、八幡はその場に崩れ落ちた。

 

「す、すみませんでした……」

 

 そんな八幡を見て、さすがにこれ以上からかうのはやめようと思ったのか、

雪乃が代表して前に進み出た。

 

「ごめんなさい、私達も悪かったわ、本当なら姉さんの拘束をもう解いているはずなのに、

姉さんのこの下着が勝負ぱんつかどうか興味を持ってしまって、

それでこの状態のままにしておいたのだから」

「あ、そうだったんだ」

「なるほど……」

 

 明日奈とクルスは、そう言われて陽乃の横に跪き、しげしげと観察を始めた。

 

「で、姉さん、どうなの?」

「ち、違います……」

「違うんだ!?」

「さすがは社長……」

 

 沙希はさすがに恥ずかしいのかその会話には入ってこなかった。

そして二人はとりあえず疑問が解消した為、そのまま陽乃の拘束を外そうとした。

 

「あ、あれ、外れない……」

「結束バンドを切らないと……」

「誰かハサミか何か持ってない?」

「あ、私、持ってるよ」

 

 沙希がそう言ってバッグの中から裁縫用のハサミを取り出し、明日奈に渡した。

 

「ありがとうサキサキ」

「サキサキ言うな」

「あっ、ごめんサキサキ」

「………」

 

 そして明日奈は服を切らないように慎重に作業に入った。

若干苦労はしたが、それで陽乃は無事に解放された。

 

「さて、まだそこまで差し迫った時間じゃないが、

準備に時間がかかる奴はそろそろ準備を始めないとな」

 

 八幡が切り替えるようにそう言い、それで雪乃と明日奈、それにクルスは表情を改めた。

 

「結衣と優美子は、着替えたらゆっくり休んでてくれ」

「う、うん、ありがと」

「そこのクーラーボックスに飲み物が入ってるから、好きに飲んでね」

「うん」

 

 

 

 陽乃と八幡と沙希は、とりあえずやる事がまだ無い為外の椅子に並んで腰掛けていた。

 

「それにしてもサキサキ、久しぶりだね」

「サ……あ、はい、ど、どうも」

 

 沙希は陽乃に抗議しかけたが、さすがに相手が相手だけに、

いつものように「サキサキ言うな」とは言えなかった。

 

「サキサキ言うな」

「ちょ、ちょっと、何であんたが言うのよ」

「いや、何か遠慮してるみたいだったから、俺が代わりに言ってやろうと……」

「余計な事は言わないでいいから」

「お、おう、すまん……」

 

 八幡は沙希に気圧されてそう謝った。

そして陽乃はそんな二人を面白そうに見ながら、沙希に尋ねた。

 

「で、サキサキはどうしてここに?こんな所に来るタイプだとは思えないんだけど」

「サ………いえ、ええと、友達に頼まれて、コスプレの衣装を作りに……」

「あ、そうなの?もしかしてさっきのガハマちゃんと三浦ちゃんの衣装がそれ?」

「あ、はい」

「へぇ、あれってお手製なんだ、凄いね」

「川崎は自分でサイトを立ち上げて、色々衣装を売ってるんだよな」

「ま、まあ細々とだけどね」

「そうなんだ、どんなサイト?」

「あ、ええと……こ、これです」

 

 沙希はそう言って自分のスマホをいじり、陽乃にそのサイトを見せた。

 

「ちょっと見せてもらってもいい?」

「あ、はい」

 

 そして陽乃は熱心に、沙希のサイトの閲覧を始めた。


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