「え、いきなり何を言ってるんですか陽乃さん、もう、冗談が過ぎますよ、ねぇみんな?」
沙希は陽乃にそう言った後、笑顔で明日奈達の方へと振り返った。
だが誰一人として笑顔を見せず、
やや緊張したような顔で沙希の方を見ているばかりだったので、
沙希は困ったような顔で八幡の方を見た。
当然この場で八幡が何かアドバイスをするような事は決して許されない。
八幡は何も言う事が出来ず、ただ沙希に頷く事しか出来なかった。
だがさすがにこの不意打ちは意味不明すぎると陽乃も思ったのだろう、
そもそも沙希はソレイユ志望ではないのだ。
なので陽乃はたった一言だけ、沙希にこう言った。
「この質問は、サキサキにとって今後の人生を左右するかもしれない質問よ、
なのでそのつもりで正直に答えて頂戴」
「………人生を左右?これが?」
沙希はそう呟いたきり、押し黙った。頭の中では今の質問がぐるぐると回っている。
(比企谷の為に死ねるかどうか?
聞いた話だと、確か比企谷ってソレイユの次期社長に抜擢されていたわよね、
って事はまさか、これって噂に聞くソレイユの社長面接!?
いやいや、私がソレイユみたいなゲーム会社に入ってやれる事なんて無いでしょう、
でもさっき陽乃さんは、私のサイトを見てからこの質問をした、って事は………
いやいや、やっぱり無理、さっぱり分からない、
もしかしたらALOのコスを作って売るとか考えてるのかもしれないけど、
それだと私の望みとは合致しない、うぅ………もういいや、考えても仕方がない)
そして沙希は、やけになったつもりで陽乃にこう答えた。
「あの、これが答えになってるかは分からないんですけど、
とりあえず二つのケースが頭に思い浮かびました」
「ふむむ?」
「最初はこいつが誰かに命を狙われてて、私がそれをかばうかどうか、というケースですが」
「ふむふむ」
「こいつは殺しても絶対に死なないから、そんな状況にはなりません」
「殺されてる時点で死んでるだろうが!」
八幡は思わず沙希にそう突っ込み、唖然としていた残りの者達は、
堪えきれないように一斉に噴き出した。
「ぷっ………」
「くっ………ぷっ………」
「あはははは、あははははははは」
「んぐ………ぷぷっ……くっ……」
「そして次のケース、これはこいつの為に死ぬほど何かを頑張るというケースですが」
「なるほどね、つ、続けて……ぷぷっ」
陽乃は笑いながら、何とか沙希にそう言った。
そして沙希は、晴れやかな笑顔でこう言った。
「とりあえず、こいつが殺し屋に襲われて半身不随か何かになったと仮定します」
「お、お前、どうしても俺を殺し屋に狙わせたいみたいだな!」
「うるさいわね、あんたの今の状況で誰かに刺されない方がおかしいのよ、
主に女性関係でね」
「んな訳あるか!………ある……のか?な、無いよな?」
八幡は始めこそキッパリ否定したが、直後に自信が無くなったのか、
女性陣の顔色を伺うようにチラチラとそちらを見て、最後にはそう尋ねた。
明日奈は困ったような顔で、「あ~……」と呟いており、
雪乃は完全に八幡から目を逸らしていた。
そしてアルゴは、八幡に向けてお祈りを捧げていた。
「成仏しろよハー坊、あ、死なないんだったか?じゃあリハビリしろよ、ハー坊」
「え……もしかして俺の命が今まさにピンチだったりするのか?」
「可能性だけは誰も否定出来ないようね、ほら、私の言う通りでしょう?」
「ぐぬぬ………」
そして沙希は陽乃に向き直り、こう言った。
「という訳で、もしこいつが半身不随か何かになったとしたら、
今度こそ私がずっと付き添って、下の世話でもしてあげて、
こいつの屈辱に塗れる顔をニヤニヤしながら見てやります。
もしそれが一生ってなったら、私はまともに就職も出来ないだろうし、
それはある意味私が社会的には死んだも同然って事になるのかもしれませんね、
まあそうなったらなったで、病室でコス作りでもしてお金を稼げば、
生きていくくらいは出来るでしょうし、そんな人生もまあありなんじゃないでしょうか」
沙希はもうやけだという風に、口調は乱暴だが少し頬を赤らめながら一気にそう言った。
「さ、サキサキ、お前……」
「だからサキサキ言うな」
「川サキサキ、お前……」
「合ってるけどイントネーションが違う!馬鹿にするんじゃないわよ!」
「お前、実は俺のおかん………ぐほっ………」
その瞬間に、八幡も反応出来ない程の速度で、八幡の腹に沙希の拳が突き刺さった。
それで他の者も我に返り、陽乃はうんうんと頷きながら言った。
「サキサキ、ごうか~く!おめでとう!」
「とりあえずどうも、で、何がもらえるんですか?」
「幸福な人生」
「……………え?」
「それじゃあこれ、ソレイユの入社許可証ね、
もしその気になったらうちの人事部に連絡してね」
「入社許可証!?」
「姉さん、そんな物をいつの間に……」
「だってこの方が楽じゃない」
陽乃はあっけらかんとそう言った。
「これは一応もらっておきますけど、
直前までの会話とこれとの整合性が私にはとれないというか、
そもそもソレイユって服飾メーカーじゃなく、ゲームメーカーですよね?」
「ゲームメーカーが服を売っちゃいけないという決まりでも?」
「売るんですか?」
「あなたがうちに来れば、そっちの可能性もあるわね」
「そっち?」
「私があなたに望むのは、うちで開発するゲーム関連の装備全般のデザインよ、
それは服に限らず、鎧とかも全て対象になるわね、どう?出来る?」
その言い方に、沙希は一瞬押し黙った後、ややきつい目でこう言った。
「それは挑戦ですか?」
「あなたへの挑戦でもあり、あなたの挑戦でもあるのかもしれないわね」
「私の挑戦………それは確かにそうかもですね、鎧とかのデザインなんてした事無いですし」
沙希は厳しい目でそう言った。
「ついでに副業の権利も認めます、あなたがもし普通の服も作って売りたいなら、
例え売れなくても、好きなデザインの服を作る為の素材の資金を提供します」
「至れり尽くせりですね……」
「もちろんマージンはとるわよ」
「まあそれは当然ですね」
「さて、こちらのカードは提示したわ、後は一人でゆっくり考えなさい」
だが意外な事に、沙希の答えはこうだった。
「……その仕事内容だと、断らざるをえないかもしれません」
「ええっ!?」
「サキサキ、本気?」
「だってそんな忙しそうな仕事についちゃったら、家の事が疎かになっちゃうし……」
沙希は苦渋の表情でそう言った。
「お前が働きに出る代わりに、お前のお母さんが仕事を辞めて、
お前の代わりに家にいるって手もあるんじゃないか?」
「それはそうかもだけど、多分無理、もしくはかなり時間がかかる。
だってうちのお母さん、もう何年もまともに家事をしてないもの」
「ああ、確かにずっとお前がやってきたんだもんな……」
八幡は高校時代に少し聞いた、沙希の家の状況を思い出しながらそう言った。
「なのでとてもいいお話だと思いますが、今回はお断りを……」
「ねぇサキサキ、別にうちの会社が嫌だとか、そういうのじゃないのよね?」
その時陽乃が確認するような口調でそう言った。
「それはもちろんです、むしろ事情が許せば是非お世話になりたいと思ってますよ」
「なら何も問題は無いわ、あなたは基本的に自宅で仕事をすればいい、
会社に来るのはどうしても必要な時だけでいいのよ」
「え、でも仕事内容的にそれはさすがに……」
「大丈夫よ、うちの技術力をなめないでほしいわ、
そういったケースにも何の問題なく対応出来るわよ、ね?アルゴちゃん?」
沙希や明日奈、それに雪乃がきょとんとする中、陽乃はアルゴにそう声を掛けた。
「なるほど、あれを使うつもりカ」
「ええそうよ、八幡君謹製のあれをね。今お試しで出来るのは何?」
「料理だな、一番メジャーだし、味のデータもゲーム内から引っ張ってこれたしな。
回線もキットを経由すればまあ二人分くらいはいけル」
「じゃあそれを試してもらいましょう」
「了解だ、ハー坊とりあえず暇なんだろ?案内よロ」
「まさかあれの最初の利用者が、川崎になるとは分からないもんだよな」
あれよあれよという間に、よく分からない話が進行し、
沙希は顔に疑問符を浮かべながら八幡に質問した。
「ねぇ、訳がわからないんだけど」
「そうだよそうだよ!八幡君、一体何が始まるの?」
「どうやら裏でコソコソしていたみたいだけど」
「別にコソコソしてはいないぞ、ただのうちで開発してる別のシステムのお披露目だ」
八幡は、さも心外だという風に雪乃にそう言った。
「新システム?」
「本来は首に付ける別の端末専用のシステムなんだが、そっちはまだ開発中なんだよな、
ちなみにその為に、実はレクトに材木座がずっと出向してるんだよ、最近見ないだろ?」
「そういえば確かにそうね、そう、そんな事もやってたのね」
「ちなみに名前の候補はカイバーリンカーだ」
「………その名前、片方は絶対紅莉栖がギャグで考えたわよね」
「まあ仮だ仮、最終的には紅莉栖に決めさせてやろうと思う」
「私達も知らなかったって事は、トップシークレット?」
「まあそうだな、明日奈や雪乃はまだうちの社員じゃないから、
公開出来る情報と、出来ない情報があるって事だ」
「確かにそう言われると、反論出来ないわね」
「あともうちょっとの辛抱だね、雪乃」
「ええそうね、これは入社した時が楽しみだわ」
そしてアルゴから調整されたアミュスフィアを二つ手渡された八幡は、
その片方を沙希に手渡しながら言った。
「それじゃ川崎、早速行くか。それはうちで開発したそのシステムにしか繋がらないから、
それを頭にかぶってリンク・スタートと言うだけでいい」
「分かった、見させてもらうわ」
「よし行くぞ、リンク・スタート」
「リンク・スタート」
その瞬間に沙希の視界が切り替わり、
いつの間にか沙希は、見た事もないマンションの一室にいた。
「こ、ここは!?」
「ソレイユの本社近くにある俺のマンションの部屋のキッチンをトレースした物だ、
それじゃあ早速飯を作るか」
「…………は?」
そしてぽかんとする沙希を手招きし、八幡は冷蔵庫の扉を開いたのだった。
相変わらず斜め上を爆走中です!
あ、別にアクセルワールドのキャラは出ませんよ、そこまでこの話は続きませんから!
これは別の展開で必要なものなのです!