ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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次の投稿は19日の予定となります

ー追記ー

すみません時間が無さすぎて間に合わず、20日には何とか……


第532話 イベントの開始

 一色いろははさすがに場数を踏み慣れていた。故にいろはは六人が乱入してきた瞬間、

台本を完全無視して自分が一番目立つ為の手を実行に移した。

要するにこの流れに真っ先に乗り、一歩前に進み出て、六人を威圧したのである。

 

「新たなる神の降臨を言祝がぬ愚か者共、

汝らが今どんな狼藉を働いているのか分かっておろうや?」

 

 そう大音声を響かせたいろはの迫力に、六人はその足を止めた。

 

「あれ、簡単に乗ってきた?」

「雪乃さんの言う通りになりましたね……」

「ことほぐ?また古めかしい言葉を」

「それじゃあやってやりますか!」

 

 六人はそう囁き合うと、香蓮と由季の方に目をやった。

 

「さすがにあの二人は出てこないか」

「香蓮さんは素人故に、そして由季さんはプロ故に動かないわね」

「とりあえずあいつがもうすぐ前に出てくるはず、それを待ちましょう」

 

 そしてこういうのが得意なフェイリスが一歩前に進み出て、いろはと舌戦を開始した。

 

「狼藉?あなたは少なくとも我らの信ずる神ではない、なのでその言葉は当たらないニャ」

「ほう?人の身にしては肝が据わってるではないか、

ではそなた等はどんな神を信仰しているのだ?」

「何も」

「ふむ?」

「故にあなた方が神たるに相応しい力を振るえば、

我らがあなた達を信仰する事もあるかもしれないニャね」

「ほう?つまり我らの事を見極めにきたと?」

「そういう事ニャ」

「なるほど……」

 

 そうえらそうな態度をとりながらも、いろははかなり焦っていた。

 

(雪乃先輩、これ、どうすればいいんですか?

力を見せろとか言われても、どうすればいいか分からないですよぉ……)

 

 雪乃は詩乃達六人には策を授けていたが、いろは達にその事を伝えてはいなかった。

故にこうなった場合、いろはが自分を頼ってくるだろうと推測していた為、

雪乃はチラチラとこちらを見てくるいろはの姿を見て、「計画通り」とニヤリとした。

そして雪乃はいろはにハンドサインを送った。

 

『情報を集めよ』

『り、了解』

 

(うぅ、情報を集めろって言われても、何の情報ですかぁ……)

 

 そんないろはに助け船を出したのは、まさに今対峙している相手だった。

 

「で、あなた達は何の目的でこのアルヴヘイムに現れたの?」

 

(絶妙のアシスト来たあああああああ!詩乃、後で何か奢るよ!)

 

 今まさにいろはを困らせているのはその詩乃達なのであるが、

今のいろはは焦りまくっていた為、その事には気付かず、逆に感謝する事になった。

人の心とは、かくも不思議なものなのである。

 

「今、アルンの地下で、邪神族と巨人族が争っているのは知っておろう?」

「ええ、確かにそうね」

「その争いを、我らは静観しておった、所詮あやつらはどちらも我らの敵だからな、

共倒れになってくれれば我らにとっては好都合だからの」

「で、でも、邪神族にも心を通わせられる者は確かに存在します!

そしてもしかしたら巨人族にも!」

 

 キリトと仲のいい(ように見える)トンキーの事を思い出しながら、

詩乃はそう言っていろはに反論した。

その気持ちを正確に理解したいろはは、うんうんと頷きながら詩乃にこう答えた。

 

「それ故の静観じゃ、我らが安易に介入して、

妖精達に友好的な者までも、我らが殲滅してしまう訳にもいかぬでな」

「なるほど、そういう事ですか」

「うむ、だが今回、看過出来ぬ事が起こったのだ」

「何かあったんですか?」

「いずれ妖精達に下賜しようと思っていた我らの秘宝が、

邪神族と巨人族に盗まれたのだ」

 

 このセリフが出た瞬間に、観客達がわっと沸いた。

どうやら次のアップデートで導入されるクエストで、

伝説クラスの武器が導入されるんじゃないかと判断した為だ。

丁度この時八幡も舞台袖に到着し、この流れならまあ問題ないかと安堵した。

 

「一応整合性もとれているし、宣伝にもなったから良かったが……」

 

 八幡はそう考えつつ、乱入してきた六人の姿をしげしげと見つめた。

 

「アイマスクで顔を隠してはいるが、あれは間違いなく詩乃、

その隣にいるのがフェイリス、その後ろは……ああ、椎奈か、

以前一緒にメイクイーンに行った事もあるし、まあここまではいいが、

おかしいな、あれは雪乃じゃないのか?」

「私はここにいるわよ」

「うわっ、いきなり声を掛けてくるなよ」

「あなたね、前も私とあの子を間違えたみたいだけど、

どう考えても私の方が美人じゃない、そうでしょう?」

「雪乃と間違えた?まさかあれ、ルミルミか?」

 

 八幡は雪乃の言葉の後半部分を無視し、驚いた表情でそう言った。

だが雪乃はその質問には答えず、ただひたすら八幡の顔を見つめていた。

その表情から、これは誤魔化せないと思った八幡は、諦めた顔で雪乃に言った。

 

「お、おう、そうだな」

「よろしい」

 

 その瞬間に、ステージの上の留美から八幡に向けて、とんでもない殺気が飛んできた。

 

「おいおい……聞こえたはずはないんだが……」

 

 だが八幡は見た、見てしまった、そして理解してしまった。

留美がしっかりと八幡の目を見つめながら、口パクでこう言っていたのだ。

 

「ア・ト・デ・コ・ロ・ス」

「まじかよ………あいつはエスパーか何かなのか?」

 

 八幡はそう恐れおののきながら、残りの二人をじっと観察した。

 

「あれは紅莉栖か、あいつ、コスプレとか好きだったんだな……意外だ」

 

 この時点で、八幡の脳内に、紅莉栖はコスプレ好きとの風評被害が刷り込まれた。

今後紅莉栖は事あるごとに八幡に、

ゲーム内で手に入った変わったデザインの衣装を着せられまくる事になるのだが、

それはこの時の刷り込みが原因である。そして最後の一人を見た八幡は、

思わず遠くで笑いながらステージを見ている陽乃に目をやった。

ちなみにその隣で、明日奈も腹を抱えて笑っているのが見えた。

 

「姉さんはいるよな……小猫は……」

 

『ちなみにその伝説クラスの武器の情報は、徐々に公開されていく事になると思います、

この六人がコスプレする程の有名チームである、ヴァルハラ・リゾートのメンバーに、

全部の武器を奪われないように、皆さんも奮起して下さいね!』

 

「………司会のおばさんをやってるな」

 

 その瞬間に薔薇も八幡をすごい目で睨むと、口パクで八幡にこう言った。

 

「ア・ト・デ・コ・ロ・ス」

「俺は今日だけで何回殺されればいいんだよ……」

「今のは自業自得だと思うのだけれど……」

「まあ小猫はどうでもいいか、問題は……」

 

 そして八幡は、その体の一部がとても印象的な最後の一人に再び目をやった。

 

「姉さんでもなく小猫でもない、あれはやはり優里奈なのか……」

「あなたがどこを見てそう判断したのか分かるのがとても屈辱なのだけれど、

あれは確かに優里奈さんのようね」

「だよな……」

「まあとりあえず八幡君は後で殺すとして」

「お前もかよ!」

「どうするつもり?」

「連れて帰るに決まってるだろ、それが保護者の努めだ。

特に腐海のプリンセスのブースなんかには絶対に行かせん」

 

 優里奈に関しては、かなり過保護な八幡であった。

 

「あなた、まさか顔出しするつもり?」

「俺がここで出ていったところで、ハチマンとソレイユが関係していると、

SAOサバイバー連中にちょっとバレるだけだ、それくらい何の問題もない」

「駄目よ、ジョニー・ブラックはまだ捕まっていないのよ」

「それはそうだが……」

 

 ジョニー・ブラックこと金本敦は、豊富な資金を上手く使い、いまだに逃亡中である。

 

「だが行く、あいつが家族と呼べるのは、今は俺と明日奈だけだからな」

 

 ちゃっかり明日奈を数に入れている八幡であるが、まあ間違いではないだろう、

確かに明日奈もそう思っているのは間違いないからだ。

そして一歩を踏み出そうとした八幡を、雪乃が止めた。

 

「あなたね、少しは冷静になりなさい、この愚か者。

いくらでもやり方はあるでしょう?とりあえず変装くらいしなさい」

「た、確かにそうだな、俺とした事が……」

「それにここであなたが出ていってしまうと、

狙われるのは優里奈さんになるかもしれないのよ?

もう少しそういった自覚を持ちなさい、今のあなたは一人でつっぱっていた、

あの頃のあなたとはもう完全に立場が違うのよ」

「返す言葉も無い……で、何か変装にいいアイテムはあるか?」

「あるわよ、かおり、ちょっといいかしら」

「ほいほい、八幡、はいこれ」

 

 雪乃に呼ばれたかおりは、そう言って八幡に何か衣装のようなものを差し出してきた。

ちょっといいかしらだけであっさりと変装用の衣装が出てくる時点で、

八幡は何かおかしいと思わなくてはいけないところなのだが、

今の冷静さを欠いた八幡に、その事を疑問に思う精神的な余裕は無かった。

 

「これは?」

「雷神トールの衣装、もちろんヒゲ付き」

「それなら俺だとはまあ分からないか、よし、着るか」

 

 八幡はそう言って、服の上からその衣装を付け始めた。

これは体型をやや太めに見せる為でもあり、

二人の前で下着姿になるのをためらったせいもある。

雪乃とかおりがどこか残念そうなのは、多分気のせいだろう。

そんなこんなで八幡が着替えている間も、ステージ上では会話が続けられていた。

 

「それではその武器の事を伝える為に、今回こうして降臨する事にしたのですかニャ?」

「ええ、その通りよ、この私、ウルドと、

あそこに並んでいるベルダンディ、スクルドの両名が」

 

 その呼びかけに対応し、ベルダンディたる香蓮はにこやかに微笑み、

スクルドたる由季は、活発そうな様子を見せ、観客達に手を振った。

香蓮は微笑むだけでいっぱいいっぱいであったが、さすが由季はプロであった。

 

「……世界のどこかで、そなた等の来訪を待ち受けていることだろう」

 

 その瞬間に、ブースの照明がやや落ち、モニターにこんな文字が表示された。

 

『神々からの贈り物~エクスキャリバー』

 

 その瞬間に観客席が沸き、スタッフが集まっている辺りからも歓声が聞こえた。

おそらく和人あたりが興奮して叫んだのであろう。

そしてステージ上では、尚も会話が続いていた。


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